卵子に トクントクンと淹れられる 白いミルク。
粘度を持った 半透明の 甘い調味料が加えられる。
私と自分の箸を 器用に握った 妹の右手がリズミカルに撹拌する。
パジャマ替わりのロンTにカーディガンを羽織った妹が、狭い台所に立って朝食の準備をしている。
妹の作る卵子焼きは、甘くて中は半熟になっている。
ワンルームの片隅に置かれたベットで、私は掛け布団に潜り込んだまま妹を眺めていた。
去年の夏に母が亡くなった。
母が倒れたと連絡を受け、台風の最中、私は妹と一緒に車で実家の近くの病院に向かった。母は既に意識不明の状態だった。その夜、私たち兄妹は、生まれ育った家で初めて肉体関係を持った。
間もなく母は息をひきとった。
葬儀のあれやこれや、実家を含む遺産の処理やら、大小様々いろいろな事柄と手続きを妹と二人で片付けていった。
十年近く別々に暮らしていた私と妹は、半月あまり、実家を中心にして共に行動し過ごす日々を送ることになった。
そして、私と妹は、世間とか社会とか、常識・良識とか道徳とか、そういう柵で囲われた世の中と呼ばれている場所から外れたところを兄妹二人で一緒に彷徨っている。
秋になって直ぐ、私は自分の不実さに申し訳ない気持ちでいっぱいになっていて、ただただ謝って、付き合っていた彼女と別れた。
話をした訳でもなく、半月ほど経って知ったのだが、同じような思いだったのだろうか、妹も彼氏と別れていた。
やがて、私と妹は休日を二人で過ごすようになった。
冬らしい寒さになる頃、それぞれの職場に退職願を出して、二人とも年末を以て仕事を辞めることにした。
今の場所を見つけ、それまで別々に住んでいた部屋を引き払い、年明けから二人で暮らし始めた。
私も妹もお互い、どうしようもなく離れ難い感情に抗えなくなってしまっていたのだ。
今年、私は31歳に、妹は28歳になる。私たち兄妹にとって、互いを求め互いに惹かれる気持ちは、恐らく恋とか恋愛感情とか呼ばれるものではなかろう。
近親相姦という社会的タブーを犯している共犯意識と共有される強迫観念、同時に、その罪悪感を忘れ安堵出来る唯一無二の相手と紡ぐ時間と空間への欲求。
そんなところだろう。
それでも好かった。
後悔はしていない。
この先どうなるのかは判らないけれど、それは誰しも同じ、私たち兄妹だけのことではない。
「お兄ちゃん、朝ご飯だよぉ~」
妹の声に私は布団から抜け出した。