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1:彌久抄
「僕と、その……付き合ってもらえないかな?」
セイテンノヘキレキ。確かそんな言葉だったかな。アリエナイ。と、思うほどにこの人、確か中山君だったかは、私にとって意外な人物だった。辛うじて名前を覚えてたってくらい、ほとんど話した事もない人だ。 その人に呼び止められた放課後の体育館脇。あまりもの驚きに眼鏡がズレた。 「あの、そんな……急に言われても」 一年生の時にだけ同じクラスだった中山君は私以上に影の薄い人で、覚えているのは窓際の後ろの方になんか居たって事ぐらい。 「駄目……かな? やっぱ」 汚れた上履きの爪先がおどおどしている。もし私みたいなのがこの人と付き合ったら、目立たない者同士ひとまとめに、からかわれちゃうかも知れない。 「あ、ありがとう。でも……私」 変な汗が腋に滲む。告られたのなんて初めてだし、どうやって答えていいのか。 「その、別に嫌とかじゃないの。ただ、私中山君の事全然知らないし、話した事もあんま無いし……」 はっきり断わるのもなんか申し訳ないし、もしかしたらすごくいい人かも知れないし。逆にアブナイ人で、変に逆恨みされちゃうのも怖いし。 「じゃぁ、友達って感じでもいいから」 あぅ、もっと断わり辛くなっちゃった。どうしよう。どうしたらいい。 「でも私、可愛くもないし、話なんか面白くもなんともないし……」 爪先が一歩踏み込んで来た。背中がコンクリート壁にくっついて、汗を冷やす。 「そんな事無いよ。阿部は可愛いし、僕、同じクラスだった時からずっと見てたんだ。……いや、変な意味じゃ無くて」 見てたって、私なんかの事を? 「あの、返事はまた今度でも……いいかな」 「あ、うん……そうだよね。急にこんな、困るよね」 「ううん、こっちこそ、ご、ごめんね」 切り抜けた……いや、全然切り抜けてない! 先送りにしただけだ。なんで私っていっつもこうなんだろう。 私は顔を上げて中山君が去った後の景色を見渡す。遠くからの潮風が誰もいない校庭の砂を巻き上げて、どこかの荒野みたいだ。私はひどく落ち込みながら、脱力感を肩に乗せて学校を後にした。疲れた。ドキドキがまだ治まらない。坂を下る足音がいつもよりパタパタとうるさい。 県道の真上にモノレールが走る。錆びかけた階段を昇った先のプラットホームには、中山君が居るかも知れない。だから今日はバスで帰ろうか。そう思っている時に、香奈からのメール。今、大船で買い物してるって、暗に買い物付き合えって事だ。道路を渡るのをやめた私は、返事を打ちながら手前のバス停に立った。 「中山? 誰それ」 香奈はフライドポテトを頬張りながら喋る。 「一年の時にさ、窓際の一番後ろ座ってた、ちっちゃい人」 「あーなんか居たね、アタシらより少し背の高いぐらいの。ちょっとキモいやつじゃなかったっけ」 安いアクセサリーショップで買ったと言うキラキラしたピンクの髪止めを眺めながら、そしてポテトに手を伸ばしながら、口を動かしている。 「その人にね、さっき告られた」 そう言うと、ポテトを半分くわえたまま目を見開き固まった。 「体育館とこで、あれ、待ち伏せされたのかな。付き合ってくれって」 「マぁージでぇー!?」 彼女は私と対照的で、派手好きの目立ちたがり屋。明るくて可愛いし、男子にも人気あって羨ましく思う事だらけだった。彼女ならハッキリ断われたりするんだろうな。 「んで? んで?」 「断わろうとしたんだけど、上手く断れなくて……」 「何よそれー!」 見事に仰け反った。後ろに壁があったら多分後頭部を強打して事故になっていた。私は俯き、溶けかけた氷をストローで突つく。 「だって……」 「彌久ったらいっつもそう。ハッキリしなよ」 「今度改めて返事するって、逃げて来ちゃった」 「保留かよ! バッカねぇ。相手は勝手にいい方に受け取って、勝手に盛り上がっちゃうんだから」 目の前に萎えたポテトを突き付けられる。 「そういうもん?」 「そういうもん! ホントあんた男知らなさ過ぎ」 「だって……しょうがないじゃん」 ストローを吸ったけど、ズビビって音が出るだけだった。 「そう言う時はね、付き合ってる人がいるのーとか、好きな人がいるのーとか、テキトーな事言っとけばいいのよ」 「嘘つくの?」 「うぜーっ」 香奈は笑いながら思った事をズバズバ言う。でも、そんな所も彼女の魅力だと思う。 「よし、じゃあ実際男作っちゃお。それなら嘘じゃなくなんじゃん」 「そういう問題じゃ、ないと思うんだけど……」 「今度の週末いい男紹介すんからさ、彌久もいい加減カレシ作りなー」 「そんな急に」 ただ、いつも強引で私を振り回す。 「最近知り合った人が大学生でさ、イケメン連れて来させんから。後は私に任せなって」 そう言うと香奈はシナシナになったポテトをゴミ箱にぶち込んで、私の手を引っ張って行った。 あれは小学生の頃で、たぶんお人形さん遊びの延長だったんだと思う。私がお人形さん役で、色んな服に着せ替えてもらったり、髪をとかしてもらったりして遊んでいた。香奈は綺麗な服をたくさん持っていて、着せてもらうたび、なんだか私が香奈になったような気分になって。二人だけの秘密の遊びだったなって、そんなことを思い出していた。 「これなんかどう?」 「えー、短か過ぎるよ」 香奈の両親がそれぞれに出掛けた日曜の午前中。まずは服のコーディネートからと言って自宅へと呼び出された私。 「つべこべ言わない。だいたいアンタが地味ぃな服しか持ってないのが、いけないのよ」 言いながら私を立たせて、ジーンズのボタンを外す。私はあの頃の遊びを思い出していた。全て香奈にやってもらって、私はただ立っているだけ。バンザイしてと言われ、子供みたいにTシャツを脱がされる。 「彌久、結構胸おっきくなってきたじゃん」 「そんなこと……」 「同じくらいかなぁ。下着もアタシの勝負下着貸したげんね」 「いいよ、そんな」 「お人形さんは黙って言う事聞いてなきゃダメ」 ギクリ、とした。香奈もあの頃の遊びを思い出していたんだ。 「これとかスゴくない?」 「透けてるよ? そういうのは香奈が穿きなよ」 「過激すぎて穿けてないからアンタに穿かすのよ」 クスクスと笑いながら私のパンツを下ろす。私と香奈は相変わらず背丈も体型も一緒みたいで、下着も服もぴったりだった。 「うん、彌久カワイイ!」 鏡に映る香奈が私の髪をブラッシングしながら言った。赤いミニスカート。黒いキャミソールに白いワイシャツ。蝶々のゴム飾りで短い髪をまとめ、淡いピンクのリップを塗られる。仕上げは頬っぺに軽いキス。こういうの五年ぶりぐらいで、私は顔を赤くした。 「似合ってんだけどねー、眼鏡がまだ地味なのよねー。今度コンタクトにしちゃいなよ」 「コンタクトは苦手だよ」 でも、鏡の中の私は私じゃないみたいで、だから自由に振る舞える気がした。 いつも膝下まで隠れる長めのスカートかジーンズばかりの私にとって、こんなミニは落ち着かないったらありゃしない。ポーチでお尻を押さえながら、駅の階段を昇るのも苦労した。スカートだけじゃなく、黒いキャミまでもが短い。人前におヘソを晒すなんて初めてだった。周りの視線ばかりが気になって、絶対似合うとか言ってたその言葉が今さらながらに怨めしい。 「早く! 電車来たよ」 赤と白のボーダーシャツにグレーのパーカーを羽織った香奈が、階段を昇り切ったプラットホームで手招きする。同時に、モノレールがホームに滑り込んで来た。 「あっちー」 「暑いね」 ボックスシートに座ってから私はワイシャツを脱ぎ、膝元を隠すように掛ける。車窓からの陽射しが肩に刺さり、日焼けしそうだったけど我慢した。西鎌倉を出て加速したモノレールはトンネルを越え、晴天の街へと飛び出して行った。 大船駅に着いて改札口。後ろから馴れ馴れしく声を掛けて来た二人の男。 「あ、慎治、待ったぁ?」 一度だけ、香奈を迎えにきた車の運転席にチラリと見た事のある人。 「今来たとこだよ。その娘? 友達っていう」 「うん、彌久って言うの」 「ミクちゃんか。可愛いじゃん」 私は緊張してお辞儀するのが精一杯だった。下を向きながら一瞬チラリと覗き見れば、案外優しそうな人たち。 「慎治と健介。横浜の大学通ってるらしいんだけど、前にね、そこの商店街でナンパされちゃってさ」 確かに慎治さんはいかにも軽そうで、茶髪からピアスを覗かせている。隣の健介さんはガッチリした体格に短めの髪が似合っている。駅前には大きな白いワゴン。黒い窓を見て、やっぱり怖い人たちなんじゃないかって不安もよぎる。 「じゃ、行きますかー」 高速に乗って横浜へ。彼らは前に座り、私たちは後ろの席。受験を控えた私たちにとって大学の話は楽しくて、憧れが詰まっていて、横浜に着くのもあっと言う間に思えた。 