大学生の姉がバイトの話しをもってきた。姉の友人がメイドカフェのメイドをしていて、そのツテでカフェの女性経営者からの依頼だった。厨房の女性が身内の不幸の為に暫く休職する事になり、急遽助っ人として僕に白羽の矢が立ったとの事。姉の友人が過去に家に遊びに来て、料理が趣味の僕の手料理でもてなした事が有ったからだ。でも最大の理由は料理上手だけじゃない。生まれつきの女顔で撫で肩で華奢な僕に女装が似合うと直感したらしい。当初は断ったが女性経営者が自宅を訪ねて来て懇願されたので、止む無く了承。カフェで衣装合わせとメイクの練習をした。結果、鏡に映った僕の姿は可愛いメイドさんになった。男の娘だから身長は一番高いが、何処から見ても可憐な少女だ。女性メイドさん達から「カワイイッ！」を連発されて妙な自信も付いちゃった。皆さんスマホで撮影してる。恥ずかしいけど快感！実際は厨房で調理するから、それ程お客さんの視線に触れる事は無いが、女性経営者の方針で「男性スタッフはタブー（僕は男性だけど）」なので女装するのだそうだ。厳密に言うと僕はメイドではなく調理担当だからお客さんと会話しなくてもＯＫでメイドがするサービスは要求されないとの事だが、ちょっと不安。「ルイ」という源氏名を貰い就業した。一日目は無事終了。オーダーへの返事も精一杯の女声で難なくこなした。異変は早くも二日目に起きた。常連の男性客３人組が僕の存在に気付き興味をもった。女性経営者が接客も会話もしないと説明していたが、客席の彼等にカウンター内から笑顔で手を振る様に言われた。それ位ならお安いご用だ。言われた通りにすると彼等が「ルイちゃんありがとう！」と言い手を振った。ほぼ満席の店内一同がカウンターの方を見た。皆の視線が僕に集中する。「マズイ！」慌てて厨房に引っ込む。翌日、女性経営者が僕の写真撮影すると言う。メイドの紹介パネルに「ルイ」を追加すると言うのだ。前日の一件以来「ルイ」に関する質問が多くなり止む無くとの事。そして半月後にイベント開催。「アニソン熱唱フェア」はこの店の名物だ。お気に入りのメイドとアニソンをデュエットするイベントだ。「ルイ」とデュエットしたいという希望者が殺到し抽選で１名選ばれたのは19才の大学生。劇場版アイドルマスターの「M@STERPIES」を精一杯の女声でデュエットした。歌ってる最中に僕を撮影する皆さんに緊張しながらも快感を覚えた。大学生はとても感激していた。その後僕は無事に３ヶ月の代役を終了して店を去ったが、今ではこの店の「幻の美形メイド、ルイ」としてレジェンドになっている。ファン達によるルイちゃん捜しが始まったとか。女性経営者から「またお願いね。」と言われた。僕はまたルイになる日を待っている。