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祖母・昭子 その後
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:SM・調教 官能小説   
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1:祖母・昭子 その後
投稿者: 雄一
「凄い人ね…」
 「だから近場の神社でいいといったのに」
 「いいじゃない。あなたも私も東京っ子なのに、日本一の明治神宮に一度もお参りして
ないんだから。それに…」
 「え?何だって?」
 「来年の雄ちゃんに栄光がありますように」
 「栄光って?」
 「東大の入学試験に合格しますようにって、日本一の神様にお願いするの」
 「あ、あれはだな…ものの弾みでいっただけで…」
 「だめっ。指切りして約束したんだから」
 明治神宮の入り口から御社殿までの参道は、大晦日のこの夜、当然のように人、人、人
でごった返していた。
 紀子に無理矢理誘われて、僕は彼女が言うように、まだ一度も来たことのない明治神宮
に来ていた。
 一ヶ月ほど前、奥多摩の祖母の家で、初めて紀子を抱いた時、その後の寝物語で、
 「俺、まだ将来の夢なんて何もないんだけど、何かのテッペンに立ってみたいから、東
大でも狙ってみようかな?」
 と何の脈絡も、勿論、見込みもなしに、ぼそっと言ってしまったことを、紀子のほうが
真に受けてしまって、喜色満面の笑顔で僕に抱きついてきたことを、大晦日のこの日まで
引き摺ってきているのだ。
 後で、冗談だよ、と何度も訂正と取り消しの言葉を言ったのだが、紀子はまるで聞く耳
を持とうとしなかった。 
 今夜のここへの参拝をいい出したのも紀子で、まるで大奥のお局にでもなったように、
僕に自宅まで迎えに来させ、人で混雑するに決まってる大晦日の、中央線から山手線の電
車内でも、人混みと痴漢から自分を守れと言ってきたり、言いたい放題、したい放題の有
様だった。
 自惚れていうのではないが、紀子をほんとの女性にしてやったのは僕のほうで、もう少
ししおらしくなるのかと思っていたら、真逆の結果になってしまっていて、人生経験のま
だ浅い僕は、女ってわからん、と思うしかなかった。
 それにしても、この人の多さはまるで東京中の人が全部集まってきているような喧噪さ
で、僕は早く退散したい思いで一杯だったが、紀子のほうは僕の片腕を両手で痛いくらい
に掴み取ってきていて、
 「お前、そんなにくっついてくるなよ」
 とぼやきながら僕がいうと、
 「恋人同士だからいいじゃん」
 と悪戯っぽく白い歯を見せて笑ってくるだけだった。
 少し前にあった紀子の両親の離婚問題も、不倫騒動を起こした父親のほうの全面的謝罪
を母親が、娘のためにと渋々ながら許諾したことで、元の鞘に戻ったようで、その頃は半
泣き状態だった紀子も、生来の小煩い小娘に完全復活していた。
 紀子との東北への一泊旅行も滞りなく済ませていて、仙台のシテイホテルで、僕は彼女
とベッドを共にしていた。
 僕の祖母のように、長い人生を経験を踏まえた官能的な深さは無論なかったが、清流の
川で弾け泳ぐ若鮎のように清々しさに、他の女性の時にはないような感動にまたしても取
り込まれ、早々の撃沈に陥っていた。
 ひたすら陸上競技に打ち込んできている、紀子自身は自分の躍動的な身体の特性にはま
だ気づいてはいないようで、
 「私たちってまだ十六なのに、こんなことばかりしてたら、不純異性交遊か淫行罪で逮
捕されない?」
 などと無邪気な顔をして言ってきたりするのだ。
 押し競饅頭のような身動きできない人混みの中で、紀子は最後まで僕の腕を、両手で強
く掴み取ったまま、どうにか本殿の参拝所の前に辿り着き、僕は型通り五円玉を、紀子は
と見ると、硬貨で一番大きい五百円玉を惜しげもなく投入していた。
 騒然とした人の群れの声と熱気の中で、
 「これ、私からの雄ちゃんへの投資だからね。これから受験勉強頑張ってね」
 と横の何人かが振り返るような、大きな声を張り上げて言ってきた。
