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1:夜鷹の床
濡れ縁に雀。障子の穴から乾いた風。骨組みとなった古傘に糊を塗り、柿渋を塗りたくった朱染めの和紙をピシャリ、と貼り付ける。長屋の手狭な三坪六畳間は、足の踏み場もないほどまでに傘で埋め尽くされていた。その中で大喜多与兵衛は黙々と傘貼りに没頭している。
男が一人、断わりも無く木戸から入って来た。与兵衛は意にも介さず。 「相変わらず精が出るのぉ」 男は土間で埃を払ってかまちに腰を降ろし、その瓜実顔をつるりと撫でる。 「お前も暇な男だな。いいのか? こんな所ほっつき歩いてて」 「いいのさ。廻り方同心なんざ暇な役目よ」 男の名は久間紀之介。与兵衛とは旧知の仲である。雀が何かに驚き音も発てず飛び立つ。柔らかな日射しだけが濡れ縁に残る。 「それより聞いたかい?」 「何をだ」 「辻斬りだよ。今朝、美濃屋んとこの角に仏さんが転がっててなぁ。巷じゃこの話でもちきりだぜ」 近ごろ浪人風情が他国から多く流れ込んで来た。そのせいもあってか治安は乱れ、町人たちも枕を高くしては寝られない毎日。 「俺は昼まで寝てたから知らん」 「呑気なもんだな。もうお天道様も傾いちまったぜ」 「だいたい辻斬りなんざ夜出歩かなければいいんだ。俺のような貧乏侍には色町で遊ぶ金子も無いしな」 与兵衛は手を休め、無精髭をぼりぼりと掻きながら久間のほうを向く。 「何が色町か。夜ごと夜鷹を連れ込んでるって聞いてるぜ?」 「人聞きの悪い。あれは雨宿りしたり夜露を凌いでるだけだぞ」 「どっちにしろ、いい噂は立ちゃしないよ。卑賎の輩と武士であるお前様が、ひとつ屋根の下で暮らしてんだ。ましてや若い男女と来らぁ、噂も立つってもんよ」 「噂など知った事か」 「とにかくだ。あんなもん連れ込んでないで、いい加減嫁でも貰ったらどうだい?」 「なぜ所帯の話になる。だいたい十石二人扶持でどうやって嫁を食わす」 「だからよ、お前様もいつまでも傘なんざ貼ってねぇで、奉行所に仕官しろぃ。俺が口利きしてやんから」 「俺は此れが好きなんだ」 ピシャリ。 与兵衛は再び手を動かし始めた。口の減らない久間は、放っておけばいつまでも喋り続ける。 「ま、茶も出ねぇ事だし、俺はこの辺で……」 「お前、何しに来たんだよ」 「お?」 久間がダルそうに腰をあげ長屋を出ると、晴れていたのが嘘のようなどんよりとした空模様。 「こりゃ、ひと雨来そうだな」 「そこの傘持ってきな」 「おう、そいつぁ有難てぇや。お前様の傘は滅多に破れねぇって巷でも評判だからな」 先ほどまでとはうって変わって湿った風が、蛙の声を運んで来る。与兵衛も思わず障子を開け、身を乗り出し天を仰ぎ見た。 ポツリ。 と、鼻先を濡らす一滴の雨粒。しかしながら一向に降るのか降らないのか、はっきりとしない曇り空。暫くして、猫の額ほどの庭に植えられた紫陽花の葉を、雨が叩く音。蛙の声が呼び寄せたか、夕暮れ近くになるにつれ強くなる雨脚。 雨脚は強くなるばかり。あまりの飛沫で、運河沿いの通りにはうっすらと靄のような膜が広がる。 「さっきまで晴れてたのに、なんだよ」 独りごちも瞬く間に掻き消された。こんな時に与兵衛さんが通り掛かれば。などと都合の良い事を考えている、お理津。 運河に掛かる橋の袂に、ぼんやりと傘をさす人影が浮かび上がった。お理津は眉間に皺を寄せながら滝のような雨脚を透かし見る。 「久間の旦那じゃぁないか」 「む? その声はお理津か?」 薄暗くなり始めた軒下からいきなり声を掛けられ、ぎょっとした顔の久間。辺りをキョロキョロと伺う。 「あはは、誰も居やしないよう」 「こんな明るい内から声掛けんじゃねぇや!」 とは言え夕立ち。町屋は影を濃くし始めている。 「あら。廻り方同心が夜鷹に声掛けられちゃ、バツが悪いってかい?」 「おうさ、誰かに見られでもしたらオメエ」 「ご挨拶だねえ。そんな言い草されたんじゃ、もう旦那の相手なんかしてやるもんか」 「それは、こまる」 久間は依然、辺りを気にし続けている。 「ねぇ旦那ぁ。与兵衛さんの家まで、入れてっておくれな」 お理津は見上げながら、傘を叩く雨音に負けぬほどの声で言った。 「それも、こまる。いいか、くれぐれも与兵衛には何も話すんじゃねえぞ」 「いいじゃないか。ただの買った売ったの関係なんだからさぁ」 「気まずいってんだよ」 久間はもはや馴染みと呼べるほど、お理津と通じていた。彼女が宿り木のようにしている与兵衛とは旧知の仲。だけに、なんだか申し訳ないような。それでも……。 「今夜、酒の席があってな。酌なんぞ頼みてぇんだが。戌の刻、弁天橋の袂で待っている」 「はいはい」 言い残し、久間は背を向けると左手を挙げ、そのまま雨の中へと消えて行った。 「ひやぁ、すっかり降られちまったよお」 木戸から断わりもなく入って来たお理津は濡れ髪で、抱えていた莚を土間に放り投げる。狭い部屋を埋め尽くす傘の中で、丸い背中が揺れた。与兵衛である。 「お理津か。そろそろ来るんじゃないかと思ってたよ」 「あたしを待ちわびてたんかい?」 「馬鹿言え。ほら、そっちの傘はもう乾いているから畳んでいいぞ」 お理津はその辺の傘を畳み、自分の座る場所を作った。結ってもいない髪は重く垂れ、一重の大きな目がその割れ目から覗いている。筋の通った鼻先に雫。「借りるよ」とだけ言って、かまどの上にあった手拭いで髪を拭く。 「まったくさ、河原でお侍の相手してたら、いきなりこの大雨さ。途中でやめて金子も取らずに慌てて雨宿りだよ」 「夜鷹が昼間っから商売かよ」 「しょうがないだろ? 今どきたったの二十四文なんだ。明るかろうが暗かろうが、やれる時にやんないと飢え死にしちまうよお。