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1:夜鷹の床
濡れ縁に雀。障子の穴から乾いた風。骨組みとなった古傘に糊を塗り、柿渋を塗りたくった朱染めの和紙をピシャリ、と貼り付ける。長屋の手狭な三坪六畳間は、足の踏み場もないほどまでに傘で埋め尽くされていた。その中で大喜多与兵衛は黙々と傘貼りに没頭している。
男が一人、断わりも無く木戸から入って来た。与兵衛は意にも介さず。 「相変わらず精が出るのぉ」 男は土間で埃を払ってかまちに腰を降ろし、その瓜実顔をつるりと撫でる。 「お前も暇な男だな。いいのか? こんな所ほっつき歩いてて」 「いいのさ。廻り方同心なんざ暇な役目よ」 男の名は久間紀之介。与兵衛とは旧知の仲である。雀が何かに驚き音も発てず飛び立つ。柔らかな日射しだけが濡れ縁に残る。 「それより聞いたかい?」 「何をだ」 「辻斬りだよ。今朝、美濃屋んとこの角に仏さんが転がっててなぁ。巷じゃこの話でもちきりだぜ」 近ごろ浪人風情が他国から多く流れ込んで来た。そのせいもあってか治安は乱れ、町人たちも枕を高くしては寝られない毎日。 「俺は昼まで寝てたから知らん」 「呑気なもんだな。もうお天道様も傾いちまったぜ」 「だいたい辻斬りなんざ夜出歩かなければいいんだ。俺のような貧乏侍には色町で遊ぶ金子も無いしな」 与兵衛は手を休め、無精髭をぼりぼりと掻きながら久間のほうを向く。 「何が色町か。夜ごと夜鷹を連れ込んでるって聞いてるぜ?」 「人聞きの悪い。あれは雨宿りしたり夜露を凌いでるだけだぞ」 「どっちにしろ、いい噂は立ちゃしないよ。卑賎の輩と武士であるお前様が、ひとつ屋根の下で暮らしてんだ。ましてや若い男女と来らぁ、噂も立つってもんよ」 「噂など知った事か」 「とにかくだ。あんなもん連れ込んでないで、いい加減嫁でも貰ったらどうだい?」 「なぜ所帯の話になる。だいたい十石二人扶持でどうやって嫁を食わす」 「だからよ、お前様もいつまでも傘なんざ貼ってねぇで、奉行所に仕官しろぃ。俺が口利きしてやんから」 「俺は此れが好きなんだ」 ピシャリ。 与兵衛は再び手を動かし始めた。口の減らない久間は、放っておけばいつまでも喋り続ける。 「ま、茶も出ねぇ事だし、俺はこの辺で……」 「お前、何しに来たんだよ」 「お?」 久間がダルそうに腰をあげ長屋を出ると、晴れていたのが嘘のようなどんよりとした空模様。 「こりゃ、ひと雨来そうだな」 「そこの傘持ってきな」 「おう、そいつぁ有難てぇや。お前様の傘は滅多に破れねぇって巷でも評判だからな」 先ほどまでとはうって変わって湿った風が、蛙の声を運んで来る。与兵衛も思わず障子を開け、身を乗り出し天を仰ぎ見た。 ポツリ。 と、鼻先を濡らす一滴の雨粒。しかしながら一向に降るのか降らないのか、はっきりとしない曇り空。暫くして、猫の額ほどの庭に植えられた紫陽花の葉を、雨が叩く音。蛙の声が呼び寄せたか、夕暮れ近くになるにつれ強くなる雨脚。 雨脚は強くなるばかり。あまりの飛沫で、運河沿いの通りにはうっすらと靄のような膜が広がる。 「さっきまで晴れてたのに、なんだよ」 独りごちも瞬く間に掻き消された。こんな時に与兵衛さんが通り掛かれば。などと都合の良い事を考えている、お理津。 運河に掛かる橋の袂に、ぼんやりと傘をさす人影が浮かび上がった。お理津は眉間に皺を寄せながら滝のような雨脚を透かし見る。 「久間の旦那じゃぁないか」 「む? その声はお理津か?」 薄暗くなり始めた軒下からいきなり声を掛けられ、ぎょっとした顔の久間。辺りをキョロキョロと伺う。 「あはは、誰も居やしないよう」 「こんな明るい内から声掛けんじゃねぇや!」 とは言え夕立ち。町屋は影を濃くし始めている。 「あら。廻り方同心が夜鷹に声掛けられちゃ、バツが悪いってかい?」 「おうさ、誰かに見られでもしたらオメエ」 「ご挨拶だねえ。そんな言い草されたんじゃ、もう旦那の相手なんかしてやるもんか」 「それは、こまる」 久間は依然、辺りを気にし続けている。 「ねぇ旦那ぁ。与兵衛さんの家まで、入れてっておくれな」 お理津は見上げながら、傘を叩く雨音に負けぬほどの声で言った。 「それも、こまる。いいか、くれぐれも与兵衛には何も話すんじゃねえぞ」 「いいじゃないか。ただの買った売ったの関係なんだからさぁ」 「気まずいってんだよ」 久間はもはや馴染みと呼べるほど、お理津と通じていた。彼女が宿り木のようにしている与兵衛とは旧知の仲。だけに、なんだか申し訳ないような。それでも……。 「今夜、酒の席があってな。酌なんぞ頼みてぇんだが。戌の刻、弁天橋の袂で待っている」 「はいはい」 言い残し、久間は背を向けると左手を挙げ、そのまま雨の中へと消えて行った。 