 そう言われても、半分は口から出まかせで出た言葉だし、僕には自信の欠片すらなかっ
たので、曖昧な笑顔を見せて曖昧に頷いてやるしかなかった。
 大鳥居を抜けようやく境内の外に出ても、駅のほうから歩いてくる人の波は引きも切ら
なかったが、僕はそこで奥多摩の祖母の顔を、はたと思い出した。
 毎年のことだが、大晦日の新年のカウントダウン前後には、いつも祖母に電話をするの
が僕の慣例になっていた。
 スマホで時刻を見ると、零時に七分前だった。
 「婆ちゃんに電話したい」
 まだ僕の腕から手を放さずにいる、紀子に独り言のように言って周囲を見廻したが、ど
こも蟻の群れのような人だかりで、静寂なスポットなどどこにもあるわけがなかった。
 かまわずに、スマホの画面に祖母の番号を出し、発信ボタンを押すと、やはり一回のコ
ールで祖母が出た。
 「雄ちゃん…」 
 周囲の喧騒の中でも、祖母のもう泣き出しそうな声が、はっきりと聞こえた。
 「婆ちゃん、今、明治神宮に来てる」
 片方の耳を抑えて、僕も精一杯声を張り上げて祖母に言った。
 横にいる紀子と初めて契りを交わした翌日に、雑貨屋の前の無人駅で言葉を交わして以
来、長い間、会ってはいない、祖母の色白で小さな顔が僕の脳裏に、懐かしくそして妙に
物悲しげに浮かんだ。
 あの時は紀子も一緒だった。
 二人はともに笑顔で言葉を交わしてはいたが、十六と六十代の女同士の瞬時の視線の交
錯に、鈍感な僕でも気づくくらいの、小さな火花のようなものが散っていたのを思い出し、
僕は思わず目を瞬かせた。
 若い紀子はともかくも、年齢を重ねている祖母の女の勘は鋭い。
 僕ら二人を駅で見送り、帰宅した祖母はきっと何かを嗅ぎ取るような、そんな気が僕は
していた。
 狭い歩道を歩く人だかりの中で、カウントダウンを叫ぶ声が合唱のように聞こえてきた。
 「婆ちゃん、おめでとう!」
 零時になった時、僕はありったけの声でスマホに口を寄せて叫び、横にいる紀子に目を
向けた。
 紀子の少し大人ぶって化粧した、艶やかな顔がいきなり僕の顔の前に近づいてきて、周
囲の人だかりを気にもせず、大胆にも唇に唇を強く押し当ててきた。
 耳に当てたスマホから、祖母のおめでとうの声がどうにか聞こえたが、紀子の思いがけ
ない行動に、僕の気持ちは完全に奪われていた。
 僕のマフラーの上に手を廻してきて、重なった唇は十秒近く離れなかった。
 唇が離れてすぐに、
 「冬休みの終わりに、また行くね」
 と祖母に声を張り上げて言って、僕はスマホのオフボタンを、慌てた素振りで押して、
改めて紀子の顔を見た。
 「おめでとう。これ私の新年のサービス。…それと」
 「何…?」
 「あなたのお婆ちゃんへの、小さなジェラシー」
 歩道の雑多な流れの一部を止めるように、紀子は少し上気した顔で、僕を本気とも冗
談ともつかぬ顔で見つめてきていた。
 祖母とのことについては、紀子には絶対に話せない、大きな秘密を抱えている僕は背
筋を少しヒヤリとさせながら、それでも普通の顔で彼女の目を見返した。
 「年越し蕎麦食べよ」
 紀子は明るい声でそう言って、まだまだ人通りの絶えない歩道を、原宿のほうに向か
って歩き出した。
 腕はしっかりと紀子の手で掴まれたままだった。
 若者の街といわれる原宿は、普段の平日でも夜の更けるのは、遅いのが当たり前なの
だが、大晦日のこの夜は、まさに老若男女を問わない人混みで、雑多なネオンも煌々と
していて、元旦の日の出まで、この喧噪は続けっ放しになるのではないかと思えるくら
いの賑やかさだった。
 僕にミノムシのように、しっかりとくっついている紀子からの声も聞き取りにくく、
こちらも大声を出さないと、会話が成り立たない。
 芋洗いの芋になって歩きながら、僕は虫と蛙の鳴き声しか聞こえない、、奥多摩の静
寂の夜をふいに思い出していた。
 綿入れを着込んで、蜜柑の置かれた炬燵の前で、一人静かにテレビの紅白歌合戦を見
入っている、祖母の小さな顔が、僕の目の奥のほうに続いて浮かび出てきて、この冬休
みの最後には、絶対に奥多摩へ行こうと、横の紀子には内緒で、そう決心した。
 