それともあんたが食わしてくれるってのかい?」 忙しなく髪の毛を拭うお理津は、久間に負けないくらい減らず口を叩く。 「俺の稼ぎもお前とたいして変わらん」 「嫌だねぇ貧乏話は。あたしだって芸事のひとつでも覚えてりゃ、遊廓でもっと稼いでやるんだけどねえ」 「お前の不器用は生まれつきだからな」 与兵衛を睨み付けるも一瞬。しんなりと膝を崩し甘い声で囁く。 「でもね、男をよろこばせる事にかけちゃ、誰にも負けやしないよ」 「こら! そこの傘はまだ乾いておらん!」 「んっもぉぉぉ、狭い狭い狭いっ! こんな傘だらけの部屋だから……」 朱色の花が咲き乱れる六畳間、小さな拳で膝をだむだむと叩く。そんな姿を見て、与兵衛は微笑むのであった。薄暗い中で糊を仕舞い、乾いている傘を畳んでまとめあげる。お理津はかまどに火をくべて雑穀を炊き、梅干しと漬物で質素な食卓を作る。 「いつもすまぬな」 「やめとくれよ。別に女房の真似事なんかしようってんじゃないけど、これくらいはしないとさ」 まるで通い猫だな、と与兵衛は思う。気が向いた時勝手に上がり込み、気付けばもういない。いよいよ何も見えなくなってから行灯は灯された。菜種油も安くはない。 「もう夕立の季節だな」 「うん、だいぶ暑くなって来たよ」 質素な晩飯であっても顔を突き合わせて食すれば美味く感じるというもので、その点彼は有り難くも感じていた。食べ終わる頃になって夏虫の落ち着く音色。行灯の明かりは土間にまで届かず、食卓を片付けるお理津の手元は暗い。 「聞いたか? お理津。昨晩辻斬りが出たそうだ」 「物騒だねえ」 「他人事のように言うでない」 片付けが済んでから酒器を出し、二人は酒を酌み交わす。 「あたしの事、心配かい?」 「……」 答えず、黙って杯を突き出す。 「刀で斬られるか飢え死にするかの違いじゃないか」 「もう酔ったのか?」 「このくらいじゃ酔いやしないよ。さてと、雨も止んだみたいだね」 「行くのか?」 「行ってほしくないのかい?」 「馬鹿言え。忙しない奴だと呆れていたところだ」 「莚置かしといてもらうよ。朝方、またお邪魔するけど」 「勝手にしろ」 雲の切れ間から少し欠けた月が顔を覗かせている。はぐれた風に柳が揺れれば、湿った青臭さが鼻孔をくすぐる。道はぬかるみで、月を映した水溜まりを避けながら歩く。やがて、昼間雨宿りをしていた軒下に再びお理津は立った。 通りは風が過ぎるばかりで人影は無い。お理津は遠くに揺れる提灯を見たが、橋を渡って来る手前で右に折れてしまった。ため息は行く宛てもなく闇に溶ける。 「ちょっと早かったかねぇ」 独り言も虚しく朧月。その時、先程提灯の消えて行った運河沿いの道に人影が現れた。闇を透かして見れば、その侍ていの男は久間である。軒下から出て橋を渡るお理津に気付き足を止めた。 「いい月夜だねえ、旦那」 「そうだな」 ひと言だけ答え、久間は黙って歩き始める。お理津はその後を、ただ静かについて行った。
2021/02/18 19:54:43(q2vJdmCe)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
「三十石だ。申し分無いだろ」
「まぁ……そうだが」 「旅役人の付き人ったって別に年がら年中城下を離れてる訳じゃねえ。長屋を引き払う事もねえしよ」 久間は何も言わないが、与兵衛の狼狽えなど承知の上であった。しかしながら背中で与兵衛の反応を伺うばかりである。 「まあ俺の屋敷に寄ってけ。茶ぐらいは出すからよ」 三十石もあれば女二人を養うぐらいどうにかなる。しかし留守をするとなると、彼女たちの拠り所をどうするか。別に長屋を借りて住まわせるほどのゆとりまでは無い。 久間の屋敷は静かであった。喜作も出払っているようで、広い屋敷には誰も居ない。 「どうも人が居ねえと落ち着かなくてな」 「無駄に広いからだ。嫁でも貰え」 「そうだな。ひとの心配ばかりしている場合でもねえか」 「全く、広くて困るとは何とも贅沢な悩みよ」 「お前んとこみてえな長屋暮らしの方が、俺の性には合ってんのかも知れねえ」 湯呑みを啜る与兵衛。昼下がりの庭は音も無く、和らいだ陽射しが眠気を誘う。 「お前、囲ってる夜鷹の事が気掛かりなんだろう?」 突然そう切り出されて、思わず茶を吹きそうになる与兵衛。 「べ、別に囲ってる訳ではない」 「そのまま住まわせておけばいいさ。俸禄を受けるまでの家賃は俺が立て替えてやってもいい」 与兵衛は考え込み、暫くしてから口を開いた。 「すまぬ。世話ばかり掛けてしまう」 「いいって事よ。その代わりと言っちゃあなんだが、お前んとこの夜鷹にな、掃除をしに来て貰いてえんだ」 「お理津にか?」 「掃除ぐらいできるだろ。紫乃も居なくなっちまったし、女手が無いと何かと不便でなあ」 「……実はな久間。話さなければならん事がある」 与兵衛は膝を正した。いつまでも隠し仰せはしない。そう思っていた。 「なんだよ改まって、水臭せぇ」 「紫乃なんだが。……実は、うちに転がり込んでいる」 「なっ!」 久間は呆気にとられた顔で与兵衛を見詰める。 「そこで、折り入ってお前に頼みがある。紫乃を俺に引き取らせてくれ」 憮然と腕を組む久間。 「何言い出すかと思えば。だいたい紫乃は美濃屋殺しの下手人だぞ」 「ああ。ただ、この屋敷の奉公人でもあった」 ため息を漏らし茶を啜るも、視線は与兵衛を見据えたまま。 「お前の言う通り紫乃をしょっ引いたら厄介な事になる。突き落としたのが同心屋敷の奉公人ともなりゃあな」 「紫乃は美濃屋に襲われて、突き飛ばした拍子に堀に落ちたと言っていた」 「ああ。そんなこったろうと睨んではいたさ。だがまさか、お前んとこに逃げ込むとはな」 「頼む。久間。紫乃をそっとして置いて欲しいのだ」 与兵衛は頭を下げた。 