その32
その日、私は病院へ戻るのが遅れて婦長に叱られたが、疲れと幸福感から病室のベッドに横になると同時に眠りについていた。
翌朝、いつものように鈴谷さんの大きな声とハイテンションな挨拶から1日が始まったが、回診に来た先生にも叱られてしまい、反省したが先生の話は全く耳に入らず、脚の状態の事で何を言われたのかも記憶に残っていなかった。
私は、リハビリの時間が来て早く谷崎さんに会いたかったが、その前に煙草を吸う私の前に聖子さんが来てしまった。
聖子さんは「昨日は夜遊びしちゃって、どこ行ってたのさ?」と聞いてきて、私が孫に会ってたましたよと答えると、ニヤニヤしながら「鈴谷ちゃんにも叱られるよ~」と言いながら、いつものようにボンベを連れて、立ち去って行った。
どこまで知ってるんだかと思ったが、私の気分はとても晴れやかなものだった。
病室に戻る途中、鈴谷さんから呼び止められ、「昨日、明美さんと会ってましたよね。私の事を聞きましたか?」と言われ、何となく聞いたよと答えると、「そうですか…」と言い、鈴谷さんは浮かない顔になった。
私は、鈴谷さんの事を少し勘違いしていた。強くて無邪気な子供っぽい女性かと思っていたが、繊細で優しい人なんだなと気付いたよ。これからもよろしくお願いねと言うと、鈴谷さんは怪訝な顔をしながら、「お風呂の時の約束覚えてます?本当にお願いします」と、頭を下げナースステーションに帰っていった。
私は、何も約束した覚えは無かったが鈴谷さんを女にすると言うお願いをされた事を思い出していた。 つづく
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