「じゃあ行くよ・・。」
いつもの時間、いつもの様に、いつもの挨拶を残して家を出た父。
「「行ってらっしゃい。」」
姉妹は声を揃えて父を送り出す。
ようやく寝床から抜け出したばかりのヒカリは、未だ寝巻きのままだ。
まずは朝食を済ませ、登校の支度をさせねばならない。
「さ、早く食べて。顔、洗って着替えなきゃ。」
「はーい。」
向かい合って座り、朝食を摂る二人。
「ほら、ご飯粒。」
そう言って姉は自分の頬を指差す。
笑いながら頬に付いた飯粒を指先で摘まみ口にする妹。
くつくつと無邪気に笑う妹に向かい、一足早く食事を済ませ、洗い物に立った姉は何が可笑しいのかと問う。
「だって・・お母さんみたい。」
使い終わった食器を洗いながら、再び胸を抉られたコダマは思わずヒカリを振り返る。
・・そうなの・・。
・・お姉ちゃん・・ね・・
昨夜もお母さんと間違われてね・・
・・お父さんにヤられちゃったの・・。
言えるわけがない。
知らせてはならない。
蒼白な顔をした姉に戸惑いを隠せない妹。
「・・大丈夫?」
妹を不安がらせるわけにはいかなかった。
「うん。いつもの・・ア、レ。」
そう言って薄く笑うコダマ。
安心したかのように微笑むヒカリ。
『アレ』、即ち生理痛。
小学生とはいえ、好奇心旺盛なヒカリ。
学校の友人の中には、僅かではあるが、既に初潮を迎えている子もいるらしい。
背伸びをしたい年頃の妹から、羨望の眼差しを浴びる姉。
「早く生理にならないかなぁ・・。」
・・そんなにイイモノじゃないよ・・。
不意にコダマは、吐き気のしそうな想いに襲われた。
頬を引き攣らせる姉を訝しげな表情を浮かべて見つめる妹。
皆は口を揃えて言う。
亡き母にそっくりな二人の姉妹。
その事実を妹も姉に対して指摘する。
姉であるコダマも折に触れ、妹が母に似ていることに驚く。
そして泥酔した父は、妻に似た娘に獣欲を叩きつけたのだ。
今はまだ幼い小学生のヒカリ。
だが、いずれは十三歳、十四歳、今のコダマより上、十五歳になることは、避けようのない事実だ。
もし仮に泥酔した父が、成長したヒカリを母と思い込んだならば。
そして、それを食い止めることが出来なかったとしたら。
惨劇は繰り返される。
いや、違う。
父とヒカリは正真正銘、血の繋がった父娘なのだ。
姉以上の惨劇が妹を襲うことに間違いは無かった。
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