伊勢佐木モールの街路樹の下でぶらぶらと過ごす。横浜へはよく香奈と二人で来て買い物したり、ハンバーガー屋さんで何時間もダベったり、カラオケ入り浸ったり、プリクラ撮ったり。でも今日はいつもと違う。派手なお洋服着て男の人がいて、ダーツなんて初めてだったし、男の人とカラオケ歌うのも初めてだった。なんだか楽しくて嫌な事も受験の事も、みんなみんな忘れてしまう。 「いつもこんな風に遊んでんの?」 「たまにねー」 「ズルイ。最近遊びに誘ってくんないと思ったら」 「だってアンタ男が一緒って言ったら、来たがらなかったじゃん」 「そ、それは……」 それは気を使ってたんだ。私なんか居たら邪魔だろうと思って。でも何でだろ、今はそんな風には思わない。この短いスカートのせいか、みんなの笑顔のお陰か。ここに居てもいいような気がしてきた。 「疲れたでしょ?」 香奈と慎治さんがクレーンゲームやってるのをベンチで眺めていた時、缶ジュースを二つ持って健介さんが声を掛けてきた。私がオレンジジュースを指差すと、彼はプルトップを開けて差し出してくれる。 「ううん、ぜんぜん」 「また一緒に遊ぼうな」 「うん!」 頷いた瞬間、中山君の顔が脳裏を掠めたが、すぐに打ち消す。今目の前にいるこの人は大人の男性だ。一緒に遊んでいると、自分も大人になったような気分になれる。 「ミクちゃんてさ、彼氏とかいないの?」 「え? あ、そんな、いませんいません」 「へぇ、こんなに可愛いのに?」 じっと見詰められて、男の人に可愛いなんて言われたのは初めてで、とてもじゃないけど直視できない。多分私の顔は赤くなってる。 「でも、モテんでしょ?」 俯きながら首を左右に振る。普段の私を見たらきっと幻滅するに違いない。 「そろそろ帰るかー」 慎治さんがこちらに歩きながら言った。よく見れば香奈と手を繋いでる。ただの友達だって言ってたのに、とてもそんな風には見えなかった。 ゲーセンを出たら外はすでにオレンジ色で、一日の終わりがとても早く感じる。私たちは車に乗り込み帰路についた。 「楽しかった?」 「うん!」 帰りは健介さんの運転で、私は助手席。後部座席では香奈と慎治さんがイチャついてる。チラチラとルームミラーを覗いてみるけど、慎治さんの頭頂部しか見えなかった。赤信号の時、ふと健介さんの顔が近付いて来て、私に耳打ちする。 「あいつら、見せ付けてくれんよな」 一瞬だけ後ろを振り向いてみた。そして私は、二人がキスしてるところを見てしまった。仄かに覚える嫉妬。香奈が奪われるような、そんな気がして。やがて信号が青に変わり、私はそそくさと前を向いた。健介さんは苦笑いを浮かべながらアクセルを踏む。 「ウチ寄ってく?」 「おお、そうだな。軽く飲もうぜ」 「私もー」 慎治さんの誘いに他の二人が乗ったのは、ファミレスに寄ってご飯を食べていた時だった。 「私は……」 「もちろん彌久も付き合うよね」 三人の視線が集まる。こう言う時にはっきりと断れない自分が怨めしい。でも断ったら、せっかく楽しかったのが嫌な空気になっちゃいそうで。基本私に無関心な母だから、香奈んちに寄ってくってメールすれば何も言われないし、だからいいか。ちょっとぐらいなら。 慎治さんは大船のマンションで独り暮らしの2DK。繁華街が近いせいか、パチンコ屋さんの音が微かに聞こえる。目の前の大きな座卓には吸殻の溜まった小さな灰皿、テレビのリモコン、缶ビール、サラミに裂きイカ、などが雑然と散らかっていた。フローリングの床には雑誌や漫画が髪の毛まみれ。いかにも男性の独り暮らしと言った感じで掃除ぐらいして欲しいと。でも今、私はそんな事より香奈が普通に缶ビールを飲んでいる事に驚きを隠せずにいた。こんな香奈、見るの初めて。 「彌久も飲んでみなよー」 「私はいいよ」 「缶酎ハイの方がいいんじゃね? これならジュースみてえなモンだし」 くわえ煙草の慎治さんがコップを出して来て私の前にドン。毛の生えた太い腕がにゅっと伸びて、銀色の缶からシュワシュワした透明の液体が注がれる。私は断りきれず、それを恐る恐る口に含んでみた。柑橘系の仄かな甘さと強い炭酸。確かにジュースみたいだけど、ちょっと苦い後味に顔をしかめる。 「これなら飲めんべ」 正直、ちょっとは興味あったんだ。香奈が飲んでるんだから、私だって。 「……うん」
2021/02/09 18:53:42(yfGernhw)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
普段から閉めきっているのか、部屋の空気が淀んでいた。煙草とアルコール、そして男の人の匂い。そこから逃れようと炭酸を流し込む。飲むたびに注がれて、コップの中身は一向に減らない。でも、だんだん感覚がぼんやりしてきて、これが酔うってことかしら。香奈はどこ? と思ったら、閉ざされた襖の向こうからキャッキャとはしゃぐ声。私は急に不安になってきた。
「ミクちゃんてさ、なんだか大人しいよね」 「は、はぁ……」 間抜けな返事。正面に座ってた健介さんが缶ビール片手に私の隣へと移ってきた。私のむき出しの肩と、タンクトップから伸びた筋肉とがくっついて、お尻をちょっとずらす。男の人と二人きりなんて居たたまれない。やっぱ帰ればよかったって、今になって後悔。 「実は結構真面目な娘なんでしょ」 「真面目っていうか、ただ地味なだけで、それに暗いってよく言われて、いいところなんて……あっ」 突然視界がぼやける。 「眼鏡外した方がかわいいよ」 「だめ、ほんとに私、目が悪……ん」 一瞬、部屋が暗くなったのかと思った。首を捻って逃れようとしたけど大きな手に包まれて、唇と目をギュッと瞑るので精一杯だった。 「ぷはっ」 びっくりした。ただそれだけだった。香奈とした真似事のキスとは全く違った。心臓が痛いくらいドキドキして、何が何だか分からなくなって。 「わ、私もう帰りま……はもっ」 再び、お酒臭い息が口の中へと広がって、意識が遠くへ離れて行きそうになって、そうだ、香奈に助けを求めよう、そう思った時に聞こえて来たのは香奈の聞いた事ないような、甘い声。置き去りにされたような、でも、私はどうすればいいのか、どうすれば香奈のところに行けるのか。 「嫌かい?」 ぼやけた健介さんの顔。私は頷く。けどそれは、意味の無い質問。 「大丈夫だよ。俺に任せなって。ね?」 キャミの肩紐が滑り落ちた。部屋が明るい。服の上から胸を触られて、なんて無骨で覚束ない手付きなんだろうと思う。彼の唇が首筋に触れ、擽ったくて肩を竦める。その肩を優しく包んだ大きな手。襖越しには香奈の熱を帯びた喘ぎ。私をほったらかしにして慎治さんとエッチな事してるんだ。私だけが取り残されていて、でも、そんな私が脱がされてゆく。引っ込み思案だった毎日から連れ出されようと。 「やめて下さい恥ずかし……」 「でも、大胆な下着だね」 「違っ、これは香奈ので……」 「可愛いじゃん。似合ってるよ」 耳許で声。重ねて息が耳から頬を伝い撫でる。身体中に力が入って、それをほぐすかのように暖かい手、肩から腕をさする。意識が曖昧になってゆく。アルコールのせいか、彼のせいか、たぶんその両方。 「健介ー、俺の煙草知んね?」 突然開いた襖からパンツ一枚の慎治さんが現れた。咄嗟に私は胸元を隠して身を縮こませる。 「知らねーよ、その辺転がってんじゃね」 「お、あったあった。つーかなんだよ、お前もヨロシクやっちゃってんじゃないの」 「へへ、まーなー」 二人の笑い声に、たまらないくらい恥ずかしくなった。 「こっち来いよ。布団敷いてあっから」 「おぅ」 強く手を引かれて連れ込まれた隣の部屋は、温度と湿度がやけに高い。襖を閉めると少し狭いその部屋はオレンジ色の豆球だけで、やがで目が慣れて来るとむせ返るような空気の中、薄っぺらい布団に香奈が転がっていた。私は健介さんの手を振りほどいて、でもしがみついた香奈は裸で、その体は汗でぬめっていて、信じられないほどに、熱い。 「香奈、私、どうしたら……」 いつもの顔と違う。トロンとした目は私を見ているようでいて、焦点が合っていないような。 「大丈夫だよ。みんなの言う通りにしてればいいの」 優しく髪を撫でられ、その間私の下半身はゆっくりと健介さんに触られてゆく。お腹と背中に力が入って、緊張だけが全身を満たす。纏わり付く、生温かくて毛深い肌の感触。息の匂いと混ざり合う体臭。それらに眉をひそめながら、でも、どこか他人事のように感じる自分。私の意識は逃げ場所を求め、握り続けた香奈の手にとどまる。 「彌久、リラックスしなよ」 「でも、やだよこんなの……」 「大丈夫。アタシが付いてんから」 目の前に香奈。なのに捕らえられた下腹部に膨らむ異物感。思ったほど痛くないのはアルコールのせいだろうか。滴る汗と言う名の体液が、おへそに小さな池を作る。