「・・コダマ・・か・・?」
名を呼ばれた瞬間、絶頂の余韻に浸るコダマの意識が不意に正常に復した。
広げられた少女の脚と脚の間に呆然と座り込んだ全裸の男。
男の顔は鼻から下、顎にかけてが、褐色に染まっている。
それは血塗れの肉を食した鬼の面を被っているかのようであった。
だが、その面から覗く双眸には理性の光が点っている。
意外なことに、、そう言っては語弊があるかもしれないが、最初にコダマの心を満たしたのは喜びであった。
正常に復した男は、取り敢えず普段の父に戻っているように見える。
次に頭に浮かんだのは脈絡の無い疑問。
最後に父と風呂に入ってから、どれくらい経つであろう。
父の全裸姿を眼にしなくなって久しかった。
実の娘のように可愛いがってくれてはいたが、それでも血の繋がらない娘の裸身を眼にするのは、気恥ずかしかったのであろう。
ヒカリが生まれた頃、母の手が塞がり、暇を持て余した二人がスパ的な銭湯に行ったのは、何歳の頃であっただろうか。
それすらも一緒に入浴するのは久しぶりであったし、少女の胸が微かに隆起し始めた以降は、互いに心理的な距離を置いていたのが実情であった。
「あ。」
奇妙な話だが、自分が一糸纏わぬ姿であることにコダマの想いが至ったのは、その想いの後であった。
反射的に上半身を起こし、脚を閉じつつ片腕で両の乳房を、残る片腕で及ばぬながら躯の全面を隠し、手で股間を覆う少女。
「・・そんな・・俺は・・。」
戸惑いながらも何があったのか、いや、何をしてしまったのかを漠然と理解しつつある男は絶句する。
全裸の男は、血と体液に塗みれ萎えたペニス、同じく紅く染まった指先を呆然と見つめる。
全裸の少女、その白い肌には数ヶ所の血が滲む掻き傷が残り、下腹部を中心に擦り付けられたように褐色の血痕に彩られていた。
男の顔が歪む。
娘、、コダマが性的な被害を受けたことは火を見るよりも明らかであった。
そして、その狼藉を働いたのは他ならぬ男自身、、仮にも父と呼ばれていた自分自身であることも、また明らかであった。
「・・済まない・・。」
そう呟いて悄然と項垂れる男。
そこにいるのは『男』ではなく、紛うこと無く慕っていた『父』であった。
少女の双眸から涙が流れる。
罵ってやりたかった。
罵詈雑言の限りを叩きつけてやりたかった。
憎んでいた。
幾ら憎んでも飽き足りない程、憎んでいた。
許せなかった。
何があっても許すことは出来ない。
だが、コダマは父を責めることが出来ない。
不思議なことに父を責め、憎み、罵りたい気持ちは希薄になっていた。
許せない気持ちだけは厳然として存在していたが、それとて父に対するものではない。
許せないのは父の裡側に潜む闇、そこに住まう牡の鬼であった。
父を責めることは出来ない。
だが、遣り場の無い自分の気持ちはどうすれば良いのだろうか。
気が付けば窓の外が白み始めている。
このまま、こうしているわけにもいかない。
無言のまま、立ち上がった少女。
どろり
その股間から溢れ、左右の太腿を伝い流れる大量の白濁液。
その白濁液には経血が混じり、あたかも墨流しのようなマーブル模様になっている。
「あ゛あ゛あ゛・・。」
泣き出しそうな表情を浮かべながら呻く父。
・・初めて・・なの・・か。
その呟きから、父が経血を破瓜の出血と勘違いをしていることが窺い知れた。
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