俺は親父の記憶がない。
俺がまだ小さい頃、親父は女作って逃げたとしか知らない。
時々、祖父母や母の兄が訪ねてきたり、母の実家に行ったりした以外、親戚とかもよく知らないで育った俺。
母は会社の社員食堂で働きながら、時々夜もアルバイトして生活していた。
裕福ではない、でも凄い貧乏と言うわけでもない生活だったと思う。
俺が中学の時だった。
付き合っていたわけではないが、同じクラスの女の子と仲良かった。
家に電話がかかってきた。
その女の子のお父さんからだった。
『淫売の子と娘を付き合わせるわけにいかないんだ。娘に近寄らないでくれないか』
俺には意味不明だった。
仲が良いだけで付き合ってるわけじゃないし、淫売ってなに?
言葉の意味を知らなかった。
辞典で調べた。
淫売=性的関係を持ち、それにより金品を受け取ること。
母がそんなことしてるのか?
まさか!
その女の子は俺と距離をとるようになった。
やがて俺に対してクラス、いや学年全体が無視するようになった。
辛かった。
でも一生懸命働いてる母に報いたい気持ちで、俺は学校で無視されても、学校には負けずに通った。
でも母がそんなことしてるのか、知りたくなっていた。
夜のアルバイトに行く日、俺は夜のアルバイト辞めたらと母に言った。
『お前だって高校行きたいだろ?もしかしたら大学にも?そのためにお母さん頑張るんだよ』
俺は夜のアルバイト、母からは居酒屋で働いてるとだけ聞いていた。
俺はそれを信じることにした。
学校でのいじめ、無視に負けず、俺は高校に進学できた。
でも同じ中学から進学した奴らのせいで、高校でも俺は中学のときと同じ扱いを受けた。
俺は悪くない、その一点張りで、学校に通った。
高校二年のとき、そろそろ高校卒業後のことも考えなきゃって時期だった。
母が働いてると言った居酒屋のことを偶然知った。
一見して居酒屋風、でも気に入った女中と交渉成立すれば、性的なことも出来る、そんな居酒屋だと知る。
勿論交渉とは金銭的なことらしい。
あと好みの男性か否かも。
店側は関与せず、アフターはご自由にってとこらしい。
店側はそれ目当てでも、客さえ来ればいい。
母の帰りが時々明け方になるのは、そのせいだった。
母がアルバイトしてる日、俺はその居酒屋に張り込んでみた。
母は閉店後、タクシーで迎えにきたサラリーマン風の男性と、どこかに行った。
帰ってきたのは明け方だった。