狼狽
今の僕の年齢で、ちょっと遅過ぎる気がする反抗期の友達がいます。自分の都合の悪い時は、逆ギレで切り抜けるのがベターな方法なんだそうです。
今のところ僕には両親に逆ギレどころか、普通に逆らった記憶すらありません。特に母には逆らおうという気力が湧いて来ません。多分もう、この先も、これから一生ずーっと、反抗する事は無いと思います。
そんな風に腰抜けになってしまったきっかけはもちろん、姉とお風呂でヤッちゃってたところに母がやって来て(今でも完全にバレてはいないと思っていますが…)、僕をボッコボコにした事件です。これがしっかりトラウマになってしまって、僕の反抗心をゴッソリ削ぎ落としました。今でも母は脅威です。
『姉とふたりっきりでいた』というシチュエーションに、母がズカズカッと割り込んで来たというだけで、僕はどうしようもなく挙動不審になりました。収まってたはずの痛みを目覚めさせながら、頬っぺたがズキンズキンと脈動しました。
「うわぁ~~~っ!!」
心に余裕が無くなった中2ほど、みっともないモノはありません。最早、パニックの『ズンドコ、べろんちょ、ど真ん中』に放り込まれたようなモノでした。
(自分で書いておいて、なんですが、この『ズンドコ、べろんちょ、ど真ん中』って何なんでしょう? よく『ヨロシクさん』が使ってた口癖だったんですが、意味不明です。)
「うるさいっ! 妊婦の前で騒ぐんじゃないわよっ!」
母の真ん前で錯乱していた息子のおでこを、母はまた思いっ切り『バッチーン!』と叩きました。叩かれた拍子に僕は腰が抜けてしまって、ストンとしゃがみ込んでしまいました。でもおかげで、ちょっと僕のパニックが収まりました。
「ぅわぁ~ああぁぁぁ…」
冷静さが少し戻って余裕が出来た僕は、僕を叩いた『女性』を恐る恐る見上げてみました。そこにはオッパイ丸出しのパンいちの格好で、仁王立ちしている母がいました。肩にバスタオルを掛けて、びしょ濡れの髪の毛から滴る水滴を受け止めていたので、ヘソまで隠せそうな黒いババパンと合わさって、何だか試合後のプロレスラーみたいでした。
そんな偽プロレスラーの威圧感なんかに動じる事なく、もっと冷静に良く考えられたら、その時点の僕には別に何にも何処も、やましいコトがまるで無かったと分かりそうなモノでした。でも『近親相姦』という重罪を犯している僕には、そこまで冷静にズル賢く状況分析する余裕なんて『ある』はずがありませんでした。
心のやましい人間の悲しい習性なのか、塩をブッ掛けられたナメクジみたいに情けなく萎縮してしまった僕は、母にホンのちょっと前までの『やましい過去』をほじくり返されるんじゃないかと、そればっかり考えて脅えてしまいました。
「何なの、アンタっ!? そんなに大声出してっ! な~に、お姉ちゃんとケンカしてんのっ!?」
母はダブった高1の姉と、生意気盛りの中2の弟との『兄弟ゲンカ』を諌めようとしてました。僕のノーパン状態だったハーパン内で、叱られて萎縮したチンポが太ももの上からツルンとコケました。
「あ、あう、あう、ああ、あう、あの…、あの~~~ぉ…」
一見、何の変哲もない、ありふれた当たり前の光景でしたが、母に事情を説明しようと振り返ってみる僕の一日は、全然ありふれない異常な一日だったので、説明を始めても『延焼』が防げる『安全地帯』が何処なのかとか、『防火壁』をどの辺まで下げてもいいものなのかとか全然分かんなくて、僕は迷いに迷いました。
ホンのちょっと気を抜くと、この先ホントに『絶望』だけになってしまって、もう死〇しかないような窮地に追い込まれる『落とし穴』や『底無し沼』が、辺り一面に口を開けて待ち構えているデンジャラスな状態だったので、普通に叱っている母に普通でまともな受け答えをするのが、ものすごく苦痛でした。
「な~によ、アンタっ? ちゃんとしゃべんなさいっ!」
そう声高に迫られると、もう『ちゃんとしゃべれ!』と言ってる人が、オバサン風味の『船越英一郎』にしか見えなくなってしまって、一歩一歩と僕は窮地の断崖絶壁に追い詰められて行く気分でした。
追い込まれると僕は、いつものように頭が真っ白になりました。そうなると『情けない弟人生』の中で染み付いてしまった、『困った時は、お姉ちゃん頼み』と安易な思考をしてしまうダメダメな習性が出てしまって、あれほど見たくもない嫌な『ヘビ女』の顔をやっていた姉の方を、ついそぉ~~~っと見てしまいました。
『何だよ…、その顔ぉ…?』
