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2015/09/09 00:27:35 (mjrjiA87)
三十七度を超えていた熱が、翌日には平熱まで下がっていて、学校へ
出がけの由美に、まるで子供の知恵熱みたいね、と揶揄されるくらいに
風邪はすっかり治っていました。
 部活の朝練で早くに出かけた由美がいないダイニングで、義母と目が
合い、熱が下がったことを報告すると、
 「よかったわね…」
 と彼女は昨日の僕とのこともあってか、自分から視線を合わそうとは
せず、口元に安堵の笑みを浮かべていってきました。
 「でも、お薬は飲まないと…油断して無理したらだめよ」
 勤務に出かける僕の背中に、いってらっしゃいの言葉の後、そういっ
て送り出してくれました。
 朝の渋滞の激しい車の中で、僕は昨日の義母とのことを思い返してい
ました。
 まだ熱のあった身で義母の身体を堪能しきった僕は、夕方近くまでと
っぷりと眠りこけ、義母の優しい声で起こされ、彼女が入れておいてく
れた風呂で汗を流しました。
 パジャマの上に厚手のカーディガンを羽織って今のソファに座ると、
義母が冷えたスポーツドリンクをテーブルの上に置いてくれました。
 棚の上の置時計を見ると、五時半を少し過ぎた刻限でした。
 「由美からメール入ってて、通知表の作成で、帰りは八時頃になるっ
て…」
 ダイニングのほうから義母の声が聞こえてきました。
 「ああ、来週にはもう冬休みか…」
 「コーヒー淹れたから飲むでしょ?」
 「うん、ありがとう」
 いい香りの立ったコーヒーカップ二つを載せた盆を前に持って、ソフ
ァに近づいてきた義母は、テーブルにカップを並べて置き、僕の真横に
寄り添うようにして座り込んできました。
 あまりの距離の近さに、僕が少し驚いた顔で義母を見ると、
 「お夕飯先に食べるでしょ?…お薬飲まないとだめだから」
 まるで僕の母親か妻でもあるかのような口調でいう、義母の白い横顔
が仄赤い朱色に染まっているのが見えました。
 「今日は温かいお鍋にしたのよ。あなたの好きな味噌鍋だけど、具は
冷蔵庫に残っていたお野菜と、お肉が少々…かしら」
 僕の真横に寄り添うように座っている恥じらいをおし隠すかのように、
義母はいつもに似合わず饒舌に喋ってきていました。
 義母のまるで若い新妻のような可愛くはしゃいだような声や仕草は、
六十三歳という年齢を微塵も感じさせないくらいに、愛らしく無邪気で
した。
 「可愛いね、亜紀子は…」
 僕はまるで義母よりも年上であるかのような少し生意気な口調で、穏
やかな笑みを浮かべながら、彼女の横顔に声をかけました。
 「そんなに見ないで…」
 白い頬をまた赤く染めて、義母は恥らいながらコーヒーカップを赤い
唇に寄せていました。
 それからとりとめのない会話がしばらく続いたのですが、何故か二人
の間から、今日の午後の寝室でのお互いが熱く燃えた時の話題はでるこ
とはありませんでした。
 清廉な義母のほうから、お互いに熱く燃え上がったそのことを持ち出
すことは、当然にないことでした。
 僕もそのことに触れたりすると、また愚かにも不埒な情欲が湧き出そ
うな気がして、自らの気持ちを強く宥め律していたのでした。
 「…また、こんなことをいうと、あなたに叱られそうだけど…私、あ
なたとこうしていることが…とてもつらくなってきてるの」
 あるところで会話が少し途切れた後、義母が徐に顔を下に俯けて、力
なく呟くようにいってきました。
 「ん?…どうして?」
 正直またか、という顔になっていたのかも知れませんが、僕はつとめ
て柔らかい声で問い返しました。
 「お互いに成さぬ仲であるのに…しかもこれほどの歳の差があるのに
…私の気持ちがどんどんと悪いほうに向いてしまっていることが…」
 「悪いほうって?」
 「ごめんなさい、あなたと二人きりでいる時間は、恥ずかしいくらい
にとても幸せなのよ。…でも、元々そうなってはいけない仲なんだし、
自分でいつも気持ちをしっかり持って、そして年上の女としても、あな
たを強く諌め、私もはっきりと拒むべきなのに…」
 つい今しがたまで明るく話していた義母の顔が、暗く沈み出している
