「あんなオッサンと穴兄弟になるのかと思えば、もう無理やわ。ここらが潮時やろ」
そう言われ、私は彼氏と別れました。かれこれ5年前の話。
当時、25歳だった私は、もともと大手運送会社に勤めていたのですが、通勤距離が1時間20分と長く、どうせ似たような給料をもらうのなら、近くて、仕事も容易なところがいいと思い転職することにしたのです。
新しい職場も前職と同じように運送関係でした。給料も似たようなものでしたが、持っていた資格の運行管理者を生かせるということで、少しだけ資格手当がついた程度でした。
入社してから3ヶ月は、先輩の運行管理者が手取り足取り教えてくれて、前職では資格を持っていても、ただのお飾りだけだった私にも覚えれるように、運行管理のイロハを親切に教えてくれたのでした。
ただ、風向きが変わってきたのは入社して半年後でした。
私に親切に教えてくれていた運行管理者の先輩が退職することになり、私が今度は責任のある立場で配車係をしなければならなくなったこと・・・・。
そして、これからお話しするメインの内容である「不正行為」への勧誘が重なったのです。
ここで不正行為とはなんなのかについてお話しします。
それは、先輩運行管理者が退社して、1ヶ月経ったか、経ってないかの頃の話です。私は仕事帰りに、「牧野さん(私)今日帰り空いてる?よかったら俺らメンバーで飲みに行かない?」と、会社の中でも古株と呼ばれる「主犯格A」(55)に誘われたのでした。
主犯格Aは会社の中でも、それなりの立場を持っている人であり、飲みに行って仲良くなれば、この先仕事もやりやすくなるかな。と思い、私はその誘いに乗ることにしたのです。
そして飲みの場に行くと、そこには「共犯者B」(40)「共犯者C」(28)いずれも男の人ですが、そんな人たち4名での会合でした。
そして前半はただの仕事上の話をして盛り上がったのですが、後半になると・・・。
主犯格A「牧野さん、副業って興味ある?」
と、、切り出してきたのです。
主犯格A「毎月3万円もらえる仕事なんだけどさ、興味あるなら仲間に入れてあげようと思うんだけど、ただ・・・。絶対に人には言わないって約束することが前提だけど。」
という具合に、かなり真面目に、真剣に、そして凄みを見せて話しかけてきたのでした。
最初は私も、酔っ払ってるから変なテンションなってるのかな。程度にしか思ってなかったのですが、このタイミングで「いえ、興味ないですw 話さなくていいですw」と言える空気でもなく・・・。
私「はい。絶対言いません」と返事をしたのでした。
すると主犯格Aは言いました。「この仕事は前任の運行管理者の佐藤君も噛んでた仕事なんだけどさ、内容は至って簡単で、ただ書類を問題なく完了させてくれるだけでいいんだ」
私「はぁ、、書類を完了させる・・・ですか?」
共犯者B「周りくどい言い方しても余計わからんようなるやろ、俺がいうわ。」
主犯格A「なら頼むわ」
共犯者B「俺らの仕事って、基本、トラック乗って資材を工場に届けるのがメインやろ?(そうですね)で、帰りは空荷なわけやんな?(はい。確かに)その帰りなんだけど、Aの知り合いがさ、ちょっとした荷物を運んで欲しいっていう個人的なバイトがあるんだわ。(はい)んで、俺たち3人と、前回の運行管理者の佐藤と4人で、ちょっと会社には内緒で帰り道の空のトラック使わせてもらって荷物運んで小遣いの足しにしてるんだよ。(え、そうなんですか)
要するにAの知り合いも正規で運送会社に頼んだら結構お金取られるし、そこで俺たちに運送の依頼を個人的に頼んだら安くつくわけやろ?それに俺たちも直接、Aの知り合いから謝礼もらえて、俺らも潤うと。つまりお互いウインウインというわけやねん。そのためには、運行管理者の牧野さんには、俺らのトラックのドラレコとかGPSとかで、<<ちょっと脇道にそれた走行ルートや走行時間を見てみないふり>>してほしい。ってのが本当のお願いやねん。そのお礼として、毎月3万円出しますよと。そういうわけ」
私「な、、なるほど・・・w」
共犯者B「この仕事は基本的にはバレることはないのはわかるやろ?」
私「まぁ、バレにくいとは思います。運行管理者までグルだったら」
共犯者B「もしバレるとしたら、別の荷物積んで事故ってレッカーでもきたら、そりゃバレる可能性あるかもしれないけど、基本、事故ってのはそうあるもんじゃないし、仮に事故したとしても事故の程度によってはバレない可能性の方が高いって言えるからな。で・・どう?乗る?毎月3万払うわ。で、さっきも説明したけど、俺らの走行ルートは他のトラックに比べて数キロ、時間も数十分、ちょっと多くなってしまう訳やけど、それを見ないふりして業務完了させてくれるかな?もし無理なら無理と言って。その代わりこの話は聞かなかった事にしてな。あとは俺らが適当にやるから」
私「ちょと考えさせてください。この場で急に返事をするのはちょっと・・・」
共犯者A「わかった。じゃ、ゆっくり考えてw 絶対リスクがないのだけは保証するから。だから前任の佐藤もやってた訳やしw」
私「わかりました。」
こんな不正行為の誘いがあったのです。
そして、数日考えました。今思えば、この時にちゃんと断っておけばよかったのですが、確かにバレないだろうな。と私も思ったのです。他のトラックに比べて、数十キロも走行距離が伸びるとか、他の人が15時に帰ってきてるのに16時にならないと帰らない。とかなら話は別です。
ほんのちょっと寄り道して帰るだけの走行を、見て見ぬふりをするだけ。本当に簡単な仕事でした。いや、仕事どころか、ただ私は何もしないで普通にその日の運行を無事に完了するという事務処理だけしてたらいいのです。それで毎月3万円を直接手渡しされる・・・・。
結果、私はこの誘惑に負けてしまい、共犯者Dとなってしまったのでした。
共犯者Dとなってからも、基本的には日々の仕事に変化はありませんでした。主犯格Aや共犯者B、Cのする仕事を、いつも通り気にもせず、ただ書類の処理を行うだけ。
これが半年、1年、2年と過ぎていくうちに、自分が不正行為をしているという感覚すら麻痺してきて、なんの罪悪感もなく過ごせるようになっていました。
それどころか、同じ不正行為をしている繋がりという事で年齢の近い共犯者Cと付き合うことになり、ある意味間違ったやり方ではありましたが、悪事がバレないうちは、それなりに仕事もプライベートも順調であったと言える時期だったかもしれません。
ですが、悪はそう長くは続かないものです。
ここで一旦区切って、次回、その顛末をお話ししようと思います。