俺の母親と祖父の話。
(祖父は、俺の父親の父親)
現在、母は40歳、祖父は69歳(俺は18歳)
父は俺が5歳の時に家を出ていった。
祖父は従業員を3人使って電気工務店を営んでいる。
休みの日はハーレーにまたがってでツーリングに行くような、パワフルな爺さんだ。
母は専務で、経理と事務全般が担当。
ぽっちゃりして、笑顔がかわいいので若く見える。
俺が小学6年生の時、夜中に目が覚めると、やたらのどが渇いており、麦茶でも飲もうと台所に向かった。
祖父の部屋の前を通ると、中から女が泣くような声が聞こえた。
6年生ともなると、それが何を意味しているかぼんやりと分かる。
そっとドアに耳を当てると「あっあっ」とか「いいい」とか「いっちゃう、いっちゃう」と母の声が聞こえる。
しばらく聞いていたが、怖くなって自分の部屋に戻った。
父親代わりで大好きな祖父と、優しい母が父を裏切って悪いことをしていると思うとつらかった。
しかし、そんな思いもすぐに解消した。
中学の入学式のあった夕方、母がおれを座らせて話を聞かせた。
「あなたも今日から中学生になったから、半分ぐらいは理解できると思っている」
との前置きで、俺が幼稚園児のときにあった出来事を話した。
父は電気工務店の跡取りの予定であり、結婚した母も事務員として働き始めた。
最初はよかったのだが、そのうち父はギャンブルと女におぼれ始めた。
祖父ともしょっちゅう口論するようになり、俺が5歳のときに、飲み屋の若い女と一緒に家を出ていった。
店の売り上げや、貯金の一部も持って逃げた。
とんでもないダメ親父だったのだ。
行方をくらまして10日ほどして、突然父が幼稚園を訪ねてきて「母が事故にあったので、子供を病院に連れていく」と言って、俺を迎えに来たそうだ。
幼稚園としては、何も我が家の事情は知らないので、当然引き渡し、父はそのまま連れ去った。
園からの連絡でそのことを知って半狂乱になった母に、祖父は「俺が連れ戻す」と言った。
一緒に逃げた女が働いていた飲み屋のママに出身地を聞いて、あたりを付け、探しに出かけた。
4、5日して二人のアパートを探し出し、俺を連れ戻したとのこと。
女は俺に一日一食(父が見ている時だけ)しか食事を与ず、服も連れ去られた時の服しかなかったらしい。
夜に洗濯して、朝には生乾きのまま着せられていたという。
そのあたりの記憶はすっぽり抜け落ちており、全く覚えていない。
祖父は取っ組み合いの末に父をねじ伏せて、俺を連れ帰ることを承知させた。
だが、部屋を出るとき父に後ろからナイフで刺されたそうだ。
幸い傷は内臓には達しておらず、隣の住人が呼んだ警官が父を取り押さえた。
そんないきさつから「あんたと孫の面倒はすべて俺が見る。その代り、このまま店を手伝ってくれ」と言われ、父との籍は抜いたが、祖父と一緒に暮らしたそうだ。
母の話はそこまでで、二人がいつしか肉体関係を持ったことは言わなかった。
だが、俺は中学生ながらも『それなら、母親が祖父を好きになってしまっても仕方がない』と納得し、今に至っている。
受験のため夜遅くまで勉強していると、たまに祖父の部屋からあの時の声が漏れてくることがあった。
大学合格し、この春から俺もアパート暮らしを始めたので、二人は誰にも遠慮せず、好きなだけやっているのだろうな。