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1:悠優 早咲きに舞う小さな花びら
投稿者:
あんぽんたん
男「さあどうぞ、こちらへ」
頭に白い筋が混ざるスーツを着た紳士が、その重厚なる扉を開けてくれた。 男「ごゆっくり・・何か不測の事態が起こりましたら 部屋の受話器からご連絡をくださいませ」 スーツの紳士はにっこりと微笑みながら、緊急の際に用いる連絡手段を30歳前後の彼に告げる。 「ありがとうございます」 「では失礼致します」 彼はそう言って部屋の中に入り、内側から事前に手渡された鍵を掛ける。 スーツの紳士が彼に託したこの鍵は暗証番号で開閉する類のものであった。 そして今この瞬間からこの部屋は彼の意志によって時間と空間が支配されてしまった。 「ここは?・・・」 広い空間に大きく嵌め殺された窓からは、午前中の陽が放つ鋭く眩しい光が差し込んでいる。 更に彼の居る大きな建物が在る小高い丘から、その眼下に広がる深い森と雄大な山並みの景色を見れば、ここが都会の喧騒とは一線を画した遥か遠い地方である事を物語っている。 「随分と遠くまで来たんだなぁ・・」 彼は都会のど真ん中から目隠しをされて、その後車での移動を余儀なくされていた。 「全くもって警戒厳重である事、この上ない、な・・」 彼の言う運営側の慎重過ぎる姿勢と管理体制が、この倶楽部の特異性を強く主張している。 そしてそれはこの場所に客として立つ事が如何に困難な作業であるかと云う事を雄弁に語り掛けていた。 そんな彼が厳しい入会審査をクリアして入り得た倶楽部の名は”白百合の会“と云い、如何にも涼し気な語感の看板を掲げている。 「白百合の会・・か」 「なるほど・・女の子は100パーセント バージンだって胸を張って説明されたもんな・・」 その一見、古めかしい印象を受けるネーミングは”白百合“の花言葉(純潔、ピュア)をイメージの基として位置付け、実態は水面下での活動を主とする謎の多い組織であった。 「まあ、でも仕方が無いか」 「ここで行う行為の内容が内容であるからねぇ」 表向きには個人的な出逢いの仲介や人材派遣などの斡旋業を謳っている倶楽部ではあるが、その実態は得てして全く別の処に在る様である。 「ん?・・あちらの部屋は・・」 彼が視線を窓から部屋の奥に移すと、そこには別室へと繋がる一枚の扉が見える。 「この中に彼女が・・・」 彼の云う彼女とは、一人の少女の事であった。 その少女は或る使命を受けて彼の登場を待ち続けている。 そんな状況にあって徐々に熱い想いがふつふつと胸に込み上げて来た彼は、その扉の前にゆっくりと確実に歩んで行く。 「・・よしっ!・・開けるぞ!・・」 ドアノブを回して音も無くスムーズに扉が開くと、手前のリビングよりはやや狭い空間に大きなベッドが置いてある。 更にそのベッドの上には膝を抱えて体育座りをしている小さな女の子の姿があった。 少女「はっ?・・・」 少女の微かな驚きの声と共に、彼と彼女は初めての視線を複雑に交わらせて行く。 「君が?・・」 「君が悠優(ゆうゆ)・・ちゃん?・・」 彼のいきなりの問い掛けに彼女が一呼吸置いてゆっくりとか細い声で答える。 悠優「・・・は、い・・・」 耳を澄ませた彼には、強張って震えてはいるが美しい鈴の音の様な声が聞こえて来た。 するとその声を聞いただけで彼の心臓の鼓動は早鐘の様に打ち始めてしまう。 「え~と・・あっ!そうそう、はじめまして・・だね」 「僕の・・僕の名は内田宏之っていうんだけど・・」 悠優「・・うちだ?・・」 「・・ひろゆき・・さん?・・」 二人の運命の出逢いは限られた空間の中での非日常に満ち溢れていた。
2018/05/19 17:43:04(tWogslFL)
投稿者:
あんぽんたん
悠優(はあぁぁぁ~..つかれた~)
(あ~、でもよかったわ~) (問いただされるかと思ったけど、逆に心配されちゃって スタッフの皆さんには要らない迷惑を掛けちゃったなぁ~) スタッフ一同「悠優さん、おつかれさまでーす」 カメラマン「今日もイケてたよ~ お疲れさ~ん」 「次の撮影もよろしくね~」 悠優「あ、ありがとうございます!」 「またよろしくお願いします」 私服に着替えて帰り支度をする彼女に向かって、温かい励ましともとれる皆からの言葉が続いている。 悠優「ふ~・・(溜め息)」 「本当に大失敗だな」 (私ってえっちな上にばかなのかも?…) ゆったりとしたニットのタンクトップにピッタリとした裾が短めのジーンズとスニーカーを履いた彼女は、ジャケットを羽織って出口へと向かおうとしたその瞬間、不意に聞いたことがある男性の声に呼び止められてしまう。 