正月の夜に私たちが犯した甘美な過ち
私たち二人とも、その事については翌日もその翌日も触れる事は無かった
あの夜、私はと言えば、あまりの激しい交わりの果てに二人抱き合って眠ってしまい、夜中に千種がシャワーを浴びに行った事はぼんやりとは覚えているのだが
朝になって見ると、もう千種は明るい笑顔で雑煮を作っている
何かを口に出すと、全てが夢幻のように瓦解してしまうのが怖くて、私は快活に振る舞う千種に合わせるように、その「出来事」に触れるのを避けた
そして正月の4日になり、私は息子と千種のこれからの事を話題に出した
もはや修復不可能に思える息子との関係については千種も離婚しかないと考えていると話した
そこで私は千種と養子縁組みをして、正式に養女として迎える事を考えていると切り出した
全ては千種の居場所を確保したいのと、千種に私の財産を全て譲りたいと考えているという私の話を、千種は感謝と戸惑いが入り混じった表情で黙って聞いていた
しかし私が「そうすればまだ若い千種さんが他の誰かとやり直したいと思った時に、この家から充分な物を持たして送り出してあげられると思う」と言った時に千種の表情が凍りついた
「送り出すって…どういう意味ですか?私の家はここです」
「いや、若い千種さんをこの場所にも私などにも縛りつけたくなくてね。千種さんが新たなお相手と…」
「お相手?」千種の切れ長の美しい目が細められる
「新たなお相手って誰ですか?送り出す?私がどこに行けるっていうんですか?お義父さんとあんな事までした私が」
私は呆然となった
頭がガンと殴られた気分だった
ここで千種が「出来事」を持ち出すとは
自分にあんな事をしておいてお前は何を綺麗事を言うのか、と言われた気がした
いや、気ではなく千種は曇りのない眼で私を真っ直ぐに見詰めて糾弾している
「千種さん…すまない…」
「謝らないで下さい。お義父さんは私が後悔してると思ってるんですか」
「あ…いや…」真っ直ぐな千種の視線の強さに私はたじろぐばかりだ
千種はふと長い睫毛の目を伏せると「これからお義父さんの寝室に行っていいですか?」と静かな口調で聞いた
「あ…しかし何を…」あたふたしながら尋ねる私
「お義父さん、私は二人して地獄に落ちると言ったじゃありませんか。どうせ落ちるなら、もっとずうっと深い所まで落ちましょう」千種は優しく優しく微笑んだ
私はただ呆然としていた
頭がグラグラと揺れているようだった
寝室に二人して入ったが、欲情のままになだれ込んだあの時とは違って、私は自分が何をしているのか、これからどんなとんでもない事をしようとしてるのかをしっかり自覚していた
しかし千種がまるでストリップでもするようにブラウスを脱ぎ捨て、ワインレッドのブラジャーとショーツに包まれた輝くような滑らかな肌を露わにすると、私の中でドクンと何かが脈打つのを感じ、一気に我を忘れた
シャワーを浴びて間もない千種の若々しい肌がしっとりと艶やかに汗ばみ始めている
千種はブラジャーのフロントのホックを外して捨てると、ショーツを脚からするりと脱ぎ捨て、甘く匂い立つような裸身を露わにして、私へと近づいた
この上なく淫らな仕草をしているのに、それでも千種は清楚で花のように美しかった
あの時のように酔って夢うつつではない
私は息苦しいほどの緊張でただ突っ立っているだけだ
ふと千種の手が伸びては私の股間のペニスをズボンの上から指でなぞった
「お義父さんもやっぱり地獄行きですね。養女に迎えようとする私に欲情してこんなにおちんちん硬くして。私を家に縛りつけたくないとか送り出すとか、自分だけ天国へでも行けると思ったんですか?」千種のとろりと甘い囁きで私の自我が完全に崩壊した
私が思わず手を伸ばすと、千種は私の胸に飛び込み、私の舌に吸い付いてきた