のがわかりました。
 「亜紀子、そのことは…僕もいつかきっと腹を括る時が来たら、きっ
と責任をしっかりととる。…もう、半端な気持ちではないよ。でも卑怯
といわれても、そうならないように…僕は前にもいった『美しい嘘』を
つき続ける。それしか今はいえない」
 僕はその時の気持ちを正直に、義母に気負うことなくいいました。
 「娘の由美を裏切っていると思うと…死にたい気持ちで一杯で…でも」
 「ん?…でも何?」
 「ううん、何でもないの」
 「僕には何でも話してほしい…」
 それからしばらく、義母は苦しげで自らを蔑むような表情をしたままい
い澱むばかりでしたが、僕のほうが業を煮やしたかたちで強く尋ねると、
恥ずかしくて愚かしいことだと何度も口にした後で、
 「私…この頃の自分がね、とても怖ろしい女に思えてきてて…自分が自
分で怖いの」
 「何が……?」
 意識的に冷静な声で、僕は義母に言葉を促しました。
 「私…この頃、自分の娘である由美に…嫉妬してしまっている時が何度
もあるの」
 「…………」
 義母のその言葉は少なからず、僕の気持ちを驚かせました。
 「あなたと由美が二階へ揃って上がっていく時や、一人取り残されて自
分の寝室に入った時にね…ついこの間までは何も気にすることはなかった
のに…何故か苦しい気持ちになったりするの。…当たり前のことなのに」
 義母のその言葉にも二の句が継げない僕でした。
 僕の戸惑いと少なからぬ動揺の表情を見て、義母はすぐに気持ちを切り
替えたかのように、
 「ごめんなさい。あなたの気持ちまで重くさせてしまうようなこといっ
て。…でも、二人でこうしていられるのはほんとに幸せです」
 とそういって、白い歯を見せて僕の顔を覗き込んできていました。
 どこかで事故でもあったのか、いつもよりひどい渋滞の車の中で、僕は
義母の、娘の由美に嫉妬するというあの言葉こそ、自分への深い愛の告白
だったのかと改めて思い直していました。
 小村武からまた唐突に電話が入ったのは、その日の午後でした。
 どうせまた簡単に済む話ではないと予感した僕は、職場の外まで走って
出て携帯の着信ボタンを押すと、
 「浩二か?すまんな、仕事中に」
 と妙に潜めたような声が聞こえてきました。
 「実はな、少し困ったことになってきて…いや、野村加奈子のことなん
だけどな…」
 「おいおい、野村加奈子のことで困ったことって、それでどうして僕な
んだい?」
 「いや、それが…あの子近くに身内もいなくて。それで少しやばいこと
になってきて…」
 あの小村武が何かに慄いているような声でした。
 「だから、何なんだよ。僕は仕事中だ」
 「あ、ああ、すまん。…な、頼むから、今度の、そうだな、土曜日、土
曜の午後くらいに時間とってくれないか?」
 「どうして僕が…?」
 「野村加奈子の周りで、今ちょっと大変なことが起きてるんだ。…それ
も元はといえば、俺の嘘から起きたことで…お前の名前をそこで使ってし
まって」
 「何だよ、それ。どういうことなんだ?」
 「すまん、い、今はまだはっきりとはいえないんだ。土曜日に会った時、
何もかも話すから…すまん、頼む。時間はまた連絡する」
 そういって小村武の電話は一方的に切れました。
 こちらからもう一度かけ直すと、携帯はもう通じなくなっていました。
 少しひょうきんなところがあったりして、どちらかというと明るい性格
のほうの小村武の声に、何かに怯えるような感じがあって、僕の不吉な予
感が大きくなってきていました。
 しばらく連絡もなかった小村武と、ずっと会っていないままの野村加奈
子の周りで何かが起きているようでした。
 明後日が土曜日でした。
 その日の夕方にも小村武に携帯を入れましたが不通のままでした。
 少し気がかりなことでしたが、小村武に連絡がとれない以上、こちらか
らどうすることもできず、さりとて長く連絡していない野村加奈子に携帯
いれるというのも少し気が引けて、何か気が気でない日を過ごした僕でし
た。
 金曜の夜、久しぶりの家族三人での夕食の時があり、そこでお互いの週
末の予定が話し合われました。
 僕とのことで深過ぎる悩みを抱えている義母でしたが、そんな素振りは
