ある会社の思い出8
研修室はスッキリ部屋のような異様な磔台もなければ、器具もなかった。窓からのどかな田舎の風景が見えたし、部屋の片隅に大きなデスクがあった。
そのデスクの上にはタワー型パソコンと株のトレーダーが使うような三面のモニターが置かれていた。これなら自分の仕事がきちんとできそうだと思った。
部屋の中央には何の変哲もない会議室用の小さなテーブルと椅子6脚が置かれていた。自分のデスクと対角線上の片隅には、これも平凡な応接用のソファーが向かい合うように並べられていた。
壁には天井まで届くスチール製の本棚が2つあって、ファイル収納のボックスがたくさん並んでいた。
ちょっと拍子抜けしかけた僕。
いったい何を自分は期待してたのかなと苦笑いしながら、もう一度、部屋を眺めてぞっとした。
天井の中央に小さなドーム状の灰色のカプセル。隠しカメラだ。
部屋の四隅にも同じ隠しカメラ。床の所々にも同じ隠しカメラ。
何なんだ、この隠しカメラが埋め込まれた部屋は
そう思った瞬間、黄金原社長に声をかけられた。
「君、カメラが気になるのね。大丈夫よ、宗介くんがしっかり研修に励んでくれれば、、、」
「研修担当者の報告だと主観的になるじゃない?
宗介くんがちゃんと研修してるのに手厳しい報告があがったらイヤでしょう?だから、裏づけの記録映像が必要なわけ」
その言葉を聞いても怪訝な顔をしてるぼくに向かって、社長は言葉を足した。
「他の会社だって、研修中はみんなそうなのよ。お客様対応の電話もメールも営業車の走行記録もみんなモニタリングされるのが今の常識なの」
僕はそれもそうかもしれないなと思って、ちょっと自分を落ち着かせた。
でも、研修担当のさっきの3人はイヤじゃないのかな?自分たちの仕事ぶりも全部、上司やこの社長に見られちゃうわけだから。
「1か月、午前中はこの部屋で研修。午後は開発部や営業部や人事部で実際に働いてもらったり、わたしのお相手をしてもらうわね」
そう言うと、社長は研修室の扉を閉めた。
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