まだじゃない、つまりは経験済み。
「へえ。」
だが、少女のリアクションは過剰に過ぎないだろうか。
サクラの胸を不安が過ぎる。
まさか不幸な思い出が、傷ついてしまうような出来事があったとしたら。
しまった、余分なことを・・
・・馬鹿なこと聞いたかも。
だが、案に相違して極く普通の初体験であったらしい。
「中二の終わりに・・初めてギュッとしてもらったって言ったじゃないですか・・」
それ以来、二人の中学生は順調に肉体的な接触の密度を高めていく。
抱き合ったまま、互いの躯に回した手で互いの肩から背中にかけてを愛撫する。
衣服の上からの愛撫ではあったが、鳥肌が勃つような快感に夢中になる二人。
初めて唇を重ねたのは、ちょうど二年程前、満開の桜の下であった。
「模擬試験の帰りでした。」
昨夜の公園とは別だが、その小さな公園にも何本か桜の木が植えられていた。
間も無く日没、ライトアップされているわけでもないのだが、妖しい美しさを醸し出す満開の桜。
「あ。桜、超満開だ!」
そう言って公園に脚を踏み入れた無邪気な少女と少年は、並んで桜を見つめる。
いつの間にか二人の中学生の手は、しっかりと繋がれていた。
夕闇が迫る公園の中、他に人影は無い。
どちらからともなく、向き合わせになった二人は互いに相手の躯を抱き締めていた。
と、少女の額に少年の唇が一瞬だけ、それも恐る恐る触れる。
「おデコにチュッて・・。」
敢えてサクラから視線を逸らしたまま、話し続けるナナ。
胸をトキメかせながら、ナナの話に聴き入るサクラ。
「最初、分からなくて・・」
少女は少年の顔を見上げた。
少年の眼は動揺を隠し切れない。
思わず少女の額に唇を触れさせてしまった。
少女は怒るだろうか。
少女は嫌がっていないだろうか。
「・・・顔、見た瞬間、何を考えてるか分かりましたね。」
怒るわけがない。
嫌がってなどいない。
だが、それを巧く表現出来ない。
ならば。
少年が勇気を振り絞ったのだ。
今度は少女の番だ。
少女は眼を閉じて僅かに顔を上に向ける。
「何が心配だったかって・・」
ここまでして分かってくれなかったら・・
・・グーで殴る。
「拳、握り締めてましたよ、マジで。」
幸いにして固めた拳は緩められた。
「一瞬、ほんの一瞬だけ、チョンくらい・・」
二人の唇が、一瞬だけ触れる。
それがナナのファーストキスだった。
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