それは、とある父娘の話。
その子の母親が倒れたのは、まだ彼女が子供の頃。
彼女は学校が終わると、部活もしないで母親の入院している病院に通い、看病する毎日だった。
父親は妻の治療費と娘の学費や生活費を稼ぐ為に、夜遅くまで残業していた。
そんな父親の苦労を見ていた彼女は、友達も彼氏も作らず、母親の看病に努めていたが、その甲斐もなく、母親は二人の見守る前で息を引き取った。
悲しみに暮れる父娘は、自分の悲しみを覚らせないように、家では明るく振る舞っていた。
母親の一周忌が過ぎて、娘も進学を諦めて就職が決まった頃、父親に
「お父さんは再婚しないの?」
と訊ねた。
「私も働くようになったら、家を出て行くから、私に遠慮しなくても良いよ」
と言ったが、父親は笑顔で話を逸らしていた。
ある夜、彼女がトイレに行こうと、父親の部屋の前の廊下を通ると、寝室から父親の呻き声が聞こえて来た。
娘が気づかれないように扉を開けると、父親が自分のオチンチンを握りながら、スマホを見て母親の名前を呼んでいた。
(今でもお母さんの事を、)
父親の自慰行為を見てしまったショックと、母親への未練を覚った彼女は、父親が果てるまで扉の外で見守ってから、トイレに行った。
偶然見てしまった父親のオナニーは、キスさえ未経験だった彼女には衝撃的で、父親に男性を意識するようになった。
週に何度かしている父親のオナニーを、見守ると思って覗いていた彼女も、徐々に父親を特別な存在に思い始めて行った。
多感な時期には反発していた父親に、好物の手料理を作ったりすると、
「美味しいよ。お母さんの作ってくれた料理と一緒だ」
と褒めて貰えると、凄く嬉しくなった。
彼女は働き始めたが、一人暮らしもしないで、炊事や洗濯、掃除をするようになり、たまには父親と二人で外食したりもしていた。
「段々お前も、お母さんに似てきたな」
と、言う父親の言葉に、つらい仕事と家事をしてきた彼女も、癒されていた。
そんな日常の転機を向かえたのが、彼女の成人式だった。
美容院でメイクと着付けをしてもらい、母親の形見の飾りを着けて、記念撮影した後、
「本当に、お母さんとソックリだ」
と父親は瞳を潤ませていた。
衣装の着物を返却して、元同級生からパーティーに誘われたが断った彼女は、父親と一緒に自宅へ帰った。
二人並んで仏壇の母親に成人式の報告をした後、彼女はまた父親に、
「再婚しないの?」
と訊ねた。
父親は
「お前が誰かと結婚したら、考えても良いかな?」
と言った。
その言葉に彼女は決意した。