たぶん私は今、産まれて初めてセックスというものをしている。今日出会ったばかりの人と。 香奈も慎治さんと繋がってて、全身を震わせ女になっる。繋いだ手を強く握られた時、緊張の糸が切れてしまった。私は全身の力が抜け、その拍子に全てを受け入れてしまい、ただ早く終わらないかとだけ祈る。 「あっ、俺っ、もっ、イキそっ」 お腹の上でせわしない肉が喋った。私はそれが可笑しくて可笑しくて、吹き出しそうになるのを我慢する。 「痛っ」 強い力で頭を抱え込まれ、お腹の中を激しく突かれ、私の体はバラバラになりそうなほど。でも、少づつ気持ちよくなって来たのは、香奈とシンクロして感覚が伝染してるからなのかも。 ぶるん。 呻きとともにお腹の上の汗臭い肉が脈打つと、それに合わせて下半身を駆け巡る電気。もし私が携帯だったらピーとか言って充電完了をお知らせしちゃってた。そして全身、のし掛かかられて重たくってしょうがない。ゴツゴツした筋肉とプヨプヨした脂肪が、優しく私の名を呼んだ。 「彌久ちゃん。良かったぜ」 思わず吹き出しそうになったけど、その時私は彌久って名前だって事を思い出した。いっそ、ヒトとして扱ってくれない方が良かった気もする。 下半身の痺れを残しながら体の感覚が少しづつ蘇る。けど、力が入らない。目と鼻の間がジンと熱くなり、目尻に溜った涙で視界がぼやけた。 みんな疲れ果ててセックスにも飽きた頃、狭くてカビだらけのバスタブで香奈と体を寄せ合いシャワーを浴びた。煙草臭い部屋に比べてその狭いバスルームは、止まった換気扇から流れ込む外気のお陰でとても新鮮な空気。 「腕、上げて」 小さかった頃によく、こんな風に一緒にお風呂に入っては、私の体を隅々まで洗ってくれた。私はその頃みたいに言われた通り手を上げたり足を上げたりする。変わってしまったのは、お互いの体が成長した事。足の指の間に、そのほっそりした指を滑り込ませ洗ってくれた時、擽ったくて、背中が壁にくっついて、冷たいけど気持ちよくって。 立ち込める湯気の中で見えた、汚なくくすんだ鏡。そこにぼんやりと映る恍惚の私はどこか大人びていて、まるで私じゃないみたいで、じゃあ逆に本当の私って? 地味で引っ込み思案で、いつも真面目ぶってるのが私? わからない。だって今、鏡に映る私はなんだか幸せそうな顔してる。 「また、みんなで遊ぼうね」 シャワーの飛沫が胸元を叩く。香奈は私の目を見ずにそう言った。 「四人で?」 「そう。四人で」 嫌と言ったら離れて行ってしまいそうな、そんな気がして、私は小さく頷いた。 終電間近のモノレールは、テールランプの列の上を滑る。さっきのお酒がまだ残っているのか、ちょっと気持ち悪くなった。外を流れる夜の街をじっと見つめている香奈を、私はぼんやりな頭のまま窓ガラス越しに見た。 「香奈。私たち、このまま帰ったらヤバくない?」 「うん。ちょっと酒臭いかも。……そだ、このまま海行こっか」 窓に映る香奈と目が合う。 「え、こんな時間から?」 加速するモノレール。突然軋む車両と暴れ出す窓。トンネルを抜ければ私たちの住む街に出て、その先はもう海も近い。 『西鎌倉ー、西鎌倉です』 開いたドアからヒンヤリとした風に乗って虫の声。まるでその静けさに耐えるかのように、私たちは口をつぐんで見詰め合う。 やがて、ドアの閉まる音にチクリと胸が痛んだ。だけど動き出したモノレールに、自然と私たちの頬が弛む。降りるべき駅をやり過ごした時点でもう折り返しの終電は絶たれ、あとは寝静まった真夜中。深い夜の闇。もう、戻れない。 「卒業したらさ、ゼッタイ一緒に東京行こうね!」 潮風の中で香奈が叫んだ。夜空に浮かぶ満月。灯台の光が島影の上で静かに点滅する。 「大学受かったらね」 「え? 聞こえなーい」 「大学受かったらっ!」 ここ最近、私たちの成績は下がる一方で、実際は受験も危なくなっていた。私も香奈も高校入学の頃は優等生で通っていたから、親も先生たちも失望したと口を揃えてる。でもいいんだ。香奈はいつも私のことをちゃんと見てくれているし、一緒なら。 「受かんなくても行こーよ! 彌久、家を出て一人暮らししたいって、さんざん言ってたじゃん。フリーターでも一緒に住めばなんとかなるっしょ」 そう言うと、笑いながら波打ち際へと駆けて行った。寄せる波を蹴って飛沫を上げる。 「キャハハハッ! 冷たぁーい」 「香奈、ちょっと香奈ぁっ! 靴びしょびしょ!」 「ねぇねぇ、彌久もおいでよ、気持ちいいから」 「もー……」 お酒のせいなんかじゃない。きっとこれが香奈なんだ。星空を映した濃紺の海へと私も靴のまま駆けだした。 「香奈ってば!」 腕を掴む。 「アハハッ! 冷たくて気持ちイイでしょ」 真っ直ぐと私を見つめる視線。そして次の瞬間、目の前の視界が唇とともに塞がれる。 「ん……」 いつもとは違う濃密なキス。舌が口の中に入って来た時、私は自然としがみついていた。体が、まるで自分の物じゃないみたい。胸が痛いくらいドキドキしている。 「ごめんね……」 微笑む瞳は潤んでいるのか満月を映す。謝らないで欲しい。謝られると不安になる。足許はどこまでも黒い砂と海。反す波に足もとが掬われ、踵が砂の中へと沈んでゆく。一面に広がる灰色の気泡が寄せては反し、立っている気がしなくて、なんだか急に怖くなって、さらに強くしがみついた。 空と海との境目も曖昧な闇を、灯台から延びる光の筋が音もなく撫でる。私と香奈は砂浜へ上がって、防波堤の下の闇溜りに腰を降ろした。濡れた足に砂がこびり付いてなかなか取れない。 「帰りたくないなぁ」 香奈が言った。彼女の家に泊まらせて貰いに行くと、灯りが消えている事が多い。私の家はお父さんだけ帰りが遅く、お母さんと二人で過ごす事が多い。それが嫌で香奈の家に遊びに行ってばかりいた。 落ち着く場所。私たちには今のところそれがない。都会に出ようって香奈が言い出したのも、たぶんそんな私と同じ気持ちだったからに違いない。 「このまんまさ、朝までこうしてよっか」 それもいいかも。海岸通りを走る車や人は、きっと私たちには気づかない。闇に沈む防波堤の影で息を潜めれば、箱根の山稜からすっかり昇りきった月だって私たちには気づかない。もしかしたらこの世界で、ただひとつ落ち着ける場所はここなのかも知れない。 今度は自然に、恋人のようなキスをした。口の中に香奈の温かさと海のしょっぱさが広がる。 昼間の太陽の名残りか、砂は暖かい。寝そべって髪や洋服が砂だらけになったって誰も咎めない。 時折頭上を通り過ぎるヘッドライトとエンジン音。気にしない。 含み笑いは防波堤のコンクリート壁に吸い込まれる。 指を絡め合っても、脚を絡め合っても、お互いを慰め合っても誰にも見られないし怒られない。 「香奈……もっと」 砂の中で絞り出された私の声は切な気。お互いいくら声を上げてもさざ波が掻き消してくれる。私たち、なんでこんな風になっちゃったんだろうって思うけど、聞けなくて、ただ確かなのは押し込めていた何かが解き放たれ、私ってこんなにエッチだったんだって事。 仰向けになった時、目の前には宇宙が広がっていた。指を絡め合いながら香奈も仰向けになっている。夜空に墜ちるような不思議な感じがして、私たちはいつしかケラケラと笑いだしていた。 香奈の家で自分の服に着替え、朝方自宅に一旦戻った。お母さんには昨夜、香奈の家に泊まるとだけメールしたけど返信も無いままで、朝帰った時も何も言われなかった。制服に着替えて再び家を出たけれども、ほとんど寝てない。香奈は今日サボるって言ってたけど、私もそうすれば良かった。 すでに昼前。私も学校に行く気分にはとてもなれなかった。宛てもなく真昼の太陽の下、眩し過ぎて逃げ場を探す。さっき送った香奈へのメールは返って来なくて、たぶんまだ寝てるんだろう。 健介さんにメールしようとして指が止まる。あの人は別に私の事なんか好きでもなんでもなくて、ただ私とエッチしたかっただけだったんだろうと思う。私の事を好きなのは、そう考えた時、中山君のニキビだらけの顔が浮かんだけど、すぐに掻き消した。 周りを見れば背広を着たサラリーマンに道路工事の警備員。宅配のお兄さんが台車をガラガラ鳴らして通り過ぎたかと思えば、私の脇をバイクに乗った郵便配達がコン、とギアチェンジを残して過ぎ去る。みんな、やる事がある。陽射しの照り付ける中で日陰も見つけられず、立ち尽くす私は一人。なんだか、ちょっと泣きたくなってきた。 その日を境に私は少しだけ変わった。男を知ったとか、決してそんなんじゃない。眼鏡をコンタクトに変えてみて、髪の毛も少し短めにして、お陰でお小遣いも底を着いちゃった。でも、変わったのは外見だけ。コンタクトだって、香奈とか健介さんがそうした方がいいって言うから。私自身は何も変わってないのかも知れない。お母さんには勝手な事をと怒られて、お父さんは呆れていた。