「お前がそこまで言うなら仕方ねえがしかし、なぜお前が紫乃を庇う」 「放ってはおけぬのだ」 「まあ、お前らしいが。しかしなぁ、女を二人も囲おうとは分をわきまえぬも甚だしい」 「分かっている。だからこそ、どんな役目でも受けさせて貰うつもりだ」 久間の屋敷を出た時には、陽も随分と傾いていた。紫乃の事は目を瞑って貰えそうであったが、多少の不安もある。 「それにしても……」 陽の陰り始めた運河を見詰めながら、橋の上で独りごちる与兵衛。 「女のためにここまでする俺も阿呆だ」 村落取締出役は実際呑気な役回りである。平穏な世ゆえに剣を抜く事などもまず無いだろう。まして馬廻り役などはただ馬を引き、陣屋や宿屋の手筈をするくらいである。 「まぁ、いつまでも傘を貼って燻っているよりは、ましかも知れんな」 七つの鐘が鳴る。与兵衛は長屋へと足を向けた。 薄暗くなり始めた部屋には紫乃一人が佇んでいた。 「お理津は出掛けたか」 「あ、お帰りなさいまし。お理津さんなら先程出て行かれました」 「左様か」 「あ、あの……」 紫乃はちょこんと部屋の隅に正座し、板敷きの木目を見詰めている。顔が少々赤いのは、中庭を照らす暮れの陽射しのせい。 「私に出来る事があれば何だって致しますから、何なりとお申し付け下さい」 「どうした」 「こうして置いて頂けるばかりでは申し訳なくて」 「ははは、なにも気にする事は無い」 与兵衛は二本差しを抜いて、框にどかりと腰を下ろす。すかさず紫乃は土間から大ダライを引き摺り出し、水瓶から水を掬って注いだ。 「それよりな、紫乃。久間はもうお前を捕えたりしないぞ」 「え?」 「あいつにとっても、美濃屋を突き落としたのが自分の所の奉公人だと都合が悪いのだ。まぁ美濃屋の一件は誤って河に落ちたって事で落着するだろうな」 紫乃は目を見開いて与兵衛を見詰めた。 「それとな、これからは俺がお前の身請け人だ。そのよう久間の奴に話を着けて来た」 頭を土間に擦り付けるほどに深々と土下座をする。与兵衛が足を入れる大ダライの脇で、その小さな肩が震えていた。 「もうお前は何も案ずる事は無い。安心してこの長屋で暮らすと良い」 「あ、ありがとうございます!」 涙を浮かべ鼻を啜りながら、与兵衛の足を洗う紫乃。 「仕官する先も決まったんだが、俸禄を得られるまで暫し掛かる。多少は金子を借りる宛てもあるが、その間お理津の稼ぎでお前とお理津は食わねばならぬ故、多少ひもじくはなるがな」 「そんな、私は置いて頂けるだけで充分です」 足を洗い終えると紫乃は与兵衛の膝元で鼻をひくつかせた。 「与兵衛様、汗も流しますから、帯を……」 「よいわ。行水ならば自分でやる」 「手伝わせて下さい」 言うなり紫乃は帯を勝手に解き始めた。どうにも照れ臭いのか、頭を掻く与兵衛。仕方無しと言った具合にゆっくり立ち上がると、着流しを裸ける。下帯を解いた時、紫乃は目の前にぶら下がる逸物に釘付けとなりながらも顔を赤く染めた。 「こら、どこを見ている」 「つ、つい……」 目を伏せる紫乃は胸を押さえた。与兵衛は構わず大ダライに胡座(あぐら)をかき、浅い水に浸かる。紫乃は顔を赤くしたまま、手拭いを水で湿らせて与兵衛の体を拭き始めた。 「女を孕ませる訳でも無し、たいして役にも立っておらん持ち腐れだ」 「……いいえ。与兵衛様は昨晩、私を天に昇らせて下さいました」 胸板の汗を拭いながら、紫乃は与兵衛の顔を潤んだ瞳で見上げた。 「お、お前……」 「もしお理津さんが居なかったら、私が与兵衛さんの事を好いてしまったかも知れませぬ」 くすり、と、悪戯っぽく含み笑い。 「な、なんて事を言う。俺は……」 なぜ、昨日紫乃まで抱いてしまったのか。自問自答した所で答えなど出ない。所詮自分はただの好き者に過ぎないとしか。ならば尚更、この長屋を離れるのは自分の義にとって好都合なのかも知れない。そう、与兵衛は思うのであった。 「あ、こらっ! そこは自分で……」 タライの水から掬い出された玉鞠が、手拭いと小さな掌に挟まれている。いくら心を平静に保とうにも、意に反して頭をもたげてゆく是非も無し。 「与兵衛様。したい時は私の体も使って下さいまし」 「俺はそんなに助平ではないわ!」 「あら、でも……」 水面から顔を覗かせた亀頭と見詰め合う紫乃は、なおも悪戯っぽい笑みを浮かべたまま。 「これは……お前が触るからだ」 紫乃の顔は紅潮し、その息は荒くなっていた。やがて頭を股の間に沈め、両の掌に包んだ亀頭に口づけをする。 「や、やめなさい」 「私、もう知っちゃったんです。こういう事。それと、私がどうしようもなく淫乱だって事も」 「紫乃……」 困った様子を見せながらも、与兵衛はさせるがまま。葛藤も下半身には勝てず。 「理津さんやお坊さんに弄られてから変なんです。私」 「うっ……」 舌先が先端を擽る。下腹部から上目遣いで見詰めるその目は、どこか醒めているようにも見えた。 「すまぬ」 頭を掴み、押し下げる。 「んぐっ」 棹はひと息、根元まで呑み込まれてしまった。みるみる内に暗くなってゆく土間で、淫靡な水音だけが静かに響く。時に遠く、烏の声。 「だ、出すぞ」 暮れ六つの鐘の音とともに、与兵衛は口の中で果ててしまった。眉間に皺を寄せながらも喉を鳴らし、全てを吸い尽す紫乃。 「す、すまぬ……」 彼女は首を横に振り、与兵衛の体にしがみ付いた。 「私が変なんです。昨日からずっとあそこが疼いてて、きっと私、おかしくなっちゃったんだ」 肝を冷やすような笑みであった。どこか、ごく一部だけが壊れてしまったかのような、遠い眼差し。与兵衛はそんな紫乃を強く抱き締めた。 「俺もだ。今までずっと抑え込んでいた物が破裂してしまったようだ。このような好色者は武士として失格だ」 「ならば与兵衛様。淫乱と好色で色情狂い同士、お互い様ですね」 「そうだな。いっそ地獄まで、お理津も連れて共に堕ちるやも知れぬ」 「いいえ、地獄には堕ちません。昨夜のお坊様は、天に昇られて逝かれましたから……」