痛いほど舌を吸われ、舌を絡めてくる
私の脳髄が真っ白になり、千種を組み伏せると、慌ただしく服を脱いで私も全裸になった
千種がうっすら笑って形の良い脚を伸ばしてその足の指を私の口中に入れた
私は夢中で口の中に差し込まれた千種の足の指をしゃぶる
あの千種がこんな事をするなんて
やっぱり千種も地獄行きなのだ
「私の親はろくな人じゃありませんでした。親族もそうです。ここは私がやっと手に入れた私の居場所なんです」千種は足の指で私のペニスを揉むように弄びながら歌うように話す
「雅史さん(息子の名)はあんな事になってしまったけど、私はもう何も手放したくないんです。お義父さんもです」千種の美しい足に翻弄され、私のペニスは痛いほど勃起している
「でも私はもう還暦の年寄りで…」私が呻くように声を絞り出すと
「還暦が何ですか、私が凄いファザコンだって知ってるでしょう?」千種の目が据わって壮絶な表情になった
そのまま私を押し倒すと私の上に跨がる
千種の指が私のペニスを掴み、ゆっくりと自分の膣へと導く
ゴムも無しに?と私の視線が泳ぐと「地獄に落ちようって時にそんな物を気にするんですか?」と千種は妖艶に笑って私の背筋がまた凍る
そんな事に構わず、濡れた千種の性器がじわじわと私のペニスを根元まで呑み込み、熱い熱い千種の膣の感触に私は全てを忘れて陶然となった
そして千種はそのまま騎乗位でほっそりとした腰を振り始めた
千種の腰を振るリズムに合わせて豊かで張りのある美しい乳房がゆさゆさと揺れる
「ああ気持ちいい!お義父さんも気持ちいいですか?」千種が快活に笑い、荒い呼吸の合間にお天気でも尋ねるように聞いてくる
熱い粘膜の感触はたまらないほどの快感だった
「私、セックスがこんなに気持ちいいってお正月に初めて知りました。しちゃいけない相手とのセックスってこんなにいいんですね」千種が喘ぎながらさらに笑う
「世の中から不倫が無くならないわけですね。ああ、いい」千種の若い美しい肢体がリズミカルに激しく躍動し、私のペニスを膣が締め付け、千種の甘い汗が身体から飛び散り、私の顔へと降りかかる
寝室には若い肉がぶつかる淫らな湿っぽい音と、千種の可愛い喘ぎ声と私の呻き声とがひたすら響いている
どれくらい時間が経っただろう
もう耐えきれない
私は噴き上がる快感のままにドクドクと千種の中に射精をしてしまった
私の射精を感じたのだろう、千種は小さく声を漏らし、私の上に倒れ込み、そのまま二人で荒い呼吸を弾ませてグッタリと脱力した
やがて千種が身体を起こすと、サイドテーブルの上のミネラルウォーターのボトルを掴んで中身を口に含み、そして私に口移しでゆるゆると飲ませる
渇ききってカラカラの私の喉をするすると千種の口中に含まれた甘い水が通って落ちていく
なんという甘露
「千種さん」私は呟く
「何ですか?お義父さん」千種が聞き返す
「好きだよ」私はそれだけを言った
「知ってます。だからずっと一緒にいましょうね」千種はうっとりした声で私の耳に囁いた
そう
千種と一緒なのが肝要なのだ
千種と一緒なら地獄に落ちたって構わないではないか
千種と一緒なら
私は歪んだ真理にでもたどり着いたようにそれだけを考えていた
もうその時から狂っていたのに違いなかった
それからは定期的に千種とは男と女の関係を続けている
自分が恥ずかしくなるような痴態でも千種相手なら美しい行為のように思えた
夜だけでなく、昼間も家の中では私たちは夫婦のように過ごした
千種は亡妻の部屋に自分の荷物を全て移し、さらに透明感のある美しさを増している
買い物や旅行にいつまでも二人で連れ立って出掛ける私たちを近所の人がどう見ているのかわからない
変な噂が立つかも知れない
しかしそんな事はどうでもいい
これから先どうなってもいい
千種が一緒なのだから