21/02/09 18:54
(yfGernhw)
投稿者:
うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
「中山君てさ、まだ私の事見てるでしょ」
声を掛けたのは雨の放課後。彼を意識しだして初めて、その視線にも気付くようになった。 「ご……ごめん」 「ううん。いいよ別に」 この前告白された体育館脇。今度は私が待ち伏せしてやった。疎らになったとは言え下校する傘は絶えず、人目を憚って錆ついた物置の裏。屋根の張り出しは僅かで傘も畳めない。 「私のこと見ながら何考えてたの?」 「いや、その、なんだか雰囲気変わったなって」 体育館の中からキュッキュとバスケ部の練習が聞こえる。 「嫌いになった?」 「い、いや、そんな事は……。やっぱ、その、かわいいなって」 ドキリとする。健介さんたちに言われた時と違って、苦しいくらいの高鳴り。私まで顔が真っ赤になってしまう。 「嘘。……ホントはエッチな事ばっか考えてたんでしょ」 「え? あ、いや、そんな、違っ……」 男なんてみんなそうだ。そうに決まってる。 「中山君てさ、本当に私の事、好きなの?」 「……うん」 「ただ私と……したいだけなんじゃないの?」 「そ、そんな事無いって!」 狼狽えてる。この前は私がこんな感じだったのに。 「私……たぶん中山君の事、好きになれないと思うの。好きって、どういう事かわかんないし」 たぶん……誰も好きになれない。香奈以外は誰も。たとえ健介さんでも。 「阿部……」 「ごめんなさい。でも、嬉しいよ。私なんかを見てくれてたなんて……」 雨脚は激しさを増し、傘を叩く音が煩い。脛が飛沫で濡れる。グラウンドを覗き見れば靄が掛かったように地面が見えない。 「雨、強くなって来ちゃったね」 中山君は俯いたまま。なんだか悪い事をしちゃったような気がして来た。 「阿部ってさ、やっぱ誰かと付き合った事とか、無いんだろ?」 半分決め付けられた質問にイラっとする。当たってるけど。 「無いよ。告られたのだって、中山君が初めてだったし。……あるわけ無いじゃん、私なんかが」 だから何さ。なんだか、だんだん面倒臭くなって来た。 「でもね、付き合った事は無いけど、経験はあるよ」 「なんの?」 「せっくす」 「ええっ!」 彼の顔が青ざめてゆく。人が絶望した時の顔ってこんなんだろうか。なんだろ、私、変な所で意固地になってる。 「私ね、好きでもない人ともエッチできるんだ」 「そんな……嘘だろ?」 「がっかりでしょ」 これは、中山君の気持ちに対する裏切りだろうか。 「嘘だろ!」 透明のビニール傘をさしたまま、雨の中へと駆け出してゆく。水飛沫を立てながら。なぜだろう、悲しくも無いのに涙が出て来て止まらない。むしろ雨にけむる中山君の後ろ姿が可笑しくて、笑ってやりたいくらいなのに。笑ってやれたら少し救われるような気がするのに、どうして涙が止まらないんだろ。 私は人を傷つけたんだと思う。いっそ、エッチの対象としか見られてなかったら、気が楽だったのかも知れない。 午前零時。今ごろ中山君は一人ベッドに潜って、妄想の中で私を裸にしてるんじゃないかな……こんな風に。 外泊する事が頻繁になってもお母さんは何も言わない。だから、私も何も言わずにここに居る。煙草は無理だけど、お酒なら少しは飲めるようになりそう。 「ブラもだよ」 「えー、恥ずかしいです」 「嫌だったら一気だぞー。な、健介」 「とーぜんっ」 みんな服着てるのに私だけ脱ぐなんて。香菜にジャンケンで負けただけなのに。 「だいたい、なんで健介さんたち参加しないんですか」 「そうだそうだ! 彌久の言うとーり!」 「だって俺らが脱いだってツマンネーじゃん」 「つまんなく無いぞー」 香菜はかなり酔っている。私も思いきり酔ってしまえれば。 「これ以上は恥ずかしくて無理ですよぉ。だから、一気します」 「えー」 「マジかよー。オッパイ見せろよー」 「み、見せるような立派なもんじゃないです!」 健介さんと慎治さんは声を揃えて残念がった。彼らはスケベだけど面白い。 みんなの掛け声に合わせてグラスの酎ハイを空ける。口の中の冷たさと炭酸の刺激さえ我慢すれば平気。ご褒美に拍手。ちょっと照れ臭い。 「じゃぁ今度は全員でジャンケンねっ!」 「いいぜ、その代わり負けた奴は勝った奴の命令、絶対聞くんだぞ」 彼らと知り合うまでは騒ぐなんて事、無かった。もし中山君と付き合ってたら、こんな楽しくはなかっただろうな。うん。振って良かったんだよ。きっと。 パチンコ屋さんの音。テーブルに散らかるポテチのカケラ。青白い靄みたいに漂う煙草の煙。誰も回そうとしないから、私が換気扇を回した。 「また俺かよ! 四連敗じゃねぇか。香奈テメェ少しは手加減しろよな!」 「ジャンケンに手加減もないでしょ。ハイ、パンツ脱いでー」 「マッパかよ!」 「アハハ、慎治さん弱っ」 笑いながらも心臓はドキドキ。横目でチラ見してみれば意外と筋肉質で、でもやっぱり下半身は見れなくて目を逸らす。 酔った勢いにしたって、ここまで脱がなくてもいいのに。私と香奈は下着姿にされちゃって、ちゃんと服着てるのは健介さんだけになっちゃって、どこまで続けるんだろーって、少し不安になって来ちゃってて……あれ? さっき一気なんかしちゃったから、あたしちょっと酔っちゃってる? 「よーっしゃーっ! やっと勝ったぜ。香奈、よくもやってくれたなぁ」 最下位の香奈は慎治さんの命令を聞かなきゃなんなくって、全部脱がされちゃうのかなー、と、思ったら、ニヤニヤしながらとんでもないこと言い出した。 「くわえろー」 「えー、マジでー?」 ほっぺた膨らませてんのに素直に従っちゃう香奈。そこまで……うわ、しちゃうんだ。でも、チラッと見えた横顔は笑ってて、裸であぐらをかく彼のお腹にその顔が埋まってった。 「じゃぁコイツは一回休みで三人でジャンケンな」 お蕎麦啜ってるみたいな音。テーブル越しに上下しながら見え隠れする耳は真っ赤。フツーな顔して煙草をふかす慎治さん。 ……あ、負けちゃった。 「うーし! じゃぁ健介、勝負だ。ジャーンケーン……」 勝ったのは健介さんの方だった。やっぱり二人の注目が私に集まって、つい、両腕でブラを隠す。 「いよいよ彌久ちゃんのオッパイ……」 「ハハハ、勝ったのは俺だぜ慎治。そうだなぁ、コイツらと同じ事、俺にもしてくんね?」 一瞬言葉を失う。 「……ええーっ! そんな、した事ないし」 「勝ったやつの命令は絶対つったろ? だーいじょうぶ簡単だから」 言いながら早くもベルトとボタンを外してファスナーを下ろし、下半身を惜し気無く出しながら手招き。 「香奈ちゃんのしてんの見てさ、真似してみ」 恐る恐るテーブル越しに覗き込んでみれば、顔を赤くしながら一生懸命な香奈。激しく頭を上下させながらその右手は自らの股間へと滑り、下着の上からこすっていた。スイッチが入ってる。なんてイヤラシイ香菜。慎治さんはそんな彼女の頭に左手を添え、右手には缶ビール。 「コイツ、すげー上手いんだぜ。彌久ちゃんも練習しなきゃな」 「おいで、彌久」 別に恋人でもないのに、健介さんに呼び捨てにされて一瞬ドキリ。近寄ってマジマジと見れば、ちょっとグロい。けど、我慢して口をつけてみた。 「そう。ゆっくりでいいから」 口の中に触れないよう、口を目一杯開いて頭を沈める。鼻からしか呼吸出来なくて苦しくて、自分の息が荒くなっていたのだと知る。よだれが垂れちゃいそう。やがて体温を口に含む違物感に、思わずオエってなって吐き出しちゃった。 「ケホっ」 「あんま無理しなくていいよ。舐めるだけでも」 張り詰めてる。脈打ってる。私の中に入りたいって訴えてる。私は先端から根元に向かって舌先を這わせてみた。彼の優しげな掌が髪を撫でる。 「ねぇ、ジャンケンは?」 「いいよもう。そんなの」 ブラの上から胸を触られ、私は身をよじる。そんなささやかな抵抗を余所に、テーブルの向こうでは香奈の喘ぎ声。 「痛っ」 テーブルの足に膝をぶつけた。たぶん私、この前より酔ってる。なんだかフワフワしてて抱かれても実感が湧かない。ただ、さっきから触られ続けている胸だけに神経が集中して、思考が色を失くしてゆく。香奈と同じような、声が出ちゃう。 「あら、この前と違って、超感じちゃってんじゃん」 「彌久ちゃんて、こんなにエロかったんだね」 「お前らわざわざ見にくんなよ」 いつしか香奈と慎治さんが傍に来て、健介さんの股ぐらにうずめる私の顔を覗き込んでいた。 「あーもう彌久ったら、下手くそだなぁ。見てらんないよ」 じゃぁ、見なきゃいいのに。 「香奈、お前がちょっと教えてやんなよ」 「うん。彌久、ちょっと貸してみ」 突然しゃがみ込んだ香菜の顔が私の隣に。 「おいおい、健介ので教えんのかよ」 「まぁそう固てー事言うなよ、慎治」 「こうすんの。