妙に畏まった書き方ではなく、ざっくばらんと書いていきたいと思う。
俺(33)には一人の女友達がいた。というか、今もいる。この女友達は年上ではあるが由実(44)としておく。
俺と由実は以前の職場の同僚であり、仕事に対する考え方が似ている事から意気投合。会社の愚痴や上司の文句を言いあってる間に自然と仲良くなり、今ではお互い別の仕事をしているが、相変わらずたまに電話でのやりとりをしている仲が続いている。
それを前提とした上で、今から2か月前の話。
俺はちょうど、今から2か月前が新しい職場に転職してちょうど1年を向かえる時期だった。つまり今はこの仕事について1年2か月目という事になる。
相変わらず、俺は酒の肴に定期的に由実のところに電話をかけては、今の会社の愚痴なんていうものを聞いてもらっていた。そう考えれば、由実は俺にとっての何でも吐き出せる姐さん的キャラなのかもしれない。
だが、その当時の俺は、由実曰くかなり病んでいたらしい。
新しい会社に勤めて1年間、適切なストレス解消法を知らず、ただひたすら忍耐を繰り返してきたものだから、はたから見ても、危険レベルな状態に突入していたそうだ。
そんな時に由実からもらった提案で、、、「知り合いにカウンセラーっていうか、なんていっていいか分からないんだけど、そういう心理的なものとか精神的なものを勉強している子がいるんだけど、会って話聞いてもらう?ちょっと変わってる子なんだけどね。」と、いきなり精神状態を見てもらえ。って言われたのだった。
当時の俺は、「じゃ3人で飲み行く?その人連れて」と、最初からカウンセリングなんて受ける気はさらさらないし、自分で自分が病んでるとも思っていなかったので、飲みにならいつでもokという感じで返事をしたのだった。
そして・・・3人集まっての飲みの日に紹介されたのが、、須藤まなみ(30)だった。
最初、俺と由実が2人で待ち合わせて予め予約していた店に入っていたのだが、須藤サンは1時間遅れてくるとの事で俺と由実が先に乾杯をして始めていたのだった。
個室居酒屋だったので、きっと店内で既に入っている俺たちを案内され部屋までやってきたのだろう。まずその恰好に俺は衝撃というか、(え?なにもの?)と思った。
一言で言えば、全身黒。髪の毛は普通っていうのか、黒のロングストレート。そしてけっして寒い季節ではない5月の事だったが厚着をしているような印象を受ける、黒スカートに黒ブラウス。遠くからみればゴスロリ系のドレスにも見えなくもない、だが近くで見ればアジアン系の服。手首には水晶ブレスレット。そして首から木でできた数珠のようなものをぶら下げていた。(顔はそれなりに美人なレベル)
(これ、カウンセラーというより、占い師か魔術師じゃねーか。)っていうのが第一印象だった。
もともと、この須藤まなみなる人物と由実は奈良県の地元のご近所さんだそうだ。どういう経緯で知り合って、何が理由で関係を続けているのかまでは聞いてはいない。
そして俺が「どうも。始めまして」と相手の奇抜な恰好に興味がわき、「カウンセラーをやっておられるんですか?」と聞いたところ、また驚愕の答えがコレ「カウンセラーという人もいますが、実際は呪術師です」と表情を変えず、タンタンと答えてきたのである。
(は?呪術師って何よ)と思ったのは無理もない。そして無論、聞いてみた。「呪術師・・・? 呪いとかそいういう奴・・?」
すると須藤サンは話し始めた。
須藤「はい。私は18の頃から本格的に霊媒師といったほうが分かりやすいかな、そういう師匠のもとで本格的に呪詛を学んでいます。呪詛っていったら人を呪うとか、そういうイメージがあるかもしれませんが、人を幸せにする呪詛もあるんですね。」
俺「へー。。そして須藤さんはどういった類の呪術をされるのでしょうか」
須藤「はい、私は両方します。」
俺「なんかすごいな。こういう人は普通、身近にいないので、ちょっと驚いてます。というか、呪術って誰かに習うとかそういう形で身につくものなんでしょうか」
