苦悩
父と母と姉の3人で、これからの事について遅くまで話し合っていました。僕はと言えば非常事態の中にあっても、明日の朝練を休むワケにはいかないので、居間から弾き出されるように部屋に引っ込みました。
ベッドに横になると今日一日の事を色々と思い出して、相も変わらず不安に襲われました。僕の心配事なんて、もう、ちっちゃなコトだと解ってはいましたが、なかなか受け入れられませんでした。
中2の脳みそが作る、お粗末なサブルーチンで結論の出ないバカな作業を繰り返していたら、余計な熱ばかりが溜まってきて、頭痛がしてきました。
僕の頭の重苦しさとは反対に、深刻な空気に包まれているはずの居間の方から、バカに明るくて軽やかな笑い声が響いてきました。
その笑い声に『不真面目さ』を感じた僕は、また自分の事は棚に上げてムッとしてしまいました。熱っぽい頭が体温を引き上げると、母に往復ビンタされた頬っぺたが、思い出したようにズキズキと痛み出しました。
姉の『妊娠』についてはひとまず落ち着きました。多分、赤ちゃんが生まれたら、またちょっと揉めるかもしれないけれど、それでも問題は『良い方』に傾いているようでした。
そんなコトより問題なのは『僕自身の疑惑』でした。いつ再燃するか分からない『沈黙の爆弾』になってしまいました。この後、何の拍子で再燃して、また母に詰め寄られるか分かったもんじゃないので、想像すると怖くてたまりませんでした。
それならいっそ、シラを切り通せるように、綺麗さっぱり姉とヤラないようにすれば良いだけのコトでしたが、だらし無い中2のチンポには、それが一番難しそうで自信が持てませんでした。
それよりも何よりも、そんな優柔不断なコトを続けていたら、母よりも何よりも先に『あいこ』にタコ殴りにされそうでした。愛想を尽かされたら『「ショウたん」の惨劇』以上の目に遭わされそうで、物凄く恐怖でした。
そんな恐ろしい妄想に悩まされながら、タオルケットに包まって『ドタン、バタン』と、ちょっと暴れるように悶えていたら、タオルケットが『ズルズルッ!』と太ももにこすれました。
その感触に『おや?』っと思える記憶が蘇り、チンポがピクンと反応しました。ちょっと遡って思い返していたら、ふたりと3Pをヤッた時の感触が『似てるな』と感じました。
あの時の、誰の足だか分からないくらい興奮して、絡み合わせて密着させて、こすれ合っていた感触を思い出したら、タオルケットの感触の分析なんかどうでも良くなって、チンポがギュンギュン伸び始めてしまいました。
ボクサーパンツの中で窮屈に亀頭をこすりつけていたら、『あいこ』のマンコが押し返したり、スッポリ飲み込んでくれたりした記憶が、首筋から肛門まで一気に脊髄を駆け降りて、『ゾクゾクーッ!』と快感を呼び覚ましました。
僕はチンポが完全に勃起してしまうと、取りあえずチンポをなだめるコトばっかり考えてしまって、つい、もどかしい感触ばかり伝わるパンツを脱ぎ捨てて、下半身丸出しになってしまいました。
結局僕は、『不安』より『痛み』より、オナニーが優先してしまって、たまらずチンポを扱き出しました。生々しく刺激的な盛り沢山の『オカズ』のおかげで右手が止まらず、続けて3発出来ました。それで疲れてすぐに眠ってしまいました。
朝練に行くと昨日の今日で、もう『ヤツ』に対する苦情がもたらされました。みんなに僕と『ヤツ』とのコトを『チクった』、あの後輩からでした。
「先輩…、僕、『あいこ』さんに、マンガ盗られました…。」
どうでもいいような僕のちっちゃな悩み事が、また、ひとつ増やされました。
(…「ス〇夫」かっ!?)
