~~~~~~~~~加賀田と言う男~~~~~~~~~~~
私がこっちに来てから何処かで働き口を探していた時に、美夜さんが、私がよかったらって知り合いの定食屋さんがあると紹介された。
家から国道を真っ直ぐ車で20分走って国道沿いの大きなショッピングモールの手前にある小原食堂と言う自宅と併設された目立たない小さめの定食屋さん。
年配のご夫婦と息子さん3人で経営をしていて息子さんの小原和彦(おばら かずひこ)さんは美夜さんと同級生らしい。
一昨年、奥様がお亡くなりになり、それからは2人で頑張っていると言う。
値段の割りに盛りがいい、コスパのいい店と知る人ぞ知ると言う感じでなかなか評判もいい。
いつか、一度美夜さんとお昼に訪れた際に、美夜さんが私を和彦さんに紹介してくれ、開店から忙しくなる昼時にいて欲しいとの事で、週に金~月曜日の9時から13時の4時間くらい入ってくれる人を探してるんだと聞き、私にぴったりだと思い即断し、働かせて頂く様になった。
それからもう7ヶ月くらい経つ
たまに美夜さんもお子さん二人を連れてお昼を食べに来る事もあった。
常連さんからの私への評判がいいと美夜さんや、和彦さんから聞き私も嬉しくて働く励みになりました。
お店に来るお客さんはほとんどが常連さんで知らない人は滅多にいません。
中でもこの辺の近所に住んでると言う40代半ばの男性は少なくとも、私が働いてる時はいつも来てます。
和彦さんによると毎日ではなく私がいる日だけで、私が休んだ時は顔を出しただけで帰るそうだ。
みんな常連さんなので、私に声を掛けてきて世間話しをする人は多いけど、その人は11時半くらいに来店するとビールにツマミ、食事を終えるのは私が帰る13時頃。
その間は付きっきりと言えるくらいにすぐ呼ばれ話が長い。
その人は加賀田(かがた)さんと言うキャベツの生産を生業としている大農家さんらしい。
調子いいといつも私に羽振りのよい自慢話をする。
加賀田さんは42歳で見た目は30代半ばから後半と言われても疑わないくらい若く見え、肩くらいまで天パなのかパーマなのか癖のある髪を後ろで束ねていて、顎髭を整えてカッコいい叔父様と言う感じで結婚はしていないらしい。
いつも半袖にアームカバー、ベストのファンの付いた服、ハーフパンツの下に薄いタイツを履いて来る。
アームカバーを下げると両腕全体にオシャレタトゥーが入っている。
明るく気さくで怖いイメージはまったくなくて話しやすいのだが、仕事に集中できなくて困っている。
ある日、和彦さんから加賀田さんの事を聞いた。
「常連さんだからあんまり悪い事いいたくないんだけどさー昔は手のつけられないくらいヤンチャだったらしくて、20代は何をやっても長続きしないで職を転々としてたらしいよ。職場での喧嘩も絶えなかったって」
「そうなんですか?」
「あ、聞いた話ね、本当かどうかはわからないけど、周りの人はみんなそう言ってる。キャベツ農家は親父の代で終わりだっていつも吹聴しててさ、10年くらい前からかなー自分でトマト生産を始めてね、意外にも根気強い所もあったみたいで最近になってやっとトマトがいい調子いいって喜んでるけど、どうなんだか。未音さん、もし嫌なら加賀田さんが来た時は厨房の中の仕事に変わってもいいよ?」
「ありがとうございます。でも大丈夫。ちょっとしつこいけど、嫌がらせされてる訳ではないから」
「あぁ…あの…言いづらいんだけどさー加賀田さんてすごい女癖が悪いみたいだよ…気をつけた方がいいよ。」
「そうなんですねーありがとうございます。気を付けます。」
今日も変わらずに11時半に加賀田さんがお店に来た。
「いらっしゃいませ」
と私が言うと加賀田さんはニコッと笑顔を見せてきた。
「未音ちゃんこんちわ」
「寒いですね。」