「ひやぁ、すっかり降られちまったよお」 木戸から断わりもなく入って来たお理津は濡れ髪で、抱えていた莚を土間に放り投げる。狭い部屋を埋め尽くす傘の中で、丸い背中が揺れた。与兵衛である。 「お理津か。そろそろ来るんじゃないかと思ってたよ」 「あたしを待ちわびてたんかい?」 「馬鹿言え。ほら、そっちの傘はもう乾いているから畳んでいいぞ」 お理津はその辺の傘を畳み、自分の座る場所を作った。結ってもいない髪は重く垂れ、一重の大きな目がその割れ目から覗いている。筋の通った鼻先に雫。「借りるよ」とだけ言って、かまどの上にあった手拭いで髪を拭く。 「まったくさ、河原でお侍の相手してたら、いきなりこの大雨さ。途中でやめて金子も取らずに慌てて雨宿りだよ」 「夜鷹が昼間っから商売かよ」 「しょうがないだろ? 今どきたったの二十四文なんだ。明るかろうが暗かろうが、やれる時にやんないと飢え死にしちまうよお。それともあんたが食わしてくれるってのかい?」 忙しなく髪の毛を拭うお理津は、久間に負けないくらい減らず口を叩く。 「俺の稼ぎもお前とたいして変わらん」 「嫌だねぇ貧乏話は。あたしだって芸事のひとつでも覚えてりゃ、遊廓でもっと稼いでやるんだけどねえ」 「お前の不器用は生まれつきだからな」 与兵衛を睨み付けるも一瞬。しんなりと膝を崩し甘い声で囁く。 「でもね、男をよろこばせる事にかけちゃ、誰にも負けやしないよ」 「こら! そこの傘はまだ乾いておらん!」 「んっもぉぉぉ、狭い狭い狭いっ! こんな傘だらけの部屋だから……」 朱色の花が咲き乱れる六畳間、小さな拳で膝をだむだむと叩く。そんな姿を見て、与兵衛は微笑むのであった。薄暗い中で糊を仕舞い、乾いている傘を畳んでまとめあげる。お理津はかまどに火をくべて雑穀を炊き、梅干しと漬物で質素な食卓を作る。 「いつもすまぬな」 「やめとくれよ。別に女房の真似事なんかしようってんじゃないけど、これくらいはしないとさ」 まるで通い猫だな、と与兵衛は思う。気が向いた時勝手に上がり込み、気付けばもういない。いよいよ何も見えなくなってから行灯は灯された。菜種油も安くはない。 「もう夕立の季節だな」 「うん、だいぶ暑くなって来たよ」 質素な晩飯であっても顔を突き合わせて食すれば美味く感じるというもので、その点彼は有り難くも感じていた。食べ終わる頃になって夏虫の落ち着く音色。行灯の明かりは土間にまで届かず、食卓を片付けるお理津の手元は暗い。 「聞いたか? お理津。昨晩辻斬りが出たそうだ」 「物騒だねえ」 「他人事のように言うでない」 片付けが済んでから酒器を出し、二人は酒を酌み交わす。 「あたしの事、心配かい?」 「……」 答えず、黙って杯を突き出す。 「刀で斬られるか飢え死にするかの違いじゃないか」 「もう酔ったのか?」 「このくらいじゃ酔いやしないよ。さてと、雨も止んだみたいだね」 「行くのか?」 「行ってほしくないのかい?」 「馬鹿言え。忙しない奴だと呆れていたところだ」 「莚置かしといてもらうよ。朝方、またお邪魔するけど」 「勝手にしろ」 雲の切れ間から少し欠けた月が顔を覗かせている。はぐれた風に柳が揺れれば、湿った青臭さが鼻孔をくすぐる。道はぬかるみで、月を映した水溜まりを避けながら歩く。やがて、昼間雨宿りをしていた軒下に再びお理津は立った。 通りは風が過ぎるばかりで人影は無い。お理津は遠くに揺れる提灯を見たが、橋を渡って来る手前で右に折れてしまった。ため息は行く宛てもなく闇に溶ける。 「ちょっと早かったかねぇ」 独り言も虚しく朧月。その時、先程提灯の消えて行った運河沿いの道に人影が現れた。闇を透かして見れば、その侍ていの男は久間である。軒下から出て橋を渡るお理津に気付き足を止めた。 「いい月夜だねえ、旦那」 「そうだな」 ひと言だけ答え、久間は黙って歩き始める。お理津はその後を、ただ静かについて行った。
2021/02/18 19:54:43(q2vJdmCe)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
「いてて……」
彼女は体を起こして岸辺にしゃがみ、川の水で膣を濯いだ。 「今日はもう帰ろう」
21/02/19 06:30
(iBTcA.Ti)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
芸のひとつも覚えられれば、遊廓にも入れただろう。が、いずれも地獄に変わりは無い。
「与兵衛さんにこんな傷見られたら、また要らん心配掛けちまうね」 生きる理由はただひとつ。自分が生きている事を許してくれる人がいるからだ。
21/02/19 06:33
(iBTcA.Ti)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
