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1:通夜の夜に
投稿者:
綾
私は46歳の主婦。家族は50歳の夫、82歳の認知症の姑との3人家族で、一人娘は嫁いで家を出ています。
夫は8年前に筋ジストロフィーを発症して、車イスの生活です。 そんな夫婦の環境、夫の状況を知ってか、ずいぶん色々な男の人に、好色な声をかけられました。中にはセクハラまがいに言い寄ってきた、パート先の上司もいます。しかし毅然とお断りを続け、ガードの固い女との評判でした。 しかしそんな私が、まさかあんな形で人に身を任せることになるなんて、本当に不思議です。 今年の6月のことでした。それまで元気だった舅が脳出血で急逝したのです。体の不自由な夫や、認知症の姑に代わって、私が葬儀のすべてを取り仕切らざるを得ませんでした。葬儀会館で営まれた通夜に、遠方より参列してくれたひとりが彼、夫の従弟、49歳でした。それまで親戚の法事とかで、数度しかお目に掛かっていない彼でしたが、誠実そうな人柄や、主人によく似た面差を、以前より大変好ましく思っていました。 「このたびは突然のことで、大変でした」 彼は私たち家族に一礼し、舅のひつぎと対面。舅のなきがらを見つめ、すっと親指で頬の涙をぬぐった彼の横顔に、不謹慎ですが、なぜか年甲斐もなくキュンと胸が躍りました。 通夜の儀式が終わり、夫と姑を家に送り届けると、簡単にシャワーをすませ、地味なワンピースに着替えて再び葬儀会館へと向かいました。遠方からの泊り客のお世話をするためです。都合10名ほどのお客様が、会館の仮眠室に宿泊することになっていました。控室にもどると皆さんが、しめやかな小宴会でお酒を召し上がっています。 そんな中に彼の姿が見えません。さりげなく席を離れ、捜しに行くと、彼は舅の棺の横でうつむいて椅子にもたれていました。パジャマ代わりでしょうか、ラフなトレーナージャージ姿に、葬儀場備えのサンダル履きです。 「ここにいらしたの?」 「あぁ、綾さん、今日はお疲れ様でした。あなた一人で何から何まで。大変でしたね。疲れたでしょう。どうぞ・・・」 手で彼の横の椅子を勧めてくれました。 「いいえ、それより○○さんこそ大変だったでしょう。こんな遠くまで、それも急なことで」 「とんでもない、僕はずいぶん伯父さんには可愛がってもらったし、本当は生きているうちに、お目に掛かりたかったんだけど・・・」 「父も○○さんの事、ずいぶん気にかけていたわ、元気でやってるかなぁって。それが突然こんなことに・・・」 二人の間にしばらく沈黙が続きました。 「綾さん、どうかしたの?」 気疲れからでしょうか、知らずのうちに両方のこめかみに指をあて、うつむいた私に、彼は心配そうに声をかけてくれました。 「なーんか、疲れたみたいです、ここのとこよく眠れなかったし」 「綾さん大変だったよね、それにお兄ちゃん(彼は主人の事をこう呼びます)の病気や、伯母さんのこともあるからなぁ」 「そんなことないわ。これは私の務めですから」 そう気丈に答えたものの、私の身体全身に漂う疲労感は、相当なものに彼の眼には映ったようです。 「少し夜風に当たって、気分を変えてくるといいよ」 夜の中に出ていくことをためらっている私に 「一人で行くのが心細かったら、僕が一緒について行ってあげるよ」 ゆっくりと立ち上がった彼の、折角の思いやりだからと思い、続いて立ち上がりました。 「確か最上階にベランダがあったよな、さっき誰かがタバコ吸ってくるって出かけてたから、それにしても、ここの階に喫煙室があるのにね」 細身で長身の彼の後ろに続いて、エレベーターホールに向かいました。 最上階のベランダに立つと、梅雨さなかだというのに珍しく星が出て、風も湿ったものではなく、肌に、髪にひどく心地いいものでした。 しばらく二人で舅の思い出話をしていたのですが、突然、私の両眼から涙がこぼれ、それは激しい嗚咽に代わり、ベランダの手すりを握りしめた両手の甲に額をあて、泣きつづけていました。 そんな私の肩に彼はそっと手を乗せ、しばらく黙って軽くトントンと叩いていれくれました。駄々っ子をあやすみたいに。 どれほどの時間がたったのでしょう。出尽くすほどの涙の後は、何かつきものが落ちたような、妙に気が晴れた自分を見つけました。 「さぁ綾さん戻りましょうか」 「ハイ」 そう言って顔を上げ、彼に体を向けようとした時、立ちくらみのようなめまいが。思わず身体がよろめいてしまいました。 「危ない!」 そう言って私を抱きとめてくれた厚い胸が、とても暖かで居心地の良さを感じてしまいました。しばらくそうしていたい思いとは裏腹に、 「ごめんなさい」 そう言って離れようとした私を、彼はギュッと力いっぱい抱きしめたのです。「何を・・・」 声に出そうとした私の唇が彼の唇でふさがれました。それは唇が触れるだけの軽い口づけでしたが、突っ張って彼の胸を押していた私の力を、簡単に奪いさる甘美なものでした。いつの間にか私も眼を閉じて、彼の口づけを受け入れていたのです。 「すみません、こんなつもりじゃなかったのに」 彼は私から顔をはなすと、本当にすまなさそうに一言つぶやきました。私は軽く首を振ると、 「ううん、いいの、ありがとう、○○さん」 と軽く笑顔を向けてしまったのです。壁灯しかないベランダの暗がりの中でも、彼には私の表情は判ったはずです。 「さっ、戻りましょう」 何事もなかったかのように、私は先に立って歩き始めました。彼も静かに従います。 黙ってエレベーターホールに向かう二人。突然彼が私の腕をつかみました。 「綾さん!」 私は引っ張り戻され、また彼の胸の中に抱きしめられたのです。そして今度は激しい口づけを押しつけてきました。私の唇は荒々しくこじ開けられ、彼の舌が私の口の中で暴れまわります。私の心の中にそうされることへの期待があったのでしょうか。彼の舌を黙って受け入れ、思わず彼の背中に両腕をまわしていました。 抱擁ははどのくらい続いたのでしょうか。 「綾さん・・・」 顔をはなすと二人は、しばらく顔を見つめあっていました。 「綾さん」もう一度呼ばれました。 「綾さん、こっちへ」 彼は私の腕をつかむと、どんどんホールの片隅の障害者トイレに引っ張って行きました。青白い非常用の避難灯しかともらない、意外と広く作られたトイレの中に入ると、壁に背中を押しつけられ、もう一度強く口づけされました。 そこにはいつもの紳士然とした誠実そうな○○さんの面影はなく、荒々しい雄が居ました。 今から何が行われるのか、おぼろげに理解できましたが、それでもまさかこんな所でという思いもありました。主人を裏切ることへの背徳心と、そして期待とが交錯します。 永遠に続くのではと思われた口づけ。突然、私の左の胸にいいようのない快感が走りました。彼の右手が私の胸をワンピースの上からまさぐり始めたのです。左手は私のお尻を彼の腰に引きつけています。 私の唇から離れた彼の唇は私の首すじを這いまわり「綾さん、綾さん」と、ささやき続けています。 「あああぁーー」 思わず吐息が漏れてしまいました。 ほんの少し残された私の理性が、完全に吹き飛んだ瞬間でした。
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2011/11/26 14:24:04(haVIbbeu)
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