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Last case 『天空の城ラピュタ』×陽大と碧
「事実は小説よりも奇なり」なんて言うけれど、こんな出来すぎた再会もないだろう。
「生ビールの人~?えっと、生6つと…」
もう二度と会えないと思ってたのに。
「あとは端の人から注文言ってくれる?」
いつまでも彼女のことが忘れられず、俺はあのペンダントを未だに捨てられないでいた。
『これ、あおいのお守り…あげるね。ひなた君を守ってくださいってお願いしたから。
ひなた君、絶対おうちに戻れるから…だから』
胸がチリチリと熱い。
いつかまた会えたら、ちゃんと伝えたかったんだ。
あの時に言えなかった言葉を。
「私はカシスオレンジで」
目の前でカシオレを頼む彼女と僕は、今から10年前の夏、ふたり一緒に誘拐されたのだった。
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「あーおーいー!早くあけて!」
ガチャッ
「ひなた君!また窓から…危ないって言ったのに」
「だって玄関からだとお前の召し使いが出てくんじゃん。俺、あの召し使いにあんま好かれてなさそうだからな~」
「召し使いじゃないよ。お手伝いさん!」
彼女、四之宮碧(あおい)はこの地元では有名な大金持ちの娘だ。
あおいの曾じいさんは元々大地主だったそうだが、その息子が創設した四之宮グループは今や不動産、銀行、飲食店まで経営する巨大な財閥である。
彼女はその財閥に生まれた四人兄妹の末っ子だった。
「やっぱりうまい棒は、コンポタ味が1番好きっ!」
「かぁ~コンポタなんて女子供の食うやつたぜ。やっぱガツンと明太子味だろ!」
「どうせあおいは女で子供だもん」
「すねんなよ(笑)ほら、漫画も持ってきてやったから!」
「あっ!続き気になってたの~ありがとう!」
嬉しそうにあおいは、俺の読み古したジャンプを開く。
歳を取って出来た、それも待望の女の子だったあおいは、それはもう大事に大事に、まるで俗世間から隔離するように育てられていた。
小さい頃から私立の幼稚園、小学校に通っており、近所の俺たちとは顔をあわせることも稀だった。
大人たちに連れられて歩くあおいは、綺麗な洋服を着た人形のようだった。
そんなお人形さんと初めて話したのは小6の初夏。
あおいが可愛がっていたトイプードルが、庭で放している時に逃げ出したのだ。
それを通りかかった俺が偶然捕まえ、届けてあげたのが始まりだった。
お礼だと言って、俺は見たことのない豪華な飯やケーキを食べさせてもらった。
ほっぺを桃色に染めて笑っているあおいを見て、人形じゃなかったんだなって思った記憶がある。
それからあおいたっての希望で、俺はちょこちょこと四之宮家に遊びに行くようになった。
行く度に駄菓子や漫画、アニメDVDを持ち込むので、召し使いのおばさんにはよく嫌味を言われていた。
だって、あおいが喜ぶから。
あの時の俺は、そんな理由で動いていた。
「あおい!今日これ見ようぜ。俺が1番好きな映画!」
綺麗な青い宝石が印象的なその映画を勧めると、彼女は目をキラキラと輝かせながら、その世界にのめり込んでいった。
「…ひなた君。あおい、これと同じやつ持ってるかも」
「えっ?飛行石を!?」
あおいは机の中から小さな箱を取り出し、そっと開けた。
中には、まさしくアニメの中に出てくる飛行石と同じ色のペンダントが入っていた。
「うわ、すげぇ…」
「死んだおばあちゃんがくれたの…お守りだって。ラ、ラピ…ス?なんとかって石」
「えっ!名前まで似てるじゃん!すげぇー!!」
「ひなた君…あおいもこれがあれば、映画みたいに冒険ができるかな。もっといろんな世界を見ることができるかな」
ペンダントをぎゅっと握りしめて彼女は呟いた。
映画のように石は光らなかったけど、俺はあおいの手を両手で握った。
「俺がいつでも連れてってやる」
もうずっと最初から、彼女のことが大好きだったんだ。
********
「ドリンク揃った?じゃあカンパーイ!!」
あれから10年、こんな大衆居酒屋で再会するなんて思わなかった。
22歳のあおいは、ほんのり子供の頃の面影はあるものの、綺麗な女性になっていた。
でもどこか、また人形のように少し冷たい表情をしている。
「えっまじで、あの四之宮グループのお嬢様なの!?」
「すげー!本物のお嬢様だ!うわっすんません、こんな居酒屋で~」
「お前、あおいちゃんのお口に合う食い物用意してこい!執事が怒鳴りこんでくるぞ(笑)」
自己紹介であおいは名前を言っただけたが、飲み会のネタと言わんばかりに周囲の女性たちが彼女の素性をバラした。
「いや、あの…全然普通に居酒屋も行ったことあるんで」
「もうあおいってば優しいんだから~うちら庶民に合わせてくれなくても大丈夫だからねっ」
「そんなこと…」
「あおいってば、大学生になるまで枝豆食べたことなかったんだよ~」
「まじかよー!次元が違ぇ!!」
あおいは力なく微笑んだが、すぐに俯いてしまった。
どんな経緯でここに来たかは分からないけど、彼女たちとあおいは本当の友達には到底見えなかった。
あおいは、もっと楽しそうに笑う子だ。
「あ、ごめん。ちょっと電話…」
「なになに、メイドさんから?」
「お迎えに上がります~って??笑」
「あは、違うから」
あおいは電話に出ながらそそくさと店を出た。
「はぁ~ごめんねぇ、何かシラケさせちゃって。ひとりドタキャンしちゃって、人数あわせで連れてきたんだけどさぁ」
「あの子、住む世界が違うからね(笑)」
「え~でも可愛いじゃん。俺結構タイプ♪」
「やめときなって、どこにご飯連れてくつもりよ(笑)」
「あ、でも逆に奢ってくれるかもよ。うちら頼んでもないのにいつも出してくれんよのね。今日もお願いしたら出してくれるかもよ(笑)」
「まじかよ(笑)じゃあちょっと今日は贅沢しちゃう~!?」
なるほど、あおいのことを裏ではこうやってネタにして、金だけ出させるために良いように連れ回してんだな。
沸々と怒りが込み上げてくる。
「ねぇ、大久保くんだっけ?テンション低いじゃん~飲んでるぅ?」
「やばーい、大久保くん、由奈の結構タイプなんだよね~」
胸元が大きく開いたニットを着た女が、俺の方に谷間を見せつけてくる。
「わっ由奈ちゃん、やばっ!えろっ!おい、ひなたぁ、今日来て良かったなぁ~」
「下の名前、ひなたって言うのぉ?え~可愛いんだけどぉ」
「ひなた君って呼んでいい~?」
『ひなた君…また一緒に遊べる?』
「よ…な」
「え?なぁに、ひなたくーん?」
「寄るな、ブスどもが」
「…は?」
「さっきから気色悪いんだよ。頼んでもねぇのに胸ばっか見せつけやがって。それしか勝負するもんねぇのかよ!?」
「え、え?何?」
「ちょ、おい、ひなた…」
「お前らみてぇな女、頼まれてもヤリたくねぇわ!あー気分わりぃ…そんなにしたけりゃ、うまい棒でも突っ込んどけ!!」
バンッと万札を置いて立ち上がると、目の前であおいが呆然と立っていた。
「帰るぞ」
あおいのかばんとコートをつかみ取り、女たちがヒステリックに叫んでいるのをスルーして、俺は彼女を連れて店を出た。
つづく
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