(禁止ワードに引っ掛かり投稿出来ていませんでした。その禁止ワードが何かを探るために、投稿が細切れになってしまいました) 風に吹かれて葦がざわめく。そのざわめきの中に行為の一部始終を覗き見ていた目があった事に、お理津は気付かなかった。後を追って来たにも関わらず、よろよろと河原を後にする彼女を見送るばかりで、最後まで声を掛けられずにいたのは紫乃。与兵衛の部屋で一人じっとしている事が、申し訳なくもあり嫌でもあった。 「何してんだろ。私」 まるで強姦のような交わりは紫乃にとっと衝撃だった。そこまでして得る金子は雀の涙で、それでもお理津は守ると言ってくれた。なのに自分はなんと無力なことか。 紫乃は河原沿いの道にある小さな祠の前で、一人膝を抱えて座り込んでいた。このまま甘えていても、いいのだろうか。生きていても、いいのだろうか。夏虫の静かなる声は紫乃を慰めているように優しげであった。 しばらくすると、僧侶の風体をした男が提灯を掲げ、川沿いの道を歩いて来た。坊主頭は宵闇でも目立つ。紫乃は咄嗟に祠の影に隠れ、やがて前を通り過ぎようとしたその時。 「あの……」 「うおっっ!」 僧侶は驚き数珠を出す。 「な、なんじゃ。小娘ではないか。儂はてっきり物の化かと思うたぞ」 よく見れば老体。立派な顎髭は白髪混じりである。 「あの……私を買っては、くれませんか?」 「なっ、出し抜けに何を言うんじゃ」 紫乃は下を向いた。緊張で膝が震え出す。 「お前さんはなんだ。その若さで夜鷹の真似事か?」 「……」 何も考えず、ただ当てずっぽうに声を掛けてしまった。説教でも始まるのかと思いきや、老僧はただ黙って紫乃の手を取る。皺だらけの手が、まるで血が通ってないかのように冷たい。 河原からほど近く、寂れた感じの古寺があった。屋根は茅葺きで苔むしており、種が飛来したのかペンペン草まで生えている。 「ほれ、遠慮はいらん。入りなされ」 真っ暗な本堂の中もまた埃っぽく、ともすれば廃寺にも思える荒れ様であった。燭台に火が灯されると、闇に鈍い輝きを纏いつつ浮かび上がった観音像。手入れを怠っているのか、よく見れば蜘蛛が巣食っている。 「あの……」 「そう緊張するでない。ささ、脱ぐんじゃ」 何もされないのかと微かに持った安心感も、たちどころに消え去った。ただのなまぐさ坊主のようで、禁欲の欠片も無さそうである。しかしいくら俗物とは言え、掃除ぐらいはしないのだろうか。紫乃はここに来て後悔した。やはり怖い。棒立ちのままただ俯いていると、見かねた老僧は口を開いた。 「何も案ずるでない。儂はもうこの歳じゃから、勃つもんも勃たん。ただ老い先短いよって、若い身体を拝みたいだけじゃ」 そうは言うものの男の前で裸になるのは恥ずかしい事に変わり無く、帯を解く手が震える。やがて蝋燭の灯に細い足が浮かび上がった。目の前で胡座をかく老僧の顔は近い。 「ほうほう、肌が絹のようじゃな」 満面の笑顔を見せながら自分の頭をつるりと撫でる。はしゃいだ様子がまるで子供のようだと紫乃は思い、少し緊張も溶け始めた。下衣を脱ぎ、そして緋縮緬の腰巻きがはらりと床に落ちれば、蝋燭の炎を揺らす。あまりにも静かで、衣擦れの音だけがやけに際立つ。 「ほほっ、まだ女になりきれておらん小僧のような身体じゃ。穢れてないのう」 膨らみかけの胸と毛も生え揃っていない股間を手で隠し、顔は灯りのせいではなく赤い。 「どれ。もっとよく見せてみなさい」 言うと老僧は股間を隠す手を退けて、小さく盛り上がった恥丘を左右に広げた。恥ずかしげに顔を覗かす新芽が剥かれ、臓腑の入り口が垣間見える。老僧は手を離し、そして合掌。 「ありがたや。山門の奥に観音様がおられるわい。さて、とくと参拝させてもらおうかの」 不思議そうな顔で老僧を見詰めていた紫乃はその場に座らされる。そして今度は老僧が立ち上がり、法衣を脱ぎ始めた。 「なんと、何十年振りに疼き始めたわい」 筋張った腿の間にぶら下がった物が、別の生き物のように見える。 「頼む。この老いた棹を口に含んではくれまいか?」 哀願に近い。汗とも何ともつかない異臭に顔をしかめるも、紫乃はお理津が久間にしていた唇淫を思い出しながら、力なく揺らぐいちもつを口に含んだ。異物感が口の中に広がる。 「おおぉっ、こりゃ久しいのぉ」 紫乃の小さな口の中で肉の塊がみるみる大きくなり、そして固くなってゆく。唇は押し広げられ、鼻でしか出来ない呼吸がなんとも苦しい。 「こりゃ驚いた! まだ儂にもこんな精力が残っておったのか」 「んー……すん……んふんー」 頬が膨れる。紫乃は苦しさに涙目になりながらも一生懸命口を大きく開け、その若さを取り戻した棹を受け入れた。 「こりゃ死ぬ前に今一度、房事を遂げれるやも知れぬわい」 老僧は目を細めて言った。本尊である木彫観音像の前で、淫靡な音を立てる。