21/02/19 12:35
(iBTcA.Ti)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
お理津は気分が乗らない様子で、八幡神社の脇の回廊。足をぶらぶらとさせながら、暮れなずむ夕空を木立の向こうに眺めていた。
表の通りはいよいよ人通りも疎らで、しかし通りすがる男に声を掛ける気にもなれず。こんな日もある。と、思う。背中の擦り傷がまだ疼くのが、何よりの原因であった。 「今日は帰ってゆっくり寝てようかしらねえ」 筵を抱えて、とん、と地面に降りたその時であった。鳥居から境内に入った能楽堂の前辺りに影がひとつ。 「おう、お理津じゃねえか」 駆け寄って来たのは、久間であった。 「旦那……今日は勘弁して下さいな。なんかそんな気分じゃないんで……」 「早合点するな。俺が声掛ける時は必ず抱かせて貰う時みてぇじゃねえか」 「違います?」 「違うわ。それより腹減ってないか? 蕎麦でも食わせてやるが」 「あら、どう言う風の吹き回しだい?」 久間は役目を終えた後なのか、珍しく涼しげな着流し姿であった。 「いつもは並んで歩くのも憚るくせに、珍しいじゃないか」 「この格好だからな、誰も役人とは思うまい。それより、与兵衛から聞いたか?」 「何をです? 今朝出て行ってから是の方、与兵衛さんとは会ってないからねぇ」 「あいつ、仕官するって言ってただろ。その役処が決まったんだ。……お、取り敢えずそこの店にでも入るか」 弁天橋の袂に軒を構える一軒の蕎麦屋。その暖簾を二人は潜った。久間は椅子に座るなり主人に酒を頼む。卓が三つの小ぢんまりとした店。客は二人の他居ない。 「で、その役処ってのは何だい?」 お理津は酌をしながら話の続きをせがんだ。注がれたお猪口を一気に空け、息をついてから答える。 「村落取締出役の馬廻りだ」 「……なんだい、そりゃ?」 「ようは八州廻りみてえな旅役人の付き人だよ。随分と長屋を空ける事になるだろうな」 「なんだって!」 思わず大声を出してしまったお理津の前に、おもむろに蕎麦が運ばれて来た。 「だが心配するな。長屋は引き払わずに、お前が住めばいい。家賃も俺が与兵衛に立て替えてやる事にした」 「そんなのはどうだっていいんだよ。与兵衛さんは、どれくらい城下を離れなきゃならないんだい?」 「まぁ半年と言った所かな。その代わり俸禄は四倍ぐらいに増える」 「そんな……与兵衛さんと半年も逢えなくなっちまうのかい」 俯くお理津の前で、蕎麦が硬くなってゆく。久間はお猪口を突き出し、神妙な面持ちで続けた。 「それより、長屋を追われたりしたら困るんじゃねえのか? 紫乃が」 「な、なんでそれを!」 お銚子がお猪口にかちりと当たる。 「与兵衛が話してくれた。案ずるな。俺はもう紫乃を咎めるつもりは無いし、与兵衛が引き取ると言っていた。ほら、蕎麦が硬くなっちまうぞ」 「与兵衛さん……」 なぜ一言も相談してくれないのかと、その事が悲しかった。全て一人で決められてしまった事が。 「それでだ。宿無しのお前も堂々と屋根の下で暮らせるって訳だ。今までのように筵で客を取ってないで、部屋で取るようにしたらいい」 「で、でも……」 「与兵衛だってそう言うに決まっている。客は俺が口利きしてやる」 それでは置き屋である。が、久間はまるで最初からそのつもりであったかのように饒舌であった。 「俺は商家や役人仲間に顔が利く。夜鷹を買うような客よりは全然ましだろう」 「旦那だってあたしを買ってたくせに」 「俺は別だ。前々からお前は、夜鷹にしとくにゃ勿体ねえ珠だと思ってたんだ」 「でも、それじゃ置屋と変わんないじゃないか」 与兵衛と過ごした部屋で他の男に抱かれる。彼との日々が汚されてゆくようで、想像するだけでも嫌だった。 「まぁ似たようなもんかも知れねえが、紫乃だっているんだ、それなりの身入りがねえと困るだろう。それとも他にいい食い扶持でも見つけられるってのか?」 「そりゃぁ……そうだけどさ」 確かに筵を抱えて辻に立って客を取るよりは、久間に上客を紹介して貰った方が身入りとしても大きかろう。 「俺が色々と面倒見てやろうってんだ。贅沢言うんじゃねえや」 そう言うと久間は猪口をクイと一気に飲み干した。 「聞けばお前が紫乃のやつを与兵衛の所に連れて行ったそうじゃねえか。俺はな、お前に免じて紫乃のやつを譲ってやったんだぜ」 お理津は蕎麦も喉を通らず、そして何も言えなくなった。 長屋に帰れば、障子から漏れる薄明かりと焼き魚の匂いがお理津を迎えた。ちょうど与兵衛と紫乃が晩飯を終えたところだったようである。 「おお、帰ったか。飯炊いてあるぞ」 「あたしは表で客にご馳走になって来たからいいよ」 「なんだ、そうだったか」 「ありがとう。ご飯は握り飯にでもしとくね」 辺りはすっかり宵闇。菜種油の火も届かない土間の暗がりで、お理津は一人タライを用意して足を洗う。 「お理津よ。今日な、仕官する先が決まったんだ」 「へえ。良かったじゃないか」 何の抑揚も無く答える。お理津と久間の関係は与兵衛に対して秘密であり、もう既に話を聞いたとは言えない。 「ただな、旅役人の付き人でな。しばらくここを留守にしなければならなくなった」 「……そうかい」 「明日、出立する」 「なっ! そんなまた、急な話じゃないか! 明日って……」 まさか、今夜限りだったとは思ってもみなかった。 「廻り方同心の久間なんだが、紫乃について話を着けて来たんだ。俺が身請けする事にした。留守中、この長屋の家賃も立て替えてくれる。