年が明け慌ただしい雰囲気が一段落した日曜日、ショップの店頭のバッグをいじる若い男性に気付いた。あの高校生、裕樹だ。さすがにまだ華やかな女性服の店内に入るには照れがあるのだろう。
私は一瞬控室に戻り胸を寄せて香水をふり彼の背後から近付いた。
『裕樹くん、いらっしゃい』
声をかけながら右手に軽くタッチする。
『あっ、こんにちは』
『来てくれたんだ、彼女にプレゼントするの?』
『違います!いないから、そんな』
『冗談よ。また会えて嬉しいわ』
『本当?よかった。相手にされないと思ってたから』
まだ本心かどうかわからないが、裕樹の控え目な言葉で少女のように胸がキュンとなった。動揺を隠すように店内を案内する。
『裕樹くんの好きなファッションは?』
『こういう普通のです。あまり派手なのは嫌い。』
『じゃあこれとブラウスにジャケットはこれ…お姉さんタイプが好みかぁ』
『うん、だからこの前○○さんが一番綺麗でした』
『またぁ、でもありがとう。あ、真由美でいいわよ。私も裕くんって呼んでいいかな?』
『真由美、さん?』
『うん、良いわよ』
突然彼は棚の陰で私の手を握り
『僕の電話の…あの…これです。また来ます』
そう言ってポケットから紙を出し右手に押し付けて早足に店を出ていった。
きれいに折り畳んだ紙片は湿気を帯びて少し柔らかくなっている。確か彼の手も熱く汗ばんでいた。
それだけで彼の緊張が感じられ、また胸がキュンとなった。
(こんな年上の女なのに、裕くんいいのかなぁ。気の迷いか憧れる年頃なんだろうね。うん、そう。そうに違いない!私がしっかりしてれば大丈夫。)
そんな事をぶつぶつ呟きながら春の新作を並べていく。それでも彼の好みそうな服を見ると鏡に写して気分が高まる。
その夜、部屋に着くと裕樹に電話してみた。
『今帰ってきたの、うん、着替えながら電話中だよ』
彼の動揺が見えるような気がする。
『あ~、変な事考えてるでしょ?』
『考えてないです!違います。ただ今日うれしかったなって、あの…真由美さん、良い香りしてたし本当に会えたんだなって…』
まっすぐな気持ちにまた身体が熱くなり、ムズムズしてくる。
(電話で…ダメ、彼の夢が壊れちゃう。でも…)
姿見に写る下着姿が卑猥な女に見える。
(私の香りが彼を興奮させたのかも…彼が今夜自分で…私を思い出して…)
きれいな顔立ちを思い出した時、そっと指が動いていた。
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