 この二日前の、二十九日の午後、僕は国語教師の沢村俶子の住むマンションにいた。
 前日の夜、高校教師で三十五歳の俶子から、生徒で十六歳の僕に、相談事があるので、
昼前に自宅に来て欲しいとのメールが入っていたのだ。
 (美味しいビーフシチューご馳走するから、明日のお昼前に来て)
 これまでにこのビーフシチューの誘いで、何回のに肉体労働を見返りに強いられてき
たか憶えてないが、続いてのメール送信で、私の結婚のことで…と書かれていたので、
僕は「りょ」と返信して、今、俶子の家のリビングに座っていた。
 「お話は食べてから」
 そういって、俶子はデミグラスソースのいい匂いのする、ビーフシチューと野菜サラ
ダの盛り合わせを目の前に置いてくれた。
 年明けの月末に、俶子は隣の市で同じ教師をしている五つ年下の男性と、晴れて華燭
の典を挙げるのだ。
 そのことは前から知らされていて、僕はこれまでの二人の関係を抜きにして、心から
の祝いの言葉を言って祝福していた。
 「私が高校の時の教頭先生の紹介で、昔風のお見合いみたいな場からお付き合いした
んだけど、高校では化学を教えている人で、真面目一筋で、誰かさんみたいな戸っぽい
面が一つもなくて…面白味には欠けるけど、私もそうそう贅沢言える顔でも年齢でもな
いし、この辺が年貢の治め時かなって思って、プロポーズ受けちゃったの」
 口ではそういいながら、眼鏡の奥の目を艶っぽく緩めたりして、僕に話していたのは、
ついまだ最近のことだった。
 「よかったじゃないですか。先生が幸せになってくれたら僕も嬉しい」
 いつもと違う丁寧語で、僕は俶子に祝福の言葉を送った。
 二人のこれまでの関係は、これで自然消滅ということになるのだったが、僕のほうに
は何の拘りも未練がましい思いもなかったので、
 「明日からは、沢村先生と一生徒に戻って、学校では仲良くしましょ」
 といってやると、俶子は目から涙をぼろぼろと零して、
 「そんなに明るくいわれると、逆にすごく寂しくなるじゃない」
 といって眼鏡を外して、ハンカチで目を拭ってきた。
 その俶子からの誘いが、目の間前のビーフシチューだったのだが、何故かあの時のよ
うな、恥ずかしながらも嬉しそうだった表情ではないようだったので、
 「何かあった?」
 と目ざとく僕は尋ねた。
 俶子の驚きの告白を聞くまで、多少の時間を要したが、話を聞いた僕も暫くは返答の
しようがなかった。
 結婚相手が今になってどうこうというのではなく、相手の父親の実の弟の顔を見て、
俶子は愕然としたというのだった。
 俶子が大学を出て高校の国語教師として、最初に赴任した高校の先輩教師と、何かの
教育セミナーで県外へ一泊二日で出かけた時、新人の彼女に優しく接してくれ、それが
きっかけで男女の関係に陥ったのが、今度結婚することになった相手の叔父になる人物
だったのだ。
 叔父という男は、俶子と関係を持った時にはすでに結婚していて、聡子もそれを承知
で、何年も肉体関係を続けたということのようだった。
 大学を出たばかりでまだ処女だった俶子に、男は縄で全身を縛り付けたりとか、蝋燭
を熱い蝋を身体に垂らしたりとかの、通常ではない行為で彼女を抱き続け、他にも野外
露出を強要したりとか、排尿や排便するところを見られたりと、恥ずかしいことを散々
に彼女の身体に沁み込ませた元凶のような男だった。
 女を女として扱わない、冷徹な甚振りや辱めに、何度も止めてくれるよう懇願し、つ
いには別れ話まで進展したのだが、それまでの恥ずかしい写真を種に、ずっと引き摺った
 その後に、その男は何の病気かは俶子にも記憶はないのだが、職場を休職し一年ほど
病院での入退院を繰り返し、交流は自然消滅のようになった。
 それから何年か後、俶子はある男性と結婚をしたのだが、どういう因果なのか、その
男も彼女の最初の男と同じ異常な性嗜好で、俶子自身は、男というのはみんな同じ性嗜
好者であるという曲がった思い込みが観念的に、身体にも心にも宿りついてしまってい
たということのようだった。
 十日ほど前に、俶子は婚約者から家族と親戚一同が介した集合写真を見せられ、その
時に、自分の処女を捧げた、相手の男の顔を見つけてしまったのだと、聡子は顔面を少
し蒼白にして、僕に話してきたのだ。
 婚約者にその男の今の素性を聞くと、現在は教職員を辞めて妻の父親が経営している
不動産会社に、専務という肩書で勤務しているとのことだった。
 俶子にとって、自分の女としての人生を捻じ曲げた、淫獣のような男が身内にいると
ころへ嫁いでいくのは、屈辱的な人身御供か、悪魔への生贄でしかないというのだった
が、話を聞いた聞いた僕もその通りだと思った。
 しかし、そのことを結婚式を一ヶ月後に控えた婚約者に、正直に告白する勇気は自分
にはないと俶子はいうのだったが、十六の僕には事情が重すぎて、何とも応える術も手
段も思い浮かばなかった。
 見ると、俶子は自分の前に置いたビーフシチューを、一度も口に入れていないようだ
った。
 「いいの。まだ若いあなたに、どうにかしてもらおうなんて思ってないから…ただ、
誰かに聞いて欲しいと思ったら、あなたの顔しか思い浮かばなかっただけなの。気にし
ないでね」
 無理そうな笑顔を見せて、俶子は逆に重々しく顔を沈ませている僕を、歳の離れた姉
のような口調で、慰めるように言ってきた。
 「で、でも、婚約者に黙ったまま結婚したとしても、きっと幸せな結婚生活にはなら
ないと思うけど…」
 正直な僕の気持ちを、僕は声を詰まらせながら、どうにか正直に言った。
 「そうね、余計な不幸者をまた作ってしまうだけかもね。ありがとう、雄一君。いい
意見を言ってくれて…私のこと真剣に考えてくれてるのが、すごく嬉しい」
 俶子のその声が、急に気丈な響きで聞こえてきたので、顔を上げると、
 「あなたの助言で、私、決めたわ。これからもあなたの下部で生きてく」