微塵も見せることなく、土曜日は町内の婦人会の集いが集会所で朝から夕
方まであり、日曜は老人会のサークルがあると結構多忙のようでした。
 由美は相変わらずの部活参加のようで、取り立てて予定のないのは僕だ
けのようでしたが、土曜日の午後からは中学の同級生と会って食事すると
いうと、義母と妻の二人に、まぁ、珍しいというような顔をされました。
 そういえば町内会長の小村のほうから、義母のほうへの個人的な誘いか
けはあれ以来ぴたりと途絶えたようで、それ以降の町内会行事でも何事も
なかったような顔で接してきているとのことでした。
 「あなたのおかげね。…やっぱり家に男の人がいると安心ね」
 といつだったか、義母に恭しく頭を下げられたことがありました。
 そうして土曜日の午後四時過ぎでした。
 小村武から電話があったのは、その一時間前のことで、面会場所を郊外
にあるインターネットカフェにしてきたことには、僕も少し驚かされまし
たが、約束時間の十分ほど前にその店の駐車場に行くと彼は入口のところ
でもう立って待っていました。
 こういう店は僕は一度も入ったことはないのですが、小村武はここの会
員らしく慣れた動きで、受付カウンターにカードを見せて、ペアルームと
かいう少し広めの室に案内してくれました。
 小村武は僕と会ってからも終始落ち着かない様子で、フリードリンクの
飲み物を自分から運んできたりしてましたが、
 「小村、何なんだい?こんなところへ呼び出したりして」
 と少し語気を荒めて聞くと、
 「ああ、すまんな。ほんとは俺のマンションでもよかったんだが、人が
来たりすると、ちょっとやばいんでな」
 「何だよ?…早くいえよ」
 いやな予感が不安へと変わっていた僕は、今にも小村武の胸ぐらを掴み
取らんばかりに気持ちが昂揚していました。
 それから小村武から聞いた話にはただ驚き、唖然呆然とするだけでなく、
本心から彼をぶん殴ってやりたいような気持ちになりました。
 野村加奈子が看護師として勤務していた病院に、足を怪我した小村武が
たまたま入院してきて、愛くるしくプロポーションもいい彼女が、芸能プ
ロダクションに勤める彼の目に止まった。
 その頃、若い女性タレントの発掘と育成に躍起になっていた、まだ新興
のプロダクションの役員に、小村武が病院服姿の野村加奈子を、何枚か盗
み撮りした写真を見せると、その役員も大きな興味を持ち、プロダクショ
ンの実力者でもある役員から、小村武は何が何でも彼女をスカウトしてこ
いと厳命を受けた。
 しかし芸能界への憧れなど更々にない、野村加奈子への説得に苦慮した
小村武は、彼女とのひょんな会話から、自分と中学で同級生だった僕のこ
とを彼女が知っていて、何となく以上の好意を持っていることを知り、そ
のことをスカウトのための好餌にしようと考えたのでした。
 このあたりまでは僕も薄々とは知っていて、小村武には、自分の名前を
絶対に使わないようにと釘を刺していました。
 それから後が、僕にしたら寝耳に水の話ばかりで、驚愕と憤怒に満ちた、
それこそ小村武の詐欺的な言動や行為だったのです。
 小村武は自分が勤務する芸能プロの役員からの、強固な命令に逆らえな
いような立場にいて、苦肉の策として野村加奈子に、同級生の僕が職場の
大金を紛失し、弁償するにも僕が婿養子のため家族にもいえず、苦境に立
たされているという、とんでもない嘘をついたというのです。
 その金額は二百万円ほどで、僕から小村武のほうにも借金の依頼があっ
たが、どうしてやることもできないでいる。
 しかもこのことは野村加奈子にだけはいわないでくれ、と僕に固く口封
じされてるとまで、小村武は彼女にいったというのでした。
 ネットカフェの薄い板で仕切られた狭いスペースの中で、そこまで聞い
た時、僕は小村武の胸ぐらを本当に掴んでいました。
 暴力などにはまるで縁のない僕でしたが、ここがどこか人のいないとこ
ろだったら、間違いなく手を上げていたと思います。
 「お前って奴は…」
 小村武が着ていたジャンパーの胸のあたりを掴みながら、拳を彼の怯え
慄いた顔の前に向けながら、僕は吐き捨てるような強い口調でいいました。
 「それで、どうしたっていうんだよ、お前は?」
 小村武の話はまだ途中なのが明白でした。
