2010/11/09 08:39:14
(A42YBVFs)
しゅんさんレスありがとうございます。
板にはかけ離れた始まりですがもう少しお付き合いください。
食堂車に約束の時間に向かうと夫人を従えた牧方氏が入り口前のソファーに座り,既に待っていた。
昨夜サロン車で見た夫人の印象とは明らかに違い,上品な優しい微笑みで迎えてくれた。
食事をしながら氏から自分の事を聞かされると
北海道の冬の厳しさ,就職難は本土以上である事を聞かせてくれて,
「あなたの所で何とかならないの?」
と心配してくれたのだった。
氏も同じ事を考えてくれていた様で夫人と一緒に誘ってくれたのだったが,まだその時は何とかなるだろう位の軽い気持ちで丁重に断りをしたのだった。
私とは一回りと違わない夫人とはなぜか話しがはずみ,私と同じく東京から出た事を。
氏の側の親戚筋からは認めて貰えない寂しさを話してくれたのだった。
食堂車を出てサロン車に移ってからも専ら夫人の堰を切った様に話すのを氏と共になだめながら聞いてあげていた。
「あら‥もう長万部‥用意もしてないのに。」
慌てて出て行った夫人を見送って氏と話しをしていた。
「あれが随分,君を気に入った様で珍しい事だ。落ち着いたら遊び来ないかね。」
「はい。ありがとうございます。」
何の身よりもない土地で私にも心強い言葉だった。
終点の札幌駅のホームで牧方夫婦と別れる時も,
「困った時は必ず連絡する様に。落ち着いたら遊びに来る様に。」
と念を押されたのだった。
一期一会‥
運命,出会いとは不思議なものだと思いながら小樽に向かう列車に揺られていた。
写真で見た小樽の街は想像していたよりずっと小さいものだった。
雪の舞う運河沿いを歩き,赤レンガの倉庫を見て回るのに半日と掛からなかった。
ガラス細工の工芸品の店を廻りながらいったい自分は何をしたいのかと疑問を感じ始めていた。
土地の人に職業安定所の所在を聞くと,口々に
「札幌へ出た方が良い。」
と勧められて,観光と漁業の中心のこの街に自分の居場所はないのだと痛感したのだった。
街を歩きながら雪で濡れた革靴から水が染み込み長靴を買う事にした。
取りあえず今夜寝る場所を捜そうと駅前に戻り案内所で聞くと旅館を勧められた。
「ビジネスホテルは?」
何もかもが札幌に出た方が良いと言われて札幌に戻る事にしたのだった。