 と明るい声で言ってきた。
 それもどうか、といおうと思ったが、その時は僕は喉の奥にぐっと詰め込んだ。
 「あ、そうだ。あなた、東大目指すんだって?」
 「えっ、だ、誰に?」
 聞いた瞬間に、犯人が誰かすぐにわかった。
 あのバカ、と腹の中で僕は舌打ちしていた。
 「いいことよ、あなたなら一生懸命頑張ったら行けると思う。私も全面的に応援する
からね」
 「どうかな?…僕の学力は片輪みたいなものだから…」
 「数学がまるで弱いもんね」
 「弱いなんてもんじゃない。それにしても、あのクソバカ」
 「いいじゃない。彼女、すっごい嬉しそうな顔していってたよ」
 「女の口軽は最低だ」
 「未来の奥さんになる人を、そんなに言うもんじゃないわ」
 「えっ、そ、そんなことまで、あいつ」
 ほどなくして、僕と俶子はいつもの決まりごとのように、彼女の室のベッドにいた。
 どうしようもないお喋り娘への、僕の憤怒はまだ収まってはいなかったが、聡子のほ
うは、僕との対話で気持ちがすっきり振り切れたのか、
 「どこで誰と浮気してたのか、この僕ちゃんは」
 聖職の人とは思えないような、艶めかしい目をこちらに向けてきていた。
 着ていたセーターとスカートは、すでにカーペットの下に落ちて包まっている。
 紺色のブラジャーと揃いのショーツが、僕自身も久しぶりに見る白い裸身に好対照に映
えて、若い僕の下腹部の一ヶ所に集中し始めていることを知らされていた。
 「俺が欲しいか、叔母さん?」
 僕は徐に俶子が仰向けになっているベッドに駆け上がり、その場で身に付けていた衣服
のすべてを脱ぎ晒して、両足を少し拡げて仁王立ちの姿勢をとった。
 「叔母さん、そんなとこで偉そうに寝そべってんじゃないよ。お前の一番欲しいものに、
きちんと挨拶しろよ」
 急に芝居がかった声で言う僕の意を理解したかのように、俶子も眼鏡の顔を真顔に引き
締めてきて、おずおずとした動作で上半身を、ベッドから起こしてきた。
 どこでどういうスイッチが入ったのか、僕自身もわからないでいたが、俶子の身体への
嗜虐の衝動がどこからともなく湧き上がってきていた。
 十六の自分よりも二十近くも年上のこの女には、何をしても許される、という妙な自惚
れめいたものが、聡子と知り合った頃から漠然とだがあった。
 僕の二面性の性格の裏側にある、嗜虐の嗜好と、俶子のこれまでの、ある意味、不幸な
男性遍歴で知らぬ間に培われていた、被虐の思いが、歯車の歯が噛み合うように合致して
いるのかも知れなかったが、とにかく僕自身が淫猥な気持ちになってくるのは事実だった。
 ベッドに座り込んだ俶子の顔のすぐ前の、僕の下腹部のものはすでに半勃起状態になっ
ていた。
 俶子の両手がそこへ添えられてきて、間髪を置かず彼女の赤い唇が半開きになって、僕
の股間に迫ってきた。
 濡れて生温かい感触が心地よかった。
 俶子の身体を抱くのはいつ以来だろうと思い返しながら、僕は背中を少し屈めて、彼女
のブラジャーのホックを外しにかかっていた。
 室には暖房が入っていて温かかったが、聡子の背中はそれだけではない汗のようなもの
で肌は湿っていた。
 僕の下腹部のものは、俶子の口の中で早くも臨戦態勢を整えていて、学校のグラウンド
にある鉄棒のように固く屹立していた。
 満を持した態勢で、僕は俶子の口から刀を抜くように、唾液でしとどに濡れそぼった屹
立を抜き、彼女の上体をベッドに押し倒し、小さな布地のショーツを一気に剥ぎ取り、熟
れて脂の乗り切った太腿を大きく押し広げて、自分の身体をその間に割り込ませた。
 「ああっ…う、嬉しい!」
 感極まったような声でいいながら、聡子は僕の両腕を両手でがっしと掴み取ってきた。
 俶子の大きく拡げられた、股間の漆黒の下に目をやると、薄黒い肉襞が開いていて、そ
の中の濃い桜色をした柔らかな肉が、滴り濡れているのがはっきりと見えた。
 僕は固く怒張しきった自分のものに手を添え、狙いを定めるようにして、濃し全体を前
に押し進めた。
 「あ、ああっ…す、すごい!…は、入ってきてるわ…ああっ」
 久し振りに聞く俶子の咆哮の声は、室一杯に響くくらいに大きくけたたましかった。
 僕の腕を掴み取っている彼女の手の指も、痙攣を起こした人のように強い力が込められ
てきていた。
 じわりと締め付けるような圧迫の間に、三十五歳の女の身体から発酵したねっとりとし
た脂が潤滑油のようになって、俶子の胎内に僕のものは深く沈み込んだ。
 僕の腰が動くと、その潤滑油は温みのある摩擦を、僕のものに心地のいい刺激となって
与えてきて、俶子は俶子で僕の腰の淫靡な動きに幾度となく呼応し、眼鏡の奥の目を瞬か
せ、喘ぎと悶えの声を間断なく挙げ続けたのだった。
 「は、恥ずかしい…こ、こんな」
 「俶子の顔がしっかり見れるから、俺は好きだよ」
 僕はベッドに胡坐座りをして、俶子と胸と胸を合わせて重なるように抱き合っていた。
 俶子が汗に濡れそぼった裸身を晒して、僕の腰に跨り座っていて、重なった腰の下で、
列車の連結器のように、二人の身体は深く繋がっていた。
 顔と顔が否応もなく触れ合い、相手の息遣いまではっきりと聞こえるほどに密着してい
て、俶子の胸の膨らみの柔らかな感触が、汗に濡れた僕の胸に心地よく伝わってきていた。
 「あ、あなたの汗の匂いって、いい匂い」
 「俶子の女の匂いも、俺は好きだよ」
 「わ、私って、悪い女?」
 「どうして?」
 「の、紀子さんのこと知ってて…こんな」
 「そしたら、俺は大悪党だ」
 「大悪党でも好き!…キスして」
 お互いの歯と歯のぶつかる音が聞こえるくらいに、僕は唇を強く俶子の唇に重ねていっ
た。
 閉じた口の中に広がってくる、俶子の息が、燃え上った身体の熱の上昇を訴えるように、
ひどく熱っぽかった。
 結果を先にいうと、国語教師の俶子とその教え子の僕との、身体の交わりはその日が最
後になった…。



