実家へ向かう車中、一週間前の嫁との会話をなぞっていた。「来週、実家へ行くけど来れる?」「来週かぁ~、ひょっとして親父さん?」「夏休み以来だから連れて行きたいみたい」「親父さん元気だなぁ~」「それがさぁ~、お母さんなんだけど…」「… …」「すっごい変わっちゃって…」「?????」お義母さんの話が出たときはドキッとした。「なんか肌つやがよくなって10歳は若返った感じなのよ」「何かあったの?」「エステとか行ってるの?って聞いたら何もしてないって」「なんかあったのかなぁ~?」「自分の好きなことを始めたからかしらって」「???????」「元々歴史好きなんだけど、ケイも何年か前になんとか検定って受けたじゃない、それよ!」「城郭検定のこと?」「3級に受かったんだって!それでお城巡り始めたらしいよ」「実家にある歴史の本はお義母さんの?」「そうよ、親父は歴史に興味ないしケイが準一級持ってること教えたら喜んでたよ」「じゃ、あなたさんも子供たちも親父さんに似たのかぁ~?」「子供たち小田原行っても興味示さなかったからね」「喜んだのはロマンスカーだけだったからなぁ~」「ケイが来るなら一緒に駿府行きたいって」「地元なのにまだ行ってないの?」義父たちは名古屋から近鉄のなんとか特急に乗って伊勢に行くようだった。「子供たちと逆方向だなぁ~」「付き合ってあげてよ」義母と示し合わせたわけじゃないが二人で出かける口実ができたのは事実だった。そんな事を思いながら小田原を過ぎたあたりで2本のビールは空になっていた。駅に着くと改札に義母の姿を確認した。8ヶ月ぶりに会う義母を見ても、嫁が言うように若返ったかどうかすらだけわからずただ緊張だけがカラダを包んでいた。「ケイちゃん、久しぶり!」「ご無沙汰してます」と会釈で返す。「改まっちゃってどうしたの?やーねぁ~」「快活な義母に救われる思いだった」車中たわいない話をしながら実家に着く。「暖かいって言っても朝晩はさすがに冷えるのよ」「うちはコタツがないからホッとするよね」コタツに入りつまみと芋のお湯割りが置かれる。「ごめんね、寝ちゃった!」嫁が顔を出す。「親父さんは?」「かなり飲んだからぐっすりよ」「ケイちゃんが来るまで起きてるって言ってたけどね」「朝一だっけ…?」「ねぇ、ねぇ、ケイ。お母さん若返ったでしょ?」「そうかな?元々老けてないし…」「男はこれだからだめなのよ。お母さんあとよろしくね、私寝るから…」お湯割りを一口飲んでコタツから離れていった。「あの娘ったらケイちゃんほったらかして…」「明日早いから…」「やっぱりこの時間は冷えるわね」「駆けつけ三杯と言いたいけど、それ空けたらお風呂に入っちゃって」風呂から上がりいつものジャージ姿でコタツに戻ると、隣に座ったはずの義母が向かいに座り直していた。置かれたビールを飲むが沈黙が続く。沈黙を破ったのは私からだった。「お義母さん、3級受かったようですね」「お城?ケイちゃん準一級なんでしょ、凄いね」「共通の趣味があったのに驚きですよ。明日は駿府ですね」「うん、連れてって…」足を伸ばすと義母の足に当たる。膝か?足が当たると義母の足が引っ込む。何度かその状態が続いたあと、足が当たると義母の足は動かなかった。「足大丈夫?伸ばしたら…」私の声が少しうわずったようになっていた。伸びた義母の足…。膝裏あたりか?親指でなぞり奥へ進め腿を摩る。「ふぅ~」小さなため息が俯いた義母の口から漏れてくる。「お湯割りにする?」そう口にした義母がコタツを離れお湯割り持って私の前に置く。「隣に座っていい?」小さな声だった。私の返事を待たずに座り私を見る。「8ヶ月たったんだね」「8ヶ月…」
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