だからお前は、紫乃と二人でこの部屋に住んでいろ」 「なんで……なんで一人でみんな勝手に決めちまうんだよう……」 「……お前たちのためだ」 「誰が、いつそんな事頼んださ!」 「お、お理津……」 「あたしは……あんたと一緒にいたいだけなのにさ」 確かに貧しかった。貧しくとも、帰る場所が有った。それはこの部屋でなく、与兵衛の隣。 「暫くの辛抱だ、お理津。稼ぎが増えればお前を養う事だって出来る。そうすれば、夜鷹からも足を洗える。そうすれば……お前を嫁にする事だって……」 「なっ……」 水を打ったような静けさ。紫乃は部屋の隅で両手を口に宛て、息を呑む。 「何を言い出すんだい……いきなり」 「……」 与兵衛は黙ってしまう。いや、何も言えなくなってしまうのだ。ただ背を向けて、ぴくりとも動かない。 「馬鹿な事言うんじゃないよ……なんであたしなんかを」 声が、震えていた。だが、何か喋らなくては、きっと涙が止まらなくなってしまう。 「あたしみたいな夜鷹を嫁になんて……悪い冗談やめとくれよ」 「…………何度も言わせるな」 「だって、あたしとあんたじゃ身分が……」 与兵衛はもう、何も答えなくなってしまった。確かに身分差としては結ばれる事の無い間柄ではあった。しかし与兵衛の家は下士の家で兄が家督を継ぎ、与兵衛自身は浪人と変わらぬような暮らし。祝言こそは遂げられなくとも、夫婦として暮らす事は出来よう。 お理津はタライから上がり、足も拭かずに与兵衛の背中へと抱きつく。そして、その無言の背中で泣いた。 真上に昇った月の光は柔らかく降り注ぐ。濡れ縁に落とされた影は、中庭に伸びる南天の細枝。ゆっくりと忍び寄るように、紫乃の足の小指に触れた。 部屋の中では二人の寝息が漂う。与兵衛の決意は他人事とは思えないくらいに嬉しくて、ついもらい泣きしてしまった紫乃であった。しかし、彼女一人が寝損なってしまった時、ふと、孤独感に襲われた。自分は邪魔者なのではないか、とすら思ってしまうほどに。 お理津は自分を守ると言ってくれたし、与兵衛も身請け人になってくれた。優しさは痛いくらいに感じる。が、同時に入り込めない場所も垣間見てしまった。体の交わりではお理津とも、そして与兵衛とも繋がり合ったと言うのに、この寂しさは何だろう。 細枝の影は、いつしか紫乃の足元を被い尽くしていた。
21/02/19 12:38
(iBTcA.Ti)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
重い雲が垂れ込め、降るか降らないか釈然としない空の下、旅支度もそこそこに旅装束の与兵衛。別れを惜しむ暇(いとま)も無し。
「本当に、行っちまうんだね」 「ああ。達者で暮らせ」 遠巻きで陰口を叩く長屋の女房たちにも笑顔を向ける与兵衛。 「暫くお役目で居なくなりますが、その間こいつらに留守を任せます。宜しく頼みます」 女房たちは愛想笑いで返すと、手をひらひらさせながら各々の戸口へと消えて行った。 「待ってるよ」 「ああ」 お理津の後ろで紫乃は何も言わずに深々と頭を下げる。 「では、行って来る」 お理津は昨夜の彼の言葉を胸に待つ事に決めた。そして長屋の門を出て見えなくなるまで、その姿を見送った。 「行っちまったねえ」 中へと戻り、しんと静まり返った部屋を眺めて溜め息。傘貼りの道具は押し入れに片付けられて、いつになく広々としている。 「この先、どうなっちゃうの?」 お理津は紫乃の手を強く握った。 「言ったろ。あんたは私が守るって。何も心配する事なんて、ないさ」 だが、その声は震えていた。暫くして、ぽつり、ぽつりと、庭の葉を叩く音。 お理津はその日から、毎日のように紫乃と肌を合わせるようになった。与兵衛の居ない寂しさを埋め合わせるかの如く。ただ、満たされないのは紫乃も同じ。止めどなく溢れ続ける欲求と、決して消える事の無い孤独。 「私、たぶん病なんです」 「具合でも悪いのかい?」 「いつもあそこが疼いたまんまで、こうしないと駄目なんです」 弄り合う。堕落か。それとも本当に壊れているのか。お理津には分からない。もうどれだけ抱き合っていただろうか。外はすっかり暮れていた。 突然戸口を叩く音に、二人は飛び跳ねるように驚く。与兵衛が旅立ってから、初めて叩かれた戸板。 「ど、どちら様?」 「俺だ。紀之介だ」 「なんだ、旦那かい」 久間である。お理津は襟元を正して、戸口の閂を外した。 「なんだとはご挨拶じゃねえか」 行灯に浮かび上がる久間の顔。その奥にもう一人、見馴れぬ男が立っていた。 「部屋を使わせて貰うぞ。大事なお客様だ」 行灯の火を消すと、もう片方に携えていた大徳利をお理津に手渡した。 男はどうやら侍らしい。差し出された大小の拵(こしら)えを、すかさず紫乃が受け取る。武家に奉公していただげあってか、その所作は自然である。 「この方はな、町方与力の峰岸様だ」 実直そうな眉の下に窪んだ目許。暗く光るその目は、お理津の爪先から顔までを舐め回す。 「ほう、なかなかの器量良しではないか」 一文字に引き締まった口の端を微かに吊り上げて言った。深々と頭を下げるお理津。 「そんな滅相もありません」 紫乃は押し入れから客人用の蝋燭を出して来て火を灯す。そんな小気味良く動く彼女に、久間が声を掛けた。 「紫乃。久しぶりだな」 「へ、へえっ!」 弾かれるように向き直って膝を正し、土下座。 「心配すんな。何も咎めたりはしねえ」 「へえ!」 「その代わり、くれぐれも粗相の無ぇように……分かってるな」 その歪んだ笑顔は床に額を擦り付ける紫乃からは見えない。峰岸はすでに久間と茶屋で話して来たらしく、二人して顔が赤かった。しかしまだ飲み足りない様子で、お理津の酌も一気に飲み干す。 「さて、私はこれで退散します。