告白
「ふざけた事ぬかしやがると、オメーも、ブッ殺すぞーっ!」
僕は、今まで生きてきた中で、最高に気持ち良くて、最高に幸福感を味わえた『チュー』をしてくれた唇が、その影も形も無く醜く変形し、さらにどん底の恐怖を感じさせる暴言を吐き出しているのを見て、絶望しました。
あの柔らかくて、口の中に含むとプルプルする、溶けてしまいそうな感触がたまらない下唇が、ひん曲がってプレデターの口になってました。完全にキレてます。恐すぎて目は見れません。
そんな『あいこ』の前で、僕は『言い間違い』で『好きです』と言ってしまいました。完全戦闘状態の『猛獣』に『告る』という、場違いもはなはだしいミスを冒してしまいました。
獲物にトドメを刺そうとする、『猛獣』のキバが眼前に迫ってました。でも、ここで引いたら確実に噛み付かれて、『ショウたん』の道連れにされてしまいます。
こうなったら『猛獣』の口の中へ、一か八か頭を突っ込むしかありません。生理的反射行為を呼び込んで、『狩り』を中断させる捨て身の作戦でした。
「あ、『あいこ』さんっ! ぼ、僕と…、つき合って下さいっ!」
『ショウたん』に蹴りの雨を浴びせていた『あいこ』に、僕は何も考えずにぶつかっていきました。よく覚えていませんが、さらに逆上して、僕に『何か』をしようとした『あいこ』のどこかに、なぜか僕のチンポが当たりました。
「きゃっ!!」
信じられない事に、『猛獣』が僕のチンポに怯みました。この戦場下にあって、僕は緊張でなのかガッチガチに勃起してました。僕にもバカのDNAが、しっかりと遺伝してました。
「…バカじゃないの? 何、押し付けてんだよっ!?」
『あいこ』のテンションが、ちょっと下がりました。チンポを手で払おうとした『あいこ』が、僕のパンツの『富士山』に触った途端、またビクッと萎縮しました。
「な、何だよ…。何のマネだよ、急に…。」
僕の作戦が成功したのかどうか分かりませんが、『ショウたん』への攻撃が止まりました。でも、踏ん付けたままの足を『あいこ』は離しませんでした。
『あいこ』が一旦、ニュートラルコーナーに下がったまでは良かったのですが、僕はノープランもはなはだしく、次の手が全く何にも打てません。二の句も告げられず、ただ『あいこ』をチラチラ見ながら、チンポといっしょに突っ立ってました。
痺れを切らしたのか『あいこ』の方から、
「お前、今、なんか言ったよな…?」
と、話しかけてきました。僕は一瞬、『また、「あいこ」クイズ開始か…!?』と緊張してしまいました。『あいこ』の肩越しに遠く見える、『シンゴ』と『ハラニシ』の姿に、数分後の僕の結末を想像して、カタカタ震えてました。
「…もっかい、言ってみろよ。」
頭の中に『デジャヴュ』の文字が浮かんで、『「ショウたん」の惨劇』がまざまざと甦りました。僕の身体中の毛穴から、汗が噴き出して止まりませんでした。
「…僕と、つき合って下さい。」
僕にはもう選択肢が無かったので、『ガン〇ム』を喰らう覚悟を決めて、また告りました。
でもやっぱり、これも『「あいこ」クイズ』だったらしく、もろに不正解だった僕は、『あいこ』に『チッ!』と舌打ちをされました。僕は『や、ヤラれるっ…』と思って身体が硬直しました。
「…その前っ! 『つき合って』の前に、何か言っただろうがっ!? それを言えっ!」
イラついた『あいこ』が、踏ん付けたままだった『ショウたん』を、僕の代わりになのかガンガン蹴り始めました。僕は慌てて、セリフを思い返しました。
「う~ん…、あっ! ………えっ?」
「…思い出したかっ?」
「…えっ? あっ、ハイ…。」
「何だよ…、言えっ!」
