あの旅行から一ヶ月。朝の日課も少し減りましたが、ようやくそれにも馴れてきたようです。
母の気持ちも分かり、心に余裕があるのか、前ほど「セックス、セックス、」と思わないのです。
その日は土曜日でした。弟は朝から出掛け、たぶん彼女とデートだと思われる。
リビングでつくろいでいる父の横では、礼服を着た僕と母が準備をしていました。
「マサくん、これー。」とハンカチと数珠を渡され、バッグの中へと差し込みます。
「お父さん、お昼どうするー?」と母が聞くと、「なんでも食べるわ。」と父がめんどくさそうに答えるのです。
母は先に玄関へと向かい、僕も後を追います。そこで黒のヒールを母の履く姿に見入っていまうのです。
黒の礼服(ワンピース)に黒のストッキング、そして黒いハンドバックと、上から下まで全部黒の母。
やはり、「黒」と言うのは女性を引き立たせます。色気を感じさせるのです。
昔からそんな母の姿など何度も見てきたはずなのに、どこか新鮮に感じてしまいます。
それはきっと、こんな関係になってしまったからなのでしょう。
母は運転席に、僕は助手席へと座ります。今日は母方の亡くなったおばさんの法事。
だから、めんどくさがりの父は「家でお留守番。」を選んだのです。
車を走らせ始めた母。所要時間は30分ってところでしょうか。
久しぶりのデート気分のはずなのに、久しぶり過ぎてどこか意識してしまうのか、会話は弾みません。
「お仕事、どうなのー?。。」
母親としての会話をされ、「忙しいわぁ。」と息子として返します。
お互いに言いたいこと、聞きたいことがあるはずなのに、母と子の関係がジャマをしてしまうのです。
しかし、
「お母さん、やっぱ美人やねぇー?。。スタイルいいよねぇー?。。」
僕のこの一言から、ようやく打ち解け始めます。
「何を言ってるのよぉー?。。朝から、そんな目で見てたのぉー?。。」と母が大袈裟に話します。
僕は、「違うってぇー。スタイルいいって言っただけやろー。。」と照れて返しました。
それには、「ほんとぉー?エッチな目で見られてたのかと思ったわぁー。」と笑って返すのでした。
残念ながら、母は正解しています。朝の9時から、僕は母を性的な目で見ていたのです。
その通りに、「法事終わったら、時間とかあるー?。。」と僕は聞いていました。
「あるよー。。ホテルとか行ってみるー?。。」
ハンドルを握り、前を向いたまま母は普通にそう答えます。「当然でしょ?」って感じです。
葬儀会場に着きました。母の後ろに着き、母と同じように頭を下げます。
「ご無沙汰してますー。」、「この前、ありがとうねぇー。」、挨拶をする母の声が響いていました。
誰が誰なのか分からない僕は、ただ笑顔を作り、お辞儀をし続けるのでした。
そんな時、ようやく知り合いを見つけました。母の姉、伯母の恵子さんでした。
「マサくんー!デカぁー!いくつになったっけぇー?」と相変わらずの愛想の良さ。
昔は可愛がってくれてたようですが、やはり僕が大きくなってからは少し疎遠になっていた感じです。
「伯母ちゃんも元気ー?」と聞きますが、恵子さんを「伯母ちゃん」と呼ぶのも何年ぶりだったでしょうか。
そして11時。みんなでの食事が始まります。僕の隣には、母ではなく恵子さんが座っていました。
久しぶりに会ったからのでしょうか、大きくなった僕に興味を持ったようです。
「彼女はぁー?いい人、出来たぁー?。。」
食事をしながら、恵子さんはそんなことを聞いて来ました。僕の頭の中には、母の顔が浮かびます。
「彼女いますよ。あなたの妹ですよ。」と、心で呟いてもいました。
しかし、「まだです。。」としか言えませんでした。僕の彼女って、そういう方なのです。
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