姉が好きです。
僕は地元の国立大学を卒業して、昨年の4月から東京に本社がある会社に就職して、今のところ東京勤務でアパート暮らしです。
高校時代も大学の時も彼女は出来たし、その子たちも好きだったのですけど、環境が違ってしまったり、生活圏が離れてしまったりで、今は彼女もいません。
姉は6歳上で、幼い頃から僕の面倒をよくみてくれました。保育園のお迎えも、ほとんど毎日来てくれたのは姉です。
当然のように僕はお姉ちゃんっ子になり、姉の後ろにくっついて過ごしていました。友だちには言いませんでしたが、お風呂も小学校を卒業するまで姉と一緒に入っていました。今になって思えば、小・中・高時代の姉には、ずいぶんと負担で迷惑で甘えん坊な弟だっただろうと、申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいになります。
僕が中学生になる時、姉は地元の看護学校に入学して寮生活を始めました。寂しくない訳はなかったのですが、僕も少しずつお姉ちゃんっ子を卒業していきました。
と言っても、僕は姉に毎日メールしているような弟でしたけど。
看護士として働き始めた姉ですが、僕が大学1年の時に乞われるように結婚しました。両親は喜んでいましたが、僕は結婚式で涙が止まらなくなり、姉の友人たちに後々まで色々とからかわれることになりました。
姉が結婚してからは、さすがに僕もメールを控えるようになり、最近では、姉の方から連絡が来て、慌てて返事を返すような状態になっていました。
今年の正月に地元に戻ると、珍しく姉が家にいました。
昨年の暮前に、旦那の浮気相手の女が妊娠したことを楯に、嫁ぎ先の家にまで乗り込んで来ての修羅場になってしまったそうです。
姉をお嫁さんに貰ったくせに、馬鹿な野郎だと思うと同時に猛烈に怒りが込み上げて来ました。
「離婚しちゃいなよ、姉ちゃん」
そう姉に言うと、ちょっと困ったような顔をして、溜息をひとつ吐いてから
「でもね、私、どうも子どもが出来にくいみたいで、そんなことも原因なのかなぁ…って」
「そんなのが、浮気して良い理由になる訳ないよ」
「そうは言ってもねぇ…」
僕が地元で就職をせずに都会に出てきた理由のひとつが、地元全体を覆うように残る旧臭い考え方や価値観に息が詰りそうだったからということがあるのです。
その時は、結局、そこで終わりになってしまったのですが、僕はまた、毎日ラインで姉に連絡するようになっていました。
3月の初め頃に姉は正式に離婚しました。正確には、離婚させられたと言った方が良いかもしれません。
「姉ちゃん、東京に来れば」
3日と空けずに僕は姉にそう伝えて来ました。いつしか、東京で姉と一緒に暮らしていきたいと思うようになっていたのです。
改元の連休に、初めて家族が東京に来ました。もちろん、僕のアパートには泊まれませんから宿を取ってです。両親と姉を都内観光に案内しながら、僕は離婚した姉が地元で暮らす息苦しさや東京の気楽さなどを話し続けていました。
アパートの部屋にも連れて来て、姉一人なら一緒に暮らせる状態なことも伝えました。
離婚して今年29歳になる姉の立場なら、地元よりも東京に出て来た方が良いだろうことは、両親も納得してくれました。
姉は僕に迷惑掛けたくないからと言っていましたけど、帰ってからのやり取りでは東京に来る気持ちが強くなっている感じです。
今の僕は、姉と一緒に暮らしたい気持ちでいっぱいです。
姉を好きなのは昔からなのですが、傍で一緒に居たいと、この歳になって強く思うのは、ちょっと異常なことなのではないかと、自分の気持ちを不安に感じています。