全身から滝のような汗を流していた。
呼吸が荒く早い。
身体を動かすことが出来ない。
私は勿論、彼も。
それ程に消耗しながらも行為の余韻に浸る私達。
肌が合う、というか身体の相性が良いのだろうか。
それ以来、休みといえば私達は互いの躯を貪っていく。
「人前で服、脱げねーよ。」
苦笑混じりに呟く彼。
彼の肩に点々と散らばる歯の跡が増えていく。
自分に噛み癖があるなんて知らなかった。
いや、噛み癖がついたのは彼との行為によって、だ。
そーだ、そーだ。
そーしよう。
そーいうことにしておこう。
「・・ごめん・・。」
だが、彼も満更ではないらしい。
やや過剰な愛情表現?
分からない。
だが行為の最中、私は必ず彼の肌に歯を立て爪を喰い込ませる。
無意識のうちに、だ。
肌の味、感触、噛み応え、全てが愛おしい。
「肉食獣・・か?」
そう言って彼は笑う。
・・うるせーな。
何とでも言ってくれ・・。
私達はドロドロになって躯を交わす。
汗と体液、そして僅かな鉄の味、、彼の肌に滲む血に塗みれながら。
コンドームによる避妊はしない。
そんなことをしたら興を削ぐこと夥しい。
避妊の方法は、さておき、いずれにせよ、彼の放った精を躯の裡側にブチ撒けられたいのだ。
凡そ二年間に渡る爛れた日々。
私が生理の時ですらバスルームで交わっていた。
後始末が楽なように、だ。
「そうまでしてヤりたいのかよ?」
呆れ顔をしながらも付き合ってくれる彼。
巡る季節が二回。
その間に軽く五百回はしただろう。
だが、そんな日々は唐突に終わる。
彼の転勤だ。
本当にカラダだけの関係は、終わる時もアッサリとしたもの。
明日は任地に赴くという彼と最後に寝た次の朝だった。
「元気でな。」
「ん。そっちもね。」
ホテルのエントランスでの別れ。
以上、お終い。
それっきり、だ。
彼との別れから二週間。
私は肉欲を持て余し始めていた。
オナニーでは物足りない。
一年間で三人程の男と寝てみた。
・・ダメだ・・。
万人に一人の割合で適合した彼とのカラダの相性。
何よりも噛み癖が邪魔をする。
仮に噛んだとしても私の渇きは収まらない。
彼でなくてはダメなのだ。
・・口寂しい・・のか・・?
愕然としていた。
二度と満ち足りた性生活を味わうことは出来ないかもしれない。
そんな私を襲ったショックなニュース。
彼が赴任先で結婚したらしい。
何となくメールを打った。
おシアワセに・・。
たった一行。
返信は無かった。
草食動物は肉食動物がいなくても、どうということはない。
むしろ・・天敵がいない環境は望ましい。
だが、肉食動物は草食動物がいなくては生きていけない。
飢え死にだ。
飢えて死ぬ。
躯ではなく精神が衰えていくのが分かる。
私は口寂しさを誤魔化す為、タバコを吸い始める。
奇妙なことにタバコを吸いながらのオナニーは悪くない。
自宅マンションの部屋、私はタバコを片手に自慰に耽る。
彼との行為には遠く及ばないが、他の男との行為よりは遥かにマシだ。
私はセックスレスなオナニストに逆戻りしていた。
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