ほんのちょっと期待を持ってしまった姉の顔は、剥き放題剥きまくったグレープフルーツを限界まで口の中に詰め込んで、頬張り過ぎて閉められない唇をすぼめて果汁をぴゅーぴゅー飛ばしてました。僕と絶対視線を合わせようとしない、断固たる決意をにじませているバカ面は、頬っぺたをパンパンに膨らましながら、どこか一点を『じぃ~~~っ』と凝視していました。
『………、ガン無視だよ…』
顔面一杯に思いっ切り拒絶する『頼るなっ!!』の殴り書きの文字を、ジワジワと滲ませ浮かび上がらせたバカ面が、グレープフルーツを無心でモグモグ噛み砕き続けてました。そんなバカ面にでもすがり付きたい僕は、『助け舟を出してくれぇ…』と往生際の悪い救助要請の視線を飛ばし続けました。
僕の視線を睫毛の端の先っぽにさえ引っ掻けない姉は、黙りこくったまんまモグモグを続行しました。そのクチバシみたいに尖らせた唇がモニョモニョ動いているのは、バカ姉の『助け舟』も実はけっこうな『泥舟』だと無言で伝えているようでもありました。
僕を乗せたらいっしょに沈んでしまうと教えていると言うよりも、まだ両親にも教えていない『赤ちゃんのお父さん』の事を、母に『ここぞとばかりに』ほじくり出されるのを警戒して、ずーっと『無関係&無関心』を装うための沈黙でした。
と、後々になって思い返せば何と無く分かる事ですが、セックスを覚えただけで『大人の階段を昇ったぞ!』的な、『先に大人になってゴメン』的な(・キングオブコメディー)、『嫌な自信』の『恥ずかしい優越感』がついた、勘違いも甚だしいクソ生意気なだけの中2の、驕り高ぶったちっちゃい脳ミソでは判るワケもなく、ただ無視し続ける姉にムカッ腹を立ててました。
いくら腹を立てたところで、『ヘビ女』が僕を助ける方向に向きを変えてくれるワケもなく、唯一無二の頼みの綱にガン無視されてしまっては、ダメな中2にはもう打つ手がありませんでした。
『あっと、あっと、ええっと………、あ、あ、あああああぁ~~~、姉ちゃ~ん…』
一応『彼女らしき』モノが出来て、イッパシにセックスなんかもやっちゃって、尚且つ、やっちゃいけない姉ともやっちゃてるという、中2にとってとてつもない経験値を稼いでいただけに、こんな何でも無い普通の事で追い込まれてしまう自分が、どうしようもなく情けなくって仕方ありませんでした。
僕は一旦パニクって追い込まれてしまうと、クソ生意気なメッキがポロポロ剥がれ落ちて、何にも変わっていないダメな中2の馬脚をいとも簡単にさらけ出しました。当然、母に大人な返しなんて出来るワケもなく、普通の中2っぽい言い訳さえも出来ませんでした。
「あの、あの、あ、あれ…、その…」
「何なの~っ!? お母さんに言えないの~っ!?」
ババパンに出来た陰毛の盛り上がりを、僕の鼻先に押し付けるように迫り来る母の圧力の前に、『なんも、言えねぇ(・北島康介)』情けない状態になって、僕の鼻っ柱は簡単にポッキリ折られました。
『大人の経験値不足』の未熟さを露呈しまくってるダメな中2の息子が、オロオロしながらキョロキョロしているのをイライラしながら見ていた母でしたが、とうとう何かに『ハッ!?』と気付いてしまったみたいでした。
「ち、ちょっ、ちょっとアンターーーッ!?」
母の大声に思わず漏らしそうなくらい『ドキッ!』としてしまった僕でしたが、予想に反して怒鳴られたのはバカの方でした。
「ま、『まさみ』っ!? あ、あんたっ!? 何なのっ、その格好っ!? 何で下着、履いてないのっ!?」
「むぐっ! (ズルルッ!)、………ふぇ?」
「スカートの中、丸見えじゃないのーーーっ!?」
そう言われれば『あいこ』の事ですっかり忘れていた、検診から帰って来た姉が『なぜだかノーパン』状態だった事を、母は目敏く発見しました。でもそれって僕が『あいこ』と帰って来た時までの話で、帰って来てから『あいこ』とエッチな遊びをして、僕のアレとか『あいこ』のアレとか引っ掛けられて、
『汚れたし、濡れたし、だからシャワーまで浴びたし、それに相変わらずだらし無い格好だけども、いつものバカスタイルにちゃんと着替えてるし…』
と、振り返って考えたら、尚さら僕も『何で?』と思いました。
「う~~~ん? うん! 診察終わってから、ずっとこうだだけど~~~? 何で?」
「『何で?』じゃないわよっ! お母さんが聞いてるのよっ!?」
バカは母の剣幕に全く動じる事も無く、お得意の噛み合わない会話を始めたと思ったら『逆質』で締めるという、とても僕には真似の出来ない『高等テクニック』を繰り出しました。もちろん『リッちゃん』は『噴火』しました。