                          続く
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
 

 
 
 
2023/06/01 13:19:07(.AwPQuri)
57
投稿者: 雄一
祖母が風邪をこじらせて寝込んでしまった、ということを母の口から聞いたのは、元女優の
百合子夫人とのことがあってから、五日ほどが過ぎた頃だった。
 僕が幼少の頃から、祖母が病気で寝込んだということは、一度もなかったことで、僕の驚き
も大きかったが、実の娘である母は、すぐに奥多摩に出掛けて行った。
 その日の夜、母からの電話で、隣町の病院で診てもらったら、ただの熱風邪の症状で、余病
的なものはないとのことで、僕も一息ついたのだが、暫くは安静にということのようだった。
 母は二日ほど奥多摩にいて帰ってきたが、僕は週末に祖母の見舞いに出かけることにした。
 「お婆ちゃん、聞いてくるのあなたのことばっかり。よっぽどあなたのことが心配なのね」
 母が少し不貞腐れたような声で、僕にぼやくように言うのだったが、確かに長い間、祖母の
顔を見ていないことは僕も承知していた。
 祖母と二人きりの夜を、まったりと過ごしたいと、僕も思っていた。
 あの百合子夫人との時も、僕は唐突に祖母のことを思い浮かべたのだ。
 風邪で臥せっている祖母の横に添い寝して、
 「僕は若いから、風邪を僕にうつせ」
 とキザに言って、優しく唇を塞いでやりたいと思っていた。
 そこでふいに、あの紀子の顔が浮かび出てきて、僕は思わず顔を曇らせた。
 このことを彼女に言うべきか?
 前に内緒で奥多摩へ一人で出かけて時、ひどい大目玉を食らっている。
 あくる日の学校で、昼休みに彼女をいつもの踊り場に呼び出し、事情を話すと一もにもなく、
 「行く」
 との喜色満面の返答だった。
 「お前、部活あるんじゃないのか?」
 「あるけど、お婆ちゃんの病気のほうが大事」
 それだけ言って、紀子はすたすたと廊下を戻っていった。
 その背中に向けて、
 「一泊するんだからな」
 と僕が驚かすように言ってやると、紀子は振り返りもせず、片手を上げて振ってよこした。
 土曜日の九時過ぎ、僕と紀子は第三セクター線の列車の中にいた。
 長い髪を後ろに束ね、真っ赤なダウンジャケットとジーンズで細い身体を包み込んで、二人掛
けの座席で、身体を必要以上にくっつけてくるようにしてきたので、
 「お前、もっと離れろ。人が見てるだろ」
 と叱ってやるのだが、
 「雄ちゃんと二人きりって、久し振りだもん」
 まるで意に介することなく、掴み取った腕にさらに力を込めにきた。
 そういえば、紀子の口紅の色が、いつもより赤く見えた。
 雑貨屋のある駅を降りると、冷え込んだ空気と雪一色の景色が出迎えてくれた。
 タイミングがいいのか悪いのか、雑貨屋の気のいい叔父さんが外に出ていて目が合った。
 「やあ、兄ちゃん、久しぶりだね。おや、今日は恋人と婆ちゃんのお見舞いかい?」
 「ああ、いつも祖母がお世話になってます」
 そういったのは紀子のほうだった。
 叔父さんの話で、今朝がたまで雪が降っていたという話で、祖母の家までの坂道も足跡のない
真っ白な道になっていた。
 「婆ちゃんっ」
 玄関戸を開けて大きな声で祖母を呼んでやると、居間の戸が開いて、パジャマ姿に綿入れを羽
織った、祖母の小さな身体が驚きの表情を一杯にして立ち竦んでいた。
 「お婆ちゃん」
 僕の後ろから紀子の明るい声が続いた。
 今日の紀子との二人の来訪は、祖母には何も言っていなかった分だけ、祖母の驚きは大きかっ
たようで、口を小さく開けたまま、祖母は放心状態になっているようだった。
 そして言葉より先に、祖母の目から涙が零れ出ていた。
 そこでまたしても、紀子は僕より早く動いて、靴を慌てて脱いで祖母に抱きついていった。
 抱き合ったまま、紀子ももらい泣きしているようだった。
 久し振りに見る祖母の顔は、化粧をしていないせいもあってか、ひどく小さく見えた。
 昼までの間は、紀子のほとんど独り舞台で、僕にはわからない話題で祖母と明るく喋り合って、
十分に一回くらい、お情け的に僕のほうを見てくるだけだった。
 昼食も紀子の独壇場で、祖母にはお粥を作り、冷蔵庫の中のあるものを使って調理し、炬燵の
上に皿が何枚も並んだ。
 午後になって、祖母が僕に気になっていることがあるといい出した。
 病気で臥せる前に畑に出かけていて、その時、椎茸小屋の戸を風通しをよくするのに開けたの
は憶えているのだが、帰る時閉めたのかどうかの記憶が曖昧なので気にしてるとのことだった。
 「閉められているかどうかを確認してきたらいいんだね?」
 僕が即座に引き受けると、
 「私も行く」
 と紀子も即座に反応してきた。
 二人で足跡のない雪道を歩いて椎茸小屋を目指した。
 「わあ、スキーができそう」
 辺り一面の雪景色を見て、紀子ははしゃいだ声で言った。
 「だな、ここが東京とはとても思えないな」
 「夏は盆地で暑くて、冬は適度に雪が降って…こういうところで毎日を過ごせたら、本当に穏や
かでいいでしょうね」
 「へ、たまに来るからそう思うだけで、お前みたいなお喋り女は三日も持たないよ」
 「雄ちゃんが私の相手してくれたらいいじゃん」
 「三日で死ぬ」
 古びた椎茸小屋に着くと、僕はすぐに戸の開閉をチェックしたが、二つある戸は全部閉められて
いた。
 祖母から言われていたのはもう一つあって、戸が閉まっていたら、十分ほどでもいいから、戸を
開け放して、空気の入れ替えをしてきてほしいということだった。
 小屋の中に入ると、椎茸の菌が放っているのか、腐った葉のような匂いが充満していた。
 「あら、意外と中は暖かいんだね。これが菌の匂いなの?」
 一緒に小屋の中に入ってきた紀子は、尖った鼻先をひくひくさせて、物珍しそうな顔で薄暗い中
を見廻していた。
 「十分か十五分くらい、空気の入れ替えをするように言われてるんだ」
 僕がそういうと、いつの間にか、紀子が物音一つしない静かな暗さに怯えたのか、僕の片腕をし
っかりと掴み取ってきていた。
 突然、外のほうで何かが落ちるような音が聞こえてきた。
 きゃっ、と短い叫び声を挙げて、紀子が僕の身体にしがみついてきた。
 外の木の枝から雪の塊りが地面に落ちたのだ。
 紀子は暫く僕の身体にしがみついていたが、自然な動きで顔を挙げ、少し困ったような顔をして
僕の目を見つめてきた。
 「キスしていいか?」
 紀子の赤いダウンジャケットを包み込むように抱いて、僕はできる限りの優しい目で問いかけた。
 紀子の僕を見つめる目に、真剣さのようなものが浮き出たのがわかった。
 いつもの化粧の時とは違う感じの赤さに見える、紀子のかたちのいい唇が微かに上下したようだ
った。
 僕のダウンジャケットの両腕を掴みながら、紀子が睫毛の長い目を閉じた。