夏の軽装と違い2月にもなると首元をタオルで巻き、分厚いジャンパーをしっかりと首までジッパーを上げて重装備です。
「凍えちゃうよー未音ちゃん暖めてよ」
と笑いながら手袋を外して、ほらー触ってみぃ。と私に手を差し出す。
「いやー冷たーい」
と私は加賀田さんの片手を両手で挟んだ。
「だろー?とりあえず、あっついコーヒー頂戴よー」
と加賀田さんのいつもの席は厨房前のカウンター席。
私がいつも手が空くと厨房前に戻るので話しかけやすいからだと思う。
「はい。」
基本的に私は出来上がった物を運ぶのとレジだけなので、加賀田さんは私の様子を見ながら手が空いたと思うとすぐに声が掛かる。
「はい。どうぞ。」
とコーヒーを置く。
「サンキュー。」
「今日は何にします?」
と私が聞くと。
「ひどいなー早く帰らせよーとしてぇーちょっと待ってよー毎日、未音ちゃん見に来て元気もらいに来てるんだから、急かすなよー」
「またーもう。もうすぐ30のおばさんなんか見て元気でないでしょ?」
と私が言うと
「おばさんじゃねーよ。未音ちゃんな。子供、おばさん。ばばぁ。未音ちゃん。未音ちゃんは未音ちゃんて括りだから。」
と身振り手振りしながらニコニコと私に説明する加賀田さん
「ああーじゃあ私はおばあちゃんになってもおばあちゃんじゃないって事?」
「そーゆー事」
「まったく、調子いい事ばかり言って」
と私は笑う。
確かにしつこいのもあるけど、私の今の環境の中ではこの瞬間は水谷の事を忘れられる暖かい時間に感じてました。
「ありがとうございます。えー焼肉野菜炒め定食1250円ですねー………はい………750円のお返しですね。ありがとうございました」
と私の手が空くとすぐ加賀田さん。
「未音ちゃん、甘い物好きだっつったよね」
と加賀田さん
注目のしょうが焼き定食を食べ終わって、またコーヒーを頼んで、のんびりテレビを見てなかなか席を立たずにいる。
「あのさーこの間、テレビでやってたスイーツ店がこの辺にあってさ、ほら、俺こんな風貌で1人もんだろ?恥ずかしくて行けねーんだわ、未音ちゃん今度一緒に行ってよ」
「えー加賀田さん恥ずかしいなんて思う事あるの?」
とおどける様に言うと
「えー俺そんながさつな人間だと思ってる?ひどいなー傷ついたわー」
「冗談冗談、ウソウソ、加賀田さん内面はデリケートなんだもんね」
と笑うと
「じゃあいい?俺を傷つけたお詫びと思って一緒に行こーよ。」
と笑いながら言ってきた。
「えーどうしよーかなー、不倫してると思われちゃう」
と私は笑う
「俺がイケメンだから?」
「そーゆー事にしとく」
と私は笑う。
「えーいこー?一回いこーよー」
「加賀田さん、残念ながら私人妻ですー」
「独身だろーが既婚者だろーが魅力ある人に興味持ってもいいだろー?俺がもし結婚しててさ、独身の子に素敵だから一回お茶して下さいって言われたら、良いですよって即答するよ。自分の魅力に気付いてくれた人に失礼だもん」
「おめーを素敵だなんて思ーのがいねーがら独身なんだろ?」
と中華鍋振りながらご主人が水を差す。
「しーっ。おやじさん今、畳み掛けてるんだからもつちょっと待ってよ」
と加賀田さん。
「畳み掛けてるってひどーい」
と私が笑うと。
「え?畳み掛けてるなんて今俺言ったっけ?だーかーらー俺は魅力の溢れてる未音ちゃんと一回お茶したいなーって事よ」
「うーーんでもー」
「わかった。今度キャベツ一年分あげる」
「いらなーい、加賀田さん面白い」
「そうだろー?一緒にお茶してても退屈しないから」
「うーーん。ちょっと考えておきます。」
と私は笑顔を作った。
次の日ももちろん加賀田さんはきました。
私が考えておくと言ったのに、旦那さんは日曜日以外いないの?音色ちゃんは何時帰ってくる?何曜日が一番都合いいの?と私の「考えおきます」は全然関係なく、話は進んでる様で…