紫乃は仰向けに寝かされ、膝を折り曲げた足を抱えるように持たされていた。大事な所が天井絵の極楽図に向けられている。節くれ立った皺だらけの指が、湿り気を帯び始めた縦の筋をなぞらえ、その度に紫乃は小柄な身を震わせていた。 「桜色の割りには、よう濡れるのぉ。煩悩汁にまみれておるわい」 老人相手ゆえの気の弛みかも知れない。いつしか紫乃は脳天を突き抜ける快感に溺れかけていた。 「やはり初物か。はて、儂の老いた棹で破れるかのぉ」 いとも簡単に没入してゆく二本の指が、擦れ、折れる度、敏感に反応し、熱い吐息を漏らす。出し入れしながらも暴れ、踊る度にこぽこぽと音を立てて大惨事。 「男を知らぬにしては淫乱じゃのう。ほれ、ここはどうじゃ」 「あふっ……」 ぬめりをそのまま菊座へと持って行き塗りたくれば、擽ったさと恥ずかしさが紫乃を襲った。人差し指と中指で腟内を遊びながら、同時に親指の腹で菊座を揉みほぐす。 「そ、そこは違います……」 「穴を間違えるほど呆けてはおらんて。まぁ儂に任せなさい」 そう言うと老僧は法衣を拾い、おもむろに印金を取り出した。印金とは携帯できる柄の付いた鈴(りん)である。呼吸に合わせて収縮する菊座に、その印金の柄を当てがった。 「な、なにを!?」 紫乃が息を吐く拍子に合わせ、つぷ、と、親指ほどもあろう柄の先端が押し込まれる。 「くはっ」 目を強く瞑りながら口を大きく開け、しかし声は出ない。呼吸ばかりが荒くなる。しかし息を吐く度、無情にも柄が奥へ奥へと呑み込まれていった。その排泄の感覚は、紫乃を恥辱で犯す。老僧の手には鈴棒が握られていた。 「儀礼じゃ」 チーン…… 「んあっ」 菊座に突き刺さった印金を鳴らす。澄んだ鐘の音が本堂に響き渡り、その音色は紫乃の体内にもこだました。 チーン…… 「いくっ」 打ち震える肢体。痙攣する肩。陰部からごぼり、と、粘液が零れた。 「お前さん、もう昇り詰めてしまったのか。なんと。のう」 チーン…… 「んっっ!」 その時、勢い良く発射された液体は粘液にあらず。それは黄金色の放水。 「おぅおぅ、この娘め、失禁してしまったか」 「いやぁぁぁ……」 止めどなく床を濡らす放尿。しかし老僧は困惑するどころか嬉々とした顔。 「案ずるな。生娘の小水は聖水と言うてな、清らかなる物なのじゃよ」 「はぁ、はぁ、はぁ……」 ぐったりとする紫乃。しかし彼女の心は浮遊し、視界の先の極楽図にあった。ぬるりと印金が尻から抜かれた時、開花した菊より恥ずかしげに空気が洩れた。 「屁も良い」 紫乃にとって絶えず笑顔を見せてくれる老僧は、何もかもを赦してくれそうな、そんな気がした。 「どうじゃ。筆下ろしをこの生い先短い老僧にさせてくれぬか。儂にとって房事はこれが仕納めかも知れんでな」 老僧が覆い被さる姿勢で紫乃を見詰め、髪を優しく撫でると、彼女は小さく頷いた。悲壮感すら漂う言葉に、慈悲の心さえも芽生えてしまう。貧相に痩せ細った体とは不釣り合いに、いきり勃つ陰茎。そのシミも浮き黒ずんだ亀頭が、淡い桜色の割れ目を分け入ってゆく。 「狭いのう。これほどの狭さは初めてじゃ」 「あっ……痛っ」 亀頭が半ば沈んだ所で、紫乃の全身に衝撃が走る。 「痛むか?」 「だ……大丈夫です。どうぞ、突き破ってください」 熱いものが紫乃の体内へと侵入してゆく。他人と繋がり一つとなる感覚に、痛みすら忘れてゆく。老僧は老体に鞭を打つように、精力を注ぐ。やがて奥まで。膜は貫かれ腟が棹によって満たされた。 「ひああぁぁ……」 「ふう」 ひと息ついたのち、ぴんと天井を指した乳首を撫で、舌を這わし、そして吸い上げ、痛みから遠ざけてやろうとする。しかし紫乃の顔は苦痛すらも受け入れ、頬を紅潮させ、快楽の海を漂う喜びすら浮かべていた。老僧にはその姿が神々しくも映る。 「動くぞ」 「はい……あっ」 動くほどに締め付けが強くなり、老僧も遂には我を忘れる。 「こりゃ、観音様じゃ」 強く抱き締めれば、紫乃の体は老僧の腕の中へと綺麗に収まってしまった。頭と肩を抱えながら腰を激しく前後させる。紫乃もまた老僧の背に腕を回すが届かず、ただ張りの無い背中を泳ぐのみ。互いの息が荒くなり、燭台の炎も揺れる。 「おぅっ、おぅっ、おぅっ」 老僧自身もが信じられないほどの激しい動きであった。ともすれば、この娘から若さや力を注ぎ込まられているのでは無いかと思えるほど。しかし、それは紫乃も同時に感じていた。子宮から流れ込んで来る気のようなものが全身に行き渡り、信じられないほど体が熱くなる。全ての神経が研ぎ澄まされ、今なら頭を撫でられただけで気をやってしまいそうである。 「あっ、んっ、逝っ……ちゃう」 「かぁっ!……ふっ!」 熱い精汁が放たれ子宮がたぎる瞬間、紫乃は意識を失ってしまいそうなほどに昇りつめた。止めどなく出される白濁は紫乃の膣を満たし、滲んだ血と混ざり合って遂には外へと溢れ出す。