よく見てて」 すると目の前で、香奈は健介さんのを口に含み始めた。なんていやらしい音。しゃぶったり吸ったり、かと思えば口から出して舌を這わしたり。 「ほら、彌久も一緒に」 それ自体が別の生き物のような、そそり立つ一本の肉。それを香菜と一緒に舐め回す。たまに頬と頬が触れ合ったり、かと思えば唇と唇で先っぽを挟んでみたり。 「おいおい、あんますんと俺、すぐイッちまうって」 先端から糸を引きながら先走る透明な何か。舌先でそれを拭う香菜の横顔は、笑顔を含んだ上目遣い。 「いいじゃん、このまま出しちゃえば。それともこの娘の中でイキたいの?」 「そりゃぁ……まぁな」 「しょうがないなぁ。彌久、ちょっと立って」 香菜に支えてもらいながら立たされる。途端にストン、と、下ろされるパンツ。朦朧とした頭で、なんとなく恥ずかしいかもって思うけど、すでにみんなも裸だし。私は香菜に、胡座をかく健介さんに向かい合う形で抱きつくよう促された。 「なんだ、しっかり濡れてんじゃん」 股の間に香菜の手。真っ正面に私を見詰める健介さん。 「んー、この辺かな? あとはゆっくり腰を前にずらしてって」 お尻の辺りで香奈の手が動き、迷える健介さんを私の中へといざなう。腰を落とすごとに、彼が少しずつ入って来る。 「んっ、やっ……こんな、みんなが見てる前で……」 「気にすんなって。そんな恥ずかしいんなら彌久、目、瞑ってな」 言われた通りにしたら唇を塞がれ、でも私は彼にしがみつくのが精一杯。なのにみんなは平然と再びお酒を飲み始めた。健介さんも繋がってる私の背中を抱きかかえながら右上の辺り、左手で取り出した煙草に火を点けた。私一人が快楽の波に呑み込まれてゆく。 「今度さ、ダーツとか行こうぜ」 「あ、行きたーい」 イキそう。だけど、こんな時に一人イッちゃうなんて恥ずかしくて、だから我慢する。けど、繋がったままの健介さんが笑うだけでその振動が身体中に響き渡り、今、どこかを変に刺激されただけで、おかしくなっちゃいそう。 「じゃぁ四人でダーツ大会な。ちゃんと広くて飲める店とか知ってっからさ」 ヤバい。髪の毛触られてる。 「ん? どうした、彌久」 力一杯しがみ付いて、潤ませた目で見つめ上げて訴えてるのに。なのに健介さんは非情にも私の耳を指で摘んで……。 「んんーっ…………!」 止まらない痙攣。溢れ出して健介さんの股間を濡らす。 「あれ? こいつ、もうイッちまった?」 「え? なになに、マジでー?」 「お、本当だ、ずげービクビクいってる」 我慢していた全ての物が解き放たれた。私はただ健介さんの鎖骨に顔を押し付けながらその体にしがみついて、押し寄せる波に打ちひしがれるばかり。 「おいおい俺まだ全然、腰動かしてねぇぞ……おほっ、締め付けてる締め付けてる」 「彌久ちゃん、イク時はちゃんとイクって言わねぇと」 慎治さんに背中を指で突つかれた。それだけで一番感じる所を刺激されたみたいに跳ね上がる。体が、おかしくなってる。 「うわぁ、スゲー事になってら。慎治、悪りぃ、座布団びしゃびしゃにしちまった」 「いいっていいって」 見上げれば霞んだ視界に健介さんの悪戯っぽい笑顔。私は彼を見詰め、すがるような思いで首を横に振る。 「だめ……健介さん……お願い、動かない……でっっ」 一転、彼の目は悪戯。 「聞こえねーなぁ。動かして欲しいの?」 「やっ……だ、だめっ」 健介さんは激しく腰を突き上げ始め、私はずっと昇りつめたまま。裂きイカの袋で背筋をなぞる慎治さん。香菜の笑い声。 「だめぇぇぇぇぇっ!」 「キャハハハッ」 私の叫びとみんなの笑い声が重なり合った。全身の力が一気に抜けて、私はそのまま仰け反る。そして後ろへと倒れ込む一歩手前で、背中に暖かく柔らかい感触。香奈だ。私の大好きな香奈。背中から強く抱き締めてくれる。 「あーもう、ほら、抜けちゃたじゃん」 でも、幸せな気持ちも束の間、それはただの拘束だと知った。蛍光灯の眩しさでシルエットとなった健介さんに足首を持たれ、左右に大きく広げられて……。 「手、どけて」 首を横に振る。健介さんの顔と私の大事な所を隔てる手。 「しょうがねぇな。慎治、ガムテかなんかねえ?」 「おう、縛っちまうんだな?」 布を引き裂くような音に、ビクリと肩を竦めた。前を隠す私の手は香奈に捕えられる。 「ねぇねぇ、足も一緒に縛っちゃおうよ。慎治、手伝って」 健介さんの手で膝を折り曲げられて、ちょうど膝を抱えるような格好にされると、その足首に私の腕を持って行く香奈。ガムテープを用意する慎治さん。三人掛かりで私の関節を自由に操る。 ジッ……ジーッ 左右それぞれの足首と腕を、ガムテープでぐるぐる巻きにされ固定された。 「こんなに巻いて剥がす時痛くねぇかな」 「大丈夫だよ。無駄毛も抜けるし丁度いいんじゃなーい?」 どんどんとガムテープを巻かれてゆく私。右足から背中を廻って左足へ。 「ほら、動かないでよ」 こんな、カエルみたいな格好じゃ、大事な所が丸見えに……。
21/02/09 18:55
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うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
「ホントは紐かなんかの方がいいかも知んないんだけどねー」
香奈は自由を奪われてゆく私を助けるどころか、そんな事を言い出した。 「今度買っとくよ。鞭とか蝋燭とかは?」 「なぁに? 慎治も縛ってもらいたいのぉ?」 「バカ言え。っていうか、お前もSか!」 「うん、ドSかもー。でもこの娘はきっとドMだよ」 そうなのかな。うん、そうなのかも。だって、さっきから心臓が苦しいくらいで……。 「もっと色んな事されて遊ばれたいんでしょ」 心を読み透かすような囁きは、耳許に息が掛かる近さ。首筋をなぞる指先。 「違っ……あっ」 広げられた足の間に健介さんのニヤけ顔。指で左右に広げられ、潜んでいた粘膜を暴く。 「うわ、超濡れてんじゃん」 「へぇ、香奈のよりちっちぇーんだな。色もピンクだし」 「アハ、うねうね動いてるよ」 みんなが、上を向いて口を開く私の恥ずかしい所を観察している。体の中まで見詰められながら、健介さんの指にするりと滑るよう、なぞられる。時計の針の音と不協和音を立てながら、納豆をかき混ぜるような音。激しくなるにつれて、耳鳴り。私は不自由な姿勢の中で、ぶるん、と、小さく跳ねる。 「彌久ってやっぱ、こう言うの好きなんだね」 「あくっ!」 背後から伸びる細い手に、胸を鷲掴みにされる。首を激しく横に振りながら、言い訳出来ないくらい感じている自分。 「だっっ……めっ!」 「じっとしてなきゃダメ。彌久は私のお人形さんなんだからね」 「えー、俺のじゃねぇの?」 「私のだよ。でも、健介さんだったら貸してあげてもいいよー」 ダメ。私は香奈だけの物なんだから。なんて想いを砕くかのように、聞き覚えのある携帯の電子音がしたと思ったら、頭の上から携帯を構える香奈の姿。 「やだ、何撮って……」 「アハハ、バッチリ撮れちゃった」 「あ、それ俺にも送ってよ」 「自分で撮ればいいじゃん」 「なぁ、これとか、入れてみねーか」 「あ、いいじゃーん」 何? 今度は何されるの? 「ねぇ彌久。コレは何でしょー」 それはビールの空き瓶だった。信じられない光景だった。ぼやけた視界の先で、突き立った空き瓶が私の体内へと沈んでゆく。もう、声とか我慢できない。脚は限界まで折り畳まれて、膝が耳を塞ぐ。 「もう……やめてぇ……」 「うるさいなぁ、口も塞いじゃおっか」 ジッッ 「んっ!」 ガムテープで口を塞がれて、だけじゃなく、タオルで目隠しまでされてしまった。薄いタオルを透かして届く蛍光灯の光で、真っ暗にこそならないけれども塞がれた視界。その中で、太腿を掴むゴツい手と、胸を包む細い手を感じる。後は自分の鼓動と濡れた音。お酒と煙草の匂い。 「んんっ!」 にちゃり、と、音を立てながら入っては抜かれ、そのたびに瓶の先端がゴリゴリと内側の壁をこする。 何も見えず、何も言えず、身動きも出来ない。私はただ身体中を支配する悦楽に飲み込まれてゆくがまま、自分を失ってゆく。羞恥心もプライドも、心も……ううん、もしかしたら、そんなもの初めから無かったのかも知れない。全身の筋肉が緊張して、そのまま私は一気に昇りつめてゆく。絶頂の波を止められない。全身を駆け巡る刺激に痙攣、止まらない。 「んんっ!……んんっ!」 「うわ、こいつまた汐吹いちゃってんよ」 慎治さんの浮かれた声を聞きながら、身動き出来ない中で跳ねる私。閉ざされた視界が白くなってゆく。私の身体は硬直したまま、心はふわふわと漂う。 「あらら、彌久ったら空き瓶なんかでイッちゃったのぉ?」 