ヒロ様、鋭いですね。
確かにチェリーは糠床を持っています。
2年前にお母様に習って焼き物の壺に作って、季節のお野菜を漬けてますよ。
あと、ニンニクとショウガと磨り胡麻を油で炒めて、トウガラシと砂糖を加えて
お酒で練った激辛ミソがチェリーの家の常備食です。
あまり食べ過ぎると匂っちゃうけどね。
お姉様は食欲が無い時、これでご飯を食べるの。
冷蔵庫に入れてたら日持ちするから、いつも備えてます。
Aにあげたオニギリにも入れてたんだよ。
ふふふふ、味噌臭い女とはチェリーのことだ。
さて、学校では文化祭に備えて、各クラス、文化部、同好会などで計画が練られています。
放課後、サブから報告がありました。
「美術部が大掛かりなオブジェを展示する計画ですが、生徒会から応援の人数を貰いたいそうです。」
うーん、美術部は毎年大掛かりな出し物するんだよね。
今年も校門を入った所に大きなオブジェを作る計画を練ってるみたい。
確かに目は引くけど・・。
直接話を聞きたい。
美術部長を呼んで。
アルファがすっ飛んで行きました。
美術部長は女の子です。
繊細で、しかも気が強そう。
「毎年、学校のシンボル的な飾り付けをしています。
去年も好評でしたので、今年は去年以上の大きなオブジェを作るつもりです。」
一つ質問します。去年は応援をもらったの?
「いえ、去年の飾り付けは部員だけでできました。
しかし、今年はそれ以上のものにしたいので。」
却下。
学校内の全生徒は、それぞれ自分のクラスや部活に所属して文化祭に臨みます。
美術部にだけ、応援として各自仕事を持っている他の生徒を手伝いにやることは生徒会はしません。
「でも、学校のシンボルとして・・。」
他のクラスや部活の出し物や飾り付けが、より素晴らしいと評価されて学校のシンボルとなる可能性も
充分にあります。
学校のシンボルとは、今のところ美術部が独自に申し立てているだけす。
なんら公的な意志の同意を得る手続きは経ていません。
「美術部以外に文化祭を飾るオブジェを作れますか?」
私としては、今となっては美術部だけを特別扱いにして、他の生徒に負担を強いることはできません。
「じゃあ、この企画を止めろと言うんですか。」
良いですか。貴女方美術部が己の才覚で人を集めることまで禁止してるんじゃないんですよ。
美術部の意見に賛同して、自らお手伝いにくる事まで止めてるんじゃないんです。
ポスターや演説で生徒に協力を呼び掛けたりしてみたら?
「そんなの、美術をする人のやる事じゃありません。」
価値観の問題になるけど、芸術をするには、それをバックアップする実務が絶対必要ですよ。
とにかく生徒会長としては、生徒会が指示してほかの生徒を美術部に応援にやる案は却下します。
美術部は、己の才覚でできる範囲の活動をしてください。
美術部長、顔を真っ赤にして出ていちゃた。
芸術を優先して現実から目を逸らせた国は、大抵戦いに敗れて亡国の憂き目に会ってるの。
第2児大戦の前夜、芸術の都パリは世界中から芸術家が集い、人類史上最高の芸術世界だったんだ。
それがドイツから攻め込まれてあっという間に完敗。
愛する祖国は外国の軍靴に踏みつけられ民族の誇りも地に落ちたんだ。
チェリーは芸術を生み出せないけど、それを守る気持ちはあります。
だから、芸術が社会の中でいびつな形になって欲しくないの。
生徒会室にはチェリーとベータ二人だけ。
ベータ、私のこと怖い?
しばらくの沈黙。
ああ、言わなくて良いよ。
この沈黙が「怖いです」って物語ってる。
「会長は、切れすぎます。
確かにおっしゃる通りだけど、あんなにはっきり言うなんて・・。」
やっぱりそう思うよね。
「スカートをたくしあげて、水びたしになって騒いでた会長じゃない・・。」
ふ~、ベータの言うとおりだね。
でも、今のチェリーの実力ではドライに決断するには、こういうやり方になっちゃうんだ。
ベータ、私の事が嫌いになって、離れて行きたくなったら、はっきりそう言ってね。
ベータがすすり泣き始めたけど、チェリーは前のように抱きしめてあげずに部屋から出ました。
指揮官の孤独?
いや、そんな格好良い物じゃないでしょう。
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