薄明かりの差し込む小部屋で、燈子はハッと目を覚ました。体中がじっとりと濡れている。
(夢か…)
余韻に疼く体を両腕でギュッと抱きしめ、弟の虚構の温もりを思い出す。まるでこの鬱陶しい汗が、いつもサラサラしている想太の稀有な汗と混ざっていたかのような錯覚。
燈子は虚しさ漂う空間で、一縷の感覚に縋るようにイッた。
すぐに軽くシャワーを済ませ、飲み物を取りにキッチンへ向かうと、今度は本物の想太と遭遇した。
「オハヨ」
「・・・・」
ただ挨拶をしているだけの弟に、どこか後ろめたさを感じる燈子。
「髪、濡れたままじゃ風邪ひくよ?」
想太は姉の長い髪を一束掴み、先端へ向かってきゅーっと絞った。滴が2滴3滴、彼の手から垂れる。
「なに?」
燈子は不思議になって、想太の右手から顔へ視線を移し、今日初めて声を発した。
姉に聞かれてみると、自分の無意識の行動を説明できず、想太はパッと手を離してTシャツの胸の所で拭いた。彼のグレーのTシャツは、そこだけ色が濃くなった。