不自然な格好のまま横向きで床に転がされた私の体。ツルリ、と瓶が抜けた。 ……どれだけの時間が過ぎたのか、突然視界を襲う光の洪水。目隠しと口を塞いでいたガムテープが取られたからだと気付くのに、少し時間がかかった。私を取り囲むシルエット。 「気分はどう?」 「あああ、か、香奈ぁ……。あたし、あたしぃ……」 「アハハ、超アホみたいなツラー」 「うわぁ、目がイッちゃってんな」 数え切れないくらいイッちゃって、なんだかもう苦しくて、意識が遠くなりそうだった。 「香菜ぁ……もう、ほどいてぇ……」 「だーめ。今夜はずっとその格好のままよ」 「おねがいぃ……トイレ、いきたいぃ」 「何? オシッコ?」 不意に襲って来た尿意だった。 「……うん」 「あ、俺、一度女の子が小便してんとこ、見てみたかったんだ」 「健介!……俺もだぜっ」 「あんたたちヘンタイ!」 「いいじゃんかよ、ちょっとした好奇心だよ!」 そんな、この人たち何を言って……。 「しょーがないなー。じゃ、お風呂場でさせちゃう?」 「やぁ……そんな、普通にトイレ……あぁっ」 「なあに? 口答えすんの?」 身体はまだ敏感なままで、髪をちょっと触られただけで跳ね上がってしまって、そんな有り様だから両脇を支えられないと立つ事すら出来なかった。 鋏でガムテープを切ってもらい、私は怪我人でも運ぶかのようにして連れて行かれる。玄関の左側、狭くてカビだらけのバスルーム。 私は不安定なバスタブの縁に、浴槽へ向かってしゃがまされた。ボヤけた視界の中、大事なところの目の前には慎治さんがしゃがみ、後ろから健介さんに支えられる。 「やだよぉ、こんな……」 「サッサとしなさいよ。私の言う事聞けないわけ?」 仁王立ちの香奈の高圧的な言葉。 「でもこんな、見られてたら、出ない……」 「しなかったら金輪際遊んであげないよ」 嫌。それだけは嫌。 「ほら、出しちまいな」 健介さんに下腹部の辺りを押される。と、同時に尿道の辺りを指で刺激される。お尻に力が入らなくて、我慢出来なくって。 「だ、だめぇーっ!」 勝てなかった。バスタブの底を叩く水音だけが、やけに大きい。一度漏れ出すと止まらなくなった。香奈は急いで携帯を持ってきて、こんな私の姿を写真に収める。 「だー……めぇー……」 絶対ひとに見せれない姿を見られちゃってるのに、心臓が苦しいほどドキドキしている。本当だったら泣いてたかも知れない。だけど今は、どこかのネジが弛んでしまったみたいで、何をされても、どんな姿を見られても、全てが喜びや快感に変わってしまう。もっと私で遊んで。もう、放って置かれるのは嫌。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 出し尽くすと、香奈がシャワーで黄色くなったバスタブを洗い流し、ご褒美とばかりにキスをしてくれた。 「やだー、あんたたちなに興奮してんのよ」 立ち込める湯気の中、目を凝らして見れば二人の目は血走ってるみたいで、なぜかあそこが大きくなってる。 「いやなんか、エロいなって。なぁ慎治」 「ああ、すげー変態チック。なぁ、香奈もここで……」 「バカ言ってんじゃないの!」 頭の上からぬるま湯の集中豪雨。ベタついた汗が洗い流されてゆく。 「うわっ、コラ、やめっ!」 「キャハハハハッ」 シャワーが背中からお尻を叩く。再び立ち込める湯気と湿気。その中で健介さんが私を抱きしめ、やがて背中に密着する慎治さんのの体。二人に挟まれる私。降り止まないシャワーの雨と飛沫が汗を洗い流し、流された先からまた汗が噴き出す。浴室にはみんなの荒い息遣い。 「彌久。気持ちいい?」 「うんんっ、いいいーっ!」 私の体は他人のためにある。私が出来る事は、この体を差し出して、楽しませる事ぐらいなんだ。体しか無いから。人形に、心なんて無いから。 「どうしたの? 彌久」 「ううん、何でもない」 この視線は中山君だろうか。あれ以来彼とは一度も話していない。だけど、そんな陰から覗いていなくてもいいのに。 「聞いて聞いて、昨日さ、慎治がね、ラブホ連れてってくれたんだー。私初めてでさ、超テンション上がっちゃってさー」 最近香奈は慎治さんの事ばかり話すようになって来た。私はと言うと今週末、健介さんに誘われている。本当は香奈も一緒じゃなきゃ嫌なのに、二人きりだって言う。 「ゲームとかやり放題だしさ、カラオケまであんのよ! ヤバくない?」 「ふーん」 「彌久はどうなの? 健介さんとは」 「んー、誘われちゃいるんだけどねー」 「なーによー、その気の抜けた言い方」 健介さんは優しいし、カッコいい。それにエッチまでしちゃった仲だけど、でも多分、これは好きとは違う気がする。 「阿部……」 放課後の帰り際、背後から中山君が話し掛けて来た。モノレールの駅の階段を、息を切らして昇って来る。夕日が竹林に沈み、涼し過ぎる風の音。 「その、この前はごめん。いきなり帰っちゃって」 「ううん、私の方こそごめんね、なんか」 中山君は息を調えて下を向く。何かを言い出すのか、そう思っていたら暫くの沈黙が訪れた。 「あの、俺……」 やっと口にした言葉を遮るように、モノレールがホームへと滑り込む。 「乗ろ。どうせ帰り道一緒なんだし」 「あ、うん」 少し時間が早いせいか乗客は疎ら。私と中山君は最後部のボックスシートに座った。時折右手の車窓から飛び込んで来る、沈みかけの夕日が眩しい。 「阿部さ、好きな人は居ないって言ってたじゃん」 「うん。居ないよ」 「俺、ずっと、阿部の事、好きでいてもいいかな?」 何も感じない。それは多分、彼の気持ちが全く解らないからだと思う。 「でも私、中山君の気持ちに答えてあげれないよ?」 「いいんだ。別に。それでも」 ずっと俯いている。額に汗を浮かべながら。 「他の人、好きになった方がいいよ。私なんて忘れて」 「無理だよ!」 なんだか責任を感じて来てしまった。何も悪い事なんてしてないのに。たとえ付き合ったとしても、私が与えられる物と言えば……。 「中山君。じゃぁさ……私にできる事、してあげよっか」 「できる事?」 周りには誰も座ってない。ワンマンだから車掌さんも居ない。私はおもむろに、向かいの席に座る中山君の学生パンツを触った。 「なっ、お、おい」 「私ってさ。多分こう言う事しか、してあげらんない人間なんだ」 ベルトを外そうとしたら、彼の手が私の手を止める。 「いきなりそんな、こんなとこで」 「嫌なの?」 「嫌……じゃ、ないけど」 「あ、でも後で……お小遣い頂戴。ちょっとでいいから」 いっそ、そういう女だと思って欲しい。私なんかを本気で好きにならないで欲しい。 「阿部お前まさか、援交とかしてんの?」 「してない……けど、したいんなら援交してあげても別にいいよ」 駅に止まっても誰も乗っては来なかった。下を向く彼は複雑な顔をしているけど、私は何も言わずにチャックを下ろした。やがてパンツの中から探り当てたものは、やはり。 「なんだ。やっぱしたいんじゃん」 「いや、これはその……」 下着の脇からニュッと生えたそれを口に含んだ時、モノレールは加速してトンネルへと入る。窓の外は闇で塗り潰されて車内灯。一瞬だけの夜。激しい騒音で何も聞こえない。ただ湿気を伴った熱が私の鼻孔を襲うだけ。膝の上で握り絞められた拳は血管を浮かべ、学生パンツに皺を寄せる。今ひとつ上手くできないけど、中山君は腰を浮かして押し付けて来た。私は涙目になりながら、根元まで。 やがてトンネルを抜けると、再び夕暮れの鎌倉山。通路を挟んだ反対側の車窓から差し込む夕日に、狭いボックスシートが照らされたその瞬間、どくどくと口の中が満たされた。彼は体を震わせるとともに、その先端より熱い粘液を吐き出し続ける。私は白濁を含んだまま狼狽え、慌てふためき、鞄から取り出したティッシュへ。 「ご、ごめん」 生理的な不快感に襲われて吐き気。でも、彼の顔がなんとも惨めで、笑いが込み上げて来た。そうだ。結局男って、出したいだけなんだ。そう考えると楽だ。出すためなら、こんな私でもいいんだ。 「ね。もっと、続きする?」 私、今、どんな顔してるんだろ。いやらしい顔付きだろうか。もしそうだったとしても、中山君の血走った目の方がよっぽど卑猥な筈だ。でも、その顔を見てやれない。 「俺……俺……」 「何も言わないで……お願い」 スカートを少しだけ捲って見せる。恥ずかしさにドキドキするけど、ドキドキがゾクゾクへと変わってゆく。身を乗り出してスカートの中を凝視する彼。それでいい。それでいいんだ、とは、思うけど……。 「か、顔近いよ」 鼻息を内腿に感じるくらいに。震えてるのに、膝を広げる私。 「触っても……くっ……いいよ」 顔を背けながら言ったら、息苦しいほどに自分の呼吸が荒れてると気付いた。 そうか。 彼のためにこんな事してるんじゃないんだ。 自分が見られたいんだ。 弄って欲しいんだ。 遊ばれたいんだ。 結局、誰だっていいんだ。 震える指が下着の上を縦になぞる。私はビクリと反応を隠せない。 「湿ってる……」 「うそっ!?」 確認してみたら、いつの間に私こんなに濡れてたの? 替えのパンツなんて持ってないのに。 「あっ」 強く圧されて思わず声が出ちゃった。私は焦り手の甲で口を塞ぐ。右手の通路に身を乗り出してそっと車内を窺うけど、三人しかいない乗客は誰も気付いてない。 「あ、ちょっ……」 彼はすでに我を忘れてしまったのかのように、パンツを横から捲り上げ、直に触って来た。 「ぬるぬるしてる」 息を荒げながら釘付け。 「ま、待って、今下ろすから」 もう手遅れなくらい汚れてしまった下着を、腰を突き出すようにお尻を浮かせて下ろした。靴を脱ぎ、いっそ完全に脱いでしまう。 「ね、隣座って」 「あ、ああ」 荷物を前に置くと彼は左隣に座り、肩が触れ合った。おもむろに彼の股間へと手を伸ばせば、早くも稜線を象った硬さ。手をクロスさせ、彼の手は私のスカートの中へ。他の乗客に気付かれたらと思うとドキドキして、濡れて、モノレールは揺れて。
