金糸銀糸の縦糸横糸…それを必死に織ってきたつもりでした。
そう、今年の浅い春までは。
このサイトを知ったのは夫がある日忘れていった携帯の履歴です。
几帳面な夫はよせばいいのに募集の下書きテキストまで
保存し、どう見てもラブホテルで女性の着替えを隠し
撮ったと思える写真と、女との待ち合わせのメールも
フオルダまで作り保存してあったんです。
でも、私は彼を問いつめる事はしませんでした。
理由は簡単です。子供の高校受験が控えていたので
騒ぎたくなかっただけで、私はその夫の裏切りを追求
したかったのですが、それも時期を逸してしまい
その後の夫は私の目からは夫の皮を被った異性人に
しか見えなくなってしまったのです。
なのに私は子供の将来だけを考えて夫の裏切りを許し
今日まできましたが心には嘘をつけても体はそうはいかず
それまで肩凝りしたこともなかった私が慢性的な首の痛みに
苦しむことになり、それに追い打ちをかけるように子供が
私に突然逆らうようになって、私はひとり逃げ場を失って
しまいました。
そうして心の拠り処を失ってしまったとき私の心身は
まるで芯を失ったようにバラバラになり以前にも増して
ひどい痛みと不安にさいなまれ始め、日中は殆ど
布団の中で過ごし、最低限の家事だけをやっとこなすのが
精いっぱいでしたが夫も子供もなにも言わず私の異変に
気付いてもくれず…痛いのに痛いと言えぬ、言っても
しょうがないというあきらめ…確実に築き上げてきたと
思っていた家庭と家族が砂上の楼閣だったという
唖然と虚無。
そんな中、私はこのサイトのことを思い出しました。
いい年をした夫が私以外の女の体をお金をかけず
触るために使っていたサイト…目に焼き付いていた
タイトルを検索して再び訪れてあちこちを覗いて歩くと
やはり相変わらずの夫のメッセージがありました。
妻の痛みにも気付かず労る言葉もかけてくれたことのない
夫が癒しだのストレスなどという言葉に自分の劣情を
カモフラージュし、せっせと四日に一度はコピペを貼り
網を張っていました。
そうこうしているなかで見つけた彼…年は夫と変わらぬ
はずなのにずいぶん柔らかいその笑顔に私は一目で惹かれ
彼のサイトに行き、観察を始めつつ彼が来月私の住む街の
近くまで来ることを知り、掲示板で問い合わせ二回のメールの
やりとりだけで予約を入れ、他の女性たちが語る彼の人となり
施術の効能や…性の手管にひそやかに心ときめきながらも
今はじっと痛みに耐えています。
夫が見向きもしなくなった私という女を彼がどう扱ってくれるのか
若干の不安もありますが、買い物途中でナンパされることも
ないわけではないのでたぶんまだだいじょうぶなはずです。
彼が来るまで半月…夫が抱いてくれぬ肉体(からだ)と
精神(こころ)を私は彼に託します。
この書き込みを夫が見たら当然気がつくでしょうがかまいません。
彼に私を責める権利があるなら警察はいらないでしょう。
他の女を漁る夫を私がじっと眺めていたように彼も同じ責め苦に
灼かれ私の中に彼の知らない私が生まれる瞬間を彼もまた
目に焼き付けるべきです。
体験談じゃなくてごめんなさい。
体験談はたぶん書けません。