コメントいただけて、私も涙が滲んじゃいます!
ありがとうございます!
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ピンポーン
土曜の昼間、久々にあや姉の家を訪ねる。
ダダダダダ!と凛太郎が砲弾のように僕に飛び込んできた。
「ゆうとーーー!!」
グリグリと頭をこすり付ける凛太郎は、まるで子犬みたいだった。
「ゆうちゃん、いらっしゃい!」
あや姉の母親が、奥からパタパタと出てきた。
彼女によく似た、可愛らしい人だ。
久々に会ったせいか凛太郎のテンションは高く、ライダーごっこやブロック遊び、最近はまってる芸人の物まねなど、はしゃぎまくっていた。
そして電池が切れたように爆睡してしまった凛太郎に毛布をかけ、おばちゃんの出してくれたコーヒーを飲む。
「ゆうちゃんと遊べて、よっぽど嬉しかったのねぇ」
すぅすぅと寝息をたてている凛太郎の顔は、時折にまにまと笑っていた。
「ゆうちゃんには親子でお世話になって…本当にありがとうねぇ」
「そんな!なんにも!僕、昔っからあや姉のお世話になってるし、凛太郎も可愛いし…」
「ふふっ…ゆうちゃんもここでよく遊んでたねぇ。こんなにおっきくなって。不思議なものねぇ」
「中身は…そんなに変わってないかもだけど」
「やだよぉ、そんなこと言って。
あ!そうそう、これ見せようと思ってたのよ」
おばちゃんは古い大きなアルバムを持ち出してきた。
「こないだ整理してたら、懐かしいわねぇ~って綾と話しててね」
そこには小さな僕と、制服姿のあや姉が写っていた。
「これは綾の卒業式、こっちは大学に入りたての頃。成人式の時のもあるわねぇ」
あや姉の晴れの日には、いつも小さな僕が嬉しそうに写り込んでいた。
そうだ、ずっとこの頃からあや姉が好きだった。
「あっ、これこれ。覚えてる?」
そこには、座椅子で寝ているあや姉と、彼女の膝の上で丸くなっている僕の姿があった。
「ピッピが死んじゃって、あの子すっかり落ち込んじゃって。
そしたら…ふふっ…ゆうちゃんってば「ピッピのかわり!」って、ニャーニャー言いながら綾に甘え出して…ふふふ、可愛いわぁ」
『ニャーニャー、あや姉、ぼくネコになった!ニャア~~』
ゴロゴロとピッピのようにあや姉にすり寄る。
最初はびっくりしていたあや姉も、クスクス笑いながら頭を撫でてくれた。
忘れていた記憶が蘇り、カーッと顔が熱くなる。
「ゆうちゃんなりに、一生懸命、綾を慰めてくれてたのよね」
「お恥ずかしい…」
「くふふっ…でも綾、あれからすごく元気になったのよぉ。ゆうちゃんが居てくれて良かった」
「そんな、こと…」
「今もそうよ。あの子、しんどいことなかなか言わないでしょ?大丈夫、大丈夫、ばっかり」
「うん、そうだねぇ」
「でもちょっと前、目をぼっこり腫らして起きてきてね。驚いたけど、あ、ちゃんと泣けたのかな?辛い気持ちを吐き出せたのかな?って。
その日からちょっとずつ、凛太郎のこととか私やお父さんに頼ってくれるようになって…嬉しかったぁ。
…ゆうちゃんじゃない?綾を泣かせてくれたの」
「え?」
「なんとなくだけど、そうじゃないかなぁって。
違う?」
「いや…そんな、僕はちょっとでもあや姉が元気になればと思って…」
「どうもありがとう」
おばちゃんが丁寧に頭を下げた。
「えっ!ちょ、やめてよ、おばちゃん」
「昔っから、ゆうちゃんは綾のことを助けてくれてたんだよねぇ。本当にありがとう」
小さな僕も、大人になった僕も、あや姉にできることなんてあるのかなと思っていた。
ほんのちょっとでいい、あや姉の心が柔らかくなれば、そんなの…めちゃくちゃ幸せなことじゃないか。
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「でさ?女手ひとつだからって、何でも「大変でしょ~」って…耳にタコができるっての!」
「分かるー!あとさ、男!見てくる目が変わるって言うか、めっちゃ口説いてくる奴いない?」
「いる!あれ何なの?『毎晩寂しいでしょ?』とか平気で言うからね!」
カフェの個室で、女性たちの元気な声が飛び交う。
綾乃以外に4名の女性。
ここにいるのはみんなバツイチ子持ちの人たちだった。
「ちょっと、真紀!私、真紀とふたりだと思ってたんだけど!」
綾乃が小声で囁いた相手は、大学時代の親友だった。
「まぁまぁ。彼女たちも私らとおんなじ境遇っていうか、仲間みたいなもんよ。
あんたのことだから、どうせひとりで頑張ろうとしてるんでしょ。
そんなの無理だからね!うまく周りに頼って、たまにこうやって発散させないと」
「ん…そうだけど…」
「ねぇねぇ、綾乃さんは今フリーなの?」
「えっ?」
みんなより少し若い、可愛らしい子がキラキラした目で聞いてきた。
「彼氏、いないんですか?」
「い、いないですよ!そんな、子どもだっているし」
「あ~ダメですよ、バツイチだからってそういうの諦めちゃ!
中にはバツイチだからってナメてきたり、都合よく付き合おうとする奴もいるけど、ちゃんと向き合ってくれる人もいますよ」
「今の彼氏のこと言ってるんでしょ~」
「やだぁ~バレましたぁ?」
みんな、自分と同じはずなのに明るいなぁ。
私もこんなに笑える日が来るのかな。
「みんなは…離婚したこと、後悔してないですか?」
シンッと空気が静まったので「しまった」と思った。
「…うーん、後悔はあるけど、して良かったと思ってますよ」
「私も。もっと上手くできなかったかな?とは考えるけど、あのまま結婚生活続けてても誰も幸せになれなかったって思うし」
「綾乃、今はまだ離婚して間もないから不安も大きいんでしょ。でも私たち見なよ。別に実家が金持ちでも、貯金がたくさんあるわけでもなかったけど、何とか楽しくやってるんだよ」
「真紀…」
「そうそう、自分も子どもも幸せになるために、必要な選択だったんですよ!
それに、離婚したことで繋がる縁もあるし!」
「あんた彼氏の話がしたいだけでしょ」
みんな、花が咲いたように笑った。
「私…聞きたいです、彼氏さんの話。どんな人ですか?どこで出会ったの?」
「やだぁ~綾乃さんってば欲しがるなぁ~
うふふ、実はですねぇ~」
私も、何だか楽しくなって久々に恋の話が聞きたくなった。
つづく
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