翌日、砂生家の広いリビングに二家族が集まった。
いぶきとその両親、裕貴と美子。
姉の早紀は他県の大学に通っているため今日はいない。
こちらは父の優一と母の真理。
母の真理は今年41になるが、とてもそうは見えないほど若々しい。
大樹とは姉弟と間違われることもある。
良家のお嬢様だった真理はまるで日本人形のように整った端正な顔立ちをした美女だ。
切れ長の瞳に上品にスッキリとした鼻と唇。
ミディアムボブの黒髪は艷やかで、いつも穏やかな笑みを浮かべる真理は出先では必ずと言ってもいいほど人の眼を集めてしまう。
大樹にとっては自慢の母親だった。
大樹と優一は遅れてやって来た。
話していたいぶきが席を立つ。
「大くん、待ってたよ、、、何してたの?」
嬉しそうに微笑みながら纏わりついてくるいぶきに嫌悪感が込み上げる。
「とりあえず座ってくれるか?大切な話があるんだ、、、」
「うん、分かった、、、」
頬を上気させ腰を下ろす。
何を勘違いしてるんだ、、、
昨日ホテルで他の男とセックスしたくせに、、、
その汚らわしさに大樹は離れて座った。
「今日は日曜というのにわざわざ集まっていただいてすいません、、、」
みんなの視線が大樹に集まる。
「外でもありません、、いぶきとのことです、、、」
いぶきの瞳の輝きが増す。
「俺はいぶきと別れます、、、」
「えっ、、、」
一斉に声があがる。
「大くん、、、ウソだよね?冗談だよね?」
「冗談なんかじゃない、、、」
「大樹くん、どういうことなんだ?」
裕貴が口をはさむ。
「いぶき、、、お前、昨日、何してた?」
「昨日は、、、友達と、、、」
「友達って?」
「そんなの、、、誰だっていいでしょう?」
「隠すのか?」
「違うよ、、、横川くん、、、部活のことで話があって、、、」
「いぶき、横川くんって、、、男の子と二人で会ったの?」
「そうだけど、少し話しただけ、、、本当にそれだけ、、、」
「ラブホでか?」
「えっ!」
「ええっ!」
「違う、、、そんなことしてない!」
「お前達が手を繋いでホテルに入るところを見たヤツがいるんだ、、ごまかすな、、、」
「わたしじゃない、、、見間違いだよ、信じて大くん、、、」
「まだしらを切るんだ?」
「大樹くん、、、娘を信じてくれないか?いぶきが他の男とそんなことをするはずが無い、、、何かの間違いだ、、、」
「大くんが好きなの、、、絶対に裏切ることなんてしてない、、、」
目に涙を浮かべ訴えてくる。
ずっと一緒だった、、、
数え切れないほど思い出もある、、、
それなのに、、、
目の前の幼馴染は平気でウソをつき誤魔化そうとしている。
「大樹くん、、、ちゃんと証拠があって言ってるのか
い?」
問い詰めるように裕貴が尋ねてくる。
大樹はパソコンを開いた。
「裕貴さんがそう言うのなら、、、いぶきが認め無いのなら、、、仕方がありません、、、これを見てもらいます、、、」
テーブルに置き、録画を再生させる。
「何だと言うんだ?」
「黙って見て下さい、、、証拠が見たいんでしょう?最後まで見てもらいます、、、」
大樹の部屋で浮気に耽る二人が映し出されていた。
それぞれから驚きの声があがり、いぶきは叫び声をあげて泣き始めた。
恋人の部屋で躊躇うこと無く情事に耽る二人。
そしてその生々しい会話、、、
「いぶき、、、妊娠って、、、お前、、、」
裕貴が呻くように言う。
どうしたのかは聞くまでも無い、、、
「ゴメンなさい、、、わたし、、、わたし、、、」
いぶきは泣き崩れ母の美子に抱きかかえられている。
「本当に大樹くんとはしてないのか?」
裕貴の言葉に大樹は頷く。
「いぶき、、、お前はどうしてこんなことを、、、」
「分からない、、、自分でも分からないの、、、大くんが好き、、誰よりも、、、でも彼に誘われて、、、断りきれなくて、、、ごめんなさい、、、赦して下さい、、、」
「バカモノ!」
裕貴が怒鳴りつける。
「お前は大樹くんがいるのに、、、簡単に、、わけのわからない男に初めてを許したのか!しかも妊娠まで!」
裕貴はそう言うとその場で土下座をした。
「大樹くん、、、本当にすまない、、、娘は取り返しのつかないことをしでかした、、、もちろん全ての話は無かったことにしてくれ、、、」
「嫌だ!彼とは別れる、、、大くんがいい、、、大くんと離れたく無い!」
「バカなことは言わないで、、、自分のしたことを考えなさい、、、」
美子が叱りつける。
「優一、すまない、、、父親の俺の責任だ、、、降格でもクビにでも好きにしてくれ、、、」
