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1:『無題』十四
投稿者:
菊乃
◆NAWph9Zy3c
穏やかな時が流れていた。 あんまり穏やかだから、いつもよりも季節の終わりの気配を、色濃く感じた。 まだ空気は、暑かったけれど、その中に少しだけ、橙色の、秋の風の、においがした。 二十年くらい生きてきたけれど、こんなことに気付いたのは、初めてだった。 起きて、朝御飯を作って、ジャイアンを送り出して、掃除と洗濯をして、スポーツジムで汗をながして、スーパーで買い物をして、晩御飯を作りながら、ジャイアンの帰りを待つ。 世間の流れからすると、今のあたしは、『かっこいい女』ではないだろう。 だけれど、悪くはなかった。 自分の居場所があることが、こんなにも暖かいものだとは、知らなかった。 バイトもしている。お料理教室で、アシスタントとして働いている。以前のバイトより、時給はかなり安いけれど、やりがいがあった。そして、何より、楽しかった。 ジャイアンは当初、あたしがバイトをすることを、快く思っていなかったようだ。 「バイトなんか、しなくていいよ。俺、それなりに稼いでるんだから。」 さすがにそういうわけには、いかない。だけど、そんな風に言ってくれることが、嬉しかった。 今日の晩御飯は、冷やし中華だ。 窓から、涼しい風が入ってくる。 夏の終わりを、虫の声が知らせる。 今日のジャイアンは、口数が少ない。彼のお皿の上は、ほとんど減っていない。冷やし中華は、あの酸っぱい汁まで残さず飲み干してしまう程、彼の好物なのに。 あたしが不思議に思っていると、 「…夢ちゃん、あの、話、あるんだけど…」 正座しながら、ジャイアンが言う。 でかい身体を小さくたたみながら、もじもじするジャイアンを見て、あたしは、吹き出してしまった。 「え?なに?改まって。」 笑いながら、言うと、 「あの、もし、もしよかったら…これ、貰って。」 言いながら、ジュエリーショップのコンパクトを差し出す。 中には、小さな指輪が入っていた。 「……」 あんまりいきなりのことだったので、あたしは、何も言えなかった。 思わず、ぽかんと口が開いてしまう。 ジャイアンは随分前から、こつこつと、お金を貯めていた。 趣味だったパチンコは、一切やらなくなった。値上がりしたから、と言って、たばこも止めていた。 その理由が、今、ようやくわかった。 涙が溢れた。 そういえば、あたしは、ジャイアンの前では、よく泣く。 彼の前なら、素直に泣くことができた。 彼の前なら、自然に笑うことができた。 彼の前なら、やさしい気持ちになれた。 だけど。…これを貰ったら、あたしは、健ちゃんを裏切ることになるのだろうか。 健ちゃんを忘れて、生きていくことになるのだろうか。 …そんなことは、できない。それだけは、絶対、できない。 そんなことを考えていると、それがジャイアンにも伝わったのか、 「俺、ちゃんとわかってるよ。夢ちゃんには、他に、大切な人が、居るってこと。ちゃんと、わかってるから。」 うなだれながら、言う。 「俺はさ、今の夢ちゃんがすきだから、一緒に居て欲しいんだ。俺のことを、すきな夢ちゃんに、一緒に居て欲しいわけじゃない。他に、大切な人がいたって、俺は、構わないよ。…ははは、変態かな、俺。」 そう言って、照れ臭そうに、笑う。 考えても、仕方ない。あたしは、静かに、左手を差し出して、 「貰ってあげても、いいよ。」 と言った。流されてみよう、と思った。 ジャイアンは、震える指で、あたしの左手の薬指に、指輪をはめた。そっと、壊れ物を扱うように。 サイズは、ぴったりだ。 ラインストーンみたいに、小さいダイヤが、輝いている。 あたしが手にした、未来を誓う指輪は、これで、二つになった。 次の日、ジャイアンと二人でスーパーに行った。