男「いやあ! 久しぶりだねぇ」 「悠優ちゃん」 「いつ以来だったかなあ?」 悠優「あっ! おはようございます」 「池田さん・・」 「えっと、あの・・一体どうしたんですか?」 「スタジオにいらっしゃるなんて・・」 彼の名は池田と云い老舗の芸能プロダクションで営業を生業としていた。 そんな営業畑の彼がスタジオと云う現場に訪れる事は先ず珍しい事であった。 池田「いやあ、同僚から君がここに居るって聞いたものだからさ」 「それに偶々この辺りで仕事が片付いたばかりなんで」 「つい、ね!」 悠優「・・あ、はあ・・」 池田「そんな事より、前々からの話」 「あれ、真剣に考えて貰えたかなぁ?」 彼は以前から彼女を高く評価していて、自身の所属するプロダクションと契約をさせる為にしつこく勧誘を行っていた。 悠優「その事でしたら以前も申し上げた通り」 「私は今のままのフリーが一番・・」 彼女がそこ迄言葉を綴ると、彼の方があっさりと白旗を揚げてしまう。 池田「そっかー・・やっぱりねー」 「俺の眼に狂いは無いと思うんだけどなぁ」 「うーん残念!」 「でもまた何処かで会えたら、そのときは・・ね!(笑)」 悠優「は、はあ・・」 池田「それじゃあ!」 シャっとカッコよく片手を肘から上に挙げて、呆気にとられる彼女を尻目に笑顔を残したまま彼はとっとと退散してしまう。 悠優「はあぁ・・あの方って・・」 「一体なにをしに来たんだろう?」 頭の上に?マークをいっぱい付けて呆然と立ち尽くす彼女の後ろから、先程まで一緒であったカメラマンさんが声を掛けてくれた。 カメラマン「どうしちゃったの? 悠優さん?」 「それにあのひとって、確か・・」 「・・そうそう! ○○プロの池田さんだ!・・」 彼、池田は意外と業界では有名人であった。 カメラマン「・・で? なんであの人と?・・」 悠優「えっと・・それがですね・・・」 彼女は池田との今迄の経緯を簡単に説明をする。 すると・・。 カメラマン「ええ~? ホントに~???」 「だって・・だって彼にスカウトされるって云う事は スターへの道を約束された様なものなんだよ~!!」 悠優「え?・・あ、はあ?」 カメラマン「”え?・・あ、はあ?“じゃないって!!」 「何でそんなチャンスをスルーしちゃうの?!!」 悠優「う~ん・・だって」 「だってプロなんて私の柄じゃないし・・」 「池田さんの熱意は凄~く伝わっては来てるんですけど~・・」 カメラマン「はああぁぁ~???」 モデルの誰しもが憧れる○○プロダクションとの契約である。 カメラマンさんは彼女の浮世離れした感覚に只々戸惑うばかりである。 カメラマン「・・じゃ、じゃあね・・」 「・・さよなら???・・」 彼は上を向いて首を左右に振りながら、後ろ手を彼女に振ってさよならの合図をする。 悠優「あっ! ○○さ~ん! 危ないですよ~!」 「そこの柱が~!」 カメラマン「・・え? なに~? はしら~?・・」 彼はゴツンッと柱に頭をぶつけた後、ふらふらと出口まで歩いて行く。 悠優「どうしちゃったんだろう? ○○さんって?」 頭を柱に打ち付けた彼に言わせれば彼女こそ”どうしちゃったんだろう?“状態である。 だが今の彼女にはそんな彼の親心さえ到底理解し得なかった。 悠優「あの~お大事に~」 そして彼女の目指すべきところは只一点のみなのである。 愛する彼と、愛娘の居る場所へと。
18/06/11 15:08
(ttbFunvY)
投稿者:
あんぽんたん
宏之「う~む・・なかなかリアクションって
無いもんなんだなぁ・・はあぁぁぁ・・」 彼は彼女の開いているブログへと定期的にコメントを寄せている。 宏之「やっぱり話の内容が抽象的過ぎるのかなぁ?」 「それとも名前のsilber necklaceが分かりにくいのか?」 「う~ん・・どちらにしてもこのままでは 一歩も前には進めやしないなぁ・・・」 手詰まり感でいっぱいの彼の心境は、ひたすらに疲弊して行くばかりである。 宏之「やっぱり彼女が成人するのを待って・・待って正々堂々と 行動する方が得策なのかも?・・しれないなぁ・・ふぅぅ・・」 そんな彼の想いを他所に彼女は日々の暮らしに追われる繰り返しであった。 病状が改善して来た母の面倒を見ながらのモデル活動である。 その上、JKとして毎日の授業を受ける。 更には忙しくなる一方のモデルの仕事は彼女のプライベートな時間を刻々と削って行く。 悠優「いや~・・」 「今日は久々の真っ白なフリースケジュールだわ!」 「・・これって何日振りだろ?・・」 「・・う~ん・・」 「・・ま、いっか!