2025/07/15 00:37:11
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家に戻り、水をひとくち飲むと途端に吐いてしまいました。
呼吸が制御できず、苦しくて、でも不思議と涙はまったく出なかったのです。
1時間ほど呆然としていると、玄関のチャイムが鳴りました。
武威が来た?期待でドアを開けると、そこには冷たい風景がありました。
グレーのマオスーツを着た男性がひとりと、スウェットを着た男性がふたり。
マオスーツの男性は、私がよく知る人…徐武威を私に紹介した中国人でした。
「取り乱してるとこ悪いけど、あがるよ」
そう言うと3人は家に押し入って来ました。
スウェットの男たちは立ったままです。
マオスーツの男は座って、私の顔をじっと見て言いました。
「徐武威が愛した女…」
彼は、私が勤める店にもよく来ていました。
気さくで、他の女の子にも羽振りがよく、軽口も叩く面白い人。
マオスーツを着た彼に、その面影は一切ありませんでした。
「あなたも、そうだったの?」
「るか、なぜ気づかないか?徐武威の周りにいる中国人は全員組織の人間だよ」
「武威さんは…」
「イミグレに連れて行かれたね。近く中国へ帰されるだろ。るかのパスポートは私が処分した」
「なんでそのこと知ってるの」
「組織の仕事の延長で女と密航しようだなんて、バレないわけがないだろ」
そして、ゆっくりと私に言い渡しました。
「るか。分かってると思うけど。君と徐武威は一切関わったことがない…いいね?」
もしNOと答えたら。
スウェットの男たちが私を見ていました。それは逃さないようにだとすぐにわかった。
「…わかりました。」
私が答えると、男は満足そうに言いました。
「るかは聞き分けがよくて助かる。じゃあ、ちょっと家の中いろいろ見せてもらうね。」
スウェットの男たちが、食器棚や本棚を漁り始めました。
マグカップ、箸、歯ブラシ、茶碗、茶器。
武威と一緒に使っていた「存在していた証拠」が次々と取り上げられていきました。
私は抵抗もできず、ただ泣いているだけでした。
「写真撮ったことあるか?」
と聞かれました。
ないです、調べてもいいと言うと、男は
「るかを信じるよ。嘘ついたらどうなるか分かってるもんねえ」
と無表情に答えました。
「どうして物を取り上げるの」
と訴えると、彼は表情を一変させて言いました。
「女連れて逃げようなんてやつは存在を消されて当然だろ。お前も感謝しろ、ボスの計らいでお前が消されることはないんだから」
そうして男たちは去り際に
「徐武威に愛された女はもうここにいない。いいね?」
と言い残し、私の返事を待たずに玄関のドアを閉めたのでした。