ある日の晩飯後。風呂場でぬくぬくしていると、2階から物凄い音と怒声が聞こえてきた。ああ、またはじまった…恐らく、兄貴と母親の喧嘩だろう。毎回毎回、とんでもなくくだらないことで大喧嘩をするのだ。カレーはこくまろかジャワかで揉めたことなんかもあった。最後には決まって「出ていけ」「出ていってやる」という『売り言葉に買い言葉』の流れから家出→5分後に何事もなかったかのように帰宅という、コントのような話である。しかし、今回のは何か様子がおかしい。母親の声が聞こえてこないのだ。しかも、時間が長い。風呂を上がり、2階の自室に向かう。兄貴の部屋からは、相変わらず聞こえてくる兄貴の怒声と、すすり泣きの声。…あっ!喧嘩の相手えっちゃんじゃん!慌てて兄貴の部屋に突入する。ドアの向こうの光景に、しばし唖然とした。手当たり次第に物を投げる兄貴と、部屋の奥で鼻血を出して怯えるえっちゃん。さすがにこれはやりすぎだ。えっちゃんの前に立ち、盾になった。「やめとけって。さすがにまずいよ、お兄」兄貴は、「お前は引っ込んでろ!関係ないだろ!」僕「いや、シャレにならないぞ。えっちゃん鼻血出てんじゃん。やめとけって」兄貴は相変わらず怒鳴り散らしていたが、しばらくしてコンビニに行ってしまった。「もう大丈夫だから、とりあえず鼻血拭きなよ」ティッシュを箱ごと渡し、えっちゃんが落ち着くまでと、やや距離をとって床に腰を下ろし、喧嘩の理由を尋ねた。兄貴の僕に対する嫉妬が原因だった。いつもいつも、お前ら(えっちゃんと僕)仲良くしやがって…らしい。話を聞くと、以前から兄貴は嫉妬深く、嫉妬の対象者も友人から他人に至り、暴力も複数回受けていたそうだ。しかし、だ。僕とは比較にならないぐらいイケメンの兄貴が僕に嫉妬するなんて考えてもみなかった。部屋に長居してはよくないな。コンビニから戻った時にまだ一緒にいたら、えっちゃんまたやられちまうな…少し落ち着いたみたいだし、もういいか。そう考えた僕は、わざとおちゃらけて「俺なんかより何万倍もカッコいいのに、嫉妬しちゃダメだよなぁ~」「俺もう寝るけど、また何かされたら部屋に逃げてきなね。俺勝てないだろうけど、えっちゃんが殴られないようには防ぐからさ」と言い、自室に戻った。ベッドに入りマンガを読んでいると、部屋のドアが開いた。えっちゃんと兄貴だ。「さっきは悪かったな」「迷惑かけちゃってごめんね」二人で詫びを入れてきた。僕は別に構わないけど、優しくしてやれよなと言って布団を被った。翌朝。久しぶりの登校日。洗顔、髭剃りをする。洗面所でえっちゃんとすれ違った。顔は腫れていないみたいだ。鼻血も止まっている。すれ違い際、「早く帰ってきてね。話したいことがあるから」と言われた。僕は「なるべく早く戻るね」と答えた。家を出て自転車で学校へ向かう。えっちゃんの『話したいこと』って何だろう?まさか「あなたが好き」とかだったりして、あはははは(笑)…なんて考えながら登校。プリント受けとるだけで終わり、下校。家に着くと、ちょうど母親と兄貴が出勤するところだった。
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