須藤「習得には個人差がありますけどね。ただ、、気を付けないといけないのは人間には一人一人、守護天使、守護霊、そういったものが付いているんです。呪術の基本はその守護する精霊的な存在を打ち負かす事が出来なければ、逆に自分自身が呪詛返しという形で鏡のように跳ね返ってきちゃうんです。
」
俺「ほう。。なんか説得力がある」
須藤「はは・・w」
俺「で、、その呪術で今は生計を立ててると?」
須藤「いえいえ。こんなのでは生活できないですよ。普段は自宅でシルバーアクセサリーとか作ってアマ〇ンで売ってます。そんなにお金にはなりませんがw」
という具合に自己紹介をしたのであった。
そしてこの場に須藤サンが来ているのは、それは「俺が抱えている悩み。不満」のようなものを打ち明けて、呪術で解決するとかしないとかではなく、それなりの専門的な人に話を聞いてもらえば?という事を思い出したのであった。
俺はせっかくなので。という事でこの怪しげな雰囲気を持つ須藤さんに今の自分が転職したきっかけ、そして今置かれている状況、周辺の人間関係などを具体的に聞いてもらったのである。
須藤「なるほど。それは私たちの世界での解釈で言えば、典型的な人間の嫉妬からくる弊害ですね。」
俺「嫉妬・・ですか」
須藤「はい。人間の嫉妬って実はすごいエネルギーを秘めているんです。もしかしたら量子力学などの分野で、人間が発する妬みや嫉みのようなものでさえも観測できる装置が開発されるかもしれませんが、原子、分子、陽子レベルで考えれば、確実に存在するものなんです」
俺「ふむ」
須藤「この世界では人間が可視できる領域って非常に狭いんです。光だけでいっても全体の1%くらいですかね。他の99%は実際に存在しているのに、見えないんです。音域も同じ。嗅覚も同じ。ただイルカやコウモリとか犬はそういった人間の五感で認識する事のできない領域も感じ取る事が出来るみたいですけど」
俺「ほう。つまり、その人間が無意識というか、深層心理で発する嫉妬とか羨みというのも、確実に物質として周辺に影響を与えているが、ただ人間の五感がそれを目で見たりする形では認識できないっていう事ですか?」
須藤「そう判断してもらっても差し支えないですね」
俺「でも、僕自身そんな人からうらやましがられる対象ではないとは思うんですけど」
須藤「それは自分で自分を見ているからそう判断する他ない訳であって、俺サンを嫉妬している人からすれば優れている点なんて一杯あるんですよ。例えば、収入、年齢、容姿、生活環境、、、、自分が持っていないが俺さんが持っているあらゆるものです」
俺「つまり、僕が仕事でうまくいかなかったり、失敗を重ねてしまうのは、原因はその人の生霊っていうんですかね、そういったものに足を引っ張られているっていうか、それが原因であるって判断するのでしょうか」
須藤「私からすればそう判断します。」
俺「で、こういうのって断ち切る方法なんてあるんですかね、、その呪術とか何かで」
須藤「ありますよ。だからこそ、由実さんが私を呼んだのだと思いますが・・」
ここでは割愛するが、由実は以前に須藤サンから軽い呪術的なもの、つまりマジナイのようなもので悩みを解決してもらった経緯があるとの事だった。
結局、俺は最初はそんな呪術なんかに頼るつもりできたのではないが、話の流れから呪術的なものをやってみてもらう流れになってしまったのである。
ただ、今は無理。との事だった。はやりそれなりに儀式的なものが必要なので、この騒がしい飲み屋とアルコールや肉類が並べられたテーブルの場では出来ないとの事だった。
俺と由実と須藤サンは、その日は呪術的な話からいったん外れ、世間的な話とか、ちょっと難しい国際情勢の話(北朝鮮が、韓国が等)の話をして盛り上がり、その日は何事もなく別れたのであった。
ただ約束をしたのは、それから3,4日後の土曜日。俺が単身、須藤さんの自宅へと赴き、その生霊というか妬みの元を断ち切る儀式を執り行う。という確約をかわしてその日は別れたのであった。