・・」 彼女は休日の自宅で母の世話を終えた後、窓を開けて爽やかな風を浴びながら久々に自身のブログやSNSを丹念にチェックしていた。 そんなとき・・。 悠優「・・シルバーネックレスさんかぁ・・」 「そう云えば宏之さんから貰ったのも このネックレスだよね~・・シルバーの・・」 彼女は彼と離れ離れになって以来、肌身離さず首に掛けているそのネックレスをそっと触りながら、彼との楽しかった思い出を頭の中で綴っている。 悠優「へええ~・・この人ってまるで 宏之さんの様な経験の持ち主なんだ~」 彼のコメントを過去にさかのぼって見て行く内に、彼女の脳裏に一つの疑問が湧いて来る。 悠優「・・これって・・まさか・・」 「・・・・・」 「あ、いや・・そんなことって?」 誰にも悟られない様に上手くぼやけさせているその文章は余りにも二人の経験と思い出に類似している。 悠優「まさかね~・・彼がファッション雑誌に 興味があるとは思えないもんな~」 「TVもあまり見ないって言ってたし~」 「それに私も成長しちゃって ルックスもかなり変わっちゃってるだろうしね~」 だが、このシルバーネックレス氏のコメントには、あの山並みに囲まれて奥深い森に佇む大きな建物の存在が何度も現れて来る。 悠優「・・ひろ、ゆきさん?・・」 「あなたって・・宏之さん、なの?」 遠回し過ぎる、そのジレンマに満ちた文章からは彼の溢れる様な愛情がところ狭しと散りばめられている。 悠優「・・間違い無い!・・」 「この人って・・彼だ!」 厳しい試練を敢えて選んで自らを無理矢理に世間へと露出させていた彼女の苦労は、今ここに報われて大きく花を開かせようとしている。 悠優「貴方って・・貴方ってもうちょっと 待つことが出来なかったの?・・(泣き笑)」 「・・・・・」 「もう直ぐ・・逢える、のに」 「ほんとに・・本当にせっかちなんだからぁ・・(大粒の涙)」 彼女は自らに強く言い聞かせる様に彼への言葉をつぶやいている。 そしてその後、互いの生命を確認し得た二人は、あと少しの長過ぎる時間にひたすら耐えながらも、温かい想いで心の中をいっぱいに満たして行った。
18/06/11 17:02
(ttbFunvY)
投稿者:
あんぽんたん
季節は移り変わり街中に在る木々の葉が色づき始めた頃に彼女は18歳となり、飽くまでも会のみでの判断で規定上の私的な成人を果たした。
正確に云えば選挙権が与えられただけの彼女ではあるが、現行法では16歳以上で女性は結婚が可能な為、その社会的な立場から考慮して白百合の会側の最大限の譲歩によって彼女は契約から解除される。 そしてその譲歩を引き出す事が出来た最大の要因は、二人の極めて理性的な行動からもたらされた、会との強い信頼関係に他ならなかった。 するとその期日を超えた直後に、二人に対して会側からの大きなプレゼントが提案された。 宏之「は、はい!・・そう云う事でしたら 喜んでお受けいたします・・と云いますか・・」 「本当なんですね?」 「間違いは、無いのですね?」 彼は突然の大きな喜びの余り、スマホ越しに会側からの提案内容を何度も繰り返し聞き正す。 男「勿論でございます」 「あなた方お二人は充分過ぎる程に耐えられましたね・・」 「会の決定事項はその見事な迄の気概と忍耐力の賜物であり お二人の話は上層部にまで確実に届いております」 「本当によろしゅうございました」 「担当のワタクシめも感無量であります」 件のスーツの男性はポケットからハンカチを取り出して、電話の向こう側で目頭を押さえている。 宏之「あ、ありがとうございます」 「貴方にもどれだけの感謝の 言葉を述べたらいいものか・・」 「すみません 混乱してしまって・・」 男「いえいえ 私などはどうでもいい事です」 「あなた方の大いなる幸せを・・ 輝ける未来の到来を深くお祈りいたします」 「どうか・・末永く・・」 職業上の単なる担当であるスーツ氏までもが貰い泣きして言葉を詰まらせてしまう。 男「それから・・私などの存在は 一刻も早くお忘れになってくださいまし・・」 「一幕の感動を・・ こちらこそありがとうございました」 「それでは失礼いたします」 彼にとっては恩人とも云うべきである、二度と会う事が無いであろうスーツ氏の事が忘れられる筈もない。 静かに去って行った戦友とも呼べる彼の事を想いながらも、彼の意識は次のステップへと大きく飛躍して行った。 宏之「・・海、かぁ~・・」 「そう云えば随分と久し振りだなぁ~」 彼と彼女は自分たちの力で未来への道を切り開いたのである。
18/06/12 18:32
(hIcjjvfg)
投稿者:
トマト
この後、アクシデントがなくハッピーエンドで終わって欲しい!!
