佐智子が父親に私と和雄のことを告げ口してからは、もう、家の中の空気は
氷のようなものに変わりました。佐智子は私の作った食事には箸もつけず、
自分でコンビニ弁当を買ってきて食べたり、時間があるときは、自分で食事
を用意して、父親にも食べさせていました。食器はもちろん別々にしてしま
って、自分と父親の食器は、私たちのとはいっしょに食洗機にも入れな
いのです。お洗濯はもちろん別々です。自分の分と父親の分だけ洗っていま
す。お風呂は和雄と私が先に入ると、すぐにお湯を全部流してしまい、ブラ
シでごしごし洗ったあと、新しいお湯を張って自分が入るのでした。夫は帰
りが大体遅いので、最後に入ることになります。家の中でも私と和雄は完全
に無視されていました。目も合わせないし、朝起きてきても、おはようも言
いません。家族関係は完全に崩壊し、まるで、一つの家の中に、二つの他人
の家族が暮らしているようなものでした。
そんな状態が10日程も経ったころでしたでしょうか。夫が珍しく家にいて
私たちは話し合いを始めたのです。和雄と佐智子も同席していました。夫と
私はすぐに言い合いになってしまい、お互いに相手をなじるばかりでした。
もう、離婚するしかないと、覚悟を決めかけたときです。それまで黙ってい
た佐智子が突然口を開いて、私のことを罵り始めたのです。
「あんたったらなによ、自分勝手なことばっかり言って、それじゃお父さん
が可哀そうよ。ひどいわ、ほんとに。あんたったら、あんな、○○女みたい
なことをして、よくお父さんの悪口が言えたものよね。あきれちゃうわ」
私はあっけにとられて、佐智子を見ていました。母親の私のことを、あんた
呼ばわりです。○○女なんて、口にするのも憚られるような言葉です。そう
すると、佐智子はますます図に乗って、
「もう、あんたがこの家、出て行きなさいよ。和雄も一緒にね。お父さんの
ことは私がちゃんと面倒みるわ。ほんとに汚らわしいったらありゃしない。
二人ともけだものじゃないの」
佐智子は自分で自分の言葉に興奮したのか、その辺のものを手当たり次第に
私に向かって投げつけ始めたのです。はじめは雑誌とか、テレビのリモコン
とかでしたが、とうとうテーブルの上にあった、大きなガラスの灰皿を投げ
つけてきました。私はとっさに避けようとしましたが避けきれず、頭に当っ
てしまったのです。あっと思う間に血が噴き出て、カーペットにぽたぽた落
ちました。私はびっくりしたのと痛いのとで、うわーっ、と大きな声をあげ
たと思います。和雄がすぐに「姉さん、なにするんだよ。母さん、大丈
夫?」
と、おろおろしながらも、救急箱から消毒薬やガーゼを出してきて、手早く
手当てをしてくれました。佐智子は私の頭から血が噴き出したのを見て、や
はりびっくりしたのでしょうか、父親の胸に縋りついて、わあ、わあ、泣き
出していました。
和雄がとにかく「落ち着いて、落ち着いて」と言いながら、救急車を呼んで
私を病院へ連れていってくれました。さすがに和雄は頼りになると、頼もし
く思ったのを思い出します。応急処置をして、レントゲンの検査を受けて
一応、脳には問題ないようだからと、家に戻ったのはもう真夜中近くだっ
たでしょうか。その日はさすがに話し合いを続ける気力もなくて、そのまま
寝ることにしましたが、興奮していて、なかなか寝付かれなかったと思いま
す。でも、もう私は覚悟を決めていたのです。
(私のひたいの髪の生え際には、ヘアスタイルを工夫して隠していま
すが、いまでもその時の傷が醜く残っています)
翌朝いちばんに、私は一気に離婚の話を切り出しました。財産分与でかなり
厳しく夫に要求しました。夫は随分と渋り、私にひどい言葉を浴びせたりも
しましたが、私も夫の浮気の証拠を握っていると言い、どうせここまで来れ
ばお互いおあいこだから、いざとなれば家庭裁判所に駆け込んで、裁判でも