 紀子の少し震え気味の唇の柔らかな皮膚が、僕の唇に触れた。
 ついさっきの落屑の音以外に、物音は何も聞こえてこない。
 触れ合った唇の中で、紀子の歯が小刻みな音を出して震えていた。
 僕の鼻孔に化粧だけではない、紀子そのものの匂いが漂ってきていた。
 舌を差し出すと、震えていた紀子の歯が自然に開いた。
 紀子の滑らかな舌を僕の舌が捉えた時、彼女の喉奥から、くんという小さな声が漏れたような気
がした。
 僕が十六のまだ若僧であるということは、高校同学年の紀子もまだ十六の小娘である。
 その二人がこの奥多摩の自然の中で、男性と女性になって、大人にも負けないくらいの激しさで
抱き合い、唇を重ね合っていることに、僕はおよそ少年らしくない感慨の思いを抱いていた。
 その一方で、紀子には何があっても絶対に喋れない悪行を重ね、祖母を含めて何人かの女性を抱
いてしまっている自分がいることも、間違いのない事実だ。
 一体、どれが本当の自分なのか、自分自身もわからなくなる時があるのだが、社会通念とか良識
を大きく逸脱しているのは、間違いのない事実であっても、僕は僕なりに人物を見て対処している
と、小さい声ながら言いたいと思っている。
 その中でも今、こうして雪の小屋の中で紀子を抱いているからいうのではなく、彼女といる時の
安心感、安堵感、安寧感は、僕にとってはこの世で一番大切にしなければいけないというのは、心
底から思っている。
 狭い口の中での紀子の舌の動きに、これまであった戸惑いや躊躇いがなくなっているような気が
して、僕は少しばかり驚いていた。
 唇が離れた時、
 「こんなところで…」
 とはにかんだような表情で言ってきた。
 「見てるのは椎茸の菌だけだよ。それより、お前、何かキス上手くなったみたいだな?」
 つい正直な気持ちを言うと、
 「バカ、何を基準にしてそんなこと言うの?」
 藪蛇に切り返され、僕は思わずたじろいでしまった。
 まるで青春ドラマのワンシーンのように、背中をつつき合ったり、雪の玉を投げ合ったりして家
に帰ると、祖母が居間で待っていてくれて、温かいインスタントコーヒーを淹れてくれた。
 祖母はパジャマと綿入れのままだったが、化粧をしたせいか、色白の顔は朝よりもずっと奇麗に
華やいで見えた。
 三人の座談会が始まったが、会話のほとんどは祖母と紀子の声ばかりで、僕は完全に蚊帳の外だ
った。
 お互いに何が気に入ってるのか、本当の孫息子を差し置いて、笑いの絶えない会話が長々と続い
ていたので、僕のほうから強引に割り込むように、
 「ね、婆ちゃん、吉野百合子っていう女優知ってる?」
 と祖母に呼びかけた。
 「あ、知ってる。昔の名女優さんよね?」
 即答してきたのは紀子のほうだった。
 「家のお父さんもファンだったって言ってた」
 「お前に聞いてねえし」
 そういって祖母の顔を覗き込むと、
 「知ってるわよ」
 と言って、それが?という表情になった。
 「俺、その人とあることがあって仲良くなってね」
 僕が少し得意げに話すと、祖母と紀子が一斉に訝しげな目を向けてきた。
 何となく不気味な気分になって、その話を打ち切ろうかと思った矢先に、
 「雄ちゃんが、どうしてあんな有名女優と知り合いになれるのよ?」
 と紀子が詰問口調で口を挟んできて、祖母もそれに同調するように、僕に疑念の目を向けてきた。
 余計な口出しから、僕はまるで取調室で、二人の女刑事に取り調べられているような気分になっ
たのだが、ここで話を打ち切るとまたややこしくなりそうなので、表面上の経緯だけを端折って説
明した。
 去年の夏休みに書いたレポートが、早稲田大学の歴史学の教授の目に止まり、それが縁で教授の
自宅に招待されたら、その夫人が元女優の吉野百合子だったということを、僕はまるで何かの犯人
のように説明させられた。
 勿論、夫人との関係は、ただ手料理を美味しく頂き、雑談もしたとだけの説明で終わったのは言
うまでもないことだった。
 祖母がそこで、恥ずかしそうな声で口を挟んできた。
 「私も…もっと若い頃だけど、吉野百合子に似てるって、よく冷やかされたことがあったわ」
 僕の言いたかったことを、祖母が顔を少し赤らめて言ってくれたのだ。
 「そうよ、お婆ちゃん、この奇麗な人にそっくりよ」
 と紀子が相槌をうった。
 「その話をしたかったんだよ、僕は。あ、その人に婆ちゃんのこと話したら、奥多摩へぜひ来た
いって言ってた」
 僕らの知らない時代に、一世を風靡したという元女優の、抜けたような美貌のせいもあってか、
何か場の空気がもやっとした感じになったので、僕は早々にこの話を打ち切り、すごすごと口を噤
んだ。
 こちらも嘘をついてて、脛に傷を持つ身だったので、特に紀子の白けたような視線がひどく胸に
刺さった。
 この話は後に続いて、三時過ぎに紀子と二人で食材の買い物に出た。
 雑貨屋までの坂道の途中で、僕の後ろを歩いていた紀子が、呟くような声を漏らしてきた。
 「雄ちゃんの周りって、たくさんの奇麗な人がいるのね」
 「は?…何のこと?」
 「さっきの女優さんもそうだけど、学校でも卒業していった細野多香子さんとか、あのお寺の尼
僧さんも奇麗な人だし…」
 「何だい、珍しくヤキモチ妬いてくれてるのかい?」
 「何だか、雄ちゃん、危なっかしいのよ」
 「自分では、俺…モテてる気持ち少しもないんだけどな」
 「やっぱり、ヤキモチなのかな?…あなたは誰にも優し過ぎるのよ」
 「そうかい?お前にも優しいか?」
 「私を完全に自分の所有物だと決め込んでる」
 「それは、お互い様じゃないか?」
 「浮気は、絶対に許さないからね」
 「やっぱりヤキモチだ」
 女性への用心は、くれぐれも怠りのないようということを僕は学んでいた。
 夕食は祖母の病気回復と栄養補給を兼ねて、紀子が台所で八面六臂の活躍をしてすき焼きという
ことになった。
 夜になった。
 何もかもことはうまくいくはずはなく、僕は一人でいつもの寝室で、紀子は祖母の室に寝ること
になった。
 紀子を連れてここへ来た時から、こうなる予想は僕もしていたのだが、同じ屋根の下にいて、二
人の獲物があるのに、どちらにも手出しできないのは、僕には苦痛以外の何ものでもなかった。
 紀子が最後の風呂に入っている時、僕は居間で祖母に頭を下げて詫びを入れた。
 「何を言ってるの。あなたもだけど、紀ちゃんまで来てくれて、それだけで私は充分に満足して
るわよ。あの子はほんとにいい子だから、何があっても離してはだめよ。目移りもほどほどにしな
いとね」
 昼間、雪の坂道で紀子に言われたことと、同じことを言われ、僕はすごすごと寝室に退散した。
 明日は祖父の墓参りに行くことになっている。
 しかし、どう考えても、祖母と紀子を切り離してどうにかするという、名案は浮かんではこなか
った。
 寝る前に、スマホのボタンを押したら、一通のショートメールが入っていた。
 細野多香子からだった。
 会いたい…と。



