ナンネットID のアカウントをお持ちですか? ログイン ログイン
ナンネットID
 
1
2021/08/31 23:21:34 (0sotDvZr)
当日、午後4時きっかりに、高野夫妻はやって来た。
私は、二人を招き入れ、リビングのソファに座るよう促した。
高野君は、奥さんのれいこさんを私に紹介した。
高野君より5歳下の32歳ということだが、端正な顔立ちと、スレンダーなボディラインを持つ、なかなかの美人だった。
その奥さんが、突然切り出した。
「あの、私、この人と、別れようと思っています。ただ、この人が、別れる前に、どうしても、自分の本当の姿を見て欲しい、というものですから、今日、ここに来ました。」
真っすぐに、私の目を見て話す、その姿に、彼女の意思の強さと同時に、性格のきつさも、感じ取ることが出来た。
「わかりました。もともと、私は、あなたたち、ご夫婦の関係に、立ち入るつもりはありません。」
と、更に、話しを続けようとしたところに、ユカが、4人分のコーヒーを入れて持って来た。
それぞれの前に、コーヒーカップを置き、ソファに座るなり、彼女は、私の話しを引き継いだ。
「今日、旦那さんのメイクをさせてもらうユカです。奥さん、とりあえず、旦那さんが変身した姿を見てみて。正直、なんにもお手入れしていない、生身の男性から、女性に変身させるのは、結構、大変なんですけど、一応、こう見えてもプロですから、それなりの姿に変えてみせます。でも、そこから先は、あなたたちご夫婦の問題ですから、どうぞ、お二人でお決めになればいいんじゃないですか。」
奥さんは、ただうなずくだけだったが、どちらにしても、離婚の意志が固いことだけは、その表情から見て取れた。
ユカは、高野君を連れて、洗面所に入って行った。
まず、彼に、ユカが用意した洗顔フォームを渡しながら、顔を洗うように指示した。
「これで顔を洗って。ふだんと同じように、じゃぶじゃぶ洗っちゃっていいからね。」
洗顔を終えた高野君を、あらかじめ用意しておいた椅子に座らせたユカは、電子レンジで温めた、即席の蒸しタオルで、彼の顔を覆った。
「まず、この濃いヒゲを何とかしなくちゃね。」
蒸しタオルで温めれた顔に、シェービングフォームを刷り込むように塗っていく。
その上から、更に、もう一度、蒸しタオルを覆う。
ほんの少し時間を置いた後、蒸しタオルと一緒に、一度塗ったシェービングフォームをふき取ると、今度は、実際に、ヒゲを剃る部分に、シェービングフォームを塗って行く。
ユカは、床屋さんが使うヒゲそり用のカッターで、剃っていくのだが、この時、ヒゲ起こしといって、剃る部分の両サイドを指で挟んで、皮膚を起こすようにして、ヒゲを剃っていくのだ。
もともと美容師出身のユカだが、本来、美容師にヒゲ剃りはなく、彼女は、知り合いの理容師に、直接習って習得したという。
「ふうー、君ぐらいヒゲが濃いと、やっぱり時間かかるよね。」
たっぷりと、30分ほどかけて、ユカは高野君のヒゲを剃り終えた。
そのまま、化粧水、乳液といった基礎化粧品を顔全体になじませるように塗り込んでやる。
「じゃあ、いよいよ、ここから、メイクの開始だよ。まずは、ファンデね。最初は、下地クリームね。いきなり、ファンデ塗っちゃう子も多いんだけど、それは、絶対やらないで。下地クリームを塗ると塗らないでは、その後のファンデが、全然違っちゃうから。」
ユカは、毎回、必ずメイクのやり方を丁寧に説明しながら、実際のメイクを行っていくのだ。
「じゃあ、次は、ファンデね。リキッドでもいいんだけど、出来れば、固形の方が、厚塗りにならないから、いいかな。」
そう言いながら、高野君の顔が、次第に、ファンデで覆われていく。
「下地クリームを塗っておくと、ファンデ、厚塗りしなくても、すごく広がってくれるから、出来るだけ、広がるように塗っていくんだよ。」
ところどころ、日焼けシミのような薄い黒ずみが見受けられたり、せっかく時間をかけてきれいに剃り終えた鼻の下やアゴの部分は、どうしても、うっすらと黒ずんでしまう。
これを、コンシーラーを使って、周りのファンデになじませながら、消していく。
「これ、結構、難しいからね。あんまり、コンシーラ使い過ぎても、逆に、そこだけ、違った色で浮いちゃうし、でも、このヒゲ後みたいな黒っぽいところは、全部、消しておかなくちゃいけないからね。」
コンシーラを塗り終えて、一通りのベースが完成した。
「さあ、次は、目周りだよ。まずは、アイシャドーね。」

こうして、ユカが、高野君のメイクをしている間、私は、高野君の奥さんと二人で、リビングのソファに向き合う形で座っていた。
何とも言えない、凍り付くような、張り詰めた空間が、そこには存在した。
奥さんは、まったく姿勢を崩すことなく、背中をきちんと伸ばして、まっすぐ前を見つめていた。
「奥さん、どうぞ、楽になさって下さい。まだ、しばらく、時間かかると思いますから。」
私は、この後に訪れるであろう、緊迫の対面時間が、少しでも良い結果になるように、何とか、奥さんの心を和らげようと試みた。
かつて、私が、仕事で撮影した軽井沢や伊豆の風景写真を見せながら、その場の空気をなごませようとしたが、凍り付いてしまった奥さんの心を溶かすほどの力はなかった。
「あっ、奥さん、ノド乾いたでしょう。何か、お飲み物、おもちしましょう。」
「いいえ、どうぞ、お構いなく。」
という奥さんの声を遮るように、私は、キッチンへ立っていった。
キッチンに立つと、私は、一瞬、どうしようか少しためらった後、ワインラックから、ドンペリニヨンのロゼを取り出した。
通称ピンドンと呼ばれる、かなりお高いシャンパンである。
「これ、今日、口開けてしまうのか・・・」
心の中でつぶやきながら、チーズやサラミを大皿に、盛り付け、ドンペリニヨンと一緒に、リビングに持って行った。
「奥さん、シャンパンは飲めます?飲みませんか?」
奥さんは、「どうぞ、お構いなく」と、言いかけてから、私の手に持つ、ドンペリニヨンをじっと見つめていた。
「それって、もしかして、ロゼですか?」
興味深そうに手に持つシャンパンをのぞき込むように、私に問いかけてきた。
「はい、そうですよ。ピンクのドンペリ!」
「私、実は、これ大好きなんです。でも、結婚してから、なかなか、飲むチャンスがなくて」
と言う奥さんは、ちょっと、はにかむような仕草で、私から、シャンパングラスを受け取った。
今日初めて見せる奥さんの柔らかい表情だった。

(以下その3に続く)
レスはありません。
レス投稿フォーム
名前
トリップ[]
E-mail
※任意
本文

投稿文に自動改行は行われません、適宜改行を行ってください。 # タグ使用不可
「sage」
※投稿を上げない
画像認証

上に表示されている文字を半角英数字で入力してください。
動画掲示板
画像で見せたい女
その他の新着投稿
人気の話題・ネタ
ナンネット人気カテゴリ
information

ご支援ありがとうございます。ナンネットはプレミアム会員様のご支援に支えられております。