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1:自由と不自由の間
投稿者:
ぼぶ
ネットの普及で様々なことが自分のタイミングで好きなように出来る自由な時代になった。
人間関係一つとっても、自分にとって必要な人間とそうでない人間と指の操作一つで、どうにでもなる時代。 それでもアナログな出会いで知り合った人間関係は、長く続くように構築される時代は変わらない。 唯はママ友である杏璃が羨ましく感じる時があった。 シングルマザーの杏璃は色々と大変なのだろうが、時々話に出てくる『彼氏』という存在が支えになっていると言う。 しばらくしてから、我に返るのだが、娘の母親として、また妻として見られることはあっても、40歳のまだ女ざかりという目で見てくる男性が、 この先現れるのかと希望すら持てないことで、杏璃のそんな話を聞いていると羨ましく思えてくる。 若くして、病気で夫を亡くし、シングルマザーとして頑張っている杏璃の状況を考えれば、苦労のほうが多いとも思う。 それに支えになっている彼氏になかなか会えない状態の杏璃と家庭を持っている唯では、唯のほうが世間的に見たら、羨ましがられるだろうと、 杏璃と別れるといつも思う。 それに、噂話ではあるが、杏璃の彼氏は、元々仕事でのお客さんにあたる既婚者の男性という話もある。 ただ、唯はそれは杏璃に嫉妬する誰かが流した噂だろうとしか思っていなかった。 そんなことよりも唯は唯で家庭と仕事の両立で忙しい日々を過ごしていた。 初夏のある日、子供を見送りつつ、唯も仕事に向かおうとしたときに、浩紀とすれ違った。 浩紀は唯と杏璃の子供たちと同学年の子供を持つ父親だ。 体格がよく、さわやかな感じで、気さくで話しやすい。 「おほようございます!また忘れ物して。」と前をのんびりと集団で歩いている子供たちの方へと足早に向かっていった。 背後から子供たちの声が聞こえて、しばらくしてから、少し息の切れた浩紀が唯に追いついてきた。 「ご一緒しても良いですか?」 唯と浩紀は駅まで並んで歩いた。 会話は唯が想像していたよりも弾んで、互いの会社が意外にも近いことを知った。 電車に乗ると、ラッシュでそれなりに体が近くなる。 途中のターミナル駅で人が一気に乗ってきた時の事だった。 唯の手が誰かに握られた。 その相手は目の前の浩紀以外に考えられないが、浩紀のもう一方の手はつり革を掴んでいた。 カバンはビジネストートバッグだから、浩紀の肩に掛けられていた。 不思議に唯はその手を振り払おうとは思わず、握られたままだった。 それでも浩紀の方は普通に会話をしており、唯が一人でドギマギしているのも変に思われるのも嫌だった。 電車から降りるときにその手が離れるのに、少し寂しくも思えてしまった。 男性と手を繋いだのは、何年ぶりだろ?なんてことを考えながら、浩紀と別れ会社へと向かった。 唯は少しだけ浩紀の事を考えるようになっていた。 翌朝、子供を見送りがてらなのか、浩紀はまるで唯を待っているかのように、また一緒に電車に乗った。 そして、今度は人ごみに関係なく、手を繋がれたが、唯はまた振りほどこうとは思わなかった。 いや、振りほどけなかった。 多分、周囲から見たら、仕事に向かっている仲の良い夫婦に見えるだろうし、ここで振りほどいたら、それこそ大事になるけど、理性としてはダメだと、色んな葛藤を抱えているうちに会社の駅に着いてしまった。 浩紀との話の内容なんか、頭に入ってこないが、手の温もりが唯に残った。 残ったのはそれだけでなく、駅に着いてから、別れるまでの間に、唯のスマホに浩紀の連絡先が登録された。 その日の晩にタイミングを見計らったかのように、唯が一人でいるところに浩紀からメッセージが届いた。 『明日もよろしくお願いします。楽しみにしてます。』 唯は返事が出来なかった。 「来てくれないかと思いましたよ。」と唯の顔を見たときに笑顔を見せた浩紀の表情を見て、唯は表には出さなかったが、少し気持ちが高揚した。 ”ただ電車の中で手を繋ぐだけ”、“メッセージをする相手” それが何か月か続くと、唯の中で浩紀の存在が無意識に大きいものになっていたのも事実だった。 『ごめんなさい。明日は一緒に行けないのです。』と浩紀からメッセージが来た。 それなのに、その翌朝、浩紀と顔を合わせた。 「ちょっと行くところがあって。」と唯の脇を足早に通り過ぎて行った。 駅とは反対方向に向かう浩紀の背中を自然と振り向いて、目で追ってしまった。 浩紀が曲がり角を曲がるまで立ち止まって、目で追っていることに気づいたのは、浩紀の姿が完全に見えなくなった後だった。 いつもの通勤のはずなのに、悶々とした気持ちになっていた。 これから始まる仕事が原因でないことは唯自身も分かったが、それほどまでに自分の中で浩紀の存在が大きくなっている事を自覚した日でもあった。 そう思い、「自制しよう」とも思った。 なのに、翌朝の電車の中で浩紀は手を繋いだだけでなく、ぐっと唯の体を自分の体に強く引き寄せてきて、密着した。 浩紀の厚い胸板にたまに頬が密着してしまう。 体の中で熱いものが込みあげてくるのを唯は感じていた。 電車を降りた後、手は離れたが、唯は軽い興奮状態にいた。 だが、まだ葛藤がないわけではなかった。そんな唯に、浩紀から『今夜会えませんか?短時間でもいいので、タイミングを見て連絡ください。』とメッセージが届いた。 『わかりました』 唯はたった6文字だが返信を送った。 「ちょっとコンビニ行ってくるね~」と家族に言って、唯は家を出た。 唯の足はコンビニの方に向かっているが、目的地は少し離れた公園だった。 手を繋いできた相手に抱きしめられた唯は抵抗することもなく、キスを受け入れた。 舌が絡まりあい、口元が湿っても構わず続けた。 過去の男性たちよりも上手なキスで、時折優しくなでられる背中も敏感になっていた。 たった6文字の返信で、唯は自制するのを止めたことになった。 それでも言葉では時々「ダメ」とは言うが、言行一致していない自分の矛盾さを自嘲していた。 ベンチに隣り合って座りながらも、通行人が通ると、顔を背けたり、あえてキスをして、お互いの顔を隠すようなことをした。 次第にエスカレートしていき、浩紀の手が唯の服の中に入り、乳首が指で転がされた。 「大人だからね。」 笑みを浮かべて浩紀が言い、それを笑みを浮かべて受け入れる唯だった。 「時間もないし、次はちゃんとしたところで会おう。」と浩紀はスパッとその場の雰囲気を変えることを言ってきた。 唯の方が、浩紀との別れに寂しさを感じた。
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2023/12/13 18:19:14(eIafhN1J)
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