しかし腰の動きは止まらず、射精もまた止まらず。 足が引っ掛かったのだろうか、不意に燭台が倒れ辺りは一瞬薄暗くなった。目をこらして老僧を見れば、白眼を剥き口を開けたまま。なんと、魂が抜けているではないか。紫乃と共に極楽図へと達し、そのまま還らず逝ってしまったのだ。死して尚、腰を振り精汁を出し続ける。子種を残そうとする。 チーーン 他に誰も居ないはずの薄闇の底でリンの音が響き、同時に老僧の動きが止まった。否、止まったのは老僧ではなく紫乃。動いていたのは彼女の腰の方であった。 辺りが明るくなる。倒れた燭台の灯が法衣に燃え移ったのだ。仰向け様に骸(むくろ)が倒れるのに合わせ、紫乃の上半身が起き上がる。辺りを紅蓮の炎が包み始める。なお依然として勃起したままの性器。紫乃は骸に跨がる形で再び腰を上下させた。その目からは留めどもなく涙が流れ落ち、よもや動かなくなってしまった胸板を濡らす。 「う……ひくっ……はぁっ、ん」 泣きながら喘ぎ、吐息をついては鼻を啜る。まるで後を追わんが如く、何度も何度も逝き続ける。やがて骸の顔は穏やかなものへと移りゆき、なんとも満足げな死に顔。往生だったに違いない。火炎の中で、静かに木彫観音像が見守り続けていた。 本堂の引き戸を開ければ紅い月。月光を浴びて浮かび上がる紫乃の裸体は、紅潮しているのか月の色を映しているのか桜色。その顔は表情を失くしながらも涙だけが流れ続け、腿の内側を泡立つ汁が伝う。背後では炎が建物へと本格的に燃え移り、夜空を焦がし始めていた。
21/02/19 06:39
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投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
河原の道をさ迷う紫乃の姿はまるで幽鬼のようであった。幸いだったのは彼女を最初に見つけたのが、お理津だったという事。
「紫乃!……紫乃ちゃん、だよね?」 茫然自失とはこの事だろうか。目の焦点は合っておらず、お理津は一瞬言葉を失った。 「さ……探したんだよ! 部屋に行ったら、あんた居なくって。一体どこほっつき歩いてたんだよ! 何されたんだよ!」 肩を揺さぶると、紫乃はやっとお理津の目を見た。 「おじいちゃんが、死んじゃったの……うふ……はは、あはははっ」 急に笑い出した紫乃にぞっとする。気がふれてしまったのではないか? と。 「しっかりおし!」 「私、人、二人も殺しちゃったぁ。あははっ」 川沿いの先、松並木の向こうが赤いのは、まさか。抱き締めて頭を撫でる。とにかく、落ち着かせなければならない。 「いいから。与兵衛さんとこに帰ろ」 心が壊れてしまったのではないかと、怖くてたまらなかった。長着を脱いで紫乃に羽織らせ、お理津は下衣一枚となって紫乃の手を引く。 「私、もう大丈夫だよ? 男の人とだって、寝れるんだよ?」 「あんた、まさか……」 「私、もう子供じゃないよ?」 ぶつけ処のない憤りがお理津を襲った。こんな事になるのなら、紫乃を一人にするんじゃなかった。 「だから、私、もう誰にも苦労かけないから……」 「馬鹿だよ……馬鹿だよあんたは!」 「別に私、好きじゃない人にされても平気だよ。だって、こんなに気持ちよくって、全部忘れられて」 お理津は昔の自分を思い出させられた。十四の夏、彼女は引き取られた先の叔父に犯され、その時に心が死んだ。丁度、こんな風に。 やがて与兵衛の住む長屋に着くと、部屋から灯りが漏れていた。ぴしゃり、と、傘を貼る音がする。 「おお、帰ったか……って、どうしたんだその格好は!」 「何でもないよ」 二人のただならぬ姿を見て驚き、手を止めた与兵衛。しかしお理津はそれ以上何も言わず、大ダライを用意して水を汲みに行った。やがて井戸から戻ると桶からタライに水を移し、紫乃と二人、行水をするため裸になる。紫乃は股間から、お理津は背中からそれぞれ血を滲ませており、唖然とする与兵衛。 「お前たち……」 紫乃を腰まで水に浸からせ、膣の中を洗ってやる。 「痛いかい?」 「ちょっとヒリヒリするけど、平気」 水の中で指を差し入れると、まだ残っていた精汁が水に溶け出す。 「んっ……」 奥の方を掻き回すように濯ぐと、紫乃は吐息を洩らしてお理津に抱き付いた。 「こら。感じてんじゃないよ、この娘は」 「……だって」 体はまだ敏感なままだった。タライの水が仄かに赤く染まる。 「さ、今度はあんたが私の背中を洗っておくれ」 背を向けるお理津。擦り傷に砂が付着し、土で汚れている。 「実は私、見てたんです。お理津さんが河原で男の人としてたの」 振り向こうとしたお理津は、傷に水が沁みて動きを止める。顔が赤い。 「……こ、ここで待ってなって言ったじゃないか」 「一人でじっとしてるのが嫌だったから……」 静かな水音が狭い部屋に響く。