「そんな、、、お父さんのせいじゃない、、、わたしが悪いの、、、」
「お前は大樹くんを裏切っただけじゃない、、、優一も真理さんも、、、父さんも母さんも裏切ったんだ、、、だから父さんが責任を取る、、、当たり前のことだ、、、」
それまで黙っていた真理が口を開く。
「いぶきさん、、、」
真理は今までずっといぶきちゃんと呼んでいた。
赤ちゃんの頃から知っていて家族のように思っいた。
それが今は他人のように呼び、冷たく突き刺すような目でいぶきを見ていた。
「わたしはアナタのことを本当の娘のように思ってた、、、可愛いくて良い子だって、、、きっといつか大樹と結婚して素敵なお嫁になるんだろうなって、、、ガッカリしたわ、、、でも良かった、、、そうなる前にアナタの本性が分かって、、、アナタなんかに大樹は任せられない、、、二度と大樹に近づかないで!」
普段の母からは想像も出来ない苛烈な拒絶の言葉だった。
「真理さん、ごめんなさい、、、わたし、、、」
「もう聞きたくありません、、、出ていって、、、」
いぶきは両親に連れられ出て行った。
翌日、学校へ行くと横川といぶきのラブホデートはあっという間に広まっていった。
いぶきのことを遠巻きに見つめながらヒソヒソと皆が噂をしていた。
そして誰も話しかけてこない。
なかには
「シリ軽オンナ」
「童顔ビッチ」
「砂生くんが可哀想」
聞えよがしにそう言うものもいた。
そしてラブホのことが学校に知られたことでいぶきと横川は停学になった。
その上、二人は即効バスケ部を強制退部。
しかも横川にいたっては近所の人妻との不倫がバレ、夫と喧嘩をして傷害罪。
そのまま退学となった。
いぶきは父親の転勤に伴い引っ越して行った。
優一は裕貴をクビにすることも降格もしなかった。
そのかわり支社の責任者として移動をかけた。
いぶきからは何度も連絡があったが受けることはなく連絡を拒むためブロックした。
母をはじめ周りの友人達の支えもあって大樹は少しずつだが元気を取り戻していった。
生徒会長の奈緒は、はじめは電話のやり取りを気にしてか恥ずかしそうにしていたが、普段のクールな態度からは想像できないほど大樹に寄り添ってくれる。
けれど大樹の心にはしこりが残った。
ずば抜けた美人ではないが、いつもいつもそばにいて頼ってくるいぶきを可愛い妹のように思っていた。
必死の想いを告白されたとき、いぶきの悲しむ顔を見たく無くてそれを受け入れた。
悦び両親にそれを告げるいぶきを見て、これで良かったんだと思った。
両親達も高校を卒業したら婚約させようとまで言って歓迎してくれた。
これからもずっといぶきを見守り続ける、、、
ところが、、、そんないぶきの信じられないような裏切り、、、
自分にあどけなく甘えながら他の男に処女を捧げ爛れたセックスに溺れ、堕胎までしていた。
オンナには裏の顔がある、、、
大樹は以前のように心から笑えなくなった自分を人には気付かれないように気を遣いながら日々を送るようになっていた。
しかし母親の真理はそんな大樹を敏感に感じ取っていた。
以前と変わらず母親である真理を気遣ってくれる優しい息子。
でも母だからこそ違うこと本能で察知する。
あの娘、、、
あんな最低なことをするなんて、、、
最愛の息子への仕打ちを今でも赦すことができない、、、
もしもトラウマにでもなったら、、、
生まれたときから愛おしくて仕方がなかった。
あっという間に背も抜かれ、逞しくなっていく息子にドキッとしたことも何度もある。
背も高く引き締まった逞しい体躯に父親譲りのイケメン、、、
ううん、、、夫よりずっと優しい瞳をしてる、、、
大樹の方がずっとわたし好み、、、
そんなことを考える自分に何度も苦笑いしてしまう。
血のつながった息子なんだよ、、、
そんな傷ついた心を母に気遣ってひた隠しにする息子、、、
だからこそ自分が癒やしてあげなければいけない、、、
どうせ夫に相談しても男なんだから放って置けと言われるに決まってる。
でもわたしは母親である自分に出来ることは全部してあげたい、、、
そんな思いで頭がいっぱいだ。
そんなとき夫が全国にある支社を視察でまわると2週間ほど出張に出かけることになった。
もちろんその中には裕貴が出向になった支社も含まれる。
やはり昔からの仲だ、、、気になるのだろう。
丁度いい、、、
大樹と二人きりで過ごす時間が持てる。
真理はワクワクする気持ちを抑えながら夫を送り出した。
つづく
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