ごゆるりとお遊び下さい」 「おお、すまんな久間。……二人とも、好きにしていいのだな」 「左様で」 「だ、旦那、紫乃ちゃんは……」 「お理津、分かってんだろ。ご無礼の無いように」 それだけ言って、久間は紫乃を呼び付けた。そして、袖の下から一分銀を彼女の手に忍ばせる。 「手当てだ。これでお前たちも暫くは食えるだろう」 紫乃はその四角い粒を見つめ、握り締める。振り向けばお理津は峰岸に小袖の帯を解かれていた。 「お理津と申したな。いい体をしておる。肉付きが無いのも俺の好みだぞ」 濡れ易い性分なのか。故に夜鷹も続けて来れたのだろう。お理津は座ったまま裸けた胸を吸われ、既に喘ぎ声。紫乃は膳を下げて布団を敷く。そして水を満たした小さなタライを枕元に置き、手拭いを湿らせた。気が付けば久間はもう居ない。 「ほう。気が利くではないか」 終始無言で峰岸の額の汗を拭う。締め切った部屋は蝋燭の炎が揺らめくだけで、峰岸とお理津の肌から噴き出す汗粒を輝かせていた。 「紫乃と言ったな。俺の帯も解いてくれ」 峰岸はお理津を布団に寝かせ、紫乃に手伝わせながら肌を出してゆく。脱がせた着物を彼女は丁寧に折り畳み、下帯も緩める。現れた玉鞫は、すでに怒張。 「んぁ……」 目の前で繰り広げられる絡み合いを見詰め、息の荒くなる紫乃。立ち昇る淫靡な湿気を胸一杯に吸い込んで、ため息。 「この濡れ様、益々気に入ったわ」 「ん……峯岸様の指が、お上手なんですよお」 「はは、言うわ。ならばもっと濡らしてやろう。おい、お前も手伝え」 ほんの一瞬、紫乃の目が輝いたのを、峯岸は目敏く見逃さなかった。乳房は紫乃の指と口、下半身は峯岸の指に攻められ、身を捩るお理津。紫乃は彼女の感じる壺をすっかりわきまえているようで、突起の周囲を羽のように躍る。 「どうだ」 「はっ……狂って、しまい、ます!」 「ははは、狂ってしまえ狂ってしまえ」 二本指、怒涛。ほとばしる淫汁。仰け反り背中を浮かせる細い肢体。 「逝くっ!」 「逝かせぬ!」 ずばり、と、指を引き抜く。時が止まる。 「まだ逝かせぬ」 ふるふると揺れる、朱火(あけび)のような肉の房、ふたつ。その色付いた果肉の間に間に、めくれた臓腑。燭台を、近付け照らせば果汁がこぼれる。この、有り様。 「この女、楽しませてくれるわ」 「ご、後生です。やめないで下され」 「こやつばかり可愛いがってはつまらぬだろう。なぁ、紫乃とやら。お前も脱ぐのだ」 「駄目……紫乃ちゃんは……」 お理津の訴えは虚しかった。紫乃はこくりと頷き、自らその帯を解く。 「さあ、尻を寄越せ」 仰向けのお理津に覆い被さる形で、紫乃。四つ足となり尻を突き出す。 「なんと。まださして使われておらぬでは無いか」 「その通りで御座います。紫乃はまだ、おんなになり切れておりません」 「そうか。ならば仕込んでやろう……ぞっ!」 「ひあっ」 両の掌で尻を割り、顔を埋める。粘膜と粘膜を擦り合わせ、ぬるりと伸びる舌の侵食。 「かふっ」 紫乃が息を吐いた時、お理津と視線が繋がり合った。紫乃の目はお理津に対する憧れ。が、お理津のそれは憐れみを浮かべる。 「紫乃ち……」 言葉は唇に吸われてゆく。鼻息が互いの頬を擽る。唇が離れた時にお理津が目にした物。それは少女とは思えない、暗く妖艶な微笑み。何かを言おうとした。だが、暇(いとま)も無く突き立てられ壺を満たしてゆく峰岸の肉棹。口から漏れたのは、声になれなかった熱い空気。お理津は溺れてゆく。 「さてはお前、すでに濡らしておったな」 「……言わないで下さいまし」 絞り出すような声で紫乃。広げても狭い入り口の中は闇。お理津を突きながらも、体内の暗がりを覗き見て口の端を吊り上げる峰岸。紫乃の目の前には、目も口も半開きなお理津が揺れる。 「どれ」 「は」 指が造作もなく。 「それ」 「ん」 二本目も然り。 「ふむ」 「んんん」 お理津の頭を抱きかかえるように、しがみつく。 「こら、腰を動かすな」 「でも、でも……」 勝手に上下、止まらず。止める事が出来ず。そして二人のおんなの声が、動きが重なり合ってゆく。 「だっ、逝くっ」 「逝かせぬ!」 ずばり。肉棹が抜かれた。お理津の淫汁にまみれたそれは、上のもうひとつの壺へ。 「痛っ!」 紫乃の顔が歪む。細腕でお理津の頭を締め付ける。 「紫乃ちゃん……」 「だ、大丈夫……です」 体を密着させるお理津は、小刻みに震える振動と熱い程の火照りを全身に感じ取った。愉悦が伝染する。乳頭が擦れ合う。 「せ、狭いな。これではすぐ出てしまう」 抜いて深呼吸。気を整え再び下の壺に。二人の淫汁が混ざり合い、いよいよ滑り良し。 「くっ」 お理津と紫乃が共鳴し溶け合う。そして骨が軋まんばかりに抱き締め合い、共々昇りつめてゆく。峰岸は圧着された二つの谷間に分け入るが如く踏み入れ、上下の敏感な芽を同時に蹂躙。激しき摩擦。容赦無し。 「も……だめ……」 「あたしも……」 「参る!」 谷に精汁が注がれ、花が咲き乱れる。 三人が三人、共に天へと昇り詰めた。 やがて浮遊感から急降下。この暗い長屋の一間に墜ちてゆく。 墜ちたこの部屋は、地獄かも知れない。それは、お理津と紫乃の感じた事であった。 「お前たち、気に入った。大層気に入ったぞ。これ程楽しめたのは久しぶりだ。今度俺の屋敷に来い。たんと可愛がってくれよう」 ぐったりと重なり合う二つの女体は、返事をする活力も費えていた。峰岸はそんな二人を後目に、満足顔で帰って行くのであった。
21/02/19 12:40
(iBTcA.Ti)
隣近所の評判はすこぶる悪かった。薄い壁を隔てて夜な夜な喘ぎ声が聞こえて来るのであるから、眠れたものではない。だが、いくら大家に文句を言っても、馬の耳に念仏。それもその筈。