 この男を殴るのは、話を全部聞いてからでも遅くないと思い、
 「それでっ…それで一体どうなったんだよっ?」
 と声を荒げて問い詰めました。
 小村武がいい澱んでいる間に、隣りの客でも通報したらしく、店の店員
が大声での会話を注意しにきました。
 「大体お前、こんな重たい話するのに、何でこんな店なんかに呼び出し
たんだよ?」
 さすがに僕も声を少し潜めて問い質しましたが、怒り心頭の思いは消え
てはいませんでした。
 と、その時、あまりの怒りで鈍くなっていた僕の頭に、ぴーんと閃くも
のがありました。
 「おい、小村、まさかお前っ…?」
 野村加奈子を虚偽の金で釣って、もしかしていかがわしいビデオにでも
出演させたのではないか、というおぞましい疑念が僕の頭を過ぎったので
す。
 「どうなんだよ、おいっ」
 僕の声はまた荒く大きくなっていました。
 小村武はただ力なく俯いているだけでしたが、どうにか気持ちを鎮めた
のか、
 「すまん、全部お前のいう通りだ。二百万円の契約で彼女はうちのプロ
ダクションに入った。…それで、その野村加奈子からお前に渡してくれっ
て二百万円の現金を預かってきている」
 と首を項垂れさせたまま、ポツポツと喋ってきました。
 「事務所の最初の話では、彼女をテレビのリポーターかどこかの企業の
キャンペーンガールにという予定だったんだ。清潔感があって愛くるしい
のが彼女の大きな魅力の一つだからな。俺はずっとそう信じてた…だが」
 「だが何だよ?」
 聞き返しながら、僕は目の前が真っ暗になる思いに陥っていました。
 「うちの役員は、最初から野村加奈子をAV女優にする腹積もりだったん
だ。勿論、抵抗したよ、俺は。…でも」
 「…………」
 「じゃなかったら二百万もの金が払えるかっていわれて…」
 「何てことを…」
 僕はそれだけいうのがやっとでした。
 「うちみたいな小さなプロダクションは、大きなお得意様がないから日
銭稼ぎでAVでもやらないと経営が回っていかないんだよ」
 「そんな…そんなことのために」
 「俺も、野村加奈子にはいったんだぜ。ほんとにいいのか?って」
 「…………」
 「それにただ知っているだけで、一方的に好意を持っているだけで相手
は何も知らないのに、そこまでしていいのかって、聞いたんだ」
 「お前のいったことが嘘だったっていえばよかったんじゃないのか?」
 「いおうと何度も思ったさ。でも、俺がウジウジしてる間に、事務所と
の契約話がどんどんと前に進んじまって」
 「馬鹿なっ…」
 「俺が彼女にいったことが嘘だったっていって、うちとの契約がパーに
なったら、俺がそこにいられなくなると思って」
 「お前とは…もう、話する気にもなれんよ。お前といると、またお前を
殴りたくなってくるから帰るよ」
 と僕が落胆しきってその狭いスペースから出ようとすると、
 「ま、待ってくれ、浩二。…お前に今日まで待ってもらったのには理由
があるんだ。俺も…腹を括ってここに来てる。頼む、もう少し話聞いてく
れ」
 と小村武が急に表情を変えて、僕にいってきました。
 「野村加奈子のAV撮影は、残念ながらもうすでに終わっているんだ。そ
のビデオの編集が今日の三時頃に終わった。月曜の朝には審査を受けて、
それからDVD加工会社に持ち込まれて、大量生産されて販売ルートに乗る。
…その原盤のDVDを俺がパクってきた。今ここに持ってる」
 そう話す小村武の顔が蒼白になっているのがわかりました。
 「この原盤がなかったらDVDの大量生産化は無理だ。それとうちの編集室
に忍び込んで、彼女の撮影データは機器から全部削除してきたしフィルムも
処分してきた。こう見えて撮影や編集の機器については、俺もちょっとキャ
リアあるんでな」
 「お前…いいのか?そんなことして」
 「なに、元はといえば俺の嘘が始まりのことだからな。…それと、何てい
うかな?彼女のあの、あまり人を疑うことを知らない純真さが、何ともやり
きれなくなってきてな。…ただ、届かぬ片思いだけの男のために、あそこま
での決心ができるのがすごいと思ってなぁ」
 「…そうか」
 「お前、ほんとに彼女とは何もなかったのか?…彼女もそれだけは強く否