調停でもして貰うわよ、とまで言ったものですから、世間体を気にする夫は
とうとう折れたのです。私としては、どうせ家を出るのだから、その場限り
で恥をかくのを我慢すればそれでおしまいと、ハラを括っていましたけれど
夫はそうも行かなかったようでした。小さな会社でしたが、一応出世街道に
乗っていると、自分では思っていたでしょうし、こんなごたごたが会社にで
も知られるとまずいと思ったのかも知れません。男っていざとなると案外弱
いもので、女みたいに強くなれないんですよね。
私は和雄と家を出て、すこし離れたところに小さなアパートを借りて、二人
で生活を始めました。和雄が大学を出る年令になるまで月々の養育費を出さ
せることにし、大した金額ではなかったのですが、一応の財産分与の現金も
一部手にして、私たちは家を出たのでした。財産分与はすぐには用意できな
いから、分割にしてくれと夫は言い、私はそれなら、和雄の養育費の分と合
わせて、口約束じゃなく公正証書にしてくれと言いました。夫は私がそこま
で要求するとは思っていなかったみたいで、びっくりしていましたが、これ
は私が友達から教えて貰っていたのです。そうしておかないと、いざって言
う時強制力がないよって。その友達も離婚経験者でした。
佐智子は父親と一緒に家に残りました。私が暴露した父親の浮気は初耳だっ
たようで、ちょっとショックだったようですが、やはり私が思ったとおり、
娘は父親につくことをえらんだのでした。
私は遊んでいる訳にはいきませんから、すぐに働きに出ることにしました。
女の働きでは収入は知れたものでしたが、和雄との二人きりでの生活は、
それは生きがいのある楽しいものでした。和雄と二人で、二人だけで見詰め
合って暮らすのは、ほんとうに張り合いがありました。毎日が充実していま
した。もちろん、しっかり愛し合ってきましたし、ある夜なんか、二人で
抱き合っているとき、和雄が私に言ったんです。
「母さん、母さんは前よりちょっとインランになったんじゃない?」
「エッ、インラン?それ、淫乱ってこと?」
「そうだよ、母さん、ずいぶん淫乱になったよ。でも、僕、そんな母さんが
大好きだよ」
たぶん、夫と別れて、佐智子もいなくなって、もう、夫を裏切っていると言
う罪悪感も、佐智子の目を気にすることも必要なくなったので、私は本当に
解放感を味わっていたんです。それで和雄との愛の行為にも、もっと積極的
になり、それが和雄には淫乱になったと思えたのでしょう。
「いいわ、母さん、淫乱でいいわよ」
「わあ、じゃ、母さん、インラン女王だね」
「そうよ、インラン女王よ。和雄なんか食べちゃうからね」
「あっ、母さん、僕を食べて、餌食にして」
和雄はからだを入れ替えて、私の下になりました。女上位のかたちです。私
は和雄に覆いかぶさって、ふざけながら、「ガオーッ」と口を開け、和雄の
鼻をそっと噛んでやりました。顔中をべろべろ舐めまわしてやりました。
和雄はからだをひくひくさせて喜んでいます。耳も甘噛みしてあげました。
和雄は「ああ、ミミ、ミミ、耳が気持ちいいよ」と悶えています。舌を尖ら
せて耳の穴をちょんちょんとつつくようにしてあげると、もう、からだをよ
じらせて、女の子みたいに震えています。きっと耳が性感帯なのでしょう。
「もう、僕、いっちゃいそうだよ」
和雄が情けない声を出します。
「あ、待って、ちょっと待って、和雄、あたしも一緒にいきたい」
私は耳にいたずらするのを止めて、和雄の股間に私のお股をぐぐっと押しつ
けて
「突いて、突いて、和雄、お母さんを突き上げて」
と叫んでいました。和雄は一生懸命にいきそうになるのを我慢して、私のお
股を突き上げてくれました。
「ああ、いまよ、いまよ、母さんもイク、和雄、母さんイッチャウ」
「ああ、僕もイクよ、母さん、イクよ」
和雄の熱いしぶきがどっと私の胎内に吐き出されるのを感じながら、私は
至福の雲の中を漂っていました。