21/02/09 18:58
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うなぎだ
◆OIVbvWW3pE
『間もなく終点、湘南江ノ島ー、湘南江ノ島です』
降りる駅など、とうに乗り過ごしていた。お互い顔が真っ赤で息も荒い。 「中山君。もう、終点着いちゃうよ」 「うん、どうしよう。折り返しで戻ろうか」 私たちは身を整えて一旦モノレールを降り、何食わぬ顔で再び進行方向最後尾の車両に乗った。この時間、下りよりも大船行きの方が空いていて、車内には私たち二人しか居ない。 「私ね、実はついこの前、中山君に告られた後にね、初めて知り合った大学生の人と、エッチしちゃったんだ」 「なっ……マジで!?」 彼は目を見開き、口も半開き。何かが崩れてゆく音か聞こえたような、ガーンって音はこう言う時にするんだと思った。 「なんで……」 「ノリかな」 「そんな……」 「もし中山君だったらどうなの? 好きでも無い女の子とそう言う感じになったら。しないの?」 「しない! ……と思うけど……わかんない」 「でしょー? 私だって中山君と同じくらいエッチなんだよ? たぶん、中山君が思ってるような女じゃないよ」 「それでも! ……それでも俺……んっ!」 それ以上は言わせない。ために、彼の唇を塞いだ。ごめんね。……ごめんなさい。これ以上好きなんて言われたら私、傷ついてしまう。 ゆっくりと滑り出すモノレールはジェットコースターみたい。唸りを上げるモーター音。陽は山に隠れ、ひと駅ごとに暗くなってゆく街並み。中山君はボックスシートの間に膝を着いて、スカートの中。私は腰を少し前に突き出して座る。少し汚れた下着はポケットに仕舞い込んだままで、膝の間からは猫がミルクを飲む時のような音、微かに。私は右手で口を塞いで、声が漏れないように。それでも、指の間を縫ってくぐもった声。 駅で二人のオバサンと、塾帰りらしい小学生の男の子一人が乗って来た。でも最後尾の席に座る私たちが何してるかまでは気付かない。 「んーっ」 舌先の触れるか触れないかの感触で、背中がぞくりと総毛立つ。私は足を向かいの席の上に靴のまま乗せた。お尻の下のシートには熱が篭り、汗が染み込んでゆく。 ばさり、と、海から這い出て息継ぎをするかのように、彼。真っ赤な顔にびっしりと貼り付く、汗。 「ふふ、窒息しないでね」 「阿部。俺……」 肩で息をしながら、カチャカチャとベルトを外す。 「え?……あ、ちょ、ちょっと?」 ずらしきれない学生ズボンとパンツからいきり勃つものを辛うじて引っ張り出し、不自由で情けない格好のまま私の上に覆い被さって来る。 「やっ、ちょっ、ダメだってば」 いくら手を突っ張っても、体重を掛けられて重い。小声で抗議しても必死に擦り付けて来る。まるで犬みたいに。 「ごめん……阿部、ごめん……」 「ま、待ってってば、気付かれちゃうってマジで」 「あっ……くっ……」 先っちょが入るか入らないか、というところで生暖かい感触が股の間にじんわりと広がった。 「うぅ……はぁ、はぁ、はぁ……」 「馬鹿……中山君の馬鹿」 目の前で愕然。席と席の間に崩れ落ち、泣きそうな顔で俯く。ポケットティッシュを取り出して股の間を拭っていたら、私まで泣きたい気持ちになって来た。 「ねぇ、次、もう西鎌倉だよ。そんなとこに、しゃがみ込んでないで」 「ごめん……」 「いいから早くズボン穿いて」 モノレールは私たちの住む西鎌倉駅に到着しようとしていた。降りなきゃいけないけど、中山君をこのままにして一人降りるのも、なんだか可哀想だ。そう思っていた時だった。 「あれぇ? 何してんの彌久」 開いた自動ドアから乗り込んで来たのは、私服に着替えた香菜だった。私は驚きで降りるのを忘れ、ドアが閉まる。血の気が引く。 香奈も私たちを見た瞬間に全てを理解し唖然とする。膝の間でうずくまっていた中山君も言葉を失う。モノレールが、動き出す。 「あんた、私の彌久に何してんのよ」 「ち、違うの、これは私が……」 眉間に皺を寄せ、私を睨み付ける。 「ま、別にいいけど。あんたが誰と何しようと」 「香奈……待って、ちょっ、香奈っ!」 前の車両へと去ってゆく後ろ姿は、いくら呼び止めても答えてはくれない。私は後を追おうとするも下半身に力が入らなくて、背凭れに手を掛けながらやっと立ち上がれた。かと思えば、足が縺れそうになる。 あの目は嫌悪感に満ちていた。私は情けなくうな垂れたままの彼を残して香奈を追う。そして、先頭車両にその姿を見つけた。 「香奈、ごめん、私……」 「別に謝る事なんてないじゃん。悪い事してる訳じゃないんだから」 「違うの、いっそ中山君に軽蔑されようとして私、それに……」 「なにそれ?」 自分でも言ってる事が支離滅裂だと思った。けど、上手く説明できないし、とにかくすがるしか無かった。嫌われたりでもしたら、全てが終わる。 「汚いなぁ。触んなよ」 体が凍りついた。香奈は窓の外を眺めたままで、私を見ようともしない。 「あんなキモイやつと、あんな所でエッチな事して……犬ね」 涙が溢れて来た。いつも香奈の言う通りにして来たのに、勝手な事したからだ。 「お願い……もうあんな事しない。何でも言う事聞くから。だから……棄てないで」 棄てられたら、私なんにも無くなっちゃう。 「あんたさ、どんな奴ともエッチできんのね」 「そんな事……」 「できんのよ。だって、あんたは自分が無いんだから。その辺のオヤジと寝ろって言ったら寝れるでしょ」 「そんな……」 でも、香菜がそう言うなら。それで棄てられないなら……。 終点の大船に着いた時、街灯も自動販売機もすでに明かりを灯していた。何か言わなきゃって思うのに、何の言葉も出て来ない。だから、何か言って欲しい。いつもみたいにまた笑って欲しい。そう思っていたら……。 「何ついて来ようとしてんのよ。あたし、これから慎治んちに行くんだけど」 「香奈ぁ……お願い、私、香奈が居なかったら……」 「知らない!」 突然駆け出した香奈。ただ確かなのは一瞬、振り返ったその目に涙をいっぱい溜めていた事。そして私は路上にただ一人、取り残された。 大船駅は仕事帰りのサラリーマンで混雑していた。胸が苦しくて、階段を昇る足も重い。黒い背広たちが追い越してゆく。プラットホームに立てば、息をつく間もなく背中を押され、ぎゅうぎゅう詰めのモノレール。流れる街の灯りをぼうっと眺めながら、頭の中では香奈の言葉がいつまでもこだましていた。 私がこんな風になってしまったのは誰のせいだろう。……違う。そうじゃない。生まれた時から私は汚れてるんだ。私なんか生まれて来なければ良かったんだ。私なんか……。 気付いたらもう西鎌倉の駅。夕日はあんなに赤かったのに、にわかに降り出した小雨がアスファルトを濡らして街灯の反射。でも、家にも帰りたくない。帰ったところで待っているのは、お母さんの小言と受験勉強。 その時、携帯が鳴った。健介さんからだ。 「なに?」 ぶっきらぼうに言う。 『おー彌久、今どこに居んだ?』 「西鎌倉の駅だけど。なに?」 『んじゃぁさ、今迎えに行くからお前も来いよ。友達の親父が江ノ島の近くに別荘持っててな、遊びに行くんだ。慎治と香奈も行ってるからさ』 香奈と会ったとしても、もう、どんな顔すればいいのか解らない。 「健介さん、また……エッチな事するの?」 『かもなー。そいつがさ、いいハッパ持って来るっつーから、キメてりゃそうなるんじゃね?』 嫌な予感がする。そんな危ない集まりで、女の子が香奈一人だったら……。 「……私も行く」 外泊するって家にメールしていたら、健介さんの車は十分も経たずに来た。