                                    続く

 (筆者後記)

 色々とご心配のメールをありがとうございます。
 どうにか頑張って書き上げたいと思いますので、よろしくお願いします。  
 
 
 
 
 
 

 
 
 
23/08/03 17:11 (zKxZszX4)
58
投稿者: 雄一
あくる日曜日。
 何となく熟睡感のない感じで目を覚まし、居間にいくと、化粧した顔の祖母が白のタートル
ネックのセーターに、昨日と同じ綿入れを羽織って、明るい元気そうな笑みを浮かべて、炬燵
の前に座っていた。
 「婆ちゃん、おはよう。身体の調子、どう?」
 と声がけして炬燵の前に座り込むと、上には湯気の立ったご飯と味噌汁の他に、焼きシャケ
など幾つもの皿が並んでいて朝食の用意がすっかり整えられていた。
 「あなたたち若い人のお見舞いで元気もらったから、もう大丈夫よ」
 明るい声でそういって、
 「紀ちゃんが来てくれて、ほんとに助かってるわ。女の子っていいわね」
 と紀子のほうに目を向けて、嬉しそうに言い足してきた。
 エプロン姿で居間と台所を、忙しなげに行き来していた紀子の背中に、おはよう、と声がけ
すると、何故か目も合そうとせず、無表情なまま、おはよう、と妙につれない応対だったので、
鈍感な僕も少し、あれ?という気持ちになった。
 かたちよく尖った鼻が、余計につんと尖って見え、切れ長の目も妙に伏し目がちで、そのく
せ祖母には、にこやかで屈託のない笑みを見せていた。
 僕への応対は、怒っている時の紀子の表情がそのまま出ていた。
 三人での朝食も、祖母と紀子の二人の会話が弾んだだけで、例によって僕はまた蚊帳の外だ
った。
 昨夜の夕食の時も同じ光景だったが、それでも五分に一回くらいは、紀子が気を遣って僕に
話を振ってきたりしていたのだが、今朝はまるきりのガン無視だった。
 温かい味噌汁を啜りながら、昨夜から今朝にかけて、自分が紀子に何か悪いことでもしたの
か、気に障ることでも言ったのか、頭の思考回路を思い巡らせるのだが、自分では何も思い当
たることがなかった。
 山の天気みたいに変わる紀子に、僕は少しむかつきを覚え、それならそれでいいと、こちら
も無視することにした。
 祖父の墓参りも三人で出かけたのだが、紀子のほうはいかにもわざとらしく、病み上がりの
祖母に気を遣うばかりで、歩く間隔も僕とは距離を置いているような感じだった。
 本堂の前で尼僧の綾子が立っていた。
 いつもの袖頭巾と、法衣の上に黒のオーバーコートを着込んでいて、祖母の顔を見ると、心
配げな表情で寄り添ってきた。
 祖母と尼僧の立ち話が暫く続いたが、紀子のほうはやはり僕を完全無視のようで、いつもな
らべったりと寄り付いてくるのに、僕とは三メートル以上も離れたところに立っていた。
 祖母と話し込んでいる尼僧の綾子の目が、時折、僕のほうに何か意味ありげに向いてきてい
たが、それは僕のほうが無視を決め込んだ。
 昼食の時も、僕はやはり除け者になって、声が弾んだのは祖母と紀子の二人だけだったのだ
が、台所で洗い物を済ませて、居間の炬燵に座ってきた時、紀子が、
 「駅近くの川辺りの公園に行かない?」
 と平然とした表情で誘ってきた。
 祖母が庭先に出て洗濯物を取り込んでいる時だった。
 瞳の濃い眼差しは穏やかそうだったが、何か有無を言わせない気のようなものが漂っていた
ので、ああ、とだけ言って僕は頷いた。
 紀子のほうから祖母に、川の公園に行ってくると言って二人は家を出た。
 快晴の空からの陽射しで雪が溶け出し、川辺りの公園の土の部分はぬかるんでいたが、枯れ
た芝生と木製のベンチは乾いていた。
 紀子が自分から先にベンチに座って、手招きで横に座るように目を向けてきた。
 「雄ちゃんに先に謝っておくね」
 膝の上に両手を置いて、紀子が僕の顔を真剣な目で見つめてきて言ってきた。
 「何だよ、急に」
 「昨夜、雄ちゃんがお風呂に入っている時、炬燵にスマホ置き忘れってったでしょ?」
 それだけ聞いて、僕は全部を理解した。
 「あなたのスマホが急に震え出したの。着信で明るくなった画面を横目で見たら、名前が出
てた。細野多香子さんって…」
 それだけのことを紀子は一気に喋ってきた。
 「それで俺を疑ったのか?」
 初めて知ったような顔をして、僕は紀子の顔を窺い見た。
 すると、紀子がそれまでの怒ったようなような表情から一変させて、細い顎をこくりと頷か
せた。
 「バカだな、お前。この前、お前が誰かに付きまとわれていると言って、俺に言ったろ?あ
の時、俺のほうにもそれらしい、怪しげな動き合ったから、俺が直接、その細野って子と話し
たら、彼女に横恋慕してた知らない奴が、何を勘違いしたのか、俺が彼女と付き合ってると思
い込んでしたこととわかった時、今後も何かあったら連絡し合うってことで、番号の交換をし
合っただけで、何にもありゃしないよ」
 ここが勝負どころの要だと思い、僕は一気にまくしたてるように言った。
 喋りながら、僕のずる賢い頭が勝手にストーリーを考えてくれていた。
 「じゃ昨日のメールは何だったの?」
 半分泣きべそをかくように聞いてくる紀子に、
 「その細野って子に横恋慕した奴が、べそをかいて謝りにきたって報告だよ。見るか?」
 実際とは違うことを、僕は平静を装って強気に言った。
 「ううん、いい」
 「お前が女の子だというのが、よくわかったよ」
 「何、それ?」
 「俺にヤキモチ妬いてくれるのが嬉しいってことさ」
 「意味わかんない」
 「わからなくていい」
 「お婆ちゃんがね、あなたたち何かあったの?って心配して聞いてきたの」
 「それでここか?」
 学校でもどこでもしっかりしていそうで、こういう事柄になると、関西弁で言うとひどくお
ぼこくなるのが、紀子の特性だ。
 「お婆ちゃん、心配してるから早く帰りましょ」
 紀子はもうすっきりした顔になっていた。
 圧倒的に長いこれからの人生で、僕は何度、紀子という純真無垢な女性を嘆かせることにな
るのかと思うと、相当に気が重くなりそうだが、こちらも惚れた弱みもあるから仕方がないと
諦めることにした。
 家に戻っての紀子の祖母への第一声が、
 「お婆ちゃん、仲良しになったよ」
 だった。
 三時半過ぎの列車で家に戻ることになり、祖母が駅まで二人を見送りに来てくれた。
 もう、早くから紀子は泣き顔で、何度も何度も祖母にしがみついたり抱きついたりしていた。
 僕からの祖母への病気見舞いの言葉は、家で紀子が便所に入っている時に、耳元で囁いてや
った、
 「今度はほんとに一人で来る」
 だった。
 もう一つ、僕の心を滾らせていることがあった。
 あの迷惑なメールを送信してきた、細野多香子への報復だった。
 僕の性格の裏面の心が、多香子の白い裸身を思い浮かばせてきていて、どのようにして甚振っ
てやろうかと、卑猥な想像を掻き立ててきていた。
 「気持ち悪い目。何考えてたの?」
 列車の座席で横にいた紀子に、蔑んだような目で見られ、僕は我に返った。
 「お前と一緒に寝てるとこ想像してた」
 「バッカじゃないの」
 「お前が抱けるなら、バカで結構だよ」
 紀子の蔑んだ眼差しは暫く続いた…。




                                 続く
 
 

 
 
 
 


 
 