『言え』と言われましたが、焦って言い間違えたセリフなので、ちょっと『どうしよう…』と思いました。それに、ついさっき『ふざけた事』と言われたので、正直言いたくありませんでした。
「じれってぇ~な~っ!」
僕が戸惑っていると、イライラがMAXになりだした『あいこ』が、力一杯『ショウたん』をグリグリ踏みにじりだしました。『ショウたん』がうめき声を上げながら、涙目で『早く言ってくれぇ~』と訴えてきました。
「『あいこ』さん、好きです。」
あまりにも『ショウたん』が気の毒に思えたので、僕は失神覚悟で言いました。すると『あいこ』は踏みにじりるのを止め、僕に向かって静かに話し始めました。
「…『ともスケ』、一応、確認…するぞ?」
「は、はい…。」
「…このあたしと、『付き合う』ってコトで、…いいんだな?」
「はい…。」
「あたしが…、強制してないよな…? …言い出したのは? どっちだ?」
「…ぼ、僕です。」
「『まさみ』に言われたから…、じゃ、ないだろうなっ?」
僕は『あいこ』に、バカ姉とシャワーを浴びてた時の会話を聞かれてたのかと思って、『ドキッ!』としました。
「ち、ち…、…全然、違いますっ!」
たとえホントはバレバレだったとしても、バカ正直に『はい』なんて絶対に言える空気じゃなかったので、僕は全力で否定しました。
「………じゃあ、何でだ? …理由はっ!?」
『あいこ』が、僕の眼球をミカンのように割裂く勢いの、視線を飛ばしました。僕はとても直視出来なくて、目をつむったまま大声で叫びました。
「『あいこ』さんが、好きだからですっ!」
無茶苦茶怖くて恥ずかしかったんですが、叫んでしまうと、何だかホッとしました。力の抜けた僕がゆっくり目を開けると、顔を真っ赤にした『あいこ』が、僕を恥ずかしそうに見つめていました。
「お前…、バカだろ?」
無理矢理、僕に言わせておきながら、『バカだろ?』は『無いんじゃないか?』と思いました。でも、元カレを踏み付けてる女に言うセリフでも『ないよな~』とも思ったので、素直に『ハイッ』と答えました。
「もっかい、ちゃんと、目を見て…、言ってみろ…よ。」
何だか語尾が聞き取りにくかったんですが、バカ呼ばわりしたくせに、僕の告りを、もう一度聞きたいみたいだったので、リクエストに応えました。ホントに面倒臭いヒトです。
「僕…、『あいこ』さんが好きです。…だから、僕と…、付き合って下さい。」
「……………うん。」
「えっ?」
「………あ? 何が…『えっ?』…だ? コラっ!」
「あっ、いっ、いえっ、お願いしますっ! お願いっサーーッス!!」
僕には何度も言わせておいて、自分の発言を聞き返されると『キレる』って、ホント、『何なんだよ、コイツっ!』です。
「…オイッ!」
『あいこ』がずっと踏み付けていた『ショウたん』に声を掛けました。
「今、コイツが言ったの、聞こえたよな?」
「…ハ、ハイ。…聞かせていただきました。」
「コイツに、何か文句あったよな? 言えよ…。」
「…いっ、いえっ! な、何も…、ありませんっ!」
「あたしと、コイツが付き合っても、文句ねぇ~のかよ…。」
「お似合いだと、…思います。」
「ふん…。」
ごたついてた元カレ・『ショウたん』との仲を、『あいこ』は力技で収めました。散々暴れ回った身体をストレッチするように、あちこち伸ばしたり曲げたりしながら、
「…ったく、しょうがねえ…、付き合ってやるよ…。」
と、面倒臭そ~に言いました。
「…あっ、ありゃっザーーッス!!」
「…あんまり、盛んじゃね~ぞ!」
「はっ、はいっ!」
僕は、この時の『盛んじゃね~ぞ』のセリフを、ホント忘れません。録音出来なかったコトが『後悔の極み』です…。