「満腹・・。幸せです・・。」
それはそうだろう。
この小柄で華奢な身体のどこに?
それ程にナナの食欲は旺盛であった。
だが、サクラとて他人のことは言えない。
・・太っちゃう・・。
今日のツケを身体で払わねばならないのは、火を見るよりも明らかであった。
余るだろう、余ったら冷凍にすればいい。
そう思いながら研いだ米は三合。
比率で言えば六割強はナナの、四割弱はサクラの胃袋に収まったのだろうか。
いずれにせよ、炊飯器は空だ。
・・まぁ、いいか・・。
暫くは節制を強いられるが、少女に笑顔が戻ったことがサクラにとって何よりも嬉しい。
それにナナお手製の梅肉を和えたタレが、絶品だったことは特筆に値する。
緑茶を啜りながら、少女が壁に掛かっている時計に視線を向けた。
午後七時。
「送ろうか?」
「え?」
・・だって、まだ片付けが・・。
視線を逸らせ、ムニャムニャと口の中で呟くナナ。
「じゃ、泊まっていく?」
「え?本当に?」
おぉ・・いいリアクションだ・・。
「こんな家で良ければ、ね。」
「お願いします!」
輝くような笑顔を浮かべる少女。
「ただし、おウチに連絡はしなきゃね。」
「何て言おう・・。」
確かに難しい。
見知らぬ中年女にスマホを届けて岩盤浴、そこからスキヤキを食べて外泊だ。
支離滅裂にも程がある。
「・・サクラさん、友達のお母さん役をお願い出来ますか?」
友人の家に泊まることにする。
ただし、急な外泊が不審に思われることは間違いない。
そこで、まずは友人にアリバイ工作の片棒を担いで貰う。
だが、年頃の一人娘だ。
彼氏の存在は明かしている。
疑われる要素は充分にある。
そこでダメ押しに友人の母親、、つまりはサクラが登場、という筋書きだ。
ふむ。お姉さんじゃダメ?
「信頼性に欠けますよね?」
まぁ、やってみよう・・。
スマホを引っ張り出した少女は、SNSで友人とのヤリトリを始める。
その間に使い終えた食器を重ね始めるサクラ。
ヤリトリを始めて暫く後、不意にナナが叫ぶ。
「なっ!ち、違う!」
何事かと振り向けば、少女は耳まで真っ赤に染めている。
「どうしたの?」
或いはアリバイ工作に失敗したのかと思いきや、サクラに向かいスマホが差し出される。
・・何・・?
>分かった。任せて。
>おめでとう。
>サイサイも遂にオトナだね!
>ちゃんと付けなきゃダメだよ!
「違うのに~。」
トホホな表情を浮かべるナナであった。
※元投稿はこちら >>