 
23/08/04 17:31 (1pcAd3cC)
59
投稿者: (無名)
高校の時にできなかったことを取り戻したい後悔をおぼえ、切ない気持ちをかみしめつつ楽しませてもらいました。
多香子へのお仕置きが楽しみです!!
続きを楽しみにしております!!
23/08/07 10:03 (A4zdo/fg)
60
投稿者: 雄一
(俺も会いたいと思っていた。週末に軽井沢の別荘は?)
 これだけの文面で、細野多香子は飢えたブラックバスのように食いついてきた。
 すぐに喜びを露わにした応諾の返信があり、電車や時間の手配は全部こちらでやると告げて
きた。
 僕がメールした翌日には、手配完了と送信してきたので、その日の下校時、いつもの区立図
書館の芝生公園から電話を入れてみた。
 二回のコールで多香子は出て、すぐに声を詰まらせていた。
 一体全体に、多香子がどうしてこれほどまでに、僕みたいな男に執着してきているのかが、
僕にはよくわからないことだった。
 高校時代には、その類まれなる美貌で、早くから全校の男子生徒からマドンナとして君臨し
てきた彼女が、どうして僕のような帰宅部一筋でどこにも取り柄のない、平々凡々な男に興味
と関心を示してきているのかが、僕自身がわからないままで、勢いか流れの中で男女の関係の
行きつくところまで行ってしまっている。
 「もしもし、どうしたの?」
 鼻を啜らせている感じの多香子に、つい優し気な声をかけてしまい、僕は心の中で思わず舌
打ちをしていた。
 非情な気持ちで接すると決めていたのだ。
 「ごめんなさい。あなたの声久し振りに聞いたら」
 多香子のその言葉には反応せず、
 「お前を抱きたくなってきてる。だから電話した」
 わざと投げ槍的な口調で言ってやると、
 「私も会いたい…」
 多香子はしっかりとした声で返してきた。
 土曜日の十一時過ぎに東京駅で待ち合わせをして、二人で新幹線に乗った。
 両親には、進学のことで友達の家に泊ってくると、また嘘をついておいた。
 薄いピンクのセーターに真っ赤なダウンジャケットを着込んで、細長い足にフィットしたジ
ーンズ姿で、この前の奥多摩へ行った時の、紀子と同じスタイルだったのには、僕は内心で驚
いていたのだが、そのことは億尾にも出さずいると、
 「駅であなたに早く見つけてもらおうと思って…それに、あなたがきっとジーンズで来ると思
ってたから合わせちゃった。派手過ぎた?」
 と多香子がはにかんだように言ってきたので、
 「いや、派手な赤色が少しも派手に見えないのは、やっぱ、持っているセンスが違うんだなぁ
と思った。実際にその色ですぐに気づいた」
 とお世辞抜きで僕は応えてやった。
 駅のキオスクで多香子が弁当とお茶を買ってくれていて、新幹線の車内で昼食を済ませて、軽
井沢駅で降りると、
 「また少し歩いてみる?」
 と多香子が洒落た土産物店や、美味しそうなレストランが長く続く、通りのほうを指さしなが
ら聞いてきたので、
 「君を早く抱きたいよ」
 と最近の恋愛ドラマでも言わないような、バタ臭い台詞を呟くように言ってやると、多香子は
忽ち顔全体を赤く染めて、
 「面と向かって、そういうこと言われるのって初めて」
 そういって、微かに見えている耳朶から、細い首筋までを赤く染めていた。 
 前にも寄ったことのある大型スーパーで、多香子の主導で食材を買い込んで、タクシーに乗り
込んですぐに、僕は多香子の手を強く握ってやり、目的の別荘に着くまで、そ
のまま離さずにいた。
 タクシーを降りると、山の木々にはまだ雪が積もり残っていて、空気もかなり冷え込んでいた
が、多香子の色白の顔は朱色に上気したままだった。
 外の冷え込んだ空気に触れて、多香子は気を取り直すように顔を小さく振って、
 「ごめんなさい」
 と小さな声で言って、もどかし気に玄関の鍵穴に鍵を差し込んだ。
 玄関を入ると少し広めの風除室があり、二つ目のドアを開けると、木目の意匠が施された広い
ホールになっていて、大木を輪切りにしたようなテーブルを四方から囲むように、高価そうなソ
ファが置かれている。
 そういえば、前にも僕はここに来ているのだが、このログハウス風の別荘の記憶が、何故かあ
まりなかった。
 多香子と知り合ってまだ間もない間に、その時の流れや勢いに乗って彼女に誘われるまま、こ
の別荘にきて、我武者羅な気持ちで彼女を抱いた。
 確か夕食に多香子が、僕の好きなすき焼きを振舞ってくれたことと、二階にある彼女の室で朝
まで過ごしたことが記憶にあるだけだった。
 もう一つあった。
 多香子の室の隅に箱のようなものがあって、そこに登山用のロープがあり、それで僕は彼女の
身体を縛っていたように思うのだが、何か中途半端な感じだった。
 今日はもっと集中して、多香子が僕を嫌いになるくらいに辱めてやるのだ。
 そんなことを茫洋と考えながら、柔らかなレザー張りのソファに身体を沈めていると、
 「何かあったの?」
 と多香子が僕の横に座り込んできて、気がかりそうな顔で聞いてきた。
 「ん?どうして?」
 「いつものあなたと違うような気がして…」
 多香子の洞察力がすごいのか、若い自分の脇が甘いのか、僕の表情や仕草がいつもと違うことを
彼女は鋭敏に察知しているようだった。
 「そうかい?…君とは久し振りだから興奮してるのかな?」
 大人ならこういう時には、煙草を口に咥えて、それこそ相手を煙に巻いたりすると、サマになる
のだろうが、十六の少年ではその芸当は叶わず、
[二階へ行こう]
 と直球勝負にいきなり言ってしまった。
 多香子は当然驚いた顔になったが、その表情には強い拒絶や嫌悪や侮蔑の気持ちが窺い見えなか
った。
 僕は勝手にそう判断して、横で戸惑った顔をしている多香子の細い両肩を抱き寄せた。
 「あ…」
 と小さな声を挙げた多香子の唇を、僕は躊躇することなく塞ぎにいった。
 柔らかに毛羽立ったセーター越しに触れた、多香子の肩の骨が小さく震えているようだった。
 輪郭のはっきりとした赤い唇も、まるで初めてのことのように、小刻みに震えていた。
 それでも僕のほうが舌を、彼女の歯と歯の間に差し入れると、恐る恐るとした動きで自分の舌を
差し出してきた。
 多香子の閉じた目の上の、長い睫毛の一本一本が僕の目の、二、三センチ前でひどく艶やかに見
えた。
 彼女の細い腕が僕の首に、たおやかな感じで巻き付いてきていた。
 唇を重ねたまま片二階方の手で、多香子の胸の膨らみをまさぐると、喉の奥のほうから小さく呻くよ
うな声が漏れた。
 そのままソファに倒れ込んだ時、多香子が急に目を開いてきて、
 「お二階の暖房入れてくるわ」
 と冷静さを見せて、柔らかく僕の胸を押してきた。
 僕のほうはといういと、数日前に奥多摩で、祖母と紀子を同じ屋根の下に置いて、どちらにも手出し
できない状況に追い込まれ
 
 

 
 


 
 
 

 
23/08/10 12:55 (Mgpu3Qum)
61
投稿者: y.f
途中で送信されたみたいですね。
多香子さんをどの様に責めるのか、続き早く知りたいです。
23/08/14 11:35 (jNaHyvZC)
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