定してたけどな…それが、俺には嘘には思えなくって。…とにかくあんな純
真な子は俺も初めてだ」
 嘘のつけない子と小村武がいう野村加奈子が、僕のために必死になって嘘
をつき通していたと思うと、僕はただ胸の詰まる思いになるだけでした。
 思わぬ展開と予期せぬ流れに、僕はしばらく小村武に言葉を返せずにいま
した。
 彼を殴り飛ばそうとしていた自分を、心の中で僕は大きく恥じていました。
 正義は短絡的に怒りの言葉を吐き続けた僕にではなく、間違いなく小村武
の勇気ににありました。
 「だけど小村、君はそんなことしてほんとに大丈夫なのか?後でことがばれ
たら責任問題だけじゃ済まなくなるぞ?」 
 「いいさ、まさか命までとられるわけじゃないし…。金なら親父にでも泣
きつきゃいい」
 「…それで、彼女…野村加奈子は今どこにいるんだい?」
 心の中で一番聞きたいと思っていたことでした。
 「多分…田舎に帰ってるんじゃあ?田舎ったってあの子の亡くなったお母さ
んの親、おばあちゃんが一人でいるだけだっていってたけど」
 「田舎ってどこなんだい?」
 「東北のどこかだとか…震災は関係なかったっていってたから」
 「そうか…」
 「俺はな、浩二。彼女から預かった金は、お前は当然に受け取りはしないと
思ってたよ。でも、もしお前が彼女のことを、関係ないとか少しでも悪くいっ
たら、逆に俺がお前を殴っていたよ」
 「…………」
 「それで、俺からの頼みなんだが、今ここに彼女を撮影したAVの原盤がある。
変な気持ちではなく、これをお前と一緒に観たいと思ってる。二人で観たらす
ぐにこれは処分する。…こんな罪を作ったのは俺で、このまま廃棄処分にして
しまえばいいんだが、何か変ないい方だけど、野村加奈子の気持ちを観たいと
いう気もあってな…」
 何となくですが、小村武の心情の一端がわかるような気がしたのと、何も知
らずに彼を詰ったことへの罪滅ぼし的な思いもあり、僕は彼のいうことを聞く
ことにしました。
 それでこんな場所を小村武は指定してきたのかと、鈍感な僕は初めて気づい
た次第でした。
 パソコンに小村武が持ってきたCD盤をセットすると、いきなり赤い字で書か
れたタイトルが出てきました。
 『白衣の堕天使』というタイトルでした。
 それほど大きくはない病院のような白い建物の全景が映し出され、続いて個
室のような病室の画像に変わり、ベッドに五十代半ばくらいの痩身の男が寝て
いるところへ、薄いピンクの制服を着た看護師の野村加奈子が入ってきました。
 一応のストーリーがあるようで、そこから聞き覚えのある野村加奈子の愛く
るしい声の語りが聞こえてきました。
 国語の本を読んでいるような棒読み的な語りでしたが、初めてのビデオ出演
だとわかっている僕と小村武には笑うことはできませんでした。
 看護婦試験に合格して初めての勤務で、野村加奈子はその病院のVIPルーム
とかに入院していた、某国会議員に見初められ、そこから恥ずかしい濡れ場シ
ーンが何度となく繰り返されるというようなものでした。
 事前に院長のほうから、その国会議員の先生に対しては呉々も失礼のないよ
うにして、求められたことには何でも応えることといわれていた看護師が、ベ
ッドの上に押し倒され、制服から順に下着までを剥ぎ取られ犯されていくとい
うありきたりの内容でした。
 野村加奈子の演技は見るからに稚拙なものでしたが、看護師姿の彼女が衣服
を剥ぎ取られ、若く張りのある美しい裸のプロポーションを惜しげもなく晒し、
好色顔の中年男の餌食になるところや、場面が急に変わりどこかの地下室みた
いなところでブラジャーとショーツ姿で上から縄で吊るされて、筋骨隆々の若
い男に色々な性具を使われて蹂躙されるというところが見せ場のようで、結果
的には看護師として淫らに堕落していくというものでした。
 パソコンの画面に食い入るように、野村加奈子の美しいプロポーションに驚
きの目を向けている小村武とは、僕は多分少し違う思いで彼女を見ていました。
 当然でしたが野村加奈子がパソコンの画面の中で、何人かの男の前で裸身を
晒し、恥ずかしく蹂躙される場面でも、僕には興奮の気持ちは何一つありませ
んでした。
 こうなるまでに、一度でも自分から彼女に連絡をいれてやるべきだったとい
