ピロンッ
『昨日はごめんなさい…
10分で良いので会いたいです。
窓のとこで待ってます。』
ピロンッ
『怒ってますか?本当にごめんなさい。
でもちょっとだけ話したいです。』
ピロンッ
『お願いします。顔だけでも見せてください。』
ピロンッ
『さむいよぉー(>_<)』
ガララッ
「おいこら、そこのストーカーくん」
「あっ!あや姉!!…よかったぁ~」
「もぉ~さっきから何なの?何回もピロンピロンって!
…えぇ~侑人、酔っ払ってるの?」
「へへっ…あや姉だ~会えたぁ~」
「ちょっとぉ、酔っ払いの相手してる暇はないんだけど」
理緒にキスされたことが実は相当ショックだった僕は、駅についてもなかなか立ち直れないでいた。
何とか忘れようと、コンビニで買った缶チューハイを2本飲み干したわけだが…
元々酒に強くない僕は、家に帰る頃にはすっかり酔いが回っており、あろうことかあや姉にLINEを連打しまくっていた。
「あのねぇ~僕はぁ、あや姉のことが大好きだよぉ」
「酔っ払いの言うことは信じません」
「…昨日だって信じてくれなかったじゃん」
「そんな…急に言われても信じられるわけないでしょ」
「そっかぁ、じゃあ信じてくれるまで言うよ~
あや姉のこと好きだよぉ~って」
あや姉はなかなか笑ってくれず、難しい顔をしている。
あや姉、今何を考えてるの?
僕の気持ちが届かないことが、無性に悲しくなってきた。
「っ…うっ…なんで怒ってんの?ひっく…こんなに…ずっと、好きなのにぃ…うぐっ…ぐすっ…ご、ごめんなさい~」
半べそをかく僕を見て、あや姉はぎょっとする。
「えぇ、侑人…あんた泣き上戸なの?嘘でしょ、ちょっと…泣かないでよぉ。ほら、別に怒ってなんかないでしょ?」
「…じゃあ、手…繋いでよ」
僕は涙を拭きながら窓の外に片手を伸ばし、あや姉に向かってヒラヒラと振った。
はぁっ…とため息をつき、あや姉も手を出してくれた。
窓の外で繋がれた左手をブラブラと揺らしながら、彼女の手の温もりを感じていた。
「あや姉と手繋ぐの久しぶり…」
「そうだね」
「昔はよく繋いでくれたよねぇ」
「昔と今は違うでしょ」
「昔も今も、ずーっと大好きだったよ」
「…だからそれは、きょうだい的な好きって気持ちだよ」
「きょうだいにキスしたいなんて思わないよ」
ぎゅっとあや姉の手を握りしめる。
「僕のこと、ちゃんと考えて欲しい」
「だから、酔っ払いの言うことは…」
「明日も言う。明後日も、その後もずっと言うよ」
あや姉は何も言わなかったけど、手を離すことはなかった。
「明日も…ここで会える?」
長い沈黙のあと、あや姉が「いいよ」とひとこと呟いたので、僕はまた泣きそうになってしまった。
*******
酔っ払った恥ずかしい行為を翌朝猛烈に後悔した僕だったが、あや姉から『23時頃ならいいよ』とLINEが届き猛烈に歓喜した。
その日以降、23時過ぎから日付が変わる頃まで、僕たちはお互いの部屋から向かい合って話すようになった。
とは言え、昔の思出話をしたり、凛太郎のおかしかった言動を話したりするだけだった。
僕が頼み込んで、5分だけ手を繋ぐことが2回あった。
すぐそばにいるのに、あや姉の顔や髪、身体に触れることは出来ない。
縮まらないその距離がもどかしい。
顔が見れるだけで幸せだったのに、僕はどんどん欲張りになってしまった。
「あのさ、土曜の昼間なんだけど。学生の時の友だちにランチ会誘われてるんだ」
「いいじゃん、行ってきなよ。たまには遊んで息抜きしないと!」
「うん、それで…親が凛太郎見ててくれるんだけど、りんが侑人とも遊びたいって言ってて…」
僕があや姉にキスをして以降、あや姉は僕がいる時にうちに遊びに来ていなかった。
「あの…僕はあや姉が好きだけど、凛太郎のことも好きだから。あや姉の子どもだから遊んでたわけじゃないよ」
「侑人…」
「遠慮なんかしないでよ」
「ありがとう…ごめんね、侑人の言ってることは拒むくせに、私のお願いばっか聞いてもらって…」
「気にしないで、とは言いきれないけど…凛太郎のことは、本当気にしないで大丈夫だから」
あや姉は申し訳なさそうに俯く。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
「…じゃあ、手繋いでくれる?」
差し出した僕の手を、あや姉はそっと握ってくれた。
指を絡ませて、ぎゅっと握り直す。
「へへ、恋人つなぎ~」
あや姉は困ったような顔で笑っていた。
僕が昔、駄々をこねていた時もよくこんな顔をしてたっけ。
僕はあや姉からすれば、駄々をこねているだけなのかな。
ちょっと虚しくなって、手を離す。
「土曜日、楽しんできてね」
僕は、大人になったはずなのにな。
つづく
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