「ダイくん…」
最初わたしは、叱られる!と思い身構えましたが、その母の声はあまりに力なく、少し悲しげに聞こえました。
わたしは、どうすることもできず下を向いて黙り込んでしまいました。
「お腹は、もう大丈夫なの?」
しばらく経つと少し気を取り直したのか、普段の心配性の母に戻ってきました。
「…」
大丈夫も何も、仮病な訳ですから、思いもよらない母の問いかけに応えられずにいます。
すると母はゆっくりとわたしに近寄り、身をかがめ抱きしめました。
「いいんだよ、お母さん分かってるから。ダイくんも男の子なんだもんねぇ」
その瞬間、いろんな感情を抑えきれなくなり、わたしの目から涙がこぼれはじめました。母の抱きしめる力が強くなると、それを合図をに涙がどんどん溢れ出し、声を上げて泣き出したのでした。
「ごめんなさい」
感情が落ち着くとわたしは母に謝りました。
「ううん。違うの」
えっ?とわたしは思い、母の腕から逃れ顔を見上げました。
すると驚いたことに、母も涙を流しています。そしてこう続けました。
「ダイくんがそういうことに興味を持つのは当然だし、本来ダイくんの学年なら、自分の身体に起きていることが分かるはずなんだよね」
話のすべてを要約すると、わたしは昔から身体が弱いため心配で、つい学校を休ませがちになり、学校で学ぶ大切な時間を、半ば強制的に取り上げてしまったことを申し訳なく思っていること。
そして、いまわたしの身体に起きていることは、去年、つまり小学四年生で学ぶべきことなんだと説明してくれました。しかし、その内容をどこまで踏み込んで説明すれば良いのか分からず、わたしの発育ぶりを見て見ぬ振りして、避けてきたと言うのです。
その説明だけでは、小学四年生で学ぶ保健体育の内容はよく分かりませんでしたが、どうやら最近自分のペニスから出てくる白いオシッコと疼きが関係しているであろうことは察することができました。
心に溜め込んでいた思いを吐露する母の姿にわたしもつられ、話し出しました。
父に触診と皮むきをされたことが嫌だったこと。それが偶然じゃなく二人で示し合わしたに違いないと思い凄くショックだったこと。これからも母にして欲しいということ。気持ち良くて毎日待ち遠しくしているということ。そして最後に、昨夜背を向けて寝てしまい、悪いことしたし、それで母が自分を嫌いになったらどうしようと不安だったこと。
母はまたわたしを強く抱きしめました。
「どんなことがあっても、お母さんがダイくんを嫌いになることは絶対にないし、オチンチンの検査はお母さんがするから心配しないでね」
シリアスな雰囲気にも関わらず、母の口からオチンチンと言う言葉が飛び出ると、わたしのペニスは意に反して脈打ち出しました。それがバレないようにわずかに腰を曲げました。
物置小屋を出て、母に身体を抱かれ自宅の玄関に向かいながら、わたしたちはいつも通りの仲良し母子に戻っていきました。
ただひとつ、この出来事をきっかけに、わたしと母の間には、父には知れない、二人だけの内緒事が生まれたのでした。
そして母は、これまで避けてきた性に対する問題に、積極的に向き合うようになります。
<続きます>
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