ある会社の思い出2
ベンツは高速道路に乗って東海方面に向かって勢いよく走り、一般道に降りた。
御社は○○駅の近くじゃなかったんですね?
それには黄金原社長は答えず、車は古い家並みの細い路地を走り抜けた。
畑の真ん中に、すっきりした3階建てのビルが見えた。
ネットで見た会社と同じだった。
さあ、じゃあ、さっそく面接しましょうね
そう言って黄金原社長は、僕を2階の応接間のようなところに案内してくれた。
携帯鳴らしたら、隣の部屋に来てね
それだけ言うと、黄金原社長はしなやかな身のこなしで、ドアの向こうに消えた。
応接間の壁には、英語で書かれた特許の書類がたくさん額縁に入れて飾ってある。
それを立ち上がって見ていたら、携帯が鳴った。
僕は隣の部屋にノックして入る。
椅子がひとつだけ置いてあって、その椅子の向こうには、3人の若い女性面接官が1人ずつ椅子に腰掛けて並んで座っていた。黄金原社長はいなかった。
どの女性も、整った顔立ちで魅力的だった。
林葉宗介です。北九州からまいりました。
左の女性面接官が「緊張しないでいいのよ、林葉さん。椅子に座ってちょうだい」と優しい声で言った。
椅子に座ると、3人の面接官がみな笑顔で緊張している僕を覗き込むような表情で見守ってることがわかった。
3人とも僕が座ってるのと同じ椅子に座っている。
向かっていちばん右の女性面接官がした最初の質問は意外なものだった。
私たち3人を見て、どう思いましたか?
正直に答えてくださいね
たいへん優れた能力をお持ちの有能な方々だと感じました。
真ん中の女性がすぐに聞いた。
優れた能力ってどんなこと?
私たちを見ただけで、林葉さんにはわかるの?
その能力が
(あー、しまった)
型通りのことを言ってすみません。
僕は素直に謝った。
そう言いながら、頭を下げて、もう一度、目をあげると3人の女性の下半身が視野に入ってきた。
3人が、3人ともミニスカートで、きれいな太ももの間にパンティが見えている。
すぐに面接官の顔を見たら、3人がクスクス笑っている。
向かって左の面接官が、「初対面だもの。さっきの質問は難しすぎるわよね、だから、質問変えます。あなたの自慢できる能力ってなんですか?」
は、はい
ひと通り、コンピュータ言語の読み書きができます。ウェブデザイナー的なこともできますし、コスト関係の分析や労務管理ソフトのカスタマイズもできます。
それは面接受けに来てくれる前にメールで送ってくれたファイルに載ってる。
ちがうわ、私たちがこの面接で、あなたに求めてるのはあなたに人間的な魅力が、あるかどうかなの。
そう真ん中の女性が言った。
目の端で何かが動いていると思ったら、向かって右の女性面接官がさかんに脚を組み替えている。
気になり始めるとどうしても目がそっちを向いてしまう。
左端のクールな感じの女性は、左手を自分の股間に置いて、もぞもぞしている。
その女性がこんな質問をした。
これはプライバシーに関することだから、答えなくてもいいの。でも、ほんとうに採用したら、住居の手配とかあるじゃない?
だから、聞くのですけど、彼女とかいるの?
あっ、いません。
今は仕事だけに専念したいので、そういうこと、いっさいありません。
僕はすこし慣れて来て、この3人の女性となら誰と恋人になってもいいなと思った。
そんなことを思っていたら、いきなり真ん中の女性が面接の終了を告げた。そしてこんなことを付け足した。
社長とも話して決めますが、採用されると考えていただいていいわ。あなたにとって夢のようなステキな会社になるように、私たちも努力するわね
僕はその言葉でやっと、不思議な緊張感から解放された。
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