はじめ耳を疑いました。いくら何でも、あの『女・ジャイ〇ン』が、そんなみみっちいコトをするとは思えなかったので、『ホントかよ?』と思いました。
「グスっ…、ともゆき先輩。僕、『ゴル〇13』の総集編だけ集めてるんですぅ~。」
(何だよ、『総集編』って? どーでもイイけど、泣くなよ…)
「あれ盗られると、コレクションに穴が空いちゃうんですぅ~。」
僕は『コレクション』と聞いて思い出す事がありました。僕も『「崎陽軒のシウマイ」の醤油入れ』をコツコツ集めていた時期がありました。
それなのに、勝手に僕の部屋を掃除しに入った母が『一言の断りも無しに』に、まとめてポイッと不燃物ゴミに捨ててしまいました。あの時、僕は号泣につぐ号泣をさせらました。
女と言う生き物は、『男のささやかな楽しみ』なんか全然理解しようとしないクセに、無意識に邪魔をして、無意味に妨害をしてくる生き物なので、『ホントに頭に来るな』と同情してしまいました。
「お前…、『ゴ〇ゴ』好きなんだ?」
「グス…。『あいこ』さんも好きみたいですよ?」
「ええっ!? うっそ?」
「ホントですよ。『おっ! 総集編じゃん!』って分かってましたよ? ファンじゃないんですか? なのに…、知ってて盗って行ったんですよぉ…。グスっ。」
その情報は僕が全然知らなかった『ネタ』でした。『ヤツ』は格闘技関係は何でも好きなので、『ゴル〇』も『その関連なのかな?』と思いました。
でも、そうなるとコイツから『パクった』のは、いつもの気まぐれからじゃなくて、『ゴ〇ゴ』ファンとして、その価値を知っていながら『ヤリやがった!?』コトになります。そう思ったら、僕も『彼氏』として黙って見過ごせませんでした。
「…そうなんだ。許せないな…!!」
「…せっ、先輩っ!」
他人の物を『パクって』まで『集めたいのかっ!?』と思ったら、コレクターとしてコレクターの風上にも置けない『ヤツ』だと(僕の勝手な決め付けで)思って、完全に頭に来ました。
「…で、それ、いくら?」
「……………、えっ?」
「だから、その雑誌って、いくらなの?」
「………、ともゆき先輩?」
「んっ?」
「先輩、まさか…、『あいこ』さんに何も言ってくれないんですか? 『彼氏』なのに、『彼女』に何も言えないんですか?」
(うっ!………)
「もしかして、…何も言えないから、『お金で解決しよう』って、思ってませんか?」
この時、僕は、コイツに指摘されるまで、何の迷いもなくネガティブな思考をしているコトに、全く気付きませんでした。
『ヤツ』に告ってからと言うもの、すっかり『男の牙』を抜かれてしまっていたコトを、僕は心の中で無視していたようでした。ガッカリなヤツです。
「(ドキッ!)ばっ、バカ野郎~~~ぉ…、先輩に向かって、なんだあっ! その口のきき方はぁっ!」
後輩に全部見透かされてたのに、形ばかりの虚勢(『去勢』かも…)を張って、ボロボロの面目を保とうとしました。それでも僕は必死でした。
「すっ、すあーせん! じゃっ、じゃあ大丈夫っスね?」
「おっ? …おお。うんっ、言って『は』おく…。」
「あざっす! さすが、ともゆき先輩っス!」
(でも、やっぱ、別のを買って、返すしかないな…)
「良かった…。アレ、もう売り切れで、どこにも無いんです。」
「えええええーーーっ!?」
「ええ…、だから『あいこ』さん、ニコニコしてたんですよ。『読みたかった~』って言ってましたもん…。」
「しゅ、しゅ、出版社に問い合わせたら、在庫くらいあるよなっ!?」
「いえっ! それがあるくらいなら…、先輩に頼まないっス!!」
「………あっそ。」
僕は『背水の陣』と言うヤツに立たされました。全くの無防備で、濁流渦巻く河が『ゴウンゴウン』流れる断崖絶壁に、こんな『ちっちゃいコト』で追い込まれてしまいました。
この日、朝練で何をやったのか、僕はさっぱり覚えてません。でも後輩たちからは、
『ともゆき先輩、今日はキレてましたね?』
と、口々に言われました。どっちの意味か理解出来ない頭で、僕は『ヤツ』に対して、『彼氏』としての『立場』をどうやって貫こうか、それと『先輩』としての『威厳』をどうやって保とうか、そればっかり考えていました。