与兵衛は何も言えず、目のやり場にも窮し、ただ無言の背中を向けているのみ。手が止まっている所を見るに、話は聞いているようである。 「でも、あんな所であんなにされてるの見ちゃって、私震えてばかりで何も出来なくって」 「痛っ」 紫乃は優しく傷口に触れ、そのみみず腫をなぞらえた。 「怖かったけど、でもあの時のお理津さん、すごく綺麗だった。あの時私、やっぱり姉さんみたいになりたいって思ったの」 やがて指を前に這わし、背後から胸をまさぐる。 「だから駄目だって。私みたいに……んっ」 「姉さんが教えてくれたんじゃない。こういうこと」 確かに。紫乃を目覚めさせてしまったのは自分かも知れない。 「また昼間みたいに……して」 「い、今は与兵衛さんが……」 やはり紫乃は壊れてしまったのかも知れない。そう、お理津は感じずには居られなかった。 「与兵衛さん……」 紫乃の声にびくり、と、丸まった背中が揺れる。 「お理津姉さんはね、与兵衛さんに抱かれたがってるんだよ。本当は与兵衛さんと、したくてしょうがないんだ」 「なっ!」 「ば、馬鹿! 何言い出すんだよこの娘は!」 背中に貼り付き、右手で胸を、左手で股間をまさぐる紫乃。お理津の顔は紅潮し目を潤ませていた。ちらりと覗き見る与兵衛の顔もまた、赤い。 「ひとをからかうでない」 お理津と目が合い下を向く与兵衛。確かにお理津は彼を誘惑したりもするが、半分本気で後の半分は冗談めかしており、彼もまた照れているのか、はぐらかしてばかり。だが彼のそんな生真面目な面にも彼女は惹かれていた。 「お理津姉さんのこと、嫌い?」 「いや、その……なんだ。こういうものには順序という物があってだな。い、色々と難しいのだ」 不思議な関係であった。与兵衛を寄り木としながらも体の関係は無い。 「与兵衛さんがしないんなら、私がしちゃうよ?」 そう言って紫乃は前に廻り、タライの中で正座するお理津の膝に跨がって唇を重ね合わせる。 「んっ」 紫乃の指がお理津の中へと入ってゆく。彼女の視線の先には与兵衛。彼の視線もまたお理津へと注がれ、交差している。彼に見られている、そう思うだけで体の芯が熱くなる。 紫乃は腰を前後させ、お理津の腿に尻を擦り付けながら彼女の乳首を吸い上げた。タライの水が波打ち、土間へと溢れる。 「紫乃ちゃん。何が……あったの?」 「んんっ」 それには答えず、俯きながら肩を竦めて下半身は淫ら。震えながら押し付けられる熱い粘膜を、お理津は膝に感じていた。この娘の本性は自分以上に助平なのかも知れない。お理津は腕で、その背中を包んだ。結っていない紫乃の黒髪が吐息に揺れる。 「お前たち、そんな所でじゃれ合っていたら体冷やすぞ。さっさと上がれ」 二人は顔を見合わせて含み笑いを浮かべた。タライから上がり手拭いで互いの体を拭く。 「与兵衛さんも一緒に、じゃれ合わないかい?」 「人をからかうな」 与兵衛は立ち上がり乾いた傘を片付けて二人分の床を敷いた。布団は二枚しか無い。そして台所から酒器を持ち出し、そのまま畳の上へとごろり寝転び、手酌で晩酌。土間に向かって立て肘をつき、床の上の二人に背を向ける。 「ふむ……」 酔えない。すでに子の刻を回るが、眠くもない。菜種油が勿体無いとも思うが、悶々として眠れないのだ。酒で誤魔化そうにも、淫靡な空気は消せなかった。 「お理津よ。俺は仕官する事に決めたぞ。先ほど久間に口利きを恃んで来た」 「え?」 「俸禄と傘貼りだけでは、どうにも食えんからな」 無論、紫乃を食わせる腹づもりでの事。仕官して役柄を得れば、内職よりも多少は食い扶持の足しにはなる。 「あんた、朝起きれんのかい?」 「馬鹿にするな。やろうと思えばやれる。やろうとしなかっただけだ」 紫乃はこの時、久間の名前に戦慄した。依然身を忍ばせる境遇なのである。お理津はその様子に気付き、無言で彼女の頭を撫でた。しがみつく紫乃。 「ありがとう。与兵衛さん」 お理津は横向きの背中に言った。 「ふん、別に礼を言われる筋合いはない」 ちびちびと杯を重ねる。しかし、与兵衛下半身は困った事になったまま。 「それはそうとお前たち、その……よくも女同士でまぐわえるな」 首を捻って視線だけを二人に向け、言った。床の上では二人が裸のままで抱き合っている。 「いいじゃないか、気持ちいい事したって。そもそもあんたが……抱いてくれないのがいけないのさ」 悪戯っぽく言ったつもりだった。しかしお理津の顔は真っ赤である。 「お、俺のせいにするな」 「女は嫌いかい? もしかして、男色なのかい?」 「違っ……俺だって女は好きさ」 「なら、あたしの事が……嫌いなのかい?」 「いや、そうでは無くてだな、その、武士として……」 「もぅ、堅っ苦しいお人だよう。おまけに面倒臭いときてる」 「なっ」 お理津は這うようにして与兵衛に近づき、懐に手を差し入れる。 「でも、そんな所に惚れちまってんだ……」 固まる与兵衛。その唇は強引に塞がれた。手探りで帯を解かれると、苦しげに脹らみきった下帯が露となる。 「あら! すっかり元気じゃないか」 「うるさい」 お理津ははち切れんばかりのそれを解き放った。隆々とそそり立ち脈打つ与兵衛を目の当たりにして、彼女の心の臓も高鳴る。 「すごいよ紫乃ちゃん、見てごらんなよ」 恐る恐る近づく紫乃。 「こんな立派なもん見たの初めてだよ」 ふと、行灯が消された。たまらず息を吹きかけたのは与兵衛。暗転した畳の上で、お理津は紫乃の手を取る。光とともに音も消えた中で、四つの手が与兵衛の股間を這い回る。