日曜だからか、たくさんの夫婦にすれ違った。周りから見たら、あたしたちも、夫婦に見えるのだろうか。 スーパーの前に、ヨーヨー釣りの屋台があった。 どうしても、やりたくて、ヨーヨーが欲しくて、買い物帰りに、一回やった。結局、あたしのテクニックでは、一つも釣れなかった。 でも、店のおじさんに、一つ持っていっていい、と言われた。 バシャバシャと音を立てながら、ヨーヨーで遊ぶ。 ご機嫌なあたしは、子供みたいに、はしゃいでいた。 アパートの階段を登って、部屋に帰ろうとした時、バシャバシャと遊んでいたら、ヨーヨーのゴムが切れた。 あたしの指との繋がりを失ったヨーヨーは、柵の隙間から、勢いよく、落下した。 コンクリートの地面に叩きつけられたヨーヨーは、あっけなく割れた。 中に入っていた水が、ゆるゆると、花が咲くように、広がって、乾いたコンクリートに染みをつくった。 あたしの呼吸が、動悸が、早く、激しく、なる。 立っていられない。 地面に叩きつけられ、あっけなく壊れる。手足は変な方向へ伸びているけれど、目だけは、あたしを見ている。 ゆるゆると、花が咲くように広がってゆく大量の液体。 真っ赤な花。 蒼い空。 誰かが、遠くで悲鳴をあげる。誰かが、遠くで叫んでいる。 聞こえない。わからない。…知りたくない。 気が付くと、階段に座り込んでいた。汗びっしょりで、寒気がした。身体がガタガタと震えた。 ジャイアンは、必死にあたしの名を呼ぶ。 震えるあたしの手には、暖かい太陽の光が、差していた。 指に光るダイヤが、輝きを増していた。
2007/06/18 17:26:54(cAzzrZP9)
投稿者:
A・かず
◆jUQcm89UCg
不思議なくらい素直になるような気持ちになるくらいの恋文でした…恋愛とは激しく愛する反面憎しみに変わってしまうんでは無いのか…自分が怖くなるくらい震える時もあったけど自分自身を失わないように…自分自身と闘ってます…冷静になってもし自分自身に異常を感じたら精神科にでも行きますよ~誰よりも怖いものは自身との闘いですからね。
07/06/18 18:14
(ra8obnep)
投稿者:
'A`)
えっー!ジェイアソとケコンすか。急展開杉
健ちゃんの存在って何なのよ・・・そこんとこ気になるね。ね! 期待多いからプレッシャーにならないようガンガレ ノシ
07/06/18 20:28
(rfQPQH/J)
投稿者:
菊乃
◆NAWph9Zy3c
A.かず さん、 それから、
('A`)さん。 ありがとうございます。 急展開過ぎですか…。すいません。。真摯に受け止めます。 人に読んで頂いてる、ということで、やっぱり緊張してしまいます。 分かりにくいところが多く、申し訳ないです。 最後には、納得して頂けるように、頑張りますので、これからも、よろしくお願いします。 ありがとうございました。
07/06/18 21:29
(cAzzrZP9)
投稿者:
A・かず
◆jUQcm89UCg
私は菊乃さんの恋文は急展開とは思って無いですよ。多分菊乃さんは詩も作るんでは無いですか?恋文とはイコール詩にもなりますし…文字に表すと短い恋文でも想像しながら自分の形に当てはめたりしたり…私は[大切な人]の言葉で感動してしまいました…勿論、今回の恋文もですよ。たかだか文字にすれば4文字だけど…私には語り尽くせないくらいの言葉です。
07/06/18 22:26
(ra8obnep)
投稿者:
ゆう
必要最小限の文章が、読み手の想像を掻き立てます。食事の盛り付け、指輪の形、ヨーヨーの色…。それは全て自由な想像。だから菊乃さんも自由に書いてください。
07/06/19 06:32
(Xf0C7kOE)
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