う悔恨が一番大きく胸の中にありました。
 それと、野村加奈子がたかが僕のためにと思ってここまでの決心をしたこと
にも、僕はひどく驚かされていました。
 一体、野村加奈子は自分のどこに好感を持ち、自分のどこをこれほどまでに
愛してくれたのか、そのことが未だにわからないでいる自分自身を呆れるくら
いに不甲斐なく思う僕でした。
 そして、いつか自分で手を尽くして野村加奈子を探そうと心に強く誓ってい
ました。
 僕と小村武の二人はお互いに言葉を出し合うこともなく、そのDVDを最後まで
観終えると、妙に白ずんだ気持ちになり、彼のほうから、
 「正直、ちょっと勿体ない気がするけど、もういいよな。壊すぜ」
 といって、僕の目の前で丸い盤を真っ二つに割ったのでした。
 「事務所のほう大丈夫かな?」
 「自分で蒔いた種だ、自分でどうにかするさ」
 そういって僕と小村武は店を出て別れました。
 外はすっかり暗くなっていて、遠いどこかからジングルベルのメロディが流れ
聞こえていました。
 野村加奈子とのこと、そして義母とのこと…何一つ解決できないまま、年を越
してしまうのか、という慙愧の念を深くして僕は家路につきました。
 そしてこんな時にいつも、ふいと頭に浮かんでくるのは、義母の愁いのある美
しい顔でした…。


     続く


(筆者付記)
たくさんの方々に、飽きることなく長くお読みいただいていることに、
この上なくただ感謝するばかりです。
また貴重なご意見やらご指摘もいただき、そのどれにも深くお礼を申し
上げたい気持ちで一杯です。
 今回も大した濡れ場的な場面もなく、長々と書かせていただきました
が、末尾にも書かせていただきましたように、優柔不断極まりない僕は
なかなか義母との関係も解消できずに、また淫靡な妄想を働かせて義母
の身体を虐めていきたいと考えています。
どうかよろしくご愛読ください。
 
          筆者  浩二
レスの削除依頼は、レス番号をクリックして下さい
6
投稿者:コウジ
2015/09/09 12:20:00    (8CPOTE7M)
筆者お詫び

すみません。
投稿サイトを間違ってしまいました。
言い訳で申し訳ありませんが、昨日は風邪で体調の
悪いまま書いてしまいましたので、このようなサイ
ト間違いと、段落構成も乱れてしまいました。
長くお読みいただいている皆様に深くお詫びします。
尚、次回からは元の『官能小説の館』へ復帰したい
と思いますので、よろしくお願いします。
すみませんでした。
     筆者   浩二
5
投稿者:(無名)
2015/09/09 12:13:13    (nxoYQZGt)
いつも楽しく読まさせていただいてます。最近のスレでは1行の文字数が増えて、長すぎるため私のPCでは変なところで行替えになってしまいます。
以前のように23字詰めにしていただけないでしょうか? 行間が狭いため、行を替えて読み続ける時、行を間違えることがありました。
文章をスムーズに行替えして読むには、新聞でもそうですが、23~25字くらいがちょうど良いと思います。
 自分で変換しろと言われるかもしれませんが、全文コピー保存している読みなおすには不便を感じています。勝手なお願いで申し訳ありません。
 今後の展開が気になりますが、亜紀子さんの女性らしい気遣い、姿態を楽しみにしています。
 ちょっと気になったのですが、前に小林武が加奈子についた「うそ」と、今回告白した「うそ」が違っていますが、前のが「うそのうそ」、今回が本当の「うそ」ということでしょうか?

4
投稿者:(無名)
2015/09/09 10:56:26    (.J0xkNLn)
スマホ用サイトからのコピペだな
3
投稿者:無無名
2015/09/09 05:51:53    (Cur28N/a)
浩二殿
 このサイトで宜しいのですか?
 
 以後、変更してゆくのでしょうか?
2
投稿者:(無名)
2015/09/09 05:36:05    (/8dR4UWv)
よそに駄作をコピペして投稿するの止めてください
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