21/02/19 07:01
(iBTcA.Ti)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
「紫乃ちゃん……一緒に口でしよ」
なぜか声を潜めてしまう。やがて二つの舌が与兵衛を濡らし始めた。棹を挟んでの口づけで、勃ちながらに立つ瀬も無し。お理津が棹を口に含めば紫乃は陰茎を舐めあげる。びくり、と、股間がぶれる。濡れた音が、そして三人の息遣いが重なり合い、部屋も暖かくなってきた。 「与兵衛さん……」 切なげな声。彼の唇はお理津のそれに塞がれ、股間は紫乃の舌に慰められる。彼の腕がお理津の体を強く抱き締めれば、吐き出される吐息が与兵衛の肺を満たした。 「頂くよ」 お理津は馬乗りとなり、そのいきり勃つものを自らの股に当てがう。 「あぁっ!」 乱れた髪が与兵衛の鼻先を擽った。腰が沈むごとに与兵衛とお理津はひとつになってゆく。 与兵衛の里芋のような膝に、自らの大切な場所を擦り付けて独り遊びに更ける紫乃。しながらもお理津の背後から手を回し、その胸を揉み上げる。根元まですっかり呑み込まれてしまった与兵衛は上体を起こし、そんな二人をまとめて抱き竦めた。二人ともに小柄なためか、いとも簡単にその腕に納まってしまう。 「あぁ……」 お理津は二人に挟まれ、震える唇から幸せそうな声を洩らした。 「紫乃……お前はもう、男が怖くないのか?」 「うん。もう、知っちゃったから……」 腿の内側に血を滴らす紫乃の姿が与兵衛の脳裏に甦る。背中の摩り切れたお理津共々、たらいの二人は尋常では無かった。掛ける言葉も見付からなかった彼は、ただこうして抱き締める事ぐらいしか出来ない。 ゆっくりと腰を上下させるお理津。知らない男と交わっている常とは違い只ならぬ濡れ様で、すでに畳を湿らせてしまった。 「くっ……」 与兵衛は背中の皮膚が捲れるほどに爪を立てられ、その痛みに耐える。 「いくっ!」 と、まださほど動いてもいないのに、お理津は早々昇り詰めてしまった。音を立てて噴き出す淫汁に唖然。 「えらい始末だな」 「お理津さん、すごい……」 「だ、だって……」 お理津の体重が足の付け根にかかり、胸元には痙攣する肩。与兵衛は軽く頭を撫でてやった。 「可愛いところもあるじゃないか」 気に食わないのは紫乃である。自分はお理津をここまで良がらせる事が出来ないばかりか、お理津だけが好きな男と交わえて。 「私も、与兵衛さんとしてみたいな。お理津姉さんばかり、ずるい」 「し、紫乃ちゃん……」 言いながらも乳首が、紫乃の手によって絞り上げられる。敏感な体になりきってしまったお理津は、何も言えず暗闇の中でただ悶える。 「ねぇ、与兵衛さん。お理津姉さんを独り占めしちゃ駄目だよ。私も交ぜてくれなきゃ嫌。仲間外れは、嫌だ」 膝が熱い。与兵衛の中で、徐々に男が頭をもたげる。そうだ。してあげるのでは無い。したい自分が確かに居るのだ。それを認めるか否か、考える余地も無く、紫乃が二人の間に割って入って来た。 「今度は私の番……」 押し倒される形で仰向けになった与兵衛の、鼻先にまだ開かれたばかりの華が押し当てられた。接吻と似ている。そう思えるほどの感触。唾液にも似た粘液が伸ばした舌を伝い、むせ返る若草の匂いが口に広がる。呼吸でもするかのように開いては閉じる陰唇の端、新芽を舌先で刺激すれば敏感に体が呼応した。 「あっ……くっ、くすぐったぃ……」 腹筋と背筋、同時に力を入れながら、与兵衛の顔に股間を押し付ける紫乃。鼻の頭がこつこつと芽を突衝き、舌が陰唇をこじ開ける。鼻息で僅かな陰毛が柔らかくそよいだ。 暗闇の中では、もはや誰が誰だか判らないほどの混沌。交じり合う三人。 「はくっっ」 短い悲鳴は紫乃の物だった。しかしながらその唇はすぐさまお理津のそれに塞がれ、くぐもった喘ぎに変わる。やがて仰向けにさせられ、大きく広げられた足の間に与兵衛が割り込み、そして大事なところに亀頭が当てがわれても、その声はお理津の口へと呑み込まれてゆく。 「入れるぞ」 「んんっ」 割れ目を亀頭が拡げる。滑りは良くとも小さい入り口。