「未音ちゃん、じゃあ明日仕事終わったら、迎えくるからお昼食べにいこー」
と加賀田さん
「ウヂ待ち合わせにして他で飯食う約束がよ」
と厨房からご主人が言う
「確かに!でも、おやじさん、ここは女の人誘ってデートって雰囲気じゃねーなー」
と笑う加賀田さん
「かっ!いい歳した1人もんが亭主持ぢつかまえでデートって何だぁ?早ぐ結婚しろ」
ここで働き始めて、加賀田さんはじわじわと私との距離を詰めてきて、今までも何度か冗談まじりに誘われた事はあったけど、一応人妻と言うことで機会を伺ってたみたいでした。
でも今回は強引に誘われて根負けしました。
金曜日に仕事が終わり駐車場まで歩いていると加賀田さんから、駐車場で待ってますとLINEが入った。
お店から畑に挟まれた細い市道を5分程歩くと砂利の駐車場があり、いつもそこに停めている。
私の車が見えると、隣にシルバーのスポーツカーみたいな車が止まっていた。
私が近づくと、そのスポーツカーから出てきたのが加賀田さんでした。
これはアウディTTって言うんだと、大事に乗ってるらしく嬉しそうに私に説明してきた。
普段着の加賀田さんを見るのは初めてで、いつも空調服か、厚着のジャンパーを着てる姿でしたが、アメカジっぽいスタイルにダウンを着て、開いたダウンから覗くお腹は42とは思えないくらい締まってる…
普段からなのか、今日は特別なのか、首にネックレスに人差し指と中指にリング。
まさかクロムハーツじゃ…ないよね…
なんかお金持ちっぽく見えるけど…
ちょっと半グレ要素も混じっているような…
「加賀田さん、オシャレですね」
「未音ちゃんもその黒いロングスカートから覗く足が大人の色気が滲み出て素敵だよ」
「なんか照れます…やめて下さい」
ちょっとオシャレしようと思って服を選んできたので私は本当に照れました。
私は加賀田さんの助手席に乗って、そう遠くない海沿いのお店へ向かった。
「加賀田さんはなんで結婚しないんですか?見た目も雰囲気も結婚できない人には見えないですよ?」
「んーあまり結婚には興味ないかもなー」
「あ、だから女の人が離れていっちゃうんじゃないですか?」
「本気で一緒にいたいって人に巡り会わないってゆーか」
「どんな人がタイプなんです?可愛い感じとか、綺麗系とか、性格は?甘えてくる人?しっかりした人?」
「そう言うんじゃねーんだよなー、外見とか性格は俺どうでもいいんだよ」
「え?外見も性格もどっちも関係ないの?」
「うん。なんつーのかなー…匂い。」
「匂い?」
「そう。外見でも性格でもなく匂い。俺にはわかるんだよ。人間のもっと本質的な部分。動物的な部分。」
「何それ、全然わかんない」
と私は笑いながら続けて言った。
「今までその匂いがする人は全然いなかったんですか?」
「いたよ。既婚者ばっかりだけど。」
「えー未婚者から探さないとぉ」
「俺はその匂いがする人が前提で他の人には興味ないの、それがたまたま未婚者だったならー結婚は……興味でてくんのかなー」
「私にその匂いがするんですか?」
と笑いながら言うと
「だから誘ってるの。もしかしたら過去1その匂いがするかも」
「なんだろーその匂いってー」
と笑うと
「んー俺ってその匂いがある人じゃないと絶対満たされないかも。未音ちゃんがもし俺を深く知る事があったとしたらわかるかもなー」
と笑った?表情で目は笑ってなかった気がした。
加賀田さんは面白くてイケオジっぽくて素敵だけど、どこかに闇を感じる。
まるで私が汚れた体を隠しながら、周りの人と変わらない生活をしている様に…
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