【コダマの話】
膣洗浄の処置を受けたことは、薄っすらと覚えていた。
点滴により精神安定剤を投与されながらのこととて、前後の記憶は曖昧であり、結果から類推することしか出来なかったが、救急車の手配、病院への搬送、医師の診察と加療を経て二日が経過した今、コダマは二人の女性警察官から事情聴取を受けている。
「安心してね・・・」
話せる部分からで構わない。
話したくない部分は話さなくとも構わない。
話したいことだけ話してくれれば、それで良い。
ゆっくりと。
落ち着いて。
「味方だと思って欲しいの。」
そう言って微笑む二人の女性からは誠意が感じられた。
コダマは考える。
話せる部分、そんな部分は無い。
話したくない部分、それは全てだ。
話したいこと、それは何もかもだ。
矛盾していることは理解している。
矛盾しているからこそ、苦しんでいたのだ。
躯と心を穢された屈辱。
躯と心を穢される悦び。
家族を、、父と妹を守る責務と重圧。
家族を愛しながら憎む日々。
黙して語らぬコダマ。
語らぬ代わりに問いを発する。
妹の処遇、父の怪我の具合、そして自分の躯について。
興奮状態が続く妹は、児童保護施設において保護を受けているらしい。
落ち着き次第、事情聴取が行われる予定であり、父の怪我も重篤なものではなく、『身内のゴタゴタ』として処理される見込みであると言う。
少なくとも父と妹娘については、後は家庭内の問題である。
コダマ自身は性器の粘膜に腫れが見られるが、大事はない。
また、アフターピルにより妊娠の可能性は回避出来ているらしい。
「・・そんなことよりも、あなたのことが心配なの。」
「・・そんな・・こと・・?」
暫し考えを巡らせるような表情を浮かべると、くつくつと沸き始めた湯のように咽喉の奥で笑い始めたコダマ。
沸き始めた湯が沸騰に至るように、その笑いは哄笑に変わっていく。
訝しげに見詰める二人。
過去の記憶。
初めて父に襲われた後、その屈辱的な後始末をしながら想ったことが脳裏に蘇る。
笑い出してしまったら、どうしよう。
きっと笑いが止むことはないだろう。
・・その時は・・
気が狂う・・んだろうな・・。
笑って笑って笑って笑って笑って、最後には笑い過ぎて気が狂う。
・・いっそ、それも悪くない・・。
予想に違わず笑いは止まらない。
ただし、涙を流しながらだ。
左右の眼から大量の涙を流しながらも、笑い続けるコダマ。
奇異なものを視るような表情を浮かべた二人の大人達。
そして予想と異なるコトがあった。
ベッドの上、笑い続けるコダマが正気を失うことは叶わない。
・・・『そんなこと』かぁ・・。
・・・『そんなこと』・・なんだ・・。
コダマは笑い続けていた。
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