粘膜が引っ張られ、痛みが紫乃の体を突き抜ける。しかしその痛みは、お理津の愛撫で上塗りされた。舌と舌が絡み合う。鼻だけで呼吸する事に苦しさを覚えながら。 「ぷはっ」 息継ぎ。 「痛くないか?」 「う……ん」 しかし、束の間。与兵衛の大きさは、紫乃の想像よりも大きく、さらに奥へ。まだ、奥へ。 「くぁ……ぁ」 覆い被さるお理津に強くしがみつく。目隠しでもされたかのような程の暗さに、上下不覚となる。その浮遊感は五感を支配し、思考を停止させた。 「んんんんんっ!」 三人は時を忘れ、朝が近づくのにも気付かずに絡み合い続けた。 雨戸の隙間から白い光が射し込む頃、三人は一様に夢の中。常世から隔たれた部屋の温度は暖かい。そんな中で最初に目を覚ましたのは、与兵衛であった。間接光にぼんやりと浮かび上がる肉体。みな裸のまま、重なり合ったまま。与兵衛は二人を起こさないよう、ゆっくりと腕を引き抜いた。 「……はてさて」 あれほどまでに激しい一夜を過ごしたにも関わらず、この朝の威勢。彼は自らの股間に呆れる思いであった。 「俺は好き者だったのか」 武士たる者、己を律するべしと考えて来たが、身体は正直である。斜陽に浮かび上がる稜線は光る産毛で、息遣いに合わせるように上下している。与兵衛は這いつくばって手を伸ばし、そっと触れ、温もりを確かめた。お理津の腰が弧を描く向こう、起伏の少ない稜線は少年と見紛うばかりの紫乃の体。何も無い部屋よりはいい、と、ささやかな満足感に浸りつつもこんな蜜月、長く続くはずもない。とも思う。与兵衛は着流しを羽織り帯を締め、仕上がった傘を纏める。そして二人を起こさぬよう部屋を出た。 町は晴天。運河沿いの通りを河岸町に差し掛かった辺りで左に折れ、商家の並ぶ町屋へと入る。その中に小ぢんまりと佇む一軒の問屋の前で与兵衛は立ち止まり、狭い入り口の暖簾を潜った。 「これはこれは与兵衛様。いつもご苦労様です」 「おお若狭屋。実は色々と立て込んでてな、これしか仕上げられなんだわ」 「充分でございますよ」 与兵衛は抱えていた傘の束を、店の間から土間に降りてきた旦那に手渡した。黒光りする板の間が静けさを際立たせている。このよく磨かれた床も、暇である事を示しているようにも思える。 「与兵衛様の貼られた傘は長持ちすると評判でしてね。ま、長持ちされてはこちらとしても商売上がったりなんですがね。ははは」 「俺は手抜きはせんからな」 土間に腰を下ろすと丁稚が茶を運んで来た。旦那は傘を抱えて通り土間の奥へと消えて行く。 「どうだ太一。少しは奉公にも慣れたか」 「へい」 太一は昨年、近くの農家からこの傘問屋に奉公したばかりの少年である。歳はまだ十を数えたばかり。 「毎日辛くはないか」 「へい、おかげさまで旦那さまが良くしてくれますので」 太一はにこやかに笑みを浮べて見せた。しかしそれも束の間、眉毛が八の字になる。 「ただ……」 「どうした」 「久間さまの所の紫乃姉さまが、いなくなってしまって」 「ほう……お前、紫乃の事を知っておったか」 「姉さまにはよく遊んでもらってたんです」 紫乃が今どうなっているのか、とてもこの少年には話せない。 「お待たせしました与兵衛様」 通り土間の奥から若狭屋が骨組みだけとなった傘の束を抱えてやって来た。 「ああ若狭屋。その……実はな、俺は暫く傘を貼れぬやも知れん」 「これはまた、なぜです」 「仕官する事に決めたんだ」 訝しんでいた若狭屋は顔を綻ばせる。 「ほっ、これはめでたい」 「いや、まだはっきりと決まった訳ではないがな。ともあれ、また暇になったら貼らせて貰いに来るさ」 与兵衛は腰を上げると太一の頭に手を乗せた。 「しっかり頑張るんだぞ」 「へい」 殷懃に頭を下げる若狭屋に会釈し暖簾を潜れば、賑わいを見せる人々の往来。その中で、眩しげに目を細める彼に声を掛ける者があった。 「おう、与兵衛じゃねえか。何こんな所で油売ってんだ」 そこには裃を穿き、身なりを調えた久間の姿が。 「お前か。それはこちらの台詞だ」 「俺は奉行所に所用があったんだよ。それより与兵衛、お前に良い話を持って来たぜ」 「まさか縁談じゃなかろうな」 「違うわい。ま、歩こう」 大手門へと続く寺町は、打って変わって木魚の音さえも聞こえる静けさ。香の匂いが涼しげな風に運ばれて来る。良い話と言った割に、久間は神妙な面持ちであった。 「で、なんだ。良い話と言うのは」 「ああ。実はな与兵衛。村落取締出役が馬廻りを探しててな」 「なっ!」 与兵衛は足を止めた。村落取締出役とは領内の村落を回り、年貢の不正や抜け荷が無いかなどを監視する役人である。足軽格の手代で、江戸における八州廻りのような物であった。
21/02/19 12:33
(iBTcA.Ti)
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