「さて、今度はなすびでも入れて見ましょうかねえ」 「大家さん、変な物ばかり入れないでおくんなましよ。私の体は玩具じゃないんですから」 単(ひとえ)を着たまま裾をからげて仰向けのお理津。長屋の大家である左平次は、脂肪を揺らしながら少年のように目を輝かせ、彼女の股を開く。 「何をしても構わぬと言ったじゃないですか。こっちは金子を払ってるんですよ。さぁ紫乃や、これを」 水を張ったたらいに浮かぶ野菜から取り上げた茄子。紫乃は手渡された瑞々しいそれを見詰める。 「どうした。早くお理津の穴に入れておやり。それとも自分の穴に入れたいのかい?」 「私のは小さいから無理です」 左平次はこの部屋に通いつめており、すでに馴染みとなっていた。ただ、いつも少々変わった事をする。外は梅雨も明け、今年最初の蝉の声。じっとりと滲む汗で濡れた小袖が、紫乃の体に貼り付いている。 「むっ」 つるりと呑み込まれ、ひんやり。またつるりと吐き出され、繰り返す様(さま)に紫乃は楽しげ。汗とも淫汁ともつかぬ濡れようで、滑りも良し。 「紫乃や。これも入れてやりなさい」 今度は胡瓜を手渡され、左平次の顔を上目遣いに見詰める。 「菊座に入れるのです」 不思議そうな顔が好奇に満ちた顔へと変わる。 「そ、そこは堪忍してください……」 左平次は、胡瓜を握り締める紫乃の手に、自分の手を添え包み込んだ。べったりと汗ばんだ手である。 「指を伸ばして……そう」 左手も同じく大きな掌に包まれる。密着する脂肪が紫乃の背中を蒸らした。 「お前さんは若草の匂いがするねえ」 紫乃の体から立ち昇る熱気を胸一杯に吸い込んで左平次。二人羽織りのように左手を操り、茄子を含んだ陰唇に皺の無い指を沿わせる。若筍に味噌を塗り付けるような手付きで粘液を絡め、そのまま降ろして菊座へ。 「ひぁ」 呼吸に合わせて伸縮する筋の、弛んだ隙につぷり。先端を沈めた胡瓜は、ずずいと吸い込まれていった。同時に押し出されて来る茄子を左手で押さえる紫乃。いとおかし、とばかりに笑みを浮かべる。 「お理津さん、痛く無い?」 「はぁぅぅ……は、恥ずかし……」 お理津は両手で顔を覆った。裏庭は炎天下。生暖かい風が紅潮した肌を撫でる。 「はっはっ、そうでしょう、そうでしょう。茄子に犯されながら尻から胡瓜を食うているんですからねぇ。どう思います? 紫乃」 「……いやらしい」 左平次は満足気に頷いた。 「ほれ、もっと激しく出し入れしておやりなさい……このように!」 二人羽織で操る手に抵抗は無い。もはや、操るまでもなし。 「ふんんーっ」 立てた膝が愕々と痙攣を始める。刺を落としてある胡瓜は既に滑りも良く、排泄感がお理津の恥じらいを切り裂いてゆく。弛緩した口元からは唾液が頬を伝い、焦点は天井を突き抜ける。 「あああああああ」 「きゃっ」 唐突に尿道が暴(は)ぜた。左平次に背後から抱かれる形の紫乃は避ける事もままならず、小袖が放水を浴びる。 「さ、左平次様。これ以上したらお理津さんが壊れてしまいます」 「いいんですよ壊れても。ご覧なさい。この愉悦に溺れた顔」 くつくつと、妖怪の如き笑い声が紫乃の耳元を舐める。その時、お理津の腰が幾度も跳ね上がり大量の淫汁が噴射され、紫乃はそれを顔に、胸元に浴びた。茫然と背中の柔らかい脂肪に背凭れる。 「さて。次はお前の番ですよ」 汗まみれの背中を冷やす囁き。 「私は、まだ……慣れてませんから」 「慣れるのです。そしてお前も、お理津のようになるのです」 目の前には、足を大きく広げたまま痙攣し続けるお理津。陸に揚がった魚のようである。その股間の前には、濡れぼそった茄子と胡瓜が転がる。その有り様を嘲笑するかのように喧(やかま)しい蝉の声。 「あっ」 大音量の中で、押し倒された紫乃の上に左平次が覆い被さった。 夕日色に染められた濡れ縁の照り返しで、壁も柱も淡い朱。静かに虫の声が降り注ぐ中、絡み合う二つの女体。左平次が帰っても尚、終わり無き真昼の暑さが続いていた。もう、幾度気をやった事か。 横たわる互いの顔の前に互いの下腹部。紫乃の右手はお理津の膣に手首まで呑み込まれ、お理津の舌は紫乃の菊座を圧し広げる。ひとつとなる二人の体は、溶け合って混沌。その意識は雲の上でも漂うかのように、部屋の中をゆらゆらとさ迷い続け、冥府と俗世の狭間にあった。終わり無き悦楽の園。 「あたし恐い。このままだと、与兵衛さんへの想いとか忘れちまうんじゃないかって」 汚れた小袖と単はたらいの中。暗くなってもよしずを揺らす生温い風。 「私は逆。与兵衛さんが帰って来たら、私がお理津さんに忘れられちゃうんじゃ無いかって、恐い」 「そんな事、無いよ」 「でも。与兵衛さんと夫婦になっても……変わらず紫乃を抱いてはくれますか?」 「……紫乃ちゃん」 共に疲れ果て、ただ怠惰に身を任せていた。むせ返るような匂いが未だ立ち込めている。 「私は、こうしている今が幸せ。もし姉様が抱いてくれなくなったら私、死んじゃいます」 「こら、滅多な事言うもんじゃないよ。与兵衛さんが帰って来ても紫乃ちゃんはずっとここに居て、三人でまた暮らすんだよ。……まぁ、あんたにいい男(ひと)でも出来ちまったら別だけどさ」 「いい男なんか。お理津さんには与兵衛さんが居るけど、私みたいな人間には……」 「そんなこと……」 お理津にしがみ着く腕に力が籠る。顔を胸に埋(うず)めながら。 「お坊さんに初めて色んな事された時私、自分の本性見ちゃったんです。いやらしくて、貞操も無くて、残酷な自分を」 己が内包する闇を知ったが故に餓鬼道。男を知らなかった頃には戻れない。だからこそ、本性のままに生きるお理津だけが、紫乃にとって生涯を共にできる唯一無二の存在。そう、感じていた。 「お理津さんだって、本当は夜鷹になってる自分が嫌いじゃないはず」 「ば、馬鹿な事言うんじゃないよ。あたしは好きでこんな事……」 「好きなくせに。私に気持ちいい事、初めて教えてくれたのだって、姉様じゃない。それに、男の人に色んな事されてる時の姉様、とても幸せそうだもの」 お理津は何も言い返せなかった。自分は淫乱であると、知っていながら認めたくは無かった。 「……本当は、あたしみたいなのが、紫乃ちゃんを拾っちゃいけなかったのかも知れない」 「ううん。親に売られたも同然な私に、行く場所なんて無かった」 お理津にしても似たような境遇である。行く宛てもなく、橋の下で震えていた頃があった。最初は生きるために仕方なく体を売っていた。嫌で嫌で仕方なかった。しかしいつしか心の奥底で、沢山の男に抱かれる事を求めていた。そこには目を背けたくなるような、もう一人の自分。そして初めて紫乃を見た時、まるでそんな自分を見ているような気がした。 「今日のお理津姉様、すごかった。あんなに感じられるなんて、羨ましかった。だから、左平次様が言ってたように、早く姉様のようになりたい」 元はと言えばお理津が夜の闇に引き摺り込んだも同然だった。しかも、抱いてくれない与兵衛に対する欲求不満から、彼女を使ったのだ。一人で下帯を濡らしているのは嫌だったから。そうだ。一番いやらしいのは紫乃ではなく自分だ。 「お理津さん。いえ。お姉様。どうか私を与兵衛さんの代わりには、しないでください。紫乃を、抱いてください」 お理津は、紫乃を強く抱き締めるのであった。 風の匂いが変わった。過ぎ去った夏の暑さの代わりに、少しばかり高く感じられるようになった空の下、城下町に与兵衛が帰ってきた。 長屋の狭い部屋は雨戸も閉められたまま、黴(カビ)臭く澱んだ空気に満たされている。 「どう言う事だ」 前を向いたまま、傍らに肩を並べる久間に声を掛けた。 「どうもこうも無え。半月も前だったか、急に二人とも消えちまったんだよ」 握る拳に力が入る。 「一体、何が有ったと言うのだ」 「さてなぁ。俺も市中を廻っているが、全く姿を見ねえ。本当にいきなり消えちまったんだよ」 土間で膝を崩す与兵衛。 「なぜ、待っておらんのだ……」 「夜鷹なんてなぁ気まぐれなもんさ。その内ひょっこり戻って来るんじゃぁ無えか?」 それは慰めの言葉に他ならないと、与兵衛も知っていた。文字でも書ければ、せめて手紙ぐらいはあっただろうか。しかし丁寧に片付けられた調度品。しっかりと閉ざされた戸板。これらが、人拐いなどではない事を物語っていた。 「お理津……」 肩を落とす与兵衛を、久間はただ冷めた目で見下ろしていた。 月が丸い。その明るさは、庭の石燈籠の影を苔の上にくっきりと映すほど。城下を川沿いに一里も歩いた田園に、忘れ去られた廃寺がある。廃寺と言っても床が綺麗に磨かれている事から、手入れをする者が居ると知れる。 夜な夜な本堂で開かれる宴は鈴虫の声に奏でられ、しかしながら合間に聞こえる呻きや喘ぎ。男たちの顔は貪亂に醜く歪み、その様相はまるで魑魅魍魎の酒盛り。 久間とその岡っ引きの喜作、町方与力の峰岸、それに長屋の大家、左平次。酩酊する四人の男たちの中心に仰向けで横たわるふたつの肢体は、お理津と紫乃であった。揺れる蝋燭の炎に照らされる中、絡み合う女体。 寺には沢山の供え物があった。近在の百姓たちが持ち込んだ物である。そのお陰でお理津と紫乃は暮らしには困らなかったが、昼夜問わず訪れる百姓たちの相手をすべく足を開いていた。ここに居る四人もまた、足しげく通い詰めている。 結ばれる筈も無し。と、言い切ったのは峰岸であった。役目を持つ武士と夜鷹風情では身分が違い過ぎる、と。結ばれるためには与兵衛が役目を捨てひっそりと内職に勤しむか、ともすれば武士という身分を捨てる他、あらずと。左平次も久間も、口を揃えて峰岸に同意した。 「紫乃は幸せです」 お理津の腕の中で言った。膝頭に自らの股間をこすり付けながら。揺れる蝋燭の炎に照らされる中、四人の男など意にも介さぬと言った体(てい)で。 お理津もまた、この快楽の海に溺れていた。いけないと言いながらも体は求めている。無情な毎日なれど、与兵衛への想いは愛撫によって塗り潰されてゆく。人々の性欲を満たすために自分は産まれてきた。いつしか、そう思うようにもなっていた。 やがて絡み合う二人に幾本もの手が伸びて来る。燭台の火は消され、月光の照り返しだけでは誰が誰かも判らぬ混沌。闇の中でしかし、お理津と紫乃はしっかりと手を繋ぎ合っていた。陰唇も口もなぶられ、幾つもの乱れた息は不協和音。揺れる板の間。 人とは思えぬ咆哮が響いた。虫とも獣とも違う。気をやる中でお理津は恐怖を感じ始める。膣内で暴れるのは男、の筈なのに、まるで別の生き物のようにうねる。肥大化する。現実は闇に隠され、月夜に目覚めた欲情の魔物が暴かれる。脂肪の乗った腹の上は、雲の上にいるみたいで、背中にのし掛かる紫乃もまた後から突かれているらしく、波打つ肉布団。 梟の声は眠気を誘う。幾つもの寝息の中、人肌に包まれるお理津は安らぎを覚えた。 ……誰でもいい。 誰かの腕の中があたしの寝床なんだ。思えばあたしは、本当に与兵衛さんの事が好きだったのか。 ただ、あの男に抱かれたいと願っていただけじゃないのか。 女房になるなんて最初から無理だって知ってた。 夜鷹はあたしの天職だったんだ。 数え切れないほど男に抱かれて来たけど、抱かれてなければ狂ってしまう。 たぶんあたしは狂ってしまう。 一人眠れぬお理津は、濡れ縁に腰掛け月明かりを浴びる。火照った体を夜風に晒す。紫乃も自分も、産まれながらにして夜鷹なのかも知れない。今の自分は本当は幸せなのかも知れない。そう、彼女は思った。 ―完―
21/02/19 12:43
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