夜の雨に溶け込むグレーのセダン。ヘッドライトに浮かび上がる雨足を見て、意外と降ってた事に気づく。 「おまたせー。あれ? お前傘持ってねーんか」 「うん」 カーラジオはFM。アップテンポの曲と微妙にズレるワイパーの軋み。灯りの少ない別荘だらけの山道が続く。 「ねぇ、友達って、何人いるの? みんな男?」 「二人だよ。どっちも男だけど」 「あのさ、健介さんて私の事、好き?」 「な、なんだよいきなり」 「ただの、ヤラセてくれる女?」 「バカ言え。好きだよ」 いちいちそんな事聞くなと言わんばかりの、面倒くさそうな横顔。 「じゃぁ、私が慎治さんとか他の男に抱かれてても、平気?」 「遊びじゃねーかよ。そんなもんでいちいちマジんなんなよ」 それが大人の遊びなんだって思ってた。遊んでる人はみんなそうなんだって。だからちょっぴり憧れとかもあった。けど、なんか違う。 「着いたぜ」 白い二階建ての別荘の向こうは崖。建物の前には車が二台停まっていて、その内の一台は慎治さんのワンボックス。 「おー健介、彌久ちゃん、待ってたぜ」 とても居心地が悪かった。玄関で靴を脱いだまま、居場所を見つける事が出来ない。別に散らかってる訳じゃない。ただ、座っていいのかすら分からないような雰囲気。 「へぇ、かわいい娘じゃん」 知らない人が私を見た。緊張が走る。白で統一された部屋の真ん中に三台の真っ赤なソファー。慎治さんと一人の男が首だけをこちらに向けてそう言った。 「……彌久って言います」 「こっちおいでよ」 近付くにつれて見えてくるソファーの向こう側。そこには慎治さんを含む三人の男と、ソファーに横たわる香奈。男たちはみな上半身裸で、香奈も胸元を裸けていた。 「な、なにしてるの」 「気持ちいい事だよ。ミクちゃんだっけ、こっちおいでよ」 部屋に充満する熱気と、なんか甘ったるい匂い。ガラステーブルの灰皿に見た事のない煙草みたいなもの。 「マジでこんな可愛い娘がヤらしてくれんの?」 嫌な予感は的中した。ソファーの香奈は天井の一点を見つめたまま。 「香奈……?」 呼び掛けると、うっすらと潤んだ瞳でこちらを見た。私はガラステーブルの脇に跪く。 「アンタ、なんで来たのよ」 「あ、その……」 「ねぇ慎治、こんな汚ならしい女、追い返してよ。エッチしたかったらさ、みんなでアタシの体使えばいいじゃん。何してもいいよ。アタシ、なんだってするからさ。……だから、この女を……早く追い出して……」 「お、おい、香奈」 突然泣き出した香奈を見て慎治さんは狼狽え、私は全てを理解した。 「なんだよそれ。ツマンネーなぁ」 「しょうがねぇな。ま、香奈ちゃんが何でもしてくれるってんだから、いいんじゃね?」 その時、私の背後から両肩に、健介さんが手を乗せた。 「彌久、あっちの部屋行ってようぜ」 「健介悪りぃ、なんか今日こいつ変なんだ。……香奈お前、彌久ちゃんと喧嘩でもしたんか?」 違う。香奈は自分を差し出して、私を逃がそうとしてるんだ。嫌だ。こんなの、嫌……。 「香奈! いい加減にしてよ! 私が汚いって言うならアナタは何なのよ!」 いきなり大声を出したものだから、静まり返る部屋。私は香奈の手を掴んで起こした。 「み、彌久……」 「まぁ落ち着けよ、彌久ちゃん」 「落ち着いてるわよ! でも今日と言う今日は香奈にハッキリ言わせてもらいたいの。悪いけど、二人だけで話つけてくるから!」 「おいおい、ちょ、待っ」 私はふらつきながら立ち上がる香奈を強引に引っ張って、玄関まで連れ出す。あの変な煙を吸ったのか、抵抗する力も様子もない。そして、土間に転がっていたサンダルを履かせると、黙って表へと連れ出した。 薄暗い玄関先は降りやまない小雨。別荘の窓から漏れる明かりだけが、足もとを照らす。 「……香奈。帰ろ」 拒否られたらおしまい。私にとってそれは最後の賭けだった。 「彌久、あんた……」 「私も香奈も、男なんかのオモチャじゃないよ! あいつら、ただヤリたいだけだよ!」 「わかってるよ。そんなの」 「いいの? ああ言うのって、まわされるって言うんじゃないの?」 慎治さんのワンボックスと健介さんのセダンの間で香奈はずっと俯いたまま、胸元のボタンを嵌める。 「やっぱバカだね、彌久は。とっとと一人で逃げちゃえば良かったのにさ」 「バカはあなたよ!」 びくり、と肩を竦めた後に上目遣い。そして、視線が交わった瞬間に逸らした。 「い、一緒に逃げてやってもいいけどさ……。その代わり、ずっと……死ぬまで私から離れないって約束しなさいよ!」 「うん……約束する」 別荘の脇には狭くて急な下り坂。パタパタと足音を立てながら駆け下りれば、雨粒が正面から顔を叩く。間隔の広い街灯でよく見えない足もと。恐いけど、強く繋いだ手。坂の傾斜はどんどん急になって行き、止まれない。 「わぁぁぁーーっ!」 「きゃぁぁぁーーっ!」 なんだか急に笑いが込み上げて来て、私たちは奇声を上げた。 住宅街の路地をすり抜け江ノ電の線路を越えて、国道を渡る横断歩道は、青。防波堤を突き抜けた先には、いちめんの闇が広がる香奈と私だけの秘密基地。 「はぁ、はぁ、はぁ、香奈……っ、大丈夫? はぁ、はぁ」 「ハァ、ハァ、こ、ここまで来れば……ハァ、大丈夫よね」 私と香奈は防波堤の下、黒い砂浜に大の字で寝転がった。小雨は相変わらず顔を洗い、でも、もうすっかり全身ずぶ濡れだから、どうでもいい。 「はぁ、はぁ、彌久……ひどい事ばっか言って、ごめんね」 「香奈……」 「アハハ、やっぱ私も、彌久が居ないとダメみたい……」 私は体を起こした。黒い海の上には、低い雲が街の灯りに仄かに照らされ、でも灯りの届かない沖ではその境界線も曖昧。穏やかな波の音は、遠いようで近い。ふと、あの日の夜を思い出す。私の帰る場所はここだ。 「本当はさ、私、怖かったんだ。三人の男に囲まれてて。無理してたんだよね」 夜の雲を見上げながら話す香奈。私はそれをただ黙って聞いていた。 「彌久が健介と来た時、一瞬ちょっとだけ安心しちゃったの。連中の矛先がアンタに向くと思って。酷いよね」
21/02/09 18:58
(yfGernhw)
その冷たい手を握ると砂だらけ。でも、強く握り返してくれた。
「慎治もさー、大人だと思ってたんだけど、所詮男なんてみんな一緒だねー。彌久ごめんね。変なのに巻き込んじゃって。しかも、アンタの初体験まで私……」 「ううん。私は、香奈と一緒に居られるだけでいいの」 私は香奈だけのお人形さんだから。そう思ってたけど、もしかしたら、私の方がそうやって香奈の事を縛り付けているのかも知れない。 「泳ごっか!」 「ええっ!?」 誰も居ない砂浜で、ぐしょぐしょに濡れた服を脱ぎ捨てて海へと走り出す香奈。 「早くー! 彌久も来るんだよ!」 「えー……」 躊躇いながら、私も制服を脱ぎ捨てて後を追う。でも、私は香奈のこんな破天荒なところが好きなんだ。 「早く早くーっ!」 いつしか降り止んだ雨。波打ち際から一歩踏み出せば掬われる足元。飛沫を上げながら膝ぐらいのところまで走り、追い付いたと思えば白い泡立ちの中へと身を沈める香奈。見えない砂が肌を滑る感触を感じながら、私はお尻を波の底について、膝を抱える香奈の背中に抱き付いた。 「彌久。このまんま波に浚われてさ、あの真っ暗ん中に呑まれちゃおっか。こんな世界なんかより、いっそ……」 波に揉まれて翻弄される体。でも一人じゃないから恐くない。 「香奈がもしそうするなら私も一緒に行くよ。だから、香奈は勝手にどっか行ったりしないで」 香奈は振り返って私の方へと向き直る。そして膝の上に乗っかる形で跨がると、その両腕を私の肩に乗せた。傾げた顔が私を見下ろし、かと思えばその瞳に光が宿る。淡く青白い光芒それは……。 「あ、見て見て香奈、お月様が出たよ」 「ほんとだ……」 雨上がりの夜空。雲の切れ間から顔を覗かせた月はおぼろ。闇の海原に一筋の光。その光景を見ながら香奈が言った。 「……でもま、もうちょっと生きてみよっかな。まだまだ私の知らない面白い事、あるかも知んないし。彌久にももっと色んな事したいしぃー」 「……なんか、やらしいよ」 強く抱き締め合いながら唇を重ね合い、そして舌を絡め合う。 「香奈、こんなところ誰かに見られたら……」 「大丈夫よ。今この世界には、彌久と私しかいないの」 お互いに外し合ったブラが、波に浚われてゆく。香奈は私の頭を抱え込んで自らの胸を私のそれに押しつけた。擦れ合う乳首に私たちの吐息も重なり合い、潮騒に溶けてゆく。 右側には寝静まった日常。左側には月の下、深い闇に覆われた冥界。その狭間に私と香奈だけの居場所。二人だけの秘密の世界がここにある。 【完】
21/02/09 18:59
(yfGernhw)
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