18/06/12 19:37
(hTIxFnWd)
投稿者:
あんぽんたん
悠優「・・ここ、なのね?・・」
「・・ここで彼と・・」 最寄りの駅からタクシーに乗った彼女が降り立ったその場所は、既に海水浴客も殆ど居なくなった海沿いのリゾート地である。 悠優「え~と、地図だとこの辺よね?」 きょろきょろと周囲を見渡しながら歩く彼女の目に一軒の建物が確認できた。 悠優「あっ! あれかな?」 「・・う~ん、えっとぉ・・」 「そうだ! あの白い家だ! 間違い無い」 既に彼との電話番号の交換も済ませていつでもメール出来る環境ではあったが、今日に限って彼女は彼との連絡を絶っている。 悠優「5年振り・・」 「5年振りの再会・・」 「何だか胸がドキドキして来た!」 彼女は絶対に醒めては困る夢の続きを見る為に、敢えて送られて来た住所と簡単な地図だけで現地を目指している。 それは自らの眼で確認出来る物しか信じたくはない、彼女の微妙な乙女心の成せる業なのかもしれない。 悠優「ごめんくださ~い・・」 「宏之さ~ん?・・」 夢にまで見た彼との再会である。 彼女は呼び鈴を押した後ゆっくりと、しかし確実にドアノブをひねって、真っ白で軽やかな扉を開ける。 すると玄関には一人の男性が微笑みながら少女を腕に抱えて立っていた。 宏之「おかえり・・悠優」 悠優「・・?・・」 「・・え? は、はい! ただい、ま?・・」 宏之「随分と時間が掛かったんじゃない?」 「電車が遅れたの?」 「それとも、道に迷っちゃったかな?」 悠優「・・は、い・・」 「あの・・」 「ちょっと、だけ?」 宏之「ふふっ! でも・・」 「でも今迄掛かった時間に比べれば・・」 「大したロスでもないのかな?・・ね?!」 悠優「はい!(泣)」 彼女は彼に逢ってから話したい事柄が山の様にあった。 だがそれの、どれもこれもが喉につかえて出て来ない。 宏之「あっ! それと・・」 「この子が悠望!・・」 「君の愛娘!」 悠優「・・ゆう、み?・・」 「あなたが悠望、なの?」 宏之「なに? 悠望? 恥ずかしいのか?」 彼女の娘は母との初めての出逢いで戸惑いを隠せない。 宏之「まっ! 急ぐ事もないか!」 「時間はたっぷりとある・・ね?・・悠優!」 悠優「・・はい・・」 宏之「さてと・・疲れたろう? 悠優・・」 「先にお風呂でも入る?」 悠優「はい・・あ、いえ・・」 彼女の喉につかえた言葉は、その全てが小さな胸に溜まって行く。 そんな彼女と彼が再会したこの家は、白百合の会が特別に用意した別荘である。 そしてこの一軒の小さな家こそが彼と彼女の本当の出発点でもあった。 宏之「・・・・・」 「長かったね!」 「本当に長かった」 悠優「はい・・」 宏之「これからも辛いことがいっぱいあるかもしれない」 「でも頼むよ! 君はお母さんなんだから」 悠優「はい・・・」 宏之「あっ! 勿論、僕も頑張る!」 「一家の大黒柱としてね!」 悠優「は、はいぃ・・」 悠望「おねえちゃん? ないているの?」 悠優「・・・ゆっ! 悠望っ!・・・」 彼女は彼と娘に抱き付いてその存在を実感する。 悠優「ひろゆきさん! どこにもいかないですよね?」 宏之「ん?・・ああ! 何処にも行かないよ!(笑)」 悠優「ありがとう・・・」 「ありがとうございます」 「ありがとうございます・・・」 宏之「・・悠優・・(泣)(笑)」 二人の再会に多くの言葉は必要が無かった。 温かな互いの体温だけで充分であった。
18/06/12 20:27
(hIcjjvfg)
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