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とある下町の工場街。
かつての高度成長期にはいくつもの町工場が軒を連ね活気に沸いていたこの街も、長引く不況により倒産・廃業が続き、今ではほんの数軒だけがどうにかこうにか操業を続けている状況であった。 『トミタモータース』 工場街の外れにある自動車修理と部品製造を手掛ける一軒の町工場。 今風の小洒落たデザインの看板を掲げているものの、その外観は錆びたトタンで覆われ相当年季が入っているように見える。 「ちょっとぉ田中さんたらぁ、ダメですよもっと丁寧にやってくれなきゃ!」 時折、工場の中から威勢の良い女性の声が聞こえてくる。 女性に叱られていたのは、白髪混じりの初老の工員だった。 『すまんすまん、アキちゃん』 「だーかーらー、もうアキちゃんって呼ぶのやめてもらえません? 一応ここの社長なんですから!」 工員達からアキちゃんと呼ばれているこの女性こそ、前社長の妻でありこのトミタモータースの現女社長、冨田亜希子である。 齢45歳、男勝りの性格で年上の工員達からも一目置かれている存在だ。 亜希子もかつては夫のもとで事務職を担当し、共に工場を支えていたが、ちょうど1年前、夫である前社長が突然倒れ、帰らぬ人となった。 一時はだいぶ塞ぎ込み工場も閉めていたが、雇っている工員達や取引先に迷惑はかけられないと、夫の後を継いで工場を再会することを決めた。 “アキちゃん”というのは前社長がいた頃からの彼女の呼び名である。 工員達は親しみを込めて、社長となった今でも彼女をそう呼んでいる。
2020/09/30 20:53:19(CsJGjhlA)
投稿者:
モンスーン
◆LcZFM.jE8Y
『明日は先代の一周忌かぁ』 午後の休憩時間。 ある工員がタバコを燻らせながら何気なく呟いた。 少し間を空けて亜希子が返す。 「ええ、早いものね。あれから1年も経つなんて...」 『俺はいまだに信じられねぇよ』 『今でも先代が隣で機械を回してるような気がしてならねぇよなぁ』 工員達は口々に先代との思い出を語った。 「...みなさん、明日は朝から申し訳ないけど、法事のことよろしくお願いしますね」 亜希子はどこか晴れない様子で、喫煙所に集まっていた工員達にそう言った。 『それじゃあ...少し早いけど明日の準備もあるから先にあがるわね。三好さん、最後の戸締りよろしくね』 三好もまた前社長の頃から長年勤める工員の一人。 職人気質で無口な性格の彼は、何も言わず背を向けたままタバコを持った右手をふらりと挙げて応えた。
20/09/30 20:56
(CsJGjhlA)
投稿者:
モンスーン
◆LcZFM.jE8Y
一周忌法要の当日、天気は朝からあいにくの雨。 法要には、トミタモータースの工員達をはじめ前社長を慕っていた同じ工場街の面々や取引先の人間も多く参列し、午前中のうちにしめやかに終わった。 雨の中、参列者達に深々と頭を下げて見送る亜希子。 そんな彼女を少し離れたところから他とは違う眼差しで見つめる一人の男がいた。 その男は同じ工場街で板金屋を営む鮫島である。 自動車修理と板金屋というのは切っても切れない縁があり、前社長の頃から仕事を融通する間柄だった。その関係は亜希子が社長になった今でも続いている。 この鮫島という男、50近い独身男で以前から亜希子に好意を抱いていた。前社長が亡くなってからは事あるごとに工場を訪れては彼女に言い寄っていたのだった。 『亜希子さん』 鮫島の低くねっとりとした声が亜希子の背後から刺さる。 一瞬、彼女の肩が硬直したように見えた。 『今日は大変だったねぇ、お疲れ様』 「さ、鮫島さん、、こちらこそ今日は主人のためにありがとうございました」 鮫島の舐めるような視線が亜希子にまとわりつく。まるで黒い和装の喪服に包まれた彼女の熟れた肢体を舐め回しているように感じられる。 その視線に気付いた亜希子が手でそっと胸元を押さえる。 『なぁ亜希子さん、もう少し先代と思い出話をしてぇんだが、、中で線香あげさせてくんねぇかな?』 亜希子は躊躇った。 しかし断る理由が見つからず、最後にただ一人残った彼を工場の隣にある自宅へと案内した。
20/09/30 21:02
(CsJGjhlA)
投稿者:
モンスーン
◆LcZFM.jE8Y
亜希子が住む家は工場と同じ敷地に建てられた古びた殺風景な長屋。 彼女は玄関の引き戸を開け、鮫島を家の中へと招き入れた。軋む狭い廊下を進み、仏壇が置かれた奥の和室へと彼を通した。 ぐずついた天気のせいか、まだ午後を少しまわった時間だというのにその部屋はだいぶ薄暗く湿っぽさが漂っていた。 鮫島は線香を1本だけあげると、仏前に手を合わせたままずいぶん長い時間目をつむっていた。 その横で亜希子はじっと正座をしたまま、視線は仏壇に飾られた夫の遺影に向けていた。 長い語らいを終えた鮫島が亜希子に静かに話しかける。 『1年なんてあっという間だねぇ、亜希子さん』 「ええ...」 『さっき、あの世にいる先代と話してたんだが、ちょいと頼まれ事をされちまってねぇ』 「...頼まれ事?」 『これからもトミタモータースを何卒よろしく、だとよ』 亜希子の目にうっすらと涙がたまる。 『それと、もうひとつ』 「もうひとつ?」 亜希子の視線が鮫島に向く。 『亜希子のことも頼む、ってな』
20/10/01 06:29
(GtA5M5y/)
投稿者:
モンスーン
◆LcZFM.jE8Y
「きゃっ!」 瞬く間に亜希子は鮫島に押し倒されていた。 彼女は鮫島から逃れようと必死にもがくも、体格の良い彼にとってはなんということはない。 むしろもがくほどに彼女の喪服は乱れ、中に着た白い襦袢までもはだけてゆく。 鮫島は亜希子の腰元に跨りながら、勿体ぶるように黒いネクタイをグイッと緩めた。 『あれからもう1年も経ったんだ。なぁ、そろそろ俺に心を開いてくれてもいいんじゃないか?』 鮫島が顔を近づけ亜希子の唇を奪おうとする。 亜希子はそれを拒み顔を横に背けた。 『先代もよくこんな強情な女を嫁に娶ったもんだぜ。まぁそこがたまんねぇんとこなんだけどなっ!』 鮫島は言い終わると同時に、はだけた襦袢を掴み勢いよく左右に剥いだ。 「きゃっ! やめて!」 彼女の色白な胸元が露わになる。 かすかにのぞく黒いレースのブラジャーがより一層肌の白さを引き立てている。 『和装に洋物ブラジャーとはいただけねぇなぁ』 亜希子は咄嗟に両手で胸元を覆い隠すも、鮫島に掴まれすぐにどかされてしまった。 『このでけぇ乳はいつ見てもたまんねぇなぁ。旦那にも夜な夜な揉まれまくったんだろ? ん?どうなんだ?』 腕を掴まれた亜希子は必死に抵抗するもののびくともしない。 『ふん、そんなにここをどいてほしいか?』 鮫島が鼻で笑いながら言う。 亜希子は首を大きく縦に振った。 『仕方ねぇ、俺だって惚れた女にあまり手荒な真似はしたくねぇからな』 そう言うと鮫島は彼女の上から体をどかした。 亜希子ははだけた胸元をすぐに喪服で覆い、部屋の隅にうずくまった。
20/10/01 12:35
(u5xLuXc.)
投稿者:
モンスーン
◆LcZFM.jE8Y
仏壇の前で鮫島があぐらをかいて座っている。 捕らえた獲物を逃すまいと、切れ長の目でじっと亜希子を見ている。 『亜希子さん、もう観念しなよ。死んだ旦那も公認なんだ、俺と一緒になろうじゃないか』 「それはあなたの勝手な作り話じゃない!」 亜希子は語気を強め鮫島を睨んだ。 『いいねぇその目つき。そのくらい強くねぇと男社会のこの街ではやってけねぇよな』 その言葉に亜希子はさらに彼をキツく睨みつけた。 『おいおい、そんなにがっつり睨まれちゃ驚いてムスコが勃っちまうじゃねぇか 笑』 鮫島は股間の棒状の膨らみを右手でぎゅっと握り、亜希子に見せつけた。 半笑いだった鮫島がふと真顔になり、嫌悪する亜希子に向かって話し始めた。 『あんたのとこの工場はよぉ、毎度毎度俺が仕事をまわしてやんなきゃ食ってけねぇだろ? あんた、そこんとこ忘れちゃいねぇか?』 亜希子が悔しそうに床に視線を落とす。 『ハハハ、図星だろ? 先代のときは週末は高級ソープで接待してくれてたからな、まぁそれでよしとしてやってたんだが、あんたに代わってからはどうだ? なんの見返りもねぇじゃねぇか!』 鋭い視線と言葉で亜希子に迫る鮫島。 「それはしっかりとお仕事の成果としてお返ししているじゃありませんか。それに、いつもうちの仕事ぶりには満足してるって、そう仰ってたのに...」 それを聞いた鮫島の左の口角がニタりと持ち上がる。 『あくまで“仕事”にはな。ったく、言わせんなよ、俺は大人の見返りが欲しいって言ってんだよ。なぁここまで言えばもう分かってくれるだろ? 頭のキレる立派な女社長さんよぉ』 勝ち誇った表情の鮫島。 亜希子の肩は静かに震えていた。 しばらく沈黙が続いた後、亜希子はなんとか声を絞り出すように口を開いた。 「...どうすれば...よろしいですか...」 『亜希子さん、あんたも社長の端くれなら自分の頭で考えてみたらどうだ。このご時世、みすみす仕事を減らしたくはねぇだろ?』 亜希子は仏壇に飾られた亡き夫の遺影を見つめると、目からは一筋の涙が溢れた。 (あなた...ごめんなさい...) 亜希子はゆっくりと立ち上がり、座る鮫島に視線を移した。 この先の展開を期待する鮫島の顔は酷く醜かった。
20/10/01 18:31
(GtA5M5y/)
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