ある会社の思い出220
研修期間42
畑のまんなかを通る私道なのか公道なのか、、、汗さえかきながら歩いていたら、黒い板にきしめん定食とだけ白いペンキで書かれた看板の民家があった。駐車場には耕運機とライトバン、それに業務用スクーターが停まってた。
ガラガラと音を立てる扉。いらっしゃいという中年のおばさん。
調理コーナーを囲むようにコの字型のカウンター。
みんないっせいに僕の顔を見る。
メニューはうどん定食だけ。
「うどん定食ください」と言うと、すぐにカウンターに座ってる畑仕事用のつなぎを着た50過ぎの男が声をかけてきた。
もう食べ終わって、新聞を斜め読みしてるところだった。
客1
「あんた、あの会社の人?」
僕
「あの会社ってどこのですか?」
客1
「ほら、あの3階建ての女だけの会社、、、」
僕
「それ違いますね。だって僕もあの会社の社員だけど、男ですよ」
つい反論した。
「女だけの会社だって、この前来た社長さん言ってたよなあ~」
その客は、どうやら顔馴染みの隣りの客に話しかける。その男も畑仕事をしてきた様子だった。
客2
「言うてた、言うてた、、、えらくべっぴんさんの女優みたいな女やろ?」
客1
「あれ、嘘かいな、、、赤いベンツで来たからそう思ったけどなあ、、、」
僕
「その社長は本物ですよ。だけど女性だけじゃない。だって、僕がいるから、、、」
客同士は顔を見合わせて、驚いた顔をした。
客1
「ちゅうことは、あんただけ?男は、、、」
僕
「そうですよ、、何か?」
客2
「怪しいなぁー、あの会社。
女だけの会社やろ?
あんた、ハーレムやな、、、」
客1
「ほんとうに怪しいんや、あの会社、、、この前、えらくきれいな若い子がウチに来てな、、、」
それからその男は話しかけた相手の男に何か耳打ちした。
客2
「そりゃあ、ヤバいなっ、保険金詐欺か?でも、おみゃあ、いい思いしたなあ」
そう言って2人は、見たことないくらい下品な笑い方で笑った。
僕はこの後に出てきたきしめん定食を半分ぐらいしか食べないで、渡されて着替えたズボンの中に入っていた千円札を払って、お釣りも受け取らずに外に出た。
不愉快な気分で元来た道を歩いていると、店内にはいなかったが、この店の店員なのか、若い女性が走ってきた。
若い女性
「店主がやっぱりお釣り返してくれって、、、それで」
そう言って140円をワイシャツの胸ポケットに素早く入れた。
「あの人達、下品な感じでごめんなさい。気分悪くしたでしょ?ほんとうにごめんなさい。うちの常連さんで、悪い人達じゃないんだけど、、、」
僕
「気にしないから大丈夫、、、」
若い女性
「ちょっと、、言いにくいし、恥ずかしいけど、言っちゃおっと、、、わたし、さっき店の奥からあなたのこと覗いていて、、、すごくドキドキしちゃって、、、なんか一目惚れみたいになっちゃって、、、コレっ」
そう言って、メモ用紙を渡して、くるりと踵を返して、一目散に走って帰っていく。真っ赤なTシャツに白のキュロットスカートの後ろ姿、若枝のような細い脚が脳裏に焼き付いた。
二つ折りのメモ用紙を開くと、
携帯に電話してください。
津々木梨花
(携帯番号)
それを見た途端、一瞬、夢から醒めて、本物の自分の心を取り戻した感じがした。
こう言うのがいいな、、、なんだか僕は女だけの会社の社畜で、都合よく性欲を満たす道具として使われてるだけで、、、
そんな考えが頭をよぎった。
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