3日経ち、4日経ち、準備は、万端に整えたのにチャンスが来ない。そして8日目に待ちに待った日がやってきた。早々に仕事を終わらせ、いざ屋根裏に。自分が上がってから、慎重に脚立を引き上げる。脚立と天井裏を傷つけないように、脚立を前に送っては自分が進みまた、脚立を送っては前に進むを繰り返し、本丸の女子更衣室の上に到着。ここまでは、以前シュミレーションしたが、ここからは始めての領域。仕事を終えてから、社内を見回り早々に戸締りも済ませてある。女子更衣室の灯りも消えているのを確認しているので、社内には誰もいない。それでも念のため、周囲に気配がないことを確認して、女子更衣室の天井の点検用ハッチをそっと開く。心臓の鼓動が早鐘のように脈打って少々苦しい。中は、ほぼ真っ暗だ。実はこの女子更衣室は、以前は倉庫として使われていた部屋を女子社員が増えた事で、更衣室に改装した部屋だ。そのため、部屋には窓がなく、唯一外光が入ってくるのは、入り口の扉のすりガラスのみ。こんな風に天井から出入りするには、暗くて不便だが、社内に誰もいない今は、一旦、入ってしまえば、電気を付けても社外の道路からも女子更衣室に人がいることは分からない。やりたい放題だ。ただ、この時点で個人ロッカーの鍵の状態は分からない。全員が鍵を掛けていれば、これまでの苦労は水の泡となる。点検用ハッチは、大きくないので脚立を開いて降ろすことはできない。ハッチを完全に抜けてから開き着地させなければならなかった。しかし、これは、事前に電気室のハッチで練習済み。唯一誤算は、女子更衣室には、畳が敷いてあることだ。降ろした脚立が少々ぐらついており、昇り降りには注意が必要だった。ヘッドライトの光を頼りに、脚立から畳に降りた。何かこんなシーン見たことあるぞ。。「人類にとっては、小さな一歩だが、私にとっては大きな一歩だ」違うか。そんなことを考えながら、電灯のスイッチに手を伸した。初めて見る女子更衣室の中、ほぼ畳敷きで男子更衣室には無いテレビも置いてある。男子社員で何人がこの光景を知っているだろうか。私は知っている。そう思うだけでうれしかったが、気になるのは個人ロッカー。手近なロッカーの前まで行き、名前を確認した。いきなりビンゴ。去年入社した清楚な感じで、えくぼの可愛い子だ。はやる気持ちを押さえて、軍手をテレビで高価なものを触るときにするような白い手袋に替える。この部屋に私に私の指紋があるのはおかしい、万が一の処置だ。ロッカーの扉のレバーに手を掛け、「開いてくれ」と念じながら、回した。鍵は掛かっていなかった。社の制服であるスカートスーツが掛けてあり、その隣には彼女がよく着ているカーディガンとブラウスが掛けてあった。やった!間違いなく彼女のものだ!すぐにでも触れたかったが、デジカメでロッカー内部を何枚か撮影。侵入記念。私だけが知っている彼女のパーソナルスペースの記念写真。その意味と取り出したものを元通りに戻すための記録写真でもある。服を掛ける向きを間違っただけでも、気づかれる恐れがある。それだけして、「えくぼの彼女」の制服を取り出す。ああ、彼女の香水の匂いがする。。服の掛け方、スカートの掛け方を撮影し、ハンガーから上着を外した。サイズは9号、胸元のポケットにいつものボールペン。抜き取って意味もなくカチ、カチ。禁断の園では、ボールペンの音でも心地よかった。右のポケットには、淡いピンクの清楚なハンカチ。「